38話「悪魔と天使の謎」
――――現在、特訓が始まってから二週間が経った。今日は土曜日なので、学校は休み。
現在時刻は朝の七時という早朝から、俺は今からオリケルスの所へ行く。何やら、とても大事な話があるそうだ。その大事な話がなんなのかは知らない。とりあえず、行ってみようと思った。
そして、玄関を出てオリケルスの家へと向かう。持っていくものは、二つの銃剣のみ。それを隠すためのバッグもあるが、銃剣以外は入っていない。
そうして十数分後、オリケルスの家についた。銃剣は、腰に差している。家の前には、オリケルスが曲刀を腰に差しながら待っていた。話はしないのかと思ったが、どうやらするそうだ。いつもなら、一言二言話してからこっちの事情なんて関係無しに斬りかかってくるからな。
「……入れ」
そう言って、オリケルスは家の中へと入る。俺も、オリケルスに続いて家の中へと入る。そして、前に話した時のように和室に案内された。そして、机を挟んで床に座る。
……そして、オリケルスが口を開く。
「今から、お前に悪魔と天使の事を話す。だが、その前に聞くべき事がある」
そう言ったオリケルスの表情は、とても真剣なものだった。まるで、これから聞くことに嘘は許さず、真剣に応えよと言っているようだった。
「……お前は、神を殺し……そして、世界を救う覚悟はあるか?」
神を殺し……そして、世界を、救う……か。それは、ある。
(……前なら、こんな事は考えなかっただろうな……これも、"思考誘導"の影響か。何が原因かもわからないし、何が原因か調べようもないからわからない。だがまぁ……一応検討はついている。……けど、俺から引き剥がそうとしても、どう考えたってどうしようも無いけどな)
……だけど、俺が軍人だからかもしれないが、世界を、日本を壊すというのは見過ごせない。それに、凜姉達を死なせたくない。俺の行動起源は、そこにある。だから、俺はこう応える。
「覚悟は、ある」
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(覚悟は、ある……か)
オリケルスは考える。オリケルスは、來貴が強いことを知っている。死を賭して戦ったら、ギリギリ自分が勝つことが出来る。……自身が來貴に見せていない切り札を使えば、の話だが。それ程に、來貴は強いのだ。
……だが、今居る天使や悪魔全てと來貴で神と戦ったとしても、神には"負ける"。……それ程、神の『権能』は絶対なのだ。それに、オリケルスと來貴は一ヶ月以上共に特訓をしている。オリケルスは、來貴に愛着が湧いているのだ。それ故に、死なせたくないという気持ちが出る。
(……神が"アレ"を解いたという事は知っている。だが、活動が出来るまでにはなっていないと聞いた。……まだ、時間はあるだろう)
天使や悪魔達から、オリケルスは神がまだ世界を壊すことが出来ないと言うことは聞いていた。器を鍛える時間は、まだ残されている。なら、自身に課せられた役目を果たそうとオリケルスは考える。
だからこそ、オリケルスはこう言った。
「――話そう。悪魔と、天使の事について……」
そして、オリケルスは語り始めた。
「……その前に、ヤツから悪魔と天使について聞いていることはあるか?」
今から語り始める……と言うところだが、まずこれだけはオリケルスは聞きたかった。オリケルスのその言葉に、來貴は考える。來貴は、"ヤツ"とは誰なのかも聞きたかったが、それは大体予想がつくので言わない。
(……悪魔と天使が、同等の存在と考えるなら……人間の上位存在としか聞いていない)
來貴は、頭の中に響いた声から聞いたことを思い出していた。だが、悪魔は人間の上位存在……ということだけが、質問に答えられたことだ。天使という存在に関しては、何も知らない。それを踏まえ、來貴は答えた。
「悪魔が人間の上位存在ということだけだ」
來貴の言葉に、オリケルスは驚くことは無かった。その辺りは、オリケルスの予想通りと言ったところなのだ。そして、來貴に悪魔と天使の"ほぼ全て"を伝えることにしたのだった。
「悪魔が、人間の上位存在という事は間違っていない。それは、天使も同じ。天使も、人間の上位存在なんじゃ」
その事を聞いて驚くことなく、予想通りだという顔をする來貴。そこら辺は、大体予想できていたので驚くことでもない。聞いても、やっぱりかという事だけだ。
そんな來貴の様子を見つつ、オリケルスは続けて言う。
「……そして、悪魔と天使は長寿で千年は生きる。人間とは比較にならんくらい、身体が強いからの。まぁ、悪魔と天使は例外なく何かしらの能力を持って生まれてくる……というのもあるかも知れぬがな。……だが、それ故に子供が生まれにくいのだが」
さすがに、この事には驚いた來貴。長寿という事にも驚いたが、全員が能力を持つなんて、どんなヤバい存在だと考えたのは言うまでも無い。
「悪魔と天使が人間と姿が酷似している理由は単純明快。人間を素体に神から創られた存在だからだ」
オリケルスのその言葉に、來貴は驚く。そして、考え始めた。
(人間を素体に、創られた存在だと……しかも、神から……つまり、神の力の一部を持っているのか?)
來貴の推測は、オリケルスの次の言葉で合っているかどうかが明らかになった。
「人間に神の力の一部を入れ、人間より上位の存在にしたのが悪魔と天使だ」
オリケルスの一言。來貴はその事を聞いて、眉をひそめる。……來貴は半人半魔。悪魔の力……つまり、神の力の一部が身体に入っていると言うことになる。まぁ、來貴にとっては別にどうでもいいことなのだが。
「悪魔と天使は、人間に紛れて暮らしている。どの者も見た目が人間に限りなく近いため、紛れ込んでもまず悪魔や天使とはバレないのだ。悪魔は、イギリスを中心に悪魔だけが住む町を創って暮らしている。……まぁ、儂は日本で隠居しているのだが。天使は、アメリカ各地で天使だけが住む町を創って暮らしている。まぁ、その悪魔や天使だけが住む町も、少しは人間もいるのだがな。仕事も、裏の世界に関わりの無い仕事を主にしている。中には、その国の軍事機関に入る者もいる。
悪魔や天使の存在は欧米やその近くの国には気付かれているが、相互お互いに危害を加えない……という条件で共存している。中には手を出す馬鹿もいるが、それは自業自得という事で黙認されている。……それに、"共通の敵"もおるからの」
最後に言った、共通の敵。それがなんなのかは來貴は知らない。だが、いずれ戦うことになるだろうとは思った。いや、それよりも……悪魔や天使は人間と共存しているのかと、來貴が最初に抱いた感想がそれだった。
「そして、悪魔と天使は"原初神"ドルナイトを殺す事を目的としている。……そして、ドルナイトは、お前がいずれ殺す事になるであろう御方だ」
"原初神"ドルナイト。その名前を、來貴はしっかりと頭の中に入れた。悪魔と天使が、その神を殺す事を目的としていることも。……そして、自分がいずれ戦うことになるだろう相手だという事も。
だが、それと同時に、思ったことがあった。
(……そんな名前の神は聞いたことが無いな……俺が知らなかっただけか。それに、御方?殺す相手に使う言葉じゃないぞ)
殺す相手に、御方という言葉は使わないだろう。來貴はそう思った。御方と言う言葉は、他人の敬称であり、相手を敬う時に使う言葉だ。……何か裏があるのか?來貴は、そう考えた。そして、一つ聞くことにした。
「……御方ってなんだよ」
來貴がそう聞くと、オリケルスは目を閉じ黙り始めた。
そして数秒後、オリケルスは目を開き、言った。
「……気にするな」
そう言ったオリケルスの表情を見た來貴は、それ以上追求する事はしなかった。そんな來貴の様子を見て、オリケルスは口を開く。
「お前はまだ天使に会ったことはないだろう。だが、いずれ会うことになる。お前は悪魔の選定を突破したため天使の選別は受けないだろうな。……もし、身近にそれを受けた者がいるならば、その者はきっと……」
オリケルスはそこで一旦そこで言葉を切り、來貴を見据える。
「お前の、支えとなるだろう」
來貴は、オリケルスの言った言葉の意味をまだ理解していなかった。だが、一つだけなんとなくわかったことがあった。
(――その天使の選別とやらを突破した者は、俺じゃきっと勝てないだろうな……)
何故、こう思ったのか。自身の身近な者が、天使の選別を突破した。……それは、來貴と悪魔達の戦いに身を投ずる事。それが來貴の為だとしたら、來貴はその"想い"に勝てないだろうと考えたのだ。
「悪魔と天使についてはこれ位じゃ。何かあるか?」
オリケルスは來貴にそう聞く。その問いに、來貴は「何も無い」と言った。來貴は、悪魔と天使について全て言われると期待はしていなかったので、これだけ聞けただけでも大きな収穫だった。故に、言うことは何も無いのだ。
「……では、特訓を始めるか」
そして、オリケルスの一言で特訓が始まった。
家の外に出て、二人は互いに得物を持ち対峙する。そして、模擬戦が始まった――――。
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――――そして、俺はまたあの声の対処をしている。帰り道の途中で話しかけて来たので、咄嗟に走ってバレない場所……ネルを殺した山へと来た。今の時間は、もうとっくにオリケルスとの特訓は終わっている。
『……やぁ。久しぶりだね。僕は君に会いたかったよ』
親しげに、その声は話しかけてくる。
「……俺は別に会いたくなかったんだがな」
特に俺は会いたくも無かった……というより存在を忘れかけていた。
『……今日、オリケルスから僕達悪魔と天使の秘密を聞いたそうだね。……でも、その全てを語ったわけじゃない。君もそれはわかっているね?』
それはわかっているので、俺は「わかっている」と返事をする。
『じゃあ、単刀直入に僕が来た要件を言うよ。……僕の魂を、継いでくれ』
頭の中に響く声が発したその言葉に、俺は一瞬硬直した。……何せ、言っている意味がわからなかった。魂とか、聞いたことが無かったから。
『……あぁ、いきなり言われてもわからないか。まず、魂について説明しよう。簡単に言うと魂は……全ての生物に宿る、"記憶""意志""能力""生命"を司るモノ。一つ一つ説明していこう。時間が無いから、簡単に言うよ。"記憶"は、そのまま。脳の記憶だね。脳は、魂の記憶を身体に覚えさせるためにあるからね。でも、脳には無い記憶もあるよ。"意志"は、ああしたいこうしたいとか。能力は、君が持つ覇壊の轟きとか。"生命"は、心臓や肺などの器官を動かすためのモノ』
……俺は、大体の説明を聞いて理解した。
『魂は、身体に宿る。身体に宿っていないと、冥界に強制的に引っ張られる。……だけど、魔力を使うと現世に留まることが出来る。僕は、死んだ身体にある僕自身の魔力を使って現世に留まっていた。……だけどね、もう限界なんだ。後二年もすれば、魔力切れを起こし僕は冥界へ行くことになるだろう。……僕は、どうせ消えるなら何かを残してから消えたいんだ。……僕のこの魂に宿る、記憶の一部、意志、能力、生命。……これを、継いでくれないか?』
その声を聞き、俺は考える。……この声も、元は悪魔だった。……なら、その意志はただ一つ。
"神"を殺し、世界を救う。……これしかないだろう。一時的な平和を取り戻すことは出来たが、また世界には混沌が訪れる。神が復活した、からだろう。まだ、活動は出来なさそうだが。
……故に、俺の応えはこれだ。
「……継ぐよ」
俺の言葉を聞いたその声は、こう言ったのだった。
『……それじゃあ、君の魂に僕の魂の力と、僕の残りの魔力を魂と身体に融合させるよ』
その言葉を聞き、俺は唾を飲む。
『……最後に一つだけ。僕の名前は……"ジェイド・フーバーン"だよ。……頑張ってくれ』
そして……俺の胸の辺りに、とてつも無い痛みが走る。……だが、声を上げる程でも無いので、このまま我慢をする。
「……っぐ」
……身体の崩壊が、造り変わっていく。悪魔の力が、身体に入っていくのがわかる。俺の人間だった部分に、悪魔の力という異物が入り、完全に人間じゃ無くなった。人間だった頃の血は、悪魔の血へと変質した。……だが、人間だった部分の一番重要な部分は残っているようだ。
「……終わったか」
とりあえず、帰ろう。そう思い、俺は家への帰路を辿るのだった――――。
――――そして、現在時刻は五時。俺は今、家に帰っている途中だ。
だが、いつもと違うのは、今日は歩いて帰っているという所だ。いつもなら屋根を伝って帰るのだが、今日は途中で降りた。なんだか、無性に歩きたくなったのだ。
(……軍事機関……軍人、か)
心の中で考えるのは、軍事機関の事。俺は、軍人だ。軍事中学以降になると、学生と同時に軍人だと言うことになる。それ故、軍事機関から出される依頼を受けなければならない。この場合、軍事学校に所属する軍人。卒業したら、軍事機関に所属する軍人という事になる。
「……ハッ」
軍人……そう考えただけで、嗤えてきた。俺は、軍人……というより依頼が嫌いだ。軍事機関は、"正義"の名の下に裏の犯罪を力で抑えている。その存在は一般には知られていない。だが、軍事機関の存在自体は知られている。何をしているかは当然公表していないが。そもそも、軍事機関というのは――。
「――正義の皮を被った、冷酷な暴力者の集団だ」
軍事機関には、一部馬鹿がいる。その割合は、大体一割。……まぁ、大体弱い奴等がその馬鹿に値するんだが。
……そして、殆どの者が冷酷だ。俺も、親父も、凜姉も。容赦なく他者を切り捨てられる。実際、何回も切り捨てた。まぁ、そうしないと生きていけないというのもあるが。
……そして、ほぼ全てを力で解決する。この国は、上層部の者の能力によりその気になれば国民の記憶全てを消すことが出来るので、目立っても構わない。……それに、壊れた建物もすぐに直せる能力者もいるので、最悪周りの被害を考えず戦っても良い。……これも原因か。
(……こんな事ばかり考えていると、嫌な気分になるな)
そう思い、考えるのを止めるのだった――――。
――――そして、家に帰ってきた。出る前と帰る前、ちゃんと凜姉に連絡をしたので、大丈夫だと思いたい。……それに、怪我は……幾つかあるが、まぁバレないだろう。そう考え、家のドアを開ける。
「ただいま」
俺がドアを開けると、凜姉が居た。その顔は、頬が膨らんでいる。そして、腰に手を当ててこちらを見ている。……ちょっと嫌な予感するぞ。
「……おかえり」
凜姉はそう返事し、ドアを閉めて俺の手を引っ張り連れて行く。……連れて行かれたのは、凜姉の部屋。
入った感想としては……まさしく、女子っぽい部屋だった。いや、何回も入ったことはあるんだけどな。……後、いい匂いがする。それに、掃除もしっかりされていて埃一つ見当たらない。
そんな部屋の中で、俺は部屋の勉強机の近くにある椅子に座らされた。凜姉は、俺の目の前に立ち俺にジト目を向ける。その表情は、玄関にいたときと同じだ。そして腕は、腰に当てている。
「……來くん」
「……はい」
何故か、敬語になってしまった。
「……私の言いたいこと、わかる?」
「…………」
心当たりはあるが、あえて何も言わない。
そして俺が黙っていると、凜姉がちょっと近づいてきてこう言った。
「……來くん、朝に何も言わずに何処かに行ったよね?それに、その後『帰る』っていう連絡以外何も連絡してないよね?」
「……仰るとおりでございます」
……何も、反論出来なかった。全て、事実なのである。……一応、凜姉と琉愛が起きて朝食を三人で食べた後出たのだが。……まぁ、これも言い訳か。
……それと、帰る前に連絡した以外に何も連絡をしていない。……これも、全て事実なのである。昼飯はオリケルスのところで食べたので、昼は食べていないというわけでは無い。……その時くらいに、連絡すればよかったな。……今更後悔しても遅いのだが。
「……ねぇ、また見た目が変わってない?」
……薄々感づいてはいたが……また、見た目が変わったのか。……と言っても、目に見える範囲だと、灰色の髪に銀が混じって銀灰色の髪色になったことしかわからない。目の色は、自分じゃわからないからな。
「髪色が、灰色から銀混じりの灰色になって……左眼と右眼は……変わってないね」
凜姉が、俺を観察しながら言う。……どうやら、髪色以外は変わっていないそうだ。よかった。
「來くん、今日の夜に私の部屋に来てね?」
……何故かと思ったが、とりあえず夜に姉の部屋に行くことにした俺だった――――。
――――結果、俺は罰として寝るときは凜姉の部屋で凜姉と一緒に寝ることになった。凜姉の部屋のベッドで寝ることはあまり無いので、ちょっと緊張した。凜姉が俺に抱きついて離れないので、とても起きるのに苦労した。とだけ言っておく。
はい。段々と悪魔や天使の秘密が明かされましたね。……まぁ、まだ謎はあるんですけど。……凜や琉愛、兇介達にも謎はちょっとあるんですけどね。




