31話「揺らめく想い」
その後、一年生全員は、依頼が終わって全員の生存確認も済んだので帰ることになった。生存確認は、各クラスの担任が担当のクラスで点呼をするだけ。刀華先生はいろいろ端折るので、テンポ良く終わった。
そして、俺は今帰ろうとしている途中だ。学校を出て、家に帰ろうとしている生徒が沢山居る中、その中に紛れて俺は帰る。
「……帰るか」
俺は、一年生の玄関を出て校門へ向かう。周りには、帰る途中であろう生徒が沢山いる。
そんな生徒達は無視し、俺は帰る。
「來くん!」
俺は、声のした方を見る。そこには、走ってきたのか、息が荒い凜姉がいた。凜姉は、息を整えながら俺に近づいてくる。
「……どうかした?」
少し離れたところで息を整える凜姉にそう聞く。すると、凜姉はこっちへ来て俺の隣に立った。そして、とても小さな声で呟く。
「……帰ろ」
「……わかった」
周りの視線が凄く痛い。ここでイチャつくなと言われているみたいだ。そんな視線を気にせず、俺と凜姉は帰路を辿る。
そして、ある程度帰路を辿ると、凜姉が俺に抱きついてきた。俺は凜姉の方に目を向け、声を掛ける。
「凜姉、どうしたの?」
俺がそう聞くと、凜姉は俺の胸に顔を埋めながら言う。
「だって……來くんが死ぬかもしれないから不安だったんだもん……」
凜姉は、涙を流しながらそう言う。……泣かないでくれよ。対処が大変だし、若干視線が痛いんだが。しかも、この辺に済んでる年寄りが見ている。なんか「あらあら、若いわねぇ」とか「若いっていいねぇ」とか言ってやがる。俺は頬が引き攣りそうになったが、なんとか我慢する。
「……でも、俺は死ななかっただろ?」
凜姉を泣き止ますため、俺はそう言って慰める。すると、凜姉は顔を上げて俺の顔を見る。しばらく見た後、また俺の胸に顔を埋めながらブツブツと何かを呟き始めた。
「……うん、そうだね……よし。來くん、帰ろう」
凜姉は、涙を俺の服で拭って泣き止み、誰もが見惚れるような笑顔で言った。……俺の服で涙を拭いたことは、気にしないでおくか。
「わかった」
そして、俺は凜姉に腕に抱きつかれながら帰った。帰るまでの間、周りからの視線がとても痛かったのは言うまでも無いだろう――――。
「おかえり、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
――――家の玄関を開けると、琉愛が出迎えてくれた。俺は玄関のドアを閉めて、靴を脱いで家の中に上がる。凜姉も、靴を脱いで家に上がる。
「ただいま~、琉愛」
「……ただいま、琉愛」
俺は琉愛にそう言いながら、自分の部屋へ行った。凜姉は、リビングへ行った。
そして、俺は自分の部屋のベッドに寝転がりながら、三週間後のテストの事を考えていた。
「……テストだるいな」
俺が今言ったことは、全国の学生の心の中の気持ちを代弁したと思う。本当に、テストは面倒だ。テストが面倒だと言うなら、俺が勉強苦手なのか……と思う人が居るだろう。だが、それは違う。俺は、この結月一家の中で恐らく一番頭がいい。それに、俺はテストでは常に上位の成績だ。
なら、何故テストが面倒だといったのか……だって、テストめんどくさいもん。それ以外に理由は無い。それにこの学校のテスト、凜姉が言うには結構難しいらしい。
……まぁ、俺の能力ならカンニングし放題なのだが。
……しないよ?
してもしなくても結果は変わらないしな。
「お兄ちゃん、夕飯出来たよ」
ドアの向こうから、琉愛がノックしながらそう言ってくる。……琉愛で思い出したが、俺は怜次と一緒に自分の妹について語っていたな。まぁ、琉愛は可愛い可愛い妹だということには変わりないが。
「わかった。今行く」
俺は、ベッドから飛び降りて、部屋のドアを開ける。
「お兄ちゃん、早く行こ」
琉愛は俺の腕を掴み、階段を降り始める。俺は、琉愛の階段を降りる速度に合わせるため速度を上げた。
「わかった。そう急かすな」
俺を急かす琉愛に、そう声を掛ける。そして、俺と琉愛は一階に着いて、リビングのドアを開けリビングに入った。
「來くん、琉愛、夕飯出来たから食べよう」
凜姉は、夕飯を机の上に並べながら言う。俺と琉愛も手伝い、並べ終わったら三人で合掌する。
「「「いただきます」」」
そして、俺達は夕食を食べ始めた。ちなみに席の配置は、俺の右に凜姉、左に琉愛だ。正直言って邪魔だ。どいてくれ……とは言わないが、ちょっと離れて欲しい。
その後、俺は初依頼のことを凜姉に聞かれながら夕食を食べた――――。
「「「ごちそうさまでした」」」
――――俺達は夕食を食べ終わり、食器を片付ける。
片付け終わった瞬間、お風呂が沸いたという声が響いた。そして、食器を片付けた後、俺はソファに座っていた。凜姉は、何か準備をしている。琉愛は、トイレに行っている。そして、凜姉が準備は終わったのか俺に話しかけて来た。
「來くん、後でお風呂一緒に入ろう?」
……またか。これ、何回目だ?いい加減一人で風呂に入ってくれよ。……ていうか、今気配を感じたような気がするが、気のせいか?……いや、考えないでおこう。俺は、一旦その事を頭から追い出して、凜姉の対処について考える。
「……一人で入ってくれよ」
俺はそのルートを回避するため、こう答えた。…………引き下がってくれるかなぁ。
俺の答えを聞いた凜姉は、俺に近づいて来た。そして、俺の横に座って俺の足に手を置いて聞いてきた。……一言言うなら、近い。今まででトップクラスに近い。
「なんで一緒に入ってくれないの?」
凜姉は、俺の手を握りながら聞いてくる。……なんか断りづらいけど、さっき考えた理由で断っておこう。
「……凜姉ももう高三だろ?」
理由……というのは、これだ。男として最低だと思うが、凜姉に年というのをぶつける。その作戦が成功したのか、凜姉は俺をジト目で見た後こう言った。
「……まぁ、いいや」
凜姉はそう言って、リビングを出て自分の部屋へ行った。そして、近くに居た気配が俺に近づいてくるのがわかった。その気配は俺に近づくと話しかけて来た。
「……ねぇ、お兄ちゃん」
「……なんだ?」
俺は目だけ後ろを見ながら、琉愛に聞く。
「一緒にお風呂、入ろう?」
予想はしていたが、凜姉と全く同じ事を言ってきた。
「……一人で入ってくれよ」
俺は、凜姉に言った言葉で断った。まぁ、意味ないとは思うけど。凜姉もそうだったし。
「……なんで?」
琉愛は、ソファの後ろから俺に顔を近づけてくる。というか、顔と顔が近いんだが。
「……お前、もう中二だろ?」
断り方は、凜姉と同じ断り方。これまた男として最低なことをしたと思うが、自分の身を守るために必要なことなのだ。
「……まぁいいや」
琉愛はそう言って、リビングを出て自分の部屋へ行った。……これでようやくゆっくり出来るな。
そして数分後、俺は風呂に入った。ちなみに、俺が一番風呂だ。今は、体を洗っている。依頼が無駄に長引いたため、汗が多かった。依頼自体は別にたいしたことなかったが。
風呂に入った俺は、考え事をしていた。俺は、風呂で考え事をするタイプだ。勿論、一人で入っているときだけだが。
(……覇壊の轟き……俺のこの能力は、全てのリミッターを覇壊する能力であるとは言っていない。だが、いつか言わなければならなくなる日が来るだろうな……その日は、全てを話そう。俺が、何故この化物の力を隠すのか……)
考えているのは、覇壊の轟きの事。本当の力は、未だ片手で数えられる程の数の者しか言っていない。凜姉と琉愛は、覇壊の轟きの力を知っている。文奈達は知らないけどな。言っていないからだけど。言わない理由は……全てを話すときにいずれわかるだろう――――。
俺がそんなことを考えながら、湯船につかっていると、ペチャペチャと素足で歩く足音が聞こえた。気のせいだろうと、俺は目を閉じた。だが……。
「來くん、お風呂入って良い?」
「え?」
俺はそんな声を上げて、風呂のドアの方を見る。そこには、人影が見えた。……何でいるんだよ。せっかく人……半魔が気持ちよく風呂に入ってたのに、何で来るんだよ。
「返事が無いって事は、良いんだね。入るよ、お兄ちゃん」
「は!?」
琉愛もいるのかよ。ていうか、入ってくんなよ。一人で入れって言ったはずだが……。
風呂のドアが開き、バスタオルを体に巻いた凜姉と琉愛が入ってきた。……タオル巻いてるだけマシか。って、そういうことじゃねぇ。自然に入ってくるな。
「……出てけ」
俺は、凜姉と琉愛の方には目を向けずに言う。……これだと、目のやり場に困る。
「やだよ~。もう入っちゃったもん」
凜姉は、全く出ようとしない様子で言う。
その仕草はぶりっ子っぽいが……凜姉程の美人がやると、男を堕とす凶器と化す。多分、それを学校でやったら殆どの男子が堕ちるだろう。
「私も、久しぶりにお兄ちゃんとお風呂には入れたから、出る気は無いよ」
琉愛も、全く出ようとしない様子で言う。……俺だけじゃねぇか。タオル巻いてないの。俺は、すぐさま瞬華先輩の能力で時間を止めてタオルを再現し、腰に巻いた。その後、すぐに時間停止を解除した。……やはり、瞬華先輩の能力は魔力消費が多い。もっと使いこなせるようにしないと。
俺がそんなことを考えていると、凜姉が俺の方に来た。
「來くんの体、傷痕がいっぱいある。それに、腹筋も割れててガチガチだね」
凜姉が、俺の体をじろじろと見て、腹筋を触ってきた。俺の体にある傷痕……というのは、右から左に掛けて胸にある大きい切り傷の痕と、左腕にある小さめの傷痕と、左脇腹から腹部にある傷痕だろう。それに、他の細かい傷痕もある。そして、右足の太腿に銃創がある。これ程の傷がいつ出来たのか……それも、いつか話そう。
「お兄ちゃんの体、引き締まってていい体してるよね」
琉愛も俺の体を触ってきた。少しくすぐったい。
「……そろそろ、俺の体を触るのはやめてくれないか?」
くすぐったかったので、そろそろ俺の体を触るのを終わりにして欲しい。
「來くんがそう言うなら、わかったよ」
「ん、わかったよ」
二人は、俺の体を触ることをやめてくれた。その後、凜姉は身体を洗い、琉愛は風呂の中に入る。とても、目のやり場に困っている。凜姉の方は向けない。何故なら、バスタオルを取っているからだ。
「來くん、背中流して」
急に、身体を洗っていた凜姉がそう言ってくる。ちなみに、抜け出すことは出来ない。何か、抜け出せないのだ。
「…………わかった」
俺は、風呂から出て凜姉の背中を流した。風呂から出るときに、とても目のやり場に困った。凜姉が前をバスタオルで隠してくれたためなんとかなったが、ちょっとヤバい。
――数分後、俺は凜姉の背中を洗い終わり、風呂の中に戻った。それと同時に、凜姉が風呂に入り、琉愛が風呂から出て体を洗う。そして、琉愛が体を洗い、約数分が経った時だ。
「お兄ちゃん、背中流して」
琉愛が、凜姉と同じ事を言ってきた。
「…………わかった」
俺は、また風呂から出て琉愛の背中を流した。琉愛も凜姉同様にバスタオルを取っていたので、目のやり場に困る。だが、バスタオルで前を隠してくれたためなんとかなった。
――その数分後、背中流しが終わった。
琉愛の背中流しが終わった後は、俺、凜姉、琉愛の三人で浴槽の中に入っている。浴槽はそれなりに広いので、三人入っても少し余裕はあった。
……だが、俺はもうそろそろ風呂を出たい。だが、凜姉と琉愛が出してくれない。と言うことで、今から許可を貰おうと思う。
「そろそろ出て良いか?」
俺は、そろそろのぼせそうになったので、凜姉と琉愛にそう聞く。凜姉と琉愛は、俺の顔を覗き込み、何か考えるような仕草をしてからこう言った。
「……來くんのぼせそうだし、出て良いよ」
凜姉から許可をもらえた。早速出よう。
俺は、風呂のドアを開けて風呂から出る。そして、体の水滴を能力で乾かす。そして、服を着る。髪を少し整えて、自分の部屋へ行く。部屋に来てもすること無いけどな。
テスト勉強……と言っても、内容は全て頭の中だから必要ない。
「暇だ……途轍もなく暇だ……勉強、はしたくないしな……」
俺は、スマホをいじりながらベッドに寝転がっていた。
……そう言えば、凜姉と琉愛はもう風呂から上がったのだろうか。俺が部屋に戻ってから二十分くらい経つから……もう上がっているだろう。すると、部屋のドアがノックされ、ドアが開いた。その方向を見ると、琉愛が立っていた。
「どうした? 琉愛」
「……お兄ちゃん、学校のテスト勉強で分からないところあるから教えて」
琉愛はそう言って、俺を連れて行こうとする。
「わかった」
とりあえず、暇だったので行くことにした。俺は、琉愛の部屋へ行って琉愛に勉強を教えることになった。まぁ、琉愛が小学生の時も教えてたから、いつも通り俺を頼ったのだろう。
そして琉愛の部屋に入った後、俺は琉愛にわからないところを聞いた。
「ここ……」
琉愛は、分からないところを指さしながらそう言った。
そして、俺は三十分間、勉強で琉愛のわからないところを教えていった。




