13話「選定の悪魔」
(……あの視線……嫌な予感は、今の下校中か?)
俺は今、一人で学校から帰っていた。HRは刀華先生なのですぐに終わり、俺はさっさと帰った。「嫌な予感がする」と本能が訴えてきたからだ。しかも、これまでで一番強いかもしれない程。この場合何が起こるかわからないので、俺は基本一人で帰っている。
「…………」
俺は、後ろを見る。……やはり、誰も居ない。……いや、訂正しよう。隠れたか。さっきから、後ろから視線を感じる。これは、下校して学校から出たらだ。とりあえず、警戒しながら家には帰……らない。こいつを率いて家に帰るなんてありえない。振り切るか殺してからだ、帰るのは。
「……さて。面倒だな、これは」
俺をつけてきている奴を振り切るために、早足で歩き出す。すると、俺を追いかけている奴も早足で追いかけてくる。その様子を見て、俺は更にスピードを上げる。というか、もはや走っている。ちゃんと気配は消しているので、一般の人には気付かれないだろう。
とりあえず、適当にこの辺を走り回って振り切ろう。そして、俺は気配と音を絶つ。周囲の気配を感知し、どこが一番人の気が逸れているかを探す。
「……そこか」
何処が一番気が逸れているかを発見した。その場所に向かって、やや全力で走り出す。俺をつけていた奴も、俺の速度に合わせて走り出す。
……さて、最終的には戦闘をするわけだが……勝てるか?六限目で見た限りでは、かなり強いと思われる。
……いや、今更そんなことを考えても仕方ないか。勝たなければならない。勝って、家に帰る。それが今俺がやるべきことだ。
そして、最終的に辺り一帯何も無い場所に来た。この場所には、人の気が一切無かった。走っている途中に気付いたことだ。住宅街から大きく離れたが、住宅街からこっちは見えないだろう。それくらいの距離だ。
「……あら、息切れかしら?」
「…………」
そう言って、後ろから歩いて近づいてくる俺のストーカー。その姿を見ようと、俺は後ろを向く。そして、俺は目を見開く。
「…………チッ」
俺を追いかけていた奴は……悪魔だ。これは断言できる。何せ……白い服を着ていて、髪色はブランド。目の色は赤。そして、白い外套を身に纏っている。これは……かつて俺が見た悪魔の情報と見た目が一致している。
「……さあ、戦いましょう?あなたも、最終的にはこうなることがわかっていたでしょう……結月來貴君?」
「……何故俺の名前を知っている? お前は誰だ?」
「それは、別にどうでもいいでしょう? ……でも、名前は言っておきましょう。私は、ネル。選定の悪魔よ」
「……選定の悪魔?」
目の前の悪魔が、意味不明なことを言ってきた。悪魔だということは確定したが……選定の悪魔とは、なんぞや?選定って……何を選定するのか?俺にはわからないが、その選定に俺が選ばれたのだと言うことだけはわかった。
「そう、選定の悪魔。……あなたは、この選定を乗り越えられるかしら?」
ネルとかいう悪魔がそう言った瞬間、俺に黒い弾が飛んできた。俺は難なくその弾を躱す。銃剣をバッグから取り出し、ネルに向かって秒速1キロメートルの銃弾を発砲する。
「おっと、危ないわね」
だが、危なげなく銃弾は躱された。
いやそれより……さっきの黒いのはなんだ?あれは……奴の能力だろうか。だとしたら、どういう能力だ?遠距離を攻撃できるという能力なら、俺の能力とは相性が悪い。俺の能力は、遠距離を攻撃する手段を持っていない。身体能力を強化するだけだから、どうしても距離を詰めないといけない。
そして、俺は駆け出す。接近させまいと飛んでくる黒弾を躱しながら、発砲する。だが、発砲した銃弾は簡単に躱される。
……攻撃が当たらないな。相手は悪魔……普通の人間よりも身体能力が優れていると思って掛かった方がいいか。人間相手だと、俺が今まで戦った中でさっきの銃弾を二回も躱せる奴なんていなかった。
……校長は例外だが。人外だし。
黒弾を躱しながら、距離を詰めていく。もうちょっとで、銃剣の斬撃範囲内に入る。
銃剣の刃に魔力を込め、銃剣を振るう。刃は金色に輝き、敵を殺そうとした軌跡が空中に残る。だが、俺の斬撃は躱された。結構な反射神経を持っているようだ。
「……この程度かしら? もっと本気を出しなさいよ」
「…………」
ネルの言葉には反応せず、俺は攻撃を続ける。だが、全て奴が手に纏った『黒色の何か』で防がれた。
何度も何度も攻撃したが、全て防がれた。それどころか、奴は反撃する余裕さえもあった。
「……ここまで防がれるとはな……」
俺は溜息をつきながら、攻撃を続ける。とりあえず、そろそろ攻撃を当てたい。
「……能力、使わないの?」
ネルがそう言いながら、黒色の何かを纏った手で攻撃してくる。本能で危険を思った俺は体を捻って回避する。
そして……リミッターを覇壊する。いつもなら最初は脳のリミッターしか覇壊しないが、今回は脳の他に足と腕も強化する。今まで戦ってきた相手の中でトップクラスに強いので、油断はせずに最初から足と腕も強化する。
さっきまでの攻撃とは速度と重さが違うので、ネルはなんとか俺の攻撃を防げた。だが、押し返そうとしても押し返せない。そして、俺はネルの手を押し返して斬る。
だが、黒い何かに阻まれ防がれた。その隙をついてネルは距離を取り、黒弾を撃つ。俺は躱しながら、再び接近する。その間も黒弾を撃たれたが、全て躱した。
そろそろ決着をつけたい。まだ戦って五分くらいだが、決着は早いほうがいい。何かをしてきそうな予感がする。
「……さっきまでとは、動きが違うわね……どうせ、まだ本気じゃ無いんでしょ?」
「……なんだ、わかっているのか」
「……そろそろ決着をつけるわ。黒炎!」
「!?」
黒炎……ネルがそう言った瞬間、黒色の炎が俺を襲った。なんとか躱せたが、まだ炎はその場にとどまっている。とりあえず、この炎は俺じゃ消せない。
……なら、当たる前に殺せばいい。俺は、魔力を若干開放して接近する。
魔力を開放したことにより、俺の体は若干金色に光っているが気にしない。
そして、ネルの肩から腹部に向かって銃剣を振り下ろす。
「ぐっ……」
今の攻撃で殺すつもりだったが、躱されてしまった。だが、完全には躱しきれなかったようで、肩に傷がついた。やっと攻撃が当たった。とりあえず、俺は攻撃に当たらないようにして攻撃を続けよう。
俺は、距離を取ったネルに接近し銃剣の斬撃を食らわせる。体に黒い何かを纏われて防がれたが、別に問題では無い。黒炎も、いつの間にか消えていた。体に傷をつけられたことで、黒炎に意識が向かなかったのだろうか。
まぁ、それは置いておいて、いい加減決着をつけよう。戦って五分くらいの時に決着をつけようと言ったが、今はもう十分経った。
だが、このまま戦っても攻撃を黒い何かに防がれて決着はつかないままになるだろう。
(……埒が明かない……アレを使おう)
決着をつけるため、俺は動く。集中力を高め、ある技を使用する。この技は、単純にあまり使いたくない。なので、俺は「面倒だな」と溜息をつく。本当に……面倒だ。
「覇王の威光」
この技を使った瞬間、俺の周りに金色の魔力が立ち上る。この技は、魔力と能力で無理矢理体を限界以上に引き延ばし、一時的に数秒先の未来を見ることが出来る技だ。ただ、負担が大きいので、あまり長い時間使えない。
「……とても大きな魔力圧ね」
覇王の威光により生じた魔力圧を感じ取ったのか、ネルは思わず後退りする。その様子を見て、俺は一歩前に出る。そして、集中して数秒先の未来を読み取る。
ドンッ!
そして、俺はネルに接近する。その速度は、地面を抉る程速かった。あまりの速度に、ネルは反応出来なかったようで、黒い何かで防ぐ間もなく斬撃を食らった。
「がはっ!」
俺の斬撃は、ネルの腹部を横に斬り、そこから大量に出血していた。決着がつくとしたら、次だろう。奴の目は、まだ何かを隠している。
「……黒星群」
「……ッ!?」
黒流星……ネルがそう言った瞬間……黒い何かが、上空から一斉に降ってきた。住宅街には見えないだろうけど、かなりの量降ってきている。黒い何かが空を覆っている。
そして……空を覆っていた黒い何かが、俺の元に降ってきた。
「…………」
これは……俺の能力じゃ、完全には防げない。……なら、答えは一つ。消し飛ばすだけだ。
俺は銃剣に魔力を収束させ、銃剣を握り直す。銃剣の刃が金色に輝き、大きな魔力圧を放っている。一度にこんなに魔力を放出したのは初めてなので、ちゃんと操れるか心配だ。でも、魔力は斬撃にして飛ばすだけなので大丈夫だろう。
「……なんなの……あの魔力圧……」
ネルが、腹の傷を抑えながら言う。自分でも、結構な魔力圧を放っていると思う。そして、俺は上の黒い流星群を見据える。
「……金色の天斬」
さっき考えた技名を、黒い流星群に向かって放つ。黒い流星と金色の斬撃がぶつかり合い、空が光る。そして、黒い流星が消し飛んだ。多分これは住宅街からも見えるが、政府がなんとかしてくれるだろう。政府は、その気になれば一般人の記憶を全て消去できる。だから、大丈夫だろう。
「な……!?」
ネルが、まだ空中に残っている金色の斬撃を見て、驚いている。
……これで、最後の一撃も消えた。決着はついただろう。まぁ……遺言くらいは聞いてやるか。後、何故俺をストーキングしたのか。
「やっぱり……私の目は間違ってなかったみたいね」
「……どういうことだ」
俺がネルを殺そうと近づいた瞬間、ネルはそう言った。俺がどういうことか聞くと、ネルは、話し出した。
「私が言っていた、選定というのは……私達、真実を知る悪魔達の目的が達成できるような器を探すと言うことなのよ」
ということは……俺をストーキングしたのは、俺がその悪魔達の目的を達成できるような器だということか。だから、俺をストーキングしたのか。戦ったのは、試すため。その試すことを選定というのだろう。だとしたら、選定の悪魔というのは、選定をする悪魔だという意味なのか。だとしたら、中々酷な役回りだな。
「…………その目的は?」
俺は思わず、銃口を下げてしまった。そして……ネルの口から語られたことは、俺を驚かせるには十分な真実だった。
「………今から………約500前かしら……この世界に……複数の神が堕ちたのよ。その神の目的は………全ての世界を、破壊すること。地上に……堕ちちゃったから……他の神は手の出しようがない。だから……天使や私達悪魔に頼んだのよ。この際……その神達を殺して世界の崩壊を防いでくれるなら……誰でもいいってね。そして……その器に……あなたが選ばれたのよ。……引き受けてくれるかしら?」
ぽつりぽつりと語られたネルのその言葉に、俺は少し真剣に考える。俺は、凜姉達が無事であれば、世界の事なんざどうでもいいのだ。まぁ、この地球が破壊されたら宇宙で生活することになるだろう。そうなれば、さすがに俺でも宇宙空間では生きられないだろうな。だが……どうしても、一つだけ確認したいことがあった。聞かなくても……わかることだけどな。
「……もし、全ての世界が破壊されたら、地球上にいる生物は全員死ぬのか?」
俺は真剣な顔で、ネルに聞く。ネルは、俺の言葉に、少し考えてから結論を出す。
「…………そうなるでしょうね」
その言葉を聞いた途端、俺の"何か"が出てきた。それまるで、『引き受けろ』と言っているような感覚だった。半ば強制的に、俺は口を開きこう言った。
「……なら、引き受ける。……死なせたくないやつがいるからな」
答えを聞いた"何か"は、引っ込んでいった。
(……やはり、思考誘導がされているな……だが、これはこの事についてしか誘導されないようだ)
この思考誘導の原因はわからない。学校では一切されていないため、俺は深く考えては居ないが……十歳の時からあるため、いい加減どうにかしたいとは思っている。だが、証拠が無いんだよな……。
俺がそう考えている傍ら、ネルが口を開く。
「そう言ってくれると……助かるわ。だけど……今のままじゃ……勝てないでしょうね……だから、私を殺して、私の力を取り込みなさい。選定の悪魔は、死んだ瞬間に殺した者に取り込まれるから、早く殺しなさい」
遠回しに、さっさと殺せというネル。殺したら、選定の悪魔は殺した者に取り込まれる、という事がどういうことかも確認したかったが……もうその時間はなさそうだと、俺は考える。ネルの出血は、もう死ぬ寸前まで来ているようだ。モタモタしている俺に、苦悶の表情を浮かべるネルが檄を飛ばす。
「いいから……早く殺しなさい。そうしないと、出血多量で死んじゃうじゃない。……最後に、悪魔の力は……人間には使えない。取り込まれるとき、ひどい痛みに襲われると思うけど、耐えなさいよ」
「……わかった」
そうして俺は、下がっていた銃剣の銃口をネルの頭に向ける。そして、ネルの頭を撃った。その瞬間―――――。




