124話「君は知らないこと」
「――大方把握したわ。この事は桂さんに話すけど、問題ない?」
「ああ。問題ない。親父も知っておいた方がいいと思う」
全てを話し終えた今、琴音は桂に言っていいかどうかを確かめた。來貴は桂も知っておいた方が対策もしやすいと思っているため、それを許可する。
その後、琴音は立ち上がり校長室の扉へと歩く。その途中で來貴へと振り返り、こう言った。
「……では、私は桂さんに話してくるわ。それと、刀華が第一生徒指導室に呼んでるから、行ってきて。じゃあ、私はこれで」
そう言い残した後、琴音は校長室から出ていった。生徒を一人校長室に残して大丈夫なのかと來貴は思いつつも、呼ばれた第一生徒指導室に行くためその場を後にする。
――校長室の扉を閉め、第一生徒指導室に向かって歩く來貴。
(……呼び出されるようなことはあった――な。思い浮かぶことが多いから、検討もつかない)
何かあったか……記憶の中を引き出しながら、その要因を考えていたが、次第に考えるのを止めた。わざわざ気まずくなる必要は無いと思ったからだ。
そして歩いていくうちに、來貴は第一生徒指導室の前につく。來貴は無言で扉を見つめながら、扉をコンコンとノックする。中から刀華の「どうぞ~」という声が聞こえたため、來貴は「失礼します」と言って來貴は部屋の中に入った。
――部屋の中には、刀華が一人机を挟んだ向こうに座っていた。変わった様子はないなと思いつつ、來貴は刀華の対面の椅子に座る。
「……話したい事はいろいろとありますが、まず手短にこれを言います」
何を言われるのか、來貴は心の中で構えを取る。
「――來貴君、残念ですがこのままじゃ出席日数が足りなくて進学できません」
「……え?」
嘘でしょ? ……と、來貴は思った。だがそれ以上に、事の重大さに動揺を隠せないでいた。
「いくらテストで一位を取っても、休みすぎです。もし次休んだら、もう一回一年生をすることになりますよ」
言われてみれば、來貴は自分がかなり休んでいることを思い出した。依頼やら誘拐やらで、なんやかんや一週間に一回は来ていない気がする。極めつけは一週間ずっと来ていなかったので、それが止めへと近づいたのだろう。
当然何も言い返すことができないので、來貴は対策のため平日の依頼は断ろうと考えていた。
「ですが、少し融通を聞かせることもできます。來貴君は優秀ですからね」
そう言って、笑みを浮かべる刀華。しかし進学がかかっている來貴には、悪魔の嘲笑にしか見えなかった。
「……どうすれば融通を聞かせられますか」
來貴はそう質問する。どちらにせよ『しない』という選択肢は無いため、來貴は刀華が言う事をしなければならないのだ。
その質問を聞いた刀華は、笑みを浮かべたまま言う。
「特別難しいことではありません。來貴君が『いつか』話すと言っていたあれ――今、私に話してくれませんか?」
「……」
來貴はその方法を聞き、顔を顰めた。別に話せないというわけではない。ただ、今ここで来るとは思っていなかっただけだった。いつ話そうかも考えていなかったため、ここで話した方がいいかと來貴は考えた。
しかしその前に、刀華にそれを言った理由を聞こうと思った。
「……構いませんが、何故?」
刀華は少し申し訳なさそうにしながら、來貴に言う。
「ここでこう言えば、來貴君は言ってくれるかなと思いまして。少し卑怯ですが、許してください」
――來貴は元々、言うつもりであった。それも近いうちに。ジーレストの件から、隠し通すのは限界に近いと思っていた。そしてそれが少し、早くなっただけ。どちらにせよ話す時が来るのは変わらないのだ、面倒にしないほうがいいだろう。
しかし、文奈たちにはいつ話そうかという問題が出てきた。ここで話すことは確定しているが、文奈たちに話すタイミングが無い。今日の授業に戦闘術はなかったため、話すことはできなかった。
まぁ、いつか話せるタイミングが来るだろう――と、來貴は先送りにすることにした。
「……話しますよ。いつまでも黙っているままじゃいられませんから」
「……ありがとうございます」
來貴はそう言って、話し始めた。自身の経験した、あの出来事たちを――。
まず始めに話すのは、自身の能力の事。言ってしまえば、覇壊の轟きを隠していた理由だ。それは複雑な理由であり、過去が関係している。強さ故の孤独ならば、力など不要。一人を強いられるなら、力なんていらなかった。
しかし、今は力がなければ何もかも奪われる。居場所も、大切な人たちも。ただ特に話す必要は感じられなかったため、使うだけでいた。
その理由を、刀華は静かに聞いている。肯定することもなく、否定することもなく。その選択は個人のものであり、可否は誰にだってわかることではないから。それに、今ここで口に出すことではない。
全てを話し終えた後に、導けばいいのだから。
そうして次に話したのは、"選定"の事。來貴がこれほどまでに強くなれた、きっかけである。
悪魔、天使。要所要所に出てくるそのワードと、あまりの内容の非現実さに、刀華は終始驚きを隠せないでいた。
そうして刀華が落ち着いた後に來貴が話したのは……自身が今持つ力。
かなり強力であり、数も多い。あまりの強大さに刀華は戦慄していたが、最後まで聞いていた。
「……これで全てです。俺が隠している事は」
「――話してくれてありがとうございます、來貴君」
刀華は、來貴が隠していた真実の重さに頭を抱えたくなった。來貴は一学年で最も成績がいいが、最も問題のある生徒として教員たちは認識している。
態度が悪いわけではない。問題なのは依頼の多さだ。基本來貴は依頼を断らないため、欠席の数が多いのだ。それでいて教員が代行しようとしても、教員より強いため代行できない。
故に、手の付け方を迷っていたのだ。そしてそれを一番に背負うのは、担任である刀華だ。加えて頭も良いため、意味のある言葉が少ない。
――だから、刀華はこう言う事にした。
「多くは言いません……が、これだけは言っておきます」
刀華は教師の顔になり、來貴に告げる。
「今のあなたを、忌避する者は周りにいません。強さという壁はあるかもしれませんが、少なくとも文奈さんたちにそれはないでしょう。……そして、あの時守ってくださりありがとうございました」
そう言って、刀華は頭を下げた。その行動に來貴は一瞬驚いたが、刀華に頭を上げるように言う。
「……私が話したい事はこれで終わりです。もう帰ってもらって構いません。多少欠席しても、進学できるように琴音先輩に言っておきます」
――來貴は椅子から立ち、ドアへと歩く。
「……ありがとうございます。失礼しました」
そう言って、來貴は第一生徒指導室を後にした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――そして、來貴は一年生玄関にいた。一人で帰っているのだが、視線を感じている。その視線の正体は既に分かっているのだが、自ら正体を現すまで待つことにした。
靴を履き替え、歩いていく。そして、視線を浴びせている影はついていき――校門を出て少し離れたところで、姿を現した。
「來貴君」
文奈だ。彼女だけでなく、黎と雫もいる。三人そろって、何をしに来たのだろうか。來貴はそう思った。
「……何をしにきたんだ?」
來貴が聞く。それに文奈はこう答える。
「――聞きにきました。あの時、退院してから話すと言っていましたよね。忘れたなんて言わせませんよ。……すみません、このような形になってしまって。來貴君が校長室に行っていたため、スマホで連絡するのはマズいかなと思ってました」
そう言った文奈の声は、どことなく優しさを感じた。しかし、必ず言ってもらうという意思も見受けられた。
「隠し事は多少あるかもしれないけど、僕らは拒んだりしないから」
黎が來貴の手を握りながら言う。
「そうね。言うって約束したなら、言いなさいよ」
雫はそう言いながら、來貴へ目を向ける。
「わかった、話すよ。……元々、話すつもりだったからな」
――そうして、再び來貴は話し始める。今度は、文奈たちに向けて。
悪魔の選定の事、保有している能力。それに加えて、能力の詳細を隠していた理由も話した。それから、自身の目的も。その非現実さと能力の強大さに、文奈たちは驚愕しているようだった。しかし目を逸らすことは無く、最後まで聞き届けた。
黎と雫も同様で、歩きながら話す來貴についていきながら聞いている。特に文奈は、來貴の隣に立って歩き、真剣に耳を傾けていた。
――そして、全てを聞き終えた文奈たちが最初に言ったことは……。
「……思っていたよりスケールが大きいですね」
「よくわからないけど、來貴は巻き込まれたってこと?」
「あまりに非現実的だけど、証拠はこの目で見た……案外、私たちでも知らない事があるのね」
それぞれ自由に、來貴の話を聞いた感想を言っていた。その様子に自由だなと思いつつ、來貴はホッとする。刀華が言っていた通りに忌避されず、受け入れてもらえたからだ。
「まぁでも、私たちは來貴君といつも通り接しますよ。それが嫌う理由にはなりませんし。困ったことがあったらいつでもいってくださいね。力になりますから」
文奈が來貴の前に立ち、顔を見上げながらエッヘンと言う。それに同調するように、黎も「僕も協力するから」と言ってくれた。そして雫も黎に続く形で、協力すると言ってくれた。
友人たちの暖かさに微笑みそうになりながら、來貴は「ありがとう」と告げる。
そして、楽しく雑談しながら一緒に帰った――。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――そうして、休日。平凡に授業を終え、土曜日がやってきた。來貴は天照に会いに行くと予定しているため、三重に向かう準備をする。とは言いつつも、持っていくものはスマホと財布のみだが。
凜と琉愛には、既に今日は出かけると言ってある。自分もついていくと言っていたが、かなりの遠出になるので一人で行った方が速いのだ。
普通に車等で行っては遅いので、空中を跳んで移動する。見つかればヤバいが、そもそも見つかる速度ををしていないので大丈夫だろう。
玄関の前に立ち、ドアに手を掛ける。いざ外出しようとしたところで、後ろから気配がした。
「來くん、気を付けていってきてね」
「お兄ちゃん、いってらっしゃい」
その気配の正体は、凜と琉愛だった。
「……いってきます」
來貴は手を振って、ドアから出た。
しばらく歩いてから、來貴は空へ舞う。屋根へと跳び移り、そこから一回一回の跳躍で数百メートルを跳びながら移動した。
(さて――これで二回目か、会うのは。会えるかどうかわからないが、聞かせてもらおうか。真実とやらを)
來貴は考えを巡らせながら、より速く跳躍した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――そして、現在時刻11時、來貴は伊勢神宮に到着した。出発した時刻は9時半なので、途中休憩をはさんだ割に着いた時間はかなり早い方だろう。
そこからは歩いていくので、來貴は地面に降り立っている。
目指す先は内宮。参拝の時期など來貴は知らないが、相変わらず人が多いように見えた。伊勢神宮を周る人々を見ながら、來貴は歩く。
かつて夏休みに文奈たちと来たときは、かなり暑かった。しかし今は秋という事もあってか、涼し気である。他に変わったところはあまり見られない。
――そうして数十分、來貴は内宮に到着した。
長蛇の列を待ちながら、参拝する理由を考える。願い事はあるが、同じ願いを同じ年にするのはどうかと考えた。……かといって、年内に二つ以上の願いを押し付けるのはどうかとも思った。
ならば、何も願わないのはどうだろうか。それならば、大丈夫だろう。実際どうなのかはわからないが、とりあえずそれで行くことにした。
そうして十数分、最前列にでて参拝できるようになる。
適当に五円玉を入れて、來貴は手を合わせた。
目を閉じ、意思を心に宿す。やがて周りの空間が作り替わるような気配を感じ、それが終わるまで待つ。
そして――。
「ようやっと来ましたか。待ちくたびれましたよ」
――天照の声が、空間に響く。その後來貴は目を開き、天照の姿を認識する。そして、こう返した。
「待たせたな。第三の選定は突破したぞ」
――その声に宿る意思は、守りたいという想い。宿る才能は、神へと牙を向く。しかし伴う覚悟は、死を許されない。




