22話「琴音の言葉」
「そうですか……それは、残念です」
そう言った校長は、哀しそうな表情を浮かべていた――――。
数秒後、表情を変えて話を続ける。
「來貴君。これは、私西宮寺琴音として聞きます。あなたは……この世界を、どう思いますか?」
一瞬……言っていることがわからなかった。だが、俺はその意味をすぐ理解して、答えを考える。
「……この世界は……歪んでいると思います」
「……そう、ですか」
俺の答えを聞いた校長は、顔を少しうつむかせて頷いた。そして、ふと何かを思いだしたかのような顔をし、口を開く。
「そう言えば、何か見た目が変わっていませんか?灰髪になったり、左目が金色になったり……何かあったのですか?」
校長は、俺に何かあったことを確信するかのように聞いてくる。だが、本当のことはあの声から言うのを禁止されているため、別のことを言う。でも、何か一つ違和感がある。まるで、知っているかのような感じだ。
「……ちょっと、いろいろありましてね……」
「……そうですか」
その一言を聞いて、校長は何かを察したような表情をした。そして、何かを考え始めて納得したような顔になった。……なんだったんだ?
そして、校長は、俺の方を向いて話す。
「來貴君……最近の授業はどうですか?」
「……は?」
急に何を聞いてくるんだ、この校長は。何がしたいんだ?だが、一応聞かれたので答えよう。
「……普通です」
「そうですか……それはよかったです」
この部屋に来て初めて、校長は笑顔を浮かべた気がした。
……妙だな。何か……変な感覚だ。覚えているのに、覚えていないような……だけど、絶対に覚えている気がする。なのに、思い出せない。本当に……変な感覚だ。酷い違和感だ。
「まだ話はあるので、紅茶を出します」
そして、校長は部屋に来たときに近くに置いていた紅茶を取り、机に置いた。二人分ある。俺のと、校長の分か。というか……この紅茶、俺が一番好きなやつだな。俺は、校長の方を見てみる。すると、笑顔を浮かべて俺の方を見ていた。
その笑顔は……まるで、これが俺の一番好きな紅茶だと知っているかのようだった。まぁ、合っているんだけど。それと……校長も、同じような感じだな。俺と同じ、この紅茶が一番好きみたいだ。
そして、俺は紅茶を一口飲む。校長も、紅茶を口に含む。
「どうですか? この紅茶は、私が一番好きな紅茶なのですけど……」
「……美味しいです」
「それはよかったです」
校長は、紅茶を机の上に置く。俺も、紅茶を机の上に置く。まだ紅茶は飲み終わっていない。紅茶の香りも、俺好みの香りだ。
「來貴君。これから話すことをよく聞いてください」
雰囲気が変わった気がした。校長の雰囲気が重くなった。
「私は、この世界は歪んでいると思います。そう、來貴君の言うとおり。刀華先生も、この世界は歪んでいると思っているようです。……來貴君、前にもこの話をしましたけど……能力の使い方を、間違ってはいけませんよ? 私達が持っている能力というのは……簡単に人を殺められます。その存在を偶然知った者が、テロ行為をしたり、犯罪を犯したりするこの世界。能力という存在は、一般には公開はされていません……それが危険だからというのは、わかっていますよね?だから……能力を持った者は、その記憶を消すか、軍人に育てるかしています。來貴君もそうですよね。そして、今私達が吸っている空気にも、魔力が充満しています。……いや、この場合は魔素でしたっけ。軍事機関は、武力によって世界を支配している……この際、能力や魔法なんて、無かった方が良かったのかもしれませんね」
校長が言っていることは……あながち、間違いでは無いだろう。この世界に、能力、魔法、魔力の存在が無ければ、軍事機関が作られることも無かった。つまり、この軍事育成機関高校や他の軍事学校の存在も無いということ。能力や魔法による犯罪も無いということ。それは……武力が必要なくなると言うこと。それは……幻想だな。俺も、一回だけ望んだけどな……。
「――ッ」
紅茶を飲んでいると、頭痛がした。だが、これ位なら耐えられるので、収まるのを待つ。
……しかし、中々収まらない。俺は、飲み終わった紅茶を置き、耐え続ける。そして段々と、頭痛の痛みは増してゆく。声は上げないようにして、頭痛をこらえる。
「……どうしました? 來貴君」
「……いえ、何でも無いです」
その後、俺の頭痛は収まった。なんだったのだろうか……俺はそう思ったが、表情に出さないようにするのに必死だったため考える余裕など無かった。
「話は終わりましたので、もう帰っていいですよ。紅茶のコップは、私が片付けておきます」
「……失礼します」
最後にそう言って、俺は応接室を出た。そこは校長室の隣なので、いつものように校長室から一年生の玄関へ行った。
……だが、俺は一つ気になることがあった。
(……なんだったんだ?あの頭痛は……段々と痛みが増していったが……)
校長の言葉を聞いたときに感じた、あの頭痛。何が原因なのかはわからないが、何かあるのは確かだ。何故そうなったかの手掛かりが何一つ無いので、調べようが無いけどな。
そうして、俺が廊下を歩いているときだった。
「あれ? 來くん、何してるの?」
俺は、声のした方を見た。そこには、凜姉がいた。こんな遅い時間に、何をしているのだろうか。校長のせいで、今の時間は五時半。普段ならとっくに自宅に居る時間だ。凜姉は早くに帰って夕飯を作っていると思っていたが……まだ学校にいるとは。
「……帰っている途中だ。凜姉こそ何してたんだ?」
「私も今から帰るところだよ。來くんも一緒に帰る?」
どうやら、凜姉ももう帰るところらしい。
「……ん、わかった。じゃあまた」
「うん。校門で待ってるから!」
そして、凜姉は三年生の玄関の方へ行った。その足取りは、随分とご機嫌なようで軽かった。
その様子を尻目に、俺は一年生の玄関へと向かった。俺の足取りは、凜姉とは対照的に重い。あの紅茶の味と、校長の話と、あの頭痛のことが頭によぎるからだ。考えなくてもいいことだと思うのだが、どうしても、頭によぎる。
俺は頭を振り、一年生の玄関へと足を進める。
何分かした後、一年生の玄関へと着いた。その後、そこから出る。
玄関を出た俺は、凜姉が待つ校門へと向かった。凜姉は、校門の前にいた。というか、俺よりも早く校門についたのか。まぁ、俺が遅く歩いたからかと一人で納得し、俺は凜姉に話しかけた。
「凜姉、さっさと帰ろう」
俺に気付いた凜姉はこっちを向いて、笑顔でこう言った。
「うん、帰ろう! 來くん」
そして、凜姉は何かこっちにひっついてきた。
「…………凜姉、何でひっついてるの?」
俺は、自分の姉がしてきた謎行為を疑問に思い、質問した。それに、周りの視線が痛い。「こんなところでいちゃつくな!」とでも言っているような目だ。後、嫉妬の視線が混ざっているような気がする。それに、俺と凜姉は全くと言っていいほど似ていないから、姉弟だと思われていないのだろう。姉弟だけど。
「当然でしょ! 私は來くんのお姉ちゃんだから」
何と、こう言って来た。全くもって意味不明だ。前にも似たようなことがあった気がするが、もう俺は気にしない。
「そう言えば、なんで來くんは応接室の近くに居たの?」
周りの視線を無視しながら帰っている途中、凜姉がハッと思い出したかのように聞いてきた。
「……それか……校長に連れてこられて、話が終わって帰ったところに凜姉が来たんだよ」
「校長先生に……あ、入科届けはどうなったの? 取られたって言ってたよね?」
「…………校長に渡されて、強制的に入科させられて没収された」
俺の一言を聞いて……凜姉は、何かを察した表情になった。これは……何があったかわかったそうだ。だが……凜姉に強襲科に入ると言ったから、面倒なことになりそうだ。
「えっと……強制的に入科させられたってことは……入っちゃったの?執行科に」
凜姉は見事に正解を言い当てた。何故わかったのだろうか。三年生だから、執行科のことについては知っているのだろう。それに、瞬華先輩のことを知っていそうだ。勘だけど。
「…………入っちゃったんだよ……強襲科に入りたかったのに」
「…………ちなみに、推薦は誰から?」
凜姉が、言ったら非常に面倒そうな事を聞いてきた。推薦は誰からというのを聞いてきたと言うことは、やはり知っているのだろう。というか……凜姉も、ちょっと同情しているように見えるんだが。
「…………瞬華先輩と、彩月先輩と、校長」
俺は面倒なことになるなと祈りながら答えた。
「え……三人に推薦……? それに、校長先生からも貰ってる……凄いじゃん」
「え…………うん」
だが、俺の予想とは裏腹に、凜姉は褒めてくれた。……よかった。面倒なことにはならなかった。
そうして、周りの痛い視線に耐えながら、俺は凜姉と家へ帰った。ちなみに、オリケルスのところには週5日で行っている。月曜日と金曜日はなしだ。
家の前につき、俺が玄関を開ける。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おかえり!」
琉愛がこっちに走って迎えに来てくれた。
「ああ、ただいま」
「うん、ただいま」
「二人とも、今日は遅かったね。何かあったの?」
琉愛がちょっと心配そうな表情で聞いてくる。
「…………ある学科に強制加入させられた」
「私はちょっと先生に呼ばれたから」
「ふーん……まぁいいや。そろそろ玄関から上がったら?」
琉愛は、そう言ってリビングへ行った。さて、俺は部屋に行って寝るか。
そうして、俺は部屋に行った。バッグと銃剣を片付けて服を着替え、寝た。寝る前にあのときのことを考えていたが……何もわからなかった。
それから、3時間後。
「お兄ちゃん、起きた?」
「え?」
目を開けると、琉愛がベッドの上のすぐそばにいた。え? いつ入ってきたの?
「……琉愛か、どうした?」
琉愛がどうしていたかと、何をしに来たのかを聞いた。
「お姉ちゃんが、ご飯できたから呼んで来てって言ったから、来たんだよ」
琉愛はそう言って、俺のベッドから降りる。そして、ドアの方に行った。
「……そうか。じゃあ、降りるか」
俺は、ベッドから降りて部屋のドアを開ける。部屋から出た瞬間に琉愛がひっついてきたが、気にしないことにした。階段を降り、リビングのドアを開ける。そうしたら、
「ライ君、起きたんだね。夕飯もう出来てるから、食べよう」
凜姉はそう言って、椅子に座る。ポンポンと椅子を叩き、俺に隣に座るよう促す。俺は一応隣に座った。琉愛は、俺のもう一つの隣に座ってきた。この机、何故か横に無駄に長いから、横に三人座っても、結構スペースあるんだよな。まぁ、そんなことは置いておこう。
「「「いただきます」」」
そして、夕飯を食べ始める。
食べている途中、俺は凜姉に何故執行科に推薦されたのかを聞かれた。琉愛も聞きたいと言っていたので、俺は正直に話した。そのことを聞いて、時々凜姉が驚いたような顔をしていた。
……が、途中ブツブツと何か呟いていた。確か「來くんならやりかねないかも」とかだった気がする。琉愛はよくわかっていなかった顔をしていたが、凜姉の表情を見て大体察していた。
「ごちそうさま」
こうして、十数分後に俺は凜姉が作った夕飯を食べ終わった。そして今、リビングのソファで寝転がっている。
「お兄ちゃん、一緒にお風呂入ろうよ」
琉愛がそう聞いてくる。おい、お前もう中学生だろ。風呂ぐらい自分で入れよ。と、俺は思った。琉愛が小学生だった頃も、このやりとりをした気がする。
「風呂ぐらい一人では入れるだろ」
適当な理由を付けて断った。何故一緒に風呂に入ろうって聞いてくるんだろう。
「……お兄ちゃんのケチ」
琉愛は、そうブツブツと言いながら、風呂に行った。なんで中一にもなりながら、兄と一緒に風呂に入りたがるんだ?小学生のころはまだよかった……かもしれないが、中学生になってさすがにそれはないだろうと俺は思った。
琉愛が風呂から出た後、風呂に入ろうと思ったが……やめた。おそらく凜姉はまだ入っていない。俺は最後に入る。
「あ、來くん、一緒にお風呂入ろうよ」
凜姉もそう言ってきた。何でそんなに俺と一緒に風呂に入りたがるんだ?
「風呂ぐらい一人で入れよ」
琉愛の時と同じような理由で断った。なんで凜姉も琉愛と同じ事言ってくるんだろう。風呂ぐらい一人で入れるだろ。というか入ってくれ。
「……來くんのケチ」
凜姉はそうブツブツと言いながら、風呂に行った。もう凜姉高三だろ?何で弟と一緒に風呂に入りたがるんだ?え?断られたときの文句が似てるって?多分、姉妹だからだろ。
とりあえず、俺は凜姉が風呂から出てきた後、風呂に入って10分で出てきた。
その後部屋へ行き、いろいろやることをしてから寝た。




