15話「悪魔の力」
『おめでとう、君は選定と痛みを乗り切ったようだね。そして、無事に半人半魔になり、人の身を捨てたようだね』
「…………誰だ?」
急に頭の中に声が響いてきたので、思ったことを口に出してしまう。いや、本当に誰だよ。声が聞こえたのは、俺が悪魔の選定を突破したからか? と考察し、思考を張り巡らせる。
『うん、そうだよ』
心を読んできた。どいつもこいつも、俺の周りには心を読める奴しかいないのかと、俺は考える。凜姉も琉愛も文奈も黎も、心を読んでくるのだ。そう考えるのは仕方ないだろう。
『あ、そうそう、今から君が手に入れた力についてと、君にやって貰いたいことについて説明するね』
その言葉を聞いて、俺は少し警戒をする。
「俺に、やって貰いたいこと……?」
『そそ、君にやって貰いたいこと。まぁ、その前に、君が手に入れた力について説明するよ』
頭の中に響く声は、そんなことを言ってくる。まるで、俺がこうなることを知っていたかのように。
『君が手に入れたのは、悪魔の強靱な体と、選定の悪魔、ネルの能力さ。ネルの能力というのは、死黒暴滅。あらゆる黒を支配する能力だよ。まぁ、ネルは能力を使いこなせていなかったようで、一部の力しか引き出せてなかったけどね。そして君は、悪魔の体と力を手に入れたことで、種族が人間から半人半魔になったよ。半分人間で、半分悪魔という種族だね』
「……それで力の説明は終わりか?」
ネルの能力、そんな名前だったのか。それで今、俺は覇壊の轟きと、死黒暴滅。この二つの能力を持っていると言うことになるのか。
そこで俺は、気付いたことがある。俺の本来の能力の欠点、遠距離攻撃に弱いという欠点が消えた。黒い弾とか、黒い炎とか使って、遠距離攻撃が出来る。銃に頼らなくても良くなった。
ただし、まだ銃は使うけど。
(……家に帰ったら、能力使って銃改造しようかな)
『そうだよ、次に、君にやって貰いたいことを説明するね。君は今まで通り学校に通いながら、僕達悪魔のもとで修行をしてくれ。今のままじゃ他の悪魔にすら勝てないだろう。僕が修行を付けてあげたいけど、僕は魂しか無い状態で、選定を乗り越えた者の説明役として、君に頭の中に語りかけてるから無理なんだよねぇ』
「……そうだったのか」
俺は、自分の頭に語りかけてくる声が修行を付けられない理由が、それだけでは無いと直感で考えた。
……もしかしたら、体に何か影響があるのか?そこで俺は、気になったことを聞いた。
「……一つ聞きたいんだが、悪魔というのはなんなんだ?」
俺が謎の声にそう聞いた途端、謎の声は黙った。まだ頭の中に違和感はあるので、まだいるのだろう。……そして、その声は言った。
『悪魔について……か。いずれわかるとは言っておく。……けど、一つだけ言えることはあるよ』
俺は次の言葉を聞くため、耳を傾ける。
『……人間の上位存在』
その声が言ったのは、その一言だけだった。そして、その声は話題を切り替え、別のことを離す。
『それで君には、まだ生き残ってる悪魔の一人、オリケルスから修行を受けてほしいんだよね』
「…………それはいいんだが、見た目、どうすればいいんだ?前と大分変わってるし、何があったのか聞かれても、この事は言っていいのか?」
俺は、一番気にしている問題を奴に聞いた。これ、言ってもいいのか言ったらダメなのか、はっきりしてほしい。じゃないと、いろいろ凜姉と琉愛に言ってしまいそうだ。というか、隠しても無理矢理にでも聞かれそうだ。
『あ~、それね……頑張って上手く誤魔化しといて』
「…………は?」
誤魔化す、か。凜姉や文奈達相手に出来るかは知らない。凜姉は何故か俺の考えてること分かるし、琉愛は俺の顔を見たら何を隠しているか大体わかるらしい。俺は、もう適当に色々あったで誤魔化すしか無いと考えた。
今の俺なら、走っても追いつかれることはないだろう。悪魔の力を手に入れた故の身体能力があるからな。
『とりあえず、説明することはしたから、じゃあね!』
「……わかった」
頭に響いていた声はどっか行って、頭の違和感が無くなった。とりあえず俺は、自分が今何が出来るのか試してみることにした。他のことは後回しだ。なんかもう考えたくなくなった。
「……黒色だな」
俺は魔力を放出してみたが、金色の魔力から黒色の魔力に変わっていた。ネルの魔力色と同じだ。なんで黒色に変わったんだよ。
……死黒暴滅の影響か?まぁ、それは置いといて、次はネルの出していた黒炎を使えるか試してみる。
「黒炎!」
黒い炎が辺りを燃やした。俺は、ネルの黒炎とは明らかに威力が違う自分の出した黒炎を見て、疑問を覚えた。
……あれ、こんなに強かったっけ?次、黒い球。黒弾と名付けよう。
「黒弾!」
ドーン!
黒い何かが飛んでいって、数十メートル先にあった岩が木っ端微塵になった。明らかに、ネルの出した黒弾よりも大きい黒弾だった。
ネルのやつは野球の球ぐらいで、俺のはバスケットボールくらいはあった。
そして、俺はそのことについては考えることをやめた。そして、考えるのやめていた思考を再び巡らせる。
「……帰るか」
ここまで走って逃げてきた。かなり遠いので、帰るのにも時間が掛かるだろう。凜姉への言い訳をどうしよう。今、俺の見た目は確実に変わっているだろう。なんか目線も高くなっているし、魔力色も変わって髪の色も変わった。瞳の色が変わっているかはわからないが、それでも凜姉に何があったか問いただされるだろう。
まぁ……とりあえず今の時間を確認しよう。俺は、スマホを取り出す。前にも確認したが、あの声によって帰るのを阻まれた。
「22時半……か」
約30分間、俺はあの声の話を聞いていたと言うことになるのか。後は……いろいろと実験をしていたからか。さて、凜姉に怒られに行くか……。
俺は立ち上がり、家に向かって歩き出した。ふとネルのいた方を見てみると、いつの間にかネルの死体は無くなっていた。
そうして数分で、街へ出た。だがこのまま歩き続けていれば、ここは家から遠いので二時間は掛かるだろう。そうすれば、凜姉に泣きつかれて朝まで説教だ。
「よし……能力使うか」
俺は、覇壊の轟きを使って帰ることにした。能力を使って帰った感想は、能力の練度が上がった気がする、だ。
そして、その数十分後、家の近くに着いた。というか、明らかに身体能力が上がってるな。……悪魔の力ってすげー!
……今現在、俺は家の近くに居る。とりあえず、俺が言いたいことは……今は23時。家に入るのがとても怖い。気配的に、家の前には誰も居ないようだけど……玄関のすぐ後ろで凜姉が仁王立ちしている。琉愛は、凜姉の後ろにいる。
……ここで立ち止まっていても、説教が長引くだけだ。覚悟を決めろ……結月來貴。
覚悟を決め、俺は家に向かって歩き出す。そして、家の前につく。鍵が閉まっていたので、家のチャイムを鳴らす。
……さて、そろそろ説教が始まるな……。
家のドアが開き、凜姉が出てきた。その顔は、怒っているように見えた。
「……來くん……とりあえず家に入って」
俺は、凜姉に手を引かれ強制的に家に入れられる。そして、琉愛がドアを閉めた。それを確認した凜姉は俺をリビングへと連れて行った。琉愛も、リビングの中に入っていった。
今から説教、か。今回は何時間続くんだろうな……。
「ねぇ、來くん。なんでこんな遅い時間に帰ってきたの?私、心配したんだよ?」
「……すみませんでした」
俺は、謝ることしか出来なかった。凜姉の言うことはごもっともであり、言い返すことなど出来なかった。
「……うん、來くんは、なんでこんな時間に帰ってきたの?」
「……ちょっと、野暮用があってな……」
「……そうなんだ。……來くん、お腹空いてない?」
……あれ?説教されないのか?……いや、後で説教されるという可能性もある。
そういえば、凜姉に言われて気付いたけど、腹減ったな。普段なら部屋でゴロゴロしている時間だからな。この時間にリビングにいるなんて殆ど無い。
「……腹減った」
「……じゃあ、今からライ君の夕飯準備するから待ってて」
そう言って、凜姉は俺の夕飯を準備しに行ってくれた。琉愛は、さっきから黙っているままだ。俺には琉愛は何か考えているように見えた。
「出来たよ、來くん。こっちに来て」
凜姉はあらかじめ準備してあっただろう俺の夕飯を温め、机に置いた。そして、椅子に座るように俺に言う。
俺は凜姉の言うとおりにし、椅子に座る。その対面に、凜姉が座る。そして、俺の横に琉愛が座る。そして、俺は夕飯を食べる。
「……ねぇ、お兄ちゃん。なんか身長高くなってない?」
「……あぁ、10cm位伸びた気がする」
琉愛は、俺の頭に手を乗せながら自分との身長差を確認している。琉愛の身長は145cm。俺との身長差は約40cmだ。琉愛は俺を見上げながら頬を膨らませている。多分、ただでさえ俺は身長が高かったのに、更に伸びたことで自分との身長差が開いたからだろう。まぁ、琉愛はまだ中学一年生なのでまだまだ身長は伸びるだろう。俺以上に伸びることは多分無いと思うけど。
「……一日でそんなに伸びるっておかしいよね? 何があったの? それに、髪の色も灰色に変わってるし。それに、左眼も金色に変わってるよね?」
凜姉が俺の方に机から身を乗り出しながら聞く。というか、食べづらいんだけど。
「……まぁ、ちょっといろいろあったんだよ。そのときにこうなったんだ」
「來くん、そのいろいろって何?」
隠したい部分を聞いてくる凜姉。本当のことは言えるわけ無いので、あらかじめ考えておいた言い訳を言う。
「……いろいろはいろいろだ」
「……それ、答えになってないよ。お兄ちゃん」
俺の横で身長差を比べていた琉愛が、溜息をつきながら言う。まぁ、これは自分でもひっでぇ言い訳だとは思っている。これで騙せる奴がいたら頭の病気を疑う。とりあえず……さらなる言い訳を考えよう。さすがにアレだけじゃ何があるか疑われるままだ。
「……本当に何があったの?」
「……何にもない。ごちそうさま」
「あ、待って! 來くん!」
凜姉の静止の声も聞かず、俺は部屋を出て二階へ行った。かなり強引だとは思うが、これしか切り抜ける方法が思いつかなかった。とりあえず、部屋に戻ったら……銃剣のメンテナンス……の前に、風呂に入りたい。でも、今下に行ったら凜姉と琉愛がいるからな……二人とも寝たら行くか。
俺がそんなことを考えていると、部屋のドアがノックされた。扉の前には、二人分の気配があった。凜姉と琉愛だろうか。
「來くん、入るよ」
「お兄ちゃん、入るよ」
凜姉と琉愛の声が聞こえたと同時に、部屋のドアが開いた。入って来たのは、凜姉と琉愛だ。目的は、十中八九リビングで話したことの続きだろう。本当のことは話せないので、そのことを聞かれると困るのだが。
「……來くん、何があったのかはもう聞かないよ……でも、いつか本当のことは話してね?」
「……わかったよ」
俺の返事を聞くと、凜姉と琉愛はこっちに来て、俺の逃げ場を無くすように俺の前に立った。
「……話が終わったなら戻ってくれないか?」
「まだ終わってないよ、お兄ちゃん」
「そうそう、説教の続きをするよ、來くん」
「……マジか」
どうやら、まだ説教は終わっていないようだ。本当の目的は俺の説教の続きだったのか。さて、何時間説教は続くのだろうか……。俺は、溜息をつきながらこれからの説教に備えた。
「來くん、帰るのが遅かったらさ……心配したんだよ? いつもはこんな時間に帰ってくることは無いから……それに、学校の帰りだから本当に何があったか心配でずっと不安だったんだから」
凜姉は、若干目に涙を浮かべつつ、俺の方による。そして、俺の首筋に手を回して抱きついた。これにより、俺は完全に逃げられなくなった。まぁ、元々逃げる気なんて無いので別にいいのだが。というか……凜姉から甘い匂いがするんだけど。こんだけ距離が近かったら匂うか。
「お兄ちゃん、私もさ……心配したからね? 学校の帰りで全然帰ってこないから、不安だったんだ」
琉愛も、若干涙に目を浮かべつつ、凜姉とは反対の方による。そして、俺の首筋に手を回して抱きついてきた。俺は姉と妹に右と左に抱きつかれ、完全に身動きが取れなくなった。というか、この状態でどうするんだ?
そして、この状態のままで説教が続いた。説教は俺の体感で三時間くらいは続いただろうか。琉愛が若干眠そうにしつつも、説教はまだ続く。
「……もう、遅くなるなら遅くなるって連絡してよね。來くん、いつも連絡しないんだから」
「……わかった」
「これで説教は終わり。今日はこのまま寝よっか。琉愛はどうする?」
「んんん……このまま寝る……」
琉愛は、そう言うと一瞬で寝てしまった。数時間による説教で、眠気が来ていたのだろう。というか、俺も眠いし、凜姉も眠そうにしているしな……このままでもいいか。いや、その前に……。
「……この状態のまま寝るのか?」
今現在の俺の状態を説明しよう。俺は今、ベッドの上に壁にもたれかかりながら座っている。その右を凜姉、左を琉愛に抱きつかれている状態だ。さすがに、壁にもたれかかりながらは寝たくない。
「……じゃあ、寝転がろう」
もう半ば眠っている凜姉が、俺の体を倒し、ベッドに寝転がせる。布団は大丈夫なのかというと、いつの間にか掛かっていた。琉愛が布団を握っていたので、琉愛が掛けたのだろう。というか、いつの間に掛けたんだ?
……いや、琉愛は眠そうにしていたから、自分で布団を掛けたのかもしれない。
「おやすみ……來くん、琉愛」
「……おやすみ、凜姉、琉愛」
最後にそう言って、俺の意識は落ちていった。




