4話「軍事育成機関高等学校の学科と依頼」
あれから家に帰った後、俺は夕飯を食べて寝た。そして今は、一限目が始まる少し前だ。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り、一限目が始まった。俺が号令をした後、刀華先生は「昨日配布した紙を取り出してください」と言い、また紙を渡した。その紙には、この軍事育成機関高校の学科のことについて記載されていた。それも詳しく。
そして、紙が全員に渡り終わったのを見て、刀華先生が説明を始めた。
「皆さん、今渡した紙を見てください。今日は、皆さんが入る学科の説明をします。
まず、刀剣科。皆さんの中で、刀や剣を扱える人はどれくらいいますか?」
「「「「「はい」」」」」
結構手が挙がった。俺も手を挙げている。俺は剣を扱えるからな。
「1,2,3…………10人ですね。結構いますね。刀剣科は、主に刀や剣を使って戦う人が入る学科です。ちなみにこの学科は、剣が扱えなくても、学科の教官が真面目に教えてくれるので人気の学科です。
次に、狙撃科。
皆さんの中で、何でもいいので銃を扱える人はどれくらいいますか?」
「「「「「はい」」」」」
思っていたよりも多かった。剣とかを扱える奴の中に銃も使えるやつがいるからだろう。俺も、そのうちの一人に入る。
「1,2,3……………15人ですね。剣を扱える人より多いですね。剣を扱える人の中に銃も扱える人もいるからでしょうか。
狙撃科は、主に銃を使って戦う人が入る学科です。この学科は、接近戦、中距離戦、遠距離戦、超遠距離戦で戦う人で分けられています。同じスタイルの人と練習できるので、銃の扱いが上手い人と下手な人の差が大きく別れる学科ですね」
さっきの言い方だと、やる気のない人もいるってことになるな。まぁ……黎は、スナイパーライフルの扱いが得意って言っていたから、多分この学科に入るんだろうけど……まぁ、あいつなら大丈夫だろう。黎は結構強い気がする。
そして、刀華先生から次の学科の説明がされる。
「次は、能力科。
このクラスで能力を持っているのは10人だけだと二日前に聞きました。
この学科は、能力を持っている人しか入れません。能力を持っている10人は、ここに入ることをおすすめします。まぁ、強制ではありませんが。
この学科の教官も能力者で、能力についてもいろいろと教えてくれるので、能力者は結構この学科に入ります」
まるで、能力者の為の学科だな……。
俺は、周囲を見渡す。文奈は、この学科に興味津々な顔をしている。他の能力者も、この学科に興味を示しているようだ。俺はというと、別にどうでもいい。能力は使いこなしている方なので、別の学科に入ろうと思う。凜姉と同じ学科に入るのも良いかもしれない。同じ学科だから、色々楽が出来そうだしな。
そして、刀華先生から次の学科の説明がされる。
「次は、強襲科。
ここでは、体術、剣術、銃の使い方、能力の使い方などをバランスよく指導される学科です。この学科は最も人数が多く、毎年多くの人が入ります。教官も人数把握が大変だと愚痴をこぼしているのを聞いたことがあります。ここには能力科に入らなかった能力者も入っています」
俺、決めたよ……この学科に入る。人数が多いから、楽が出来そうだ。それに……俺はいろいろな戦法を使うから、この学科のスタイルに合っている。
そして、刀華先生から次の学科の説明がされる。
「次は、救護科。
ここでは、魔法を使っての回復や援護などを指導されます。正直言って魔法は回復や強化ぐらいしか使い道がないので、それを徹底的に指導されます。そして、この学科の人は戦闘能力が低い人が多いです。戦闘はそんなしないので、戦闘はあんまりしたくない人にはお勧めです。
逆に、戦闘狂にはおすすめしません」
回復や援護か……俺には出来ないな。それに、俺の能力は戦いに向いているしな……魔法での回復は出来ないことはないが、あまり得意じゃない。
そして、刀華先生から次の学科の説明がされる。
「次は、指揮科。
ここでは、指揮の仕方や作戦の立て方、プログラムの作成などをします。ここは戦闘もします。チェスなど、ゲームも結構します。そして、思考力を強化させるために、いろいろなことをします。正直めちゃめちゃ忙しいと思います。
ゲームをしたい人、指揮官になりたい人にお勧めです」
指揮……か。俺には出来ないことだ。まずやったこともないし、今後もやらないと思う。作戦を立てたことはあるけど、それも二、三回程度だからな……それに、指揮官になろうとも思っていない。
そして、刀華先生から次の学科の説明がされる。
「次は、情報科。
いきなり言いますが、ここは、最も死亡率が高い学科です。入るには死ぬ覚悟をしておいてください。
ここは、スパイの活動や、暗殺、情報を盗むなどをします。そして、最も人数が少ないです。
ここで扱う武器は、拳銃、ナイフ、スナイパーライフルなど、暗殺に適している武器しか使いません。他にも、体術とかも指導されます。
そういうのに憧れて入ろうと思った人は、止めはしませんが死ぬ覚悟をしておいてください」
最も死亡率が高い。その言葉に、クラスメイトは唾を飲む。死ぬ……ということは、この高校に入っている時点で自覚しているようだが、さすがに死にたいやつはいないか。まぁ、当然だろう。俺だって、死にたくは……無いからな。
「そして最後。この軍事機関高校で『最強』の学科です。この学科は、情報科程ではありませんが、人数が少ないです。学科に入る前の一年生は、他の先生に名前を聞いても教えてくれません。
その理由は、おそらく一年生で入る人は、ほとんどいないからだと思います。何ならこの学科の人が誰もいない世代もありました。
この学科は、推薦でしか入れません。
入っている人や教官の先生、他の先生からの推薦が3人以上来ていたら強制で入れられます。
まぁ、そんな人はほとんどいないでしょうけど」
そこで一旦、刀華先生は言葉を切った。というか、刀華先生がこちらを見ている気がするのは気のせいだろうか。
というか……刀華先生の『最強』の学科という言葉を聞いた瞬間、教室が少しザワついたな。まぁ……最強という言葉に、少し心に来るものがあるのだろう。最強って、男の憧れみたいな感じだしな。
「その学科の名前は、執行科。この高校の最強が集う学科です」
そんな名前なのか。まぁ、俺には縁の無い学科だな。そんな学科、面倒なことがあるに決まっている。俺は、さっき強襲科に入ると決めたんだ。
「この学科は、人数は現在7人。情報科が6人なので、ギリギリ人数で勝っています。執行科は、いわゆる生徒会みたいな役割をしていて、この学科の人にはお世話にならないでくださいね。
一応説明しておきますが、ここでは模擬戦を主にしていて、学校からの依頼も来ます。
依頼で戦闘経験を積んでいて、一人一人がめちゃめちゃ強いです。下手したらこの学校の先生よりも強いかもしれません。
ここで、学校からの依頼が気になった人もいるでしょうけど、それは次の授業に説明します」
依頼だと……一応中学でもあったが、面倒だった思い出しかない。面倒なのが来ないことを祈ろう。中学では、いろいろな依頼が俺の元にやってきたから、面倒だった。とりあえず……執行科には入りたくないな。もう依頼はこりごりだ。
「一通り全ての学科の説明が終わりました。皆さん、どの学科に入るか決めましたか?
まぁ、締め切りは1週間後なので、そんなに焦らなくていいと思いますけど」
刀華先生がそんなことを言ってくる。ていうか、締め切り一週間後なのかよ。入る学科は決めたから、明日にでも入科届け出しておこう。入科届けをいつ貰ったかだが……昨日だ。昨日渡されたのが、入科届けというわけだ。とりあえず、今日だそうかなと思ったが、一応その前に、凜姉にそのことを言っておく。
その理由は、凜姉が「何処に入るか決めたら、入科届けを出す前に言って」と言われたからだ。……別に言う必要は無くないか?と思ったが、俺は気にしないことにした。
「來貴君、どの学科に入るか決めましたか?」
隣の席にいる文奈が話しかけて来た。まぁ、俺はもうどの学科に入るかは決めたけどな。
「強襲科だ。そう言う文奈はどうなんだ?」
「私は、能力科に入ろうと思います。というより、意外ですね。強襲科に入りたいなんて」
「……悪いかよ」
「私、悪いなんて一言も言ってませんよ?」
文奈はそう言いながら、クスクスと笑う。……なんか、少しウザかった。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴った。一限目が終わった。
「チャイムが鳴ったので、一限目を終わりにします。來貴君、号令お願いします」
「……起立、気をつけ、礼」
「「「「「ありがとうございました」」」」」
俺は号令をしろを言われたので適当に号令をする。
……あれ?俺以外の人が号令してるところ見たことねぇんだけど。もしかして俺だけにやらせてるのか?
「あ、來貴君、君は放課後、校長室へ」
「…………は?」
「……來貴君、何かやらかしましたか?」
「んなわけねぇだろ」
その後しばらくして、二限目の始まりのチャイムが鳴った。
「皆さん、授業を始めます。來貴君、号令」
「起立、気をつけ、礼」
「「「「「お願いします」」」」」
というか、また俺が号令かよ。と言う一言は、腹の中に飲み込んでおく。
「二限目は、一限目に言った学校からの依頼について説明します。学校からの依頼は、所属した学科の教官から伝えられることが多いです。そして、依頼が成功させたら何と、お金がもらえます」
お金が貰える。その言葉に、クラスメイト達は騒ぎ出す。「お金って、中学の時よりも貰えるのかな?」とか、「俺、強くなるぜ……たくさん金を貰うためにな!」とか。前半が強者で、後半が弱者のセリフだ。
「執行科や各学科の強い人は、校長から直々に依頼されるかもしれません。まぁ、強くなれれば、あの美人校長に会えて、面倒事を押しつけられるということです」
うわ~……めんどくさ。直々に依頼とか面倒以外の何物でも無いわ。金だってたくさんあるし、別に俺はあまり金を使わないからな……それに、面倒事は嫌いなんだよ。俺はそう考えながら、刀華先生の言葉を聞く。
「依頼の内容は、情報を盗んでこいとか、どこかの組織を潰してこいとか、ヤクザのアジトを破壊してこいとか、まぁいろいろあります。あ、言い忘れていましたが、一ヶ月後、皆さんは強制で学校側が適切な難易度の依頼を受けてもらいます。
安心してください。死なせはしません。学科に入ったら一年生は依頼を成功させるために鬼のような修行をさせられますからね。それを耐えられれば失敗はしませんよ。
……まぁ、修行の時点で根を上げているようじゃ今後、死ぬ可能性が浮上してきますけどね」
「「「「「……おぉふ」」」」」
刀華先生、なかなか怖いこと言ってるじゃねぇか。クラスの大半の奴はビビって変な声だしてるじゃん。まぁ、文奈達能力者はビビってないようだが、黎はビビっているな。あいつなら大丈夫だと思うが。というか、最初の依頼は強制か……まぁ、なんとかなるだろ、俺、自分で言うのもアレだけど結構強いし。
「さて、これで依頼の話は終わりです。……というより、大分時間が余りましたね」
授業が始まって現在35分後だから、あと15分余っているな。この学校は50分授業で普通の高校と同じ授業時間になっているから、刀華先生の端折った説明だと結構時間が余る。
「余った時間どうしようか……遊ぶって訳にもいかないし」
刀華先生の授業の時の敬語が無くなった。この人、授業のときだけ敬語で、普段生徒にはタメ口だからなぁ。これは、『軍事育成機関高校七不思議』というやつの一つでもあるらしい。
ちなみに、この『軍事育成機関高校七不思議』は凜姉から聞いたことだ。
とりあえずまぁ……この15分は、適当に目を開けながら寝よう。そうしたら、バレないかもしれない。
そして、俺は意識を落としていく。というか……直前に、視線を感じたのは気のせいだろうか。
「……來貴君、起きていますか?」
さっき、文奈の声が聞こえたのは気のせいだろうか。体感何分か寝たところで、俺は起きたようだ。俺は、時計の方を見てみる。残りの授業時間は、9分。約6分間、俺は目を開けたまま寝ていたようだ。
「あの……來貴君?」
「ん?どうした文奈」
「さっき……寝ていましたか?」
「……いや、寝てないぞ」
咄嗟に嘘をついたが、何か文奈から圧を感じる。おい、これはもしかしなくてもヤバい状況なのでは?そっと周りの方を見てみると、刀華先生は無表情でこちらを教壇から見ていた。
「……寝ないでくださいね?」
「…………はい」
この時の文奈は、とてつもない威圧を出していたということだけ言っておく。その威圧に、周りの生徒も引いていた程だからな。
そして、その騒動から10分後、チャイムが鳴って、二限目が終わった。やっとこの地獄から解放される。俺が寝ようとすると右からの圧がヤバかったからな。
俺の席はクラスの左端(窓側)の一番後ろだから、隣の席にいる文奈の威圧が……な、うん。
それはそれは先生の圧の比じゃなかった。あいつ先生より強いんじゃないか?
それから休み時間が終わり、三限目の授業が始まった。
三限目は、明日からの授業方針を刀華先生から長々と説明された。正直つまらなかった。
大体授業方針はこうだって言ってたな。
明日からは、訓練を中心に授業していくと。一ヶ月後の依頼に備えるというのもあるし、皆の戦闘スタイルを見るというのもあると言っていたな。
俺の戦闘スタイルはまぁ……言わないでおこう。
こんな話を延々とされたな。途中寝そうになったけど、寝そうになったら右から……な。何を言いたいのかは、察してくれ。
それで四限目は、授業についてだな。
この学校の授業は、銃や剣等の武器についての授業、実際に武器を使ってみる訓練、先生対クラス全員で戦う実戦訓練、そして体術、それと、魔法についてと、能力についてだな。
最後に、普通の高校で習うような五教科も何故か入っている。
何故入っているか、刀華先生が言うには
「実技だけで、勉学を疎かにしないためです」
とのことらしい。
四限目はこれ位か。
四限目の後は昼休みだ。これについては姉から貰った弁当を食べただけなので飛ばすとして、五限目だ。五限目は、俺達が卒業したあとに所属するだろう軍についてだな。
所属するであろう軍は、国防軍だって先生が言ってた。大体軍についてはこれ位か。
んじゃあ、次は六限目だ。もうこれはめんどくさいから飛ばす。内容も重要なことは話していなかったからな。
はい、今現在、帰りのHR中です。
「じゃあ、これで帰りのHRは終わりです。皆さん、気をつけて帰ってくださいね。後、來貴君、忘れてるかもしれないから言いますが、この後、ちゃんと校長室へ行ってくださいね?」
「……はーい」
正直言って、面倒だ。早く帰って寝たいのに、俺は何故あんなクソ校長の元へ行かなければならないんだ。
そう心の中で愚痴りつつも、俺は教室を出て校長室へ向かう。校長室の場所を覚えていなかったので、校長室へ行くのに無駄に時間が掛かった。今度校長室を壊そうかなと思ったが、それは心の中に仕舞っておいた。
「…………着いてしまった」
校長室に着いてしまった。いかにも校長室っぽい扉に、その隣の壁の金っぽいところに校長室と書いてある場所、校長室。
そんなことは置いておいて、さっさと済ませよう。
そう自分を説得した俺は、校長室の扉を一応ノックして、返事はめんどくさいから待たなかった。
「失礼します」
「…………來貴君? 普通、ノックしたら返事を待ってから入るものだと思うのだけど」
校長にそんなことを突っ込まれた。まぁ、当然だろうな。自分でもそう感じる。だが、そんなことはどうでもいい。さっさと要件を聞こう。