21話「強制入科させられました」
「……教官。私は、結月來貴君をここ、執行科に推薦します」
東道先輩がそう言った。……勝手に推薦しないでくれよ。……いや、推薦は勝手にやるやつか。ていうか、校長が教官なのかよ。
「教官。私も、結月來貴君をここ、執行科に推薦します。あ、私の名前は鳳彩月。よろしくね!」
もう一人、執行室にいた先輩が俺を推薦する。……というか、俺もう詰んでね?入科届けは校長に回収されているし、推薦はもう二つ。三つ以上だと強制的に入科させられる。はぁ……もっと早く入科届け出しとけばよかったな。そうすれば、執行科に入科させられずに済んだのか?
鳳彩月という先輩は……青みがかった白髪で茶色の瞳という見た目だ。身長は、比較的高い方だ。そしてさっきの言動から俺よりも元気があると思う。
「その推薦、確かに聞きました。その理由は?瞬華科長」
「理由は……來貴君が、凄く強いからです。あの刀華先生を、一方的に倒したからです。それに、刀華先生の攻撃が効いてませんでした」
凄く適当な理由だ。というか、校長もグルな気がする。理由は適当で、外を固めて俺の逃げ場を無くして、強制的に入科させる……悪質だなこれ。だったら……俺の入科届けを没収したのも、その為か。本当に悪質だな。
「そうですか……その推薦を通します。それと、私も來貴君を執行科に推薦します」
「……は?」
俺は思わず、そんな素っ頓狂な声を上げた。校長がグルな可能性も考えてはいたが……刀華先生も推薦をするのか……これ、絶対悪意あるだろ。やっぱり、女は腹黒いって言うのは本当なのか。
「……これで合計三人……まさか」
俺は嫌な予感の正体を知る。どうしてこうなったんだ。俺は、何か悪いことをしたか?いや、心当たりはあるが、あれは仕方の無いことだ。そう、仕方の無いこと。
「はい……推薦が三人以上になったので、來貴君、歓迎しますよ?」
「ようこそ、執行科へ。結月君」
東道先輩が意味不明なことを言う。俺は入る気ないぞ。とりあえず、抜け出す方法を考えろ、結月來貴。後、俺は歓迎される気は無い。
「ようこそ、結月君!」
鳳先輩も意味不明なことを言う。いや、俺は入る気ないぞ。俺は強襲科に入りたいんだ! ちなみに、その次に刀剣科。凜姉がいるから楽そうだし。
「あ、ここに入ったなら、私のことはこう呼んでくれ。瞬華って」
「え?」
何か東道先輩がよくわからないことを言う。いきなり下の名前で呼んでって言うか?普通。しかも、初対面だぞ。
「あ、私も彩月って呼んで」
鳳先輩もそう言ってきた。何でだよ。初対面だろ。俺はこの人達と関わりを持ったことは無い、完全な初対面だぞ。あ、でも、文奈もそうだったな。
「え、あの」
俺がしどろもどろしていると、二人から怒号が飛んで来た。
「「いいから、呼んで!」」
「………………はい…………瞬華先輩、彩月先輩」
……俺は、二人の先輩の圧力に負け、そう言ってしまった。……これでいいのか?随分と適当だけど。
「「それで良し!!」」
どうやら先輩はそれで納得したようだ。……これでいいんだな。
……俺は、二人の美人先輩のことを名前で呼ぶことになった。周囲の視線がもっと痛くなる気がする。ただでさえ、文奈と雫という美少女と関わりを持ち、どちらとも下の名前呼びで、結月凜という美人の姉を持っているのに。
「というか……なんで下の名前で?」
とりあえず気になったので、聞いてみることにした。すると、瞬華先輩から答えが返ってきた。
「ん~……私と彩月はね、執行科に入った生徒は下の名前で呼ぶことにしてるの。それで……私達が推薦した生徒に、下の名前で呼ばせるようにしてるからかな」
……そう言う理由か。もう気になることもなくなったので、あることを聞く。
「あの……そろそろ帰っていいですか?」
俺はこの状況から逃げ出したいのと、早く帰りたいのが相まって、そう聞いた。この状況は、いろいろと面倒だ。それ故に、早く逃げ出したい。
「あ、もう帰っていいよ」
「じゃあ、帰ります」
東道先輩がそう言ったので、俺は帰ろうとした。執行室を出ようとすると、校長から声が掛かった。今度はなんだよ、と思いながら校長の方を見る。
「あ、待ってください。來貴君、校長室に行きますよ」
「……え?」
俺が硬直している間に、腕を掴まれた。そして、執行室を出て校長室に連れて行かれた。そう言えば、俺は校長に呼ばれていたんだったな……。瞬華先輩と会う前は覚えていたけど、執行室に入ったらすっかり忘れていたな。……あの場所のインパクトが強すぎたのか。
そうして、俺は校長室に入った後……何故か、椅子に座らされていた。
「……來貴君、早くしてください」
……現在、俺は現在進行形でシャーペンを持って紙にペンを走らせている。さて、何故こうなったのか説明をしよう。
「……なんですかこれ」
「これは、あなたの入科届けです。執行科の欄にチェックしてください。後は……入科した理由をこの欄に書いてください」
俺は、自分の入科届けを校長から返された。用事はそれだけかと思い、帰ろうとしたらまだ帰るなと言われた。そして、校長室にある校長が座っている椅子に座らされて、机に入科届けを置けと言われたのでおいた。その後、シャーペンを渡されてそれにさっきの指示を言われた。
入科届けには、自分の名前を書く欄、各科の名前とその名前の横にチェック欄、入科動機を書く欄がある。がある。入りたい学科の欄にチェックをして、下の入科動機を書いて各科の教官に提出すると入科できる。まぁ、記入漏れと入科動機が適当だったら入科できないとか聞いたことがある。
これを書いたら、晴れて俺は執行科の一員だ。この学科の入科条件である、執行科の科員もしくはこの学校の教員からの三人以上からの推薦はもう満たしている。瞬華先輩、彩月先輩、校長、刀華先生の四人から推薦をもらっているからな。……というか、全員女じゃん。いや、それはどうでもいいか。
……というか……今思ったけど、執行科って、三人以上の推薦が来たら強制入科なんだよな……?これ書く必要なくないか?
「早く書いてください。後、これは入科したという証明になるので必要です」
どうやら、これは必要らしい。この際、心を読まれたことは気にしないでおく。とりあえず……これ書きたくないな。
「……書きたくないとか言ってないで、早く書いてください」
校長は、机に身を乗り出しながら俺に言ってくる。距離が近いので、俺は思わず顔を後ろに下げる。
「……はぁ……わかりましたよ」
結局、俺が折れた。というか、書かないと帰れないような気がした。気は進まないが……執行科に入科することにしよう。とりあえず、この欄にチェックをして……入科動機は……適当でいいか。
そして、俺は書き始めた。だが、入科動機が中々に悩んだ。まず、『入りたかったから』という入科動機で提出したのだが、「適当すぎます。書き直してください」と言われて返された。というか、俺は入りたいわけじゃ無いから理由なんてなんでもいいだろと思ったが、しっかりしたものを書いてほしいらしい。
二回目、『なんとなく』で提出した。これも「さっきより適当になっています」と言って返された。……だったら、なんて書けばいいんだ?と、俺は思った。
「……あの、何を書けばいいんですか?」
「そうですね……まぁ、入科したくなった理由とかですかね」
入科したくなった理由、か……そんなんねぇな。というか、入科動機とあまり変わらないな。とりあえず、グダグダ言っても終わらないので書こう。
まぁ……これも適当だけど、さっき思いついたものがあるからな。それを書こう。
数分後、書き終わった。近くでお茶している校長に提出した。
「やっと終わりましたか。校長室に入ってから約三十分ほど経過していますよ」
そう言ってから、俺が書いた入科届けを受け取った。態度が大きかったが、俺は気にしないことにした。
「えぇっと……『入科した理由は、この執行科に自分が必要とされているからです。瞬華先輩、彩月先輩、刀華先生、校長先生からこの学科を推薦してもらい、この学科の素晴らしさを知りました。よって、自分はこの学科に入科することを決めました』……なんですかこれ」
俺が書いた入科動機は、校長に溜息をつきながら呆れられた。
「……もう……ちゃんと書いてほしいんですけど……いいです。このままじゃ終わりそうに無いですし」
校長はまた溜息をつきながら、俺の書いた入科届けを比較的片付いている書類の山の上に置いた。……というか、あれ大丈夫か?なくしたりしないよな?いや……校長だから大丈夫か。多分。
そして、俺は校長の机の近くに置いてあるバッグを持つ。俺は、もうそろそろ帰りたい。入科届けの記入も終わったし、俺はそろそろ帰っていいと思っている。だが、一応校長に帰っていいかを聞く。
「もう帰って良いですか?」
「ダメです。まだ話があります」
どうやら、まだ帰ってはいけないらしい。俺をここに連れてきたのは、入科届けの記入の他にも話したいことがあったからなのか。俺は面倒だと思いながらも、校長の話を聞く。校長は、書類の山からこっちへ近づいてきた。そして、俺に一言告げる。
「……何故、校長室に呼ばれたと思いますか?」
いきなりそんなことを聞かれたが、俺は文奈達のように心なんざ読めないので知らないというかわからない。
「……知らないですよそんなの。というか、なんでそんなこと聞いたんですか?」
俺の言葉に、柔らかい笑みを浮かべながら校長は答える。
「ふふ、特に意味はありませんよ。それで……來貴君は、執行科のことをどう思いますか?」
さっきの質問には意味は無いらしい。まぁ、予想はしていたが。
というか……執行科のことをどう思うか……か。さっき入科届けを出したけど、まだ入科してから一日も経ってないからな……どう思うって言っても、何も無いけどな。それに、執行科の科員だって瞬華先輩と彩月先輩の二人しか会っていないしな。
まぁ、科員はあの二人の他にもいるだろうけど、名前すら知らない。今度、瞬華先輩か彩月先輩のどっちかに聞く……のは無理だな。話しかける勇気が無い。それに……どうせ紹介されると思うしな。
「まだ入科して一日も経っていないのでわかりませんよ」
「そうですか……まぁ、執行科はいい学科ですよ? 皆さん優しいですし、とても強いですからね」
俺は、校長の話を黙って聞いていた。校長が何を言いたいのかは知らないが、まぁ、執行科のことについて話したいのだろう。何故この話を俺にするのかは知らないが。だが、聞いておいて損は無いので、聞いておく。
結局、何が言いたいのかはわからないけど。それについては知る必要も無いため、どうでもいい。というか、この話はいつ終わるんだ……? 早く帰りたいんだが。
校長って、無駄に話が長いからな……それに、関係ないことだっていちいち聞いてくる。それが、話の始めに必ず一回と……鬱陶しい。
「それに……來貴君も、すぐに馴染みますよ。他にも、入科する予定の生徒もいますし」
他にも、三人以上推薦をもらった人がいるのか……まぁ、誰がもらっていようがどうでもいい……というわけでは無いな。無いとは思うが文奈が入っていたら面倒だし。まぁ、絶対に無いだろうけど。
というか、これで話は終わりか? だったら、もう帰りたいんだが。でも、まだありそうな雰囲気だな。
「來貴君。話はまだ終わりではありませんので、ついてきててください」
話はまだ終わりでは無いようで、俺は校長室の隣にある応接室に来た。そこは、高級そうな黒色のソファと高級そうな机がある。汚れ一つも無いので汚したら怒られそうだ。
そして校長は「そこのソファに座っておいてください。あ、汚さないでくださいよ? そうしたら怒るので」と言って、何処かへ行った。さて……この状況、俺はここでずっと校長が来るまで待たないと行けないのか。なんとも理不尽な。そう思ったが、おとなしく待つことにした。
だが、校長が戻ってくるまで暇だな……というか、何をしに行ったんだ? 呼び出した生徒を放置して何処かへ行く先生……見たことも無いぞ。まぁ……すぐに帰ってくることを祈って待とう。
そうして、俺が待つこと数分……。
「お待たせしました。では、話の続きをしましょう」
そう言って、校長は……俺の対面では無く、俺の隣に座った。ここで俺は、何故隣に座るのかと疑問を覚えたが、もう一つ、何かなんとも言えないような感覚も覚えた。
「……なんで隣に座ったんですか?」
「こっちの方が、話しやすいですからね」
俺が見た校長の笑みは、何故か既視感を覚えるものだった……。そして俺はしばらく、その様子を見ていた。数秒後、我を取り戻した。校長はそのことに気付いていたようで、
さて、俺は話の続きとはなんだろうかと思い、校長の話を聞くことにした。
「來貴君。あなたは、執行科の仕事は面倒そうだと思っていますか?」
「……そうに決まっているじゃ無いですか。依頼、面倒に決まっています」
「そうですか……それは、残念です」
そう言った校長は、哀しそうな表情を浮かべていた――――。




