14話「ネル・ドグバーン ~心の中~」
side ~ネル~
私は……今から、死ぬ。未来を……選定を乗り越えた者に託して。私は、腹部からの出血が激しく、このままじゃ……後数分もすれば死ぬだろう。だが、それはもうどうでもいい。私の役目は……終わったのだから。
選定を乗り越えた者に選定の悪魔についてと、世界に堕ちた神について話し、悪魔の力は人間には使えないことも話した。何せ……彼は、持っている。それの力を最大限に使えるように特訓をすれば、勝てる確率は高くなるでしょう。それに……あの子に今から悪魔の力が宿る。あれ程の才能なら……使いこなせるでしょう。
「いいから……早く殺しなさい。そうしないと、出血多量で死んじゃうじゃない。……最後に、悪魔の力は……人間には使えない。取り込まれるとき、ひどい痛みに襲われると思うけど、耐えなさいよ」
「……わかった」
あの子がモタモタしていて殺そうとしないので、私から殺すように声を掛けた。まぁ……出血多量で死んでもあの子に悪魔の力はちゃんと宿るでしょうけど。その出血多量の原因を作ったのはあの子ですから。
そして……あの子の持つ銃剣から、銃弾が発砲される。その銃弾は、見たところ秒速1キロメートルのかなりの速度の銃弾。だけど……私には、とても遅く感じた。
これが……走馬灯、という奴ね。初めて体験したけど……過去の記憶が、蘇ってくるわね……まぁ、あまりいいものでは無いけどね。
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私の本当の名前は……ネル・ドグバーン。悪魔の中でも普通の家に生まれたわ。兄妹なんかいなかった。所謂一人娘ね。
親は仕事で全然いなかったわ。でも、一週間に一回は家族全員と過ごせる日があったから寂しくなかった。私は、家族との時間が楽しかった。
……あの日までは。
「ネル、出かけるからついてきてくれ」
ある日突然、両親が7歳の私をある場所へと強制的に連れ出した。
その場所というのが、私のこれからの地獄だった。あの場所というのは、能力をあるかどうか調べさせる場所。能力があるかどうかわかるのは大体7歳からだ。だから、そこに私を連れ出したのだろうと思った。
そこで私は、最高位の能力だという検査結果を受けた。そのことを聞いた両親は、その日から私を視る目が変わった。能力の検査が終わった後、私は訓練を受けさせられた。能力をしっかり使いこなせるようにするための訓練。
訓練を受けさせられるようになってから、私の自由時間は無くなった。毎日毎日、父に金で雇われた悪魔に能力を使いこなせるように訓練をされた。
能力は制御できるようになったけど、能力の練度が上がることは無かった。宝の持ち腐れってやつね。最高位の能力を持っていながら、その能力の真価を発揮出来ないって。これを悪魔の中では埋もれた才能と言っていたわね。
そのときに私は確信した。自分には……「才能が無い」ということを。だから、こんな訓練をしても意味が無いと……そう、両親に言った。その時の両親の目は、ゴミでも見るかのような目をしていた。
その後……私は、相手にして貰えなくなった。話しかけても、無視をされる。食事は与えられない。最低限だけの金を机の上に置いていく。家に帰ってくることはほぼ無かった。一ヶ月に一回あればいい方くらいになった。
何故、両親が私に能力を使えるように訓練をさせたかは、なんとなくわかる。
私が生まれた家、ドグバーン家は、悪魔の中では特に力の無い家。普通の家。最高位の能力を悪魔は一度も生まれなかった。最高位の能力を持って生まれたのは、私が史上初だった。
そんな私を、絶対的な強さに育てようと思って訓練をつけたんじゃ無いかしら。ドグバーン家は、お金だけは無駄にあったから、人を雇うことは出来たからね。
……でも、私には才能が無かった。何故、才能の無い私が最高位の能力を持って生まれてきたのか。それはわからないけど……宝の持ち腐れというのはわかったわ。両親は私を見捨てて、別の子供を作り始めたしね。
それから、私は17歳になった時、偶然悪魔の真実を知った。私は、真実を知る悪魔に攫われた。そして……私は、「選定の悪魔にならないか?」と言われた。親は、私を見向きもしない。別に私が居なくなっても騒ぎもしないだろうと思った。
だから私は、選定の悪魔がどういう役割を果たすのかを聞いた上で選定の悪魔になった。どうせ、私は弱い。すぐ殺されるだろうけど、役割を果たすことぐらいは出来そうだった。
選定の悪魔になるなら、親と縁を切らなければならなかった。完全に切る必要は無いけど、私は別にどっちでも良かった。どうでもいいしね。この真実を知られないために。まぁ、未練なんて一つも無いから何も言わずに出て行ったんだけど。まぁ、スマホとかには連絡が一切無かったから私の事なんてどうでもいいと思っていたんでしょうね。
選定の悪魔になってからの人生は……家に居た頃よりは大分マシだったわね。
そして、私はある程度見極める時間を増やすため訓練を受けさせられた。でも、実家にいたときの訓練とは違った。わかりやすくて、自分が強くなっていくのが実感できた。
……ある程度はね。でも、それでも、私に才能が無いという事実は変わらない。
能力の練度が上がることはほぼ無かった。
それから、神を殺せる器を探すために、選定の悪魔は選定を乗り越えられる者を探した。だが、私が住んでいた国では見つからなかった。
まぁ……私達選定の悪魔も、いつでも選定しているわけじゃないから、真実を知る悪魔が集う場所で休んだりもしているわ。皆で集まっていろいろお話したりして、楽しかったわ。でも同時に……胸が痛かった。
「家族」というものを捨ててきた私と、「家族」と連絡を取り合っている私以外の悪魔。
……何か、私だけ皆が持っている物を持っていないような感覚になったわ。まるで、新しいオモチャをねだる子供みたいな気持ち。
そんな私にも、恋人という大切な存在が出来た。いや、私もその恋人も悪魔だから、恋魔?いや、別にそれはどうでもいいか。
その恋人は、私なんかと違ってとても強かった。才能もあって、能力も最高位。私は彼のことが好きだったけど、何度も私じゃ釣り合わないって思った。でも、そう言う度に、彼は「そんなことない」と行って、抱きしめてくれた。
そして、彼は家族を紹介してくれて、私の境遇を話したら家族として迎えられた。そのときは、本当に嬉しかった。
……でも、私は選定の悪魔。いつ死んでもおかしくない存在。それでも、彼はそのことを承知の上で、彼は付き合ってくれた。
器の選定を休んでいる間は、自分が選定の悪魔だと言うことも忘れて彼と話し合っていた。そのときの時間は人生の中で一番楽しかった。だけど、選定をしなくちゃいけない。それが、私が果たせる役割だから。
上からの命令で日本に行って……今まで選定として戦ってきた相手の中で二番強い相手と戦ったけど、勝った。まぁ……人間と悪魔の身体能力は格が違うから、それのせいでもあるんだけど。この選定で戦った女の子には、逃げられた。多分、日本に私の情報があると思う。
……だけど、最後に戦った相手である結月來貴。名前を伝えられ上からの命令で選定をしに来たけど……本当にヤバい。人間なのかを疑いたくなるほど高い身体能力。それこそ、悪魔に匹敵するくらい。そして、その凶悪な能力。恐らく強化系かと思われるけど、強化の度合いが異常だ。あそこまで強化出来る能力なんて見たこと無い。あの子は私よりも何百歳も年下……年下なのにも関わらず、あそこまでの強さは中堅ぐらいの強さの悪魔に匹敵する。
人間であの強さ、しかも持っている量がとても多い。
でも、違和感もあるわ。持っている量が多くて感じるというのはわかるけど……何か別の同じものも入っているような感じ。
……これは、悪魔になったらとてもヤバいんじゃ無いの?って思うほどだわ。まぁ……あの子が耐えられないなんて、万に一つも無いと思うけど。
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(……最後に、恋人の彼に会いたかったなぁ……)
そう思いながら、気づけば近くにまで来ていた弾丸を見る。この弾丸……よく作られているわね。適切な火薬の量と大きさをしていて、速度が最大限早くなるようにしている。人を殺すためだけに作られた弾丸って感じね。
私は今から、死ぬ。もうすぐで目の前に迫っている弾丸が、私の眉間を貫くだろう。何故、あの子は適当に照準を合わせたように見えてここまで正確に撃ち抜けるのだろうか。これは、実際にやられてみないとわからない。近くで見ているだけじゃ、適当に撃って偶然当たったように見えるだろうけど、これは違う。一瞬で正確に照準を合わせているんだわ。
私が死んだら……この子に悪魔の力が宿るのね……どうやって宿るかは……まぁ、神のトリックとでも言っておきましょう。
そして私は……目を閉じる。これから来る死を、受け入れるように――――。
その数瞬後、銃弾が眉間を貫く感覚に襲われた。その後、身体中から力が抜けていく感覚にあった。
……これが、死というものなのね。案外……悪くないわね。
最後に……誰かの役に、立てたかしら……?
それから、私の目の前が暗くなった。もう死ぬのね、私。悪魔だから、案外耐えられたけど……もうダメみたい。
私の体は、前の腹部や肩部から流れた血溜まりに倒れていった……。
「ぐ……が……」
死ぬ前、最後に聞こえたのはあの子が苦痛に耐える声だった――――。
side out
「ぐ……が……」
俺は、ネルの眉間を打ち抜いた。その瞬間、ネルは前方の血溜まりに倒れていった。
ネルが死んだと思われる瞬間から、俺の体から苦痛が走った。別にこれ位は何ともないが、体が根本から作り上げられるような感覚だ。まるで……体が改造されるような感じになってくる。
だが、壊れている場所は無い。何故なら、壊れたらすぐに治ったからだ。これは、能力を使って治癒力を最大限に高めているからだ。気休め程度にしかならないが、無いよりかはマシだ。でも、これを使ってもすぐには治らないはずだ。最大限に高めても二時間くらいは掛かるはずだが……何故だろうか。
とりあえず考えてもわからないので、今は放置しておくことにする。今は、この苦痛に耐えて悪魔の力を得ることが優先だ。
治ったが、また壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。壊れる。治る。
それを繰り返して、俺の体は悪魔に近づいていった。
筋肉は、悪魔へと近づいていく過程で何回も壊れて治ってを繰り返しているので、筋肉の総量が増え、それが限界まで引き絞られていく。筋肉の伸縮具合もなんか変わった。
骨も、悪魔へ近づいていく過程で何回も壊れて治ってを繰り返しているので、急激に骨が折れないように硬くなる。骨格が丸ごと変わった気がする。
その体は、神に勝つには人間の身を捨てないといけない。そう言っているようなものだった。
そして、俺の黒色に染めていた黒髪が、一瞬だけ白色になってから灰色になる。何故灰色になったかは知らないが、そんなことを考えている余裕は、俺には無かった。
身長も、急激に伸びた。175cmだった身長が10cm以上伸び、185cm以上の身長になった。
そうしたことから、俺は悪魔の力と体を手に入れ、身体能力や力などが格段に強化され、魔力量も格段に増えた。そして、ダメ押しと言わんばかりにネルの能力も得た。
それから数時間経った後、体の苦痛が無くなった。
「あれから何時間経った……? 痛みも無くなったし、辺りは暗い。……これは、早急に帰らないと凜姉に怒られる未来が見えるぞ……」
あの痛みが無くなり、俺はまだ家に帰っていないことを思い出し、今までで一番焦る。……これはヤバい。恐る恐るスマホをポケットから取り出し、時間を確認してみる。そこに表示されていた時間は、22時。
(……終わった。これは、完全に朝までぶっ通しの説教になるかもしれない。明日は土曜日だし、本当にそうなるかもしれない)
ちなみに、さっき俺が考えていたことは一回だけ現実になった。俺が二日間何も連絡無しで家を空けたことにより、帰ったら凜姉が玄関で仁王立ちをしていて、俺は朝まで説教をされた。そのときは本当に地獄だったので、もう二度と体験したくない。
「……ん?」
俺はふと、体の方を見てみる。体は覇王の威光を使ったせいで不調かと思われたが、その逆。俺の体は、これ以上無いほどに快調だった。
「体が軽い……これも悪魔の力による影響なのか……?」
自分の身体を確認していると、ふと違和感を感じた。
『おめでとう、君は選定と痛みを乗り切ったようだね。そして、無事に半人半魔になり、人の身を捨てたようだね』
「…………誰だ?」
急に頭の中に声が響いてきたので、思ったことを口に出してしまう。いや、本当に誰だよ。声が聞こえたのは、俺が悪魔の選定を突破したからか? と考察し、思考を張り巡らせる。




