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真実と想いの業  作者: 神無月凍夜
第六章 逢魔之戦禍編
128/234

120話「奇跡と代償」

 原初の悪魔(オリジン・デーモン)、その一柱であるルシファー。


 ――その存在感は、この場にいる全ての者の動きを止めるには十分だった。壮年の騎士・少年の騎士・青年の騎士・眼鏡の騎士が倒されたことにより、それが顕著となっている。現に、ドルナイト・イマジュア・騎士たち・イオネたちは動きが完全に止まっていた。


 今抱えられている凜でさえも、その変化に視線を外せないでいた。


 ――ルシファーは辺りを見渡し、ある一点に視線を向ける。視線を向けられた方も、ルシファーの方へ視線を向ける。


 その視線を向けられたドルナイトは、ルシファーの方を向く。そして、静かに睨む。ルシファーはその行動に何も返さなかったが、全体に向いていたルシファーの意識は、僅かにドルナイトに集中した。


「――出てきたか……しかし、貴様が出たとて何も変わらぬぞ、ルシファーよ」

「いえ、変えますよ。そのために出てきたのですから」


 その言葉を最後に、静寂は死んだ。再び戦禍が音を上げ、力が誰かを食らう。しかし、それはルシファーが動く前程ではなかった。


 四人程ノックダウンしているのもあるが、何よりもルシファーとドルナイトの戦いが激しかった。


 全てをねじ伏せる黒の拳撃と、全ての根源である白黒の魔力。それらがぶつかり合い、その余波でまともに戦闘ができていなかった。ちなみにドルナイトを相手にしていた者たちは、凜を抱えている女性天使の護衛をしている。


 ――ルシファーは手首から血を流しつつ、ドルナイトの腹部に拳を叩きつける。


 ドルナイトは口から血を吐き出しながら、大きく吹き飛ばされていく。


「ドルナイト様!!」


 イマジュアが相手をしていた者たちを吹き飛ばし、ドルナイトの元へ向かった。そして、ドルナイトが大きく吹っ飛ばされるのを防いだ。戦況の中心から少々離れているが、復帰できない距離ではない。


 すぐさま戦線に戻り、ルシファーを二人で相手にする。


 ――ドルナイトが白黒の波動でルシファーの行き先を制限し、その限られた行き先を読み切ったイマジュアが近接戦闘を仕掛けていく。白黒の魔力刃を両手に顕現し、目にもとまらぬ速さでルシファーを斬りつける。


 ルシファーも右手に魔力刃を出し、イマジュアの攻撃に対応していく。しかし、手数の違いで段々と押されていった。現にルシファーは、防ぎきれなかった斬撃により傷が生じている。


「チッ……」


 横一閃の斬撃を後退して躱し、がら空きのこめかみに蹴りを入れる。だが、イマジュアは腕で蹴りを防ぐ。殺しきれなかった勢いで少し体勢が崩れた。そこを突いてルシファーは心臓の辺りに刃を突き出すが、イマジュアがすぐに刃で防いだ。


 その後、イマジュアがルシファーの腹部を蹴って距離を取る。ルシファーは追いかけようとするが、後ろから来た影に阻まれた。


「……!」


 ドルナイトが後ろから現れ、ルシファーの身体を掴む。そのまま後方へと投げ飛ばし、右手を構える。


 ――そして放たれるは、白黒の閃光。投げられて身動きが取れない状態のため、ルシファーは躱すことができなかった。できたのは、腕で防御する事のみ。


 白黒の閃光が命中し、光輝く爆発が起こる。それによって生じた白煙の中から、ルシファーは気絶したように地面へ落ちていく。しかし、その血のような赤い目は開いており、口には笑みがある。


 ドルナイトとイマジュアは同時に接近し、一気に止めを差さんとする。


 ――だが、それは叶わなかった。


「何っ!?」

「……あなたたちもですか」


 二つの影がドルナイトとイマジュアを襲い、ルシファーから遠ざける。それを確認した後、再びルシファーは飛び上がった。そしてその影の元に向かい、声をかける。


「遅かったな、お前ら」


 そう声を掛けられた二人は、不服そうに言う。


「テメェ、弱くなりすぎだろ」

「……私たちも言えたことではないですがね、マモン」


 イオネ・ロヴネーヴァに宿る『原初の悪魔(オリジン・デーモン)』"強欲"のマモン、アギエル・エーゼリオンに宿る『原初の天使(オリジン・エンジェル)』"知識"のラファエルが、現世に顕現した。


 それぞれが相手にしていた金髪の騎士・少女の騎士は、既にダウンしている。金髪の騎士はマモン、少女の騎士はラファエルが倒した。ルシファーが現世に出たことを感じ取り、マモンとラファエルも一時的に身体を貸してくれと頼んだのだ。


 ――その理由は、かつての誓いを果たすため。


 そしてその代わりとして、騎士らを一瞬で倒した。死んではいないだろうが、しばらくは起き上がれないだろう。


 これで、向こう側の起きている者の人数は五人となった。こちらは凜と凜を抱えている女性天使を除けば十二人。ルシファーは、有利なのはこちらだろうと見た。


 現在ドルナイトとイマジュアを相手にしているのが、ルシファーとマモンとラファエル。


 仮面の騎士を相手にしているのが、"彼女"ともう二人。白衣の騎士を相手にしているのが、男性の天使と加勢に来たもう一人。イマジュアを相手にしていた者たちが、それぞれに加勢に行った形だ。


 最後に、ルシファーから逃れていた美麗の騎士をドルナイトと戦っていた四人が相手にしている。


 どの戦いも人数有利を取っているが、騎士たちは油断できぬ強さを持つ。それ故、この戦場は冷たい空気が支配している。


 まだ、戦禍は終わらない――。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――仮面の騎士と、彼女たちが舞う戦場。そこでは、仮面の騎士が優勢だった。二人が加勢したとはいえ、本気を出せる状態ではない。それは仮面の騎士と彼女も同じ事だったが、何故か仮面の騎士の攻撃の手は緩むことは無かった。


 彼女も攻撃を緩める事は無かったが、地力と執念の差で追い詰められていく一方だ。二人が加わっても、すぐに一蹴されるだけ。


 だったが――。


『変わってくれるかな、――ちゃん。約束を破るわけにはいかないからさ』


 ――突如脳内に、高く可愛らしい声が響く。彼女はいきなりの事に驚いたが、了承の返事を出す。


「……わかりました」


 同時に、落ちていく"彼女"の意識。そして代わりに現れるは――。


「ぐはっ……」


 仮面の騎士の太刀を、魔力刃で防ぎ腹部を蹴って吹き飛ばす。いきなりの事に仮面の騎士は動揺するも、すぐに体勢を立て直す。そして迫る"彼女"を斬りつけようとするも、瞬時に後ろに回られ脳天を蹴り降ろされる。


 それによって、仮面の騎士は地面に激突した。


 しかし、まだ立ち上がる。しぶといなと思いつつ、その場を任せるため他の二人に声を掛けた。


「君たち、彼を引き受けてよ。まだ動けると思うけど、さっきよりは鈍ってるだろうからさ」

「「は、はい!」」


 ――『原初の悪魔(オリジン・デーモン)』"色欲"のアスモデウスが現世に顕現した。


 アスモデウスは、ひらりと飛んでルシファーたちがいる場へと向かう――。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――白衣の騎士と、男性の天使――"彼"ともう一人の戦場。そこでは白衣の騎士が障壁をうまく使い、"彼"が出す眩い光の攻撃を防いでいる。しかし眩しさも防ぐとなると視界から外れることになるため、そこを上手く利用して善戦している状況だ。


 だが、この障壁を破らない限り、彼らに勝利は無い。逆に、白衣の騎士も攻撃に転じなければ、状況がどんどん泥濘していく。


 もう一人の者も障壁を破れないので、障壁の死角から白衣の騎士を攻撃するよう言っている。


(私の光では、罅を入れるのが限界でしょうか……そこに彼の攻撃も加えれば、破壊は可能か……?)


 チラッと、彼はもう一人の方を見る。その者は今、障壁の死角から白衣の騎士に接近している途中だ。


 ――そして今、近接戦闘に持ち込んだ。大規模な障壁を展開する隙は無く、小さな障壁を巧みに使い、攻撃を防ぎ距離を取ろうとしている。


 白衣の騎士は近接戦が苦手なのか、中々離れる事が出来ない。そこに彼が加わり、至近距離から光を浴びせれば倒せるだろう――元々そうするつもりであり、もう一人にも言ってある。


 そして、彼は白衣の騎士と距離を詰める。もちろん、気付かれないように。


 瞬時に、しかし慎重に死角を取った彼は、もう一人に目で合図をする。するともう一人は距離を取り、彼の攻撃に巻き込まれないよう離れる。


 ――そして、放たれる純白の玉光。それは白衣の騎士を直撃し、かなりのダメージを与えたかのように見える。


 光が消え、状況を確認できるようになった。彼は目を細めながら、白衣の騎士がどうなったかを確認する。


 白衣の騎士は――。


「危なかった……障壁を張ることが出来なければ、死んでいたかもしれない」


 ――トレードマークの白衣はボロボロになっていたものの、生きていた。しかし、こちらと同じようにかなり消耗している。今までの事をし続ければ、勝てる。


 彼がそう確信したところで、突如脳内に声が響く。


『変わってくれないか……かつて誓った約束の時は、今なんだ』


 いきなりの事に驚いたが、彼は承諾する。


「では……任せますよ」

『……ああ』


 その言葉と同時に、彼の意識が消えていく。代わりに現れるは――。


「ちょ、動いてくださいよ!」


 そう言いながら、もう一人は白衣の騎士を錯乱する。同時に魔力の弾丸を放ち、意識を複数に向けさせた。しかしそれよりも早く、もう一つの影が白衣の騎士に接近した。


「なっ!?」


 いきなり近づいてきた影に反応すらできず、頭を掴まれ純白の光を浴びせられる。光を浴びた白衣の騎士は、そのまま死んだかのように地面へと落下した。


「君、下の彼女の面倒を見てくれ。まだ、動くかもしれない」

「はい……え?」


 返事を待つこともなく、"彼"はルシファーたちの元へ向かう。


 ――『原初の天使(オリジン・エンジェル)』"純潔"のバラキエルが現世に顕現した。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――騎士たちはもう、まともに動けるのは美麗の騎士のみ。その美麗の騎士も、四人を同時に相手にしていて手一杯だ。


 そしてドルナイトとイマジュアは、ルシファーたちを相手に苦戦していた。全盛期には程遠いものの、少なくともここにいる者たちを遥かに上回る強さを持つルシファーたち。


 ドルナイトは今能力を失った状態であり、ルシファーたちが繰り出す能力による攻撃の対処に苦労していた。イマジュアは能力を持っているが、それでも自分への攻撃の対処しかできていない。


 だが逆に、原初の者たちもドルナイトとイマジュアの攻撃に対応できていなかった。かろうじてルシファーが対応できているが、それは來貴の身体にある神の因子のおかげである。故に、それがない他の者たちは手こずっていた。


 ――そして、その様子を見ていた凜は、規格外の戦闘に目が追い付いていなかった。


『凜、少し身体を貸してくれ』


 ――突然響いた、ミカエルの声。その声と問いにに驚きながら、了承する。


(え……いいですけど、何するんですか?)


 凜の問いに、優しい声音で答える。


『少し、約束を守りに行くだけだ。……それと、これからの起こる事をよく見てけ』


 同時に、凜の意識が消えていく。代わりに現れるは――。


「失礼、その手を放してくれないか」


 自身を抱えている女性の天使に対して、そう問うミカエル。それに対して、女性の天使は驚きの声を上げた。しかしやがて、変わった雰囲気を感じて察した。


「何を急に……ッ、わかりました。無理はしないでくださいね」


 そう言うと同時に、女性の天使は手を放す。


 ミカエルの身体は落ちていくが、途中で天使化(エーゼル)を発動して空中へと飛び上がっていった。


 向かうは、ルシファーたちのもと――。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――そして、この場にいる『原初の悪魔(オリジン・デーモン)』と『原初の天使(オリジン・エンジェル)』は全て集った。


 現在ドルナイトとイマジュアはルシファーたちから距離を取っており、騎士たちの復帰を待ちながら作戦を立てている。しかし、この状況を切り抜ける一手はなかなか思いつかない。


 対してルシファーたちは、自身の限界がどれくらいか話していた。


「やはり、あの時までのものとはいきませんか……」

「仕方ねぇだろ。あの時とは状況も目的も違う」


 ラファエルが自身の出せる限界に嘆息したところを、マモンがフォローする。しかし、それがかなり深刻である事は誰もが理解していた。


 そしてルシファーは、今出せる力で"封印"をしたときの結果を推測している。


(……俺たちの能力は、三段階の覚醒をしていなければ肉体が全力に耐えられない……三段階の覚醒を終えているのは、イオネとアギエルのみ。それにそこの凜に至っては、覚醒すらしていない状況。加えて全員揃っているわけじゃない……正直、持って一か月か?)


 導き出した結論に、ルシファーは溜息をつきたくなった。


「そろそろ始めよう。……私の肉体(凜の身体)が持たぬ上、あの者たちが起きると状況が一転して悪くなる」


 ミカエルがそう言うと、ルシファーたちは頷いて各々に呟く。


「そうですね。貴女の肉体は覚醒すらしていない。それに、私たちは本来死んでいる身。……ここに長くいるべきではないでしょう」


 バラキエルが言う。顔に微笑を浮かべていて、その表情からは安心を伺えた。


「なによ、そんな辛気臭い顔して。……ボク、そういうの好きじゃないんだけど」


 アスモデウスが言う。各部位から血を出していて、痛々しく見える。だが、そんな事を気にしないように振舞っていた。誰かを、安心させるように。


「……まぁ、そういうのはこの場に相応しくねーな。だが、悪くは無い」


 マモンが、悪い笑みを浮かべながら言う。視線を、イギリスの方角へ移しながら。


「あなたたち、目の前の事に集中してください。……封印がうまくいきませんよ」


 ラファエルが、マモンたちを咎めるように言う。しかし、口調は優しく楽しんでいるようだった。


「いいだろ……これで、最後なんだ。そろそろやるぞ、向こうが戦闘態勢に移った」


 ルシファーの言葉を最後に、わちゃわちゃしていた雰囲気が消える。代わりに、真剣な雰囲気が場を支配した。


 ドルナイトとイマジュアは、両手に白黒の魔力を纏ながらルシファーたちへと接近する。同時にルシファーたちは、両手をドルナイトたちに向けた。


「なっ!? まさか貴様ら――」


 ――そして、黒と白の閃光が放たれる。それはドルナイトとイマジュア、その周囲を包み、黒と白が網目を織り成す。それは段々と小さくなっていき、やがて一つの球体を生み出す。その大きさは米粒より小さく、ドルナイトとイマジュアを包んでいたとは思えないほどだ。


 だが、段々とそれは大きくなっていき、黒と白が混ざる半透明の世界を生み出した。


 その世界を構成するは、誰かへの想い。そして代償。


 ――來貴、お前ならかつての俺に追いつける……いや、追い越せるだろう……だから何も言わない。俺たちが果たせなかったことを、お前が果たしてくれ。

 ――凜、はっきり言って貴様はまだ弱い。だが、私が認めた想いを忘れなければ、秘めた願いはかなうだろう……不安に思う必要は無い、私がついているのだから。

 ――イオネ、賢いテメェなら、この後どうすりゃいいかわかるだろう。……まぁ、頑張れよ。

 ――アギエル、多くは言いません……真実を、解き明かしてください。

 ――ボク、君に力を託してよかったって思ってる。だって、とってもかわいいんだもの。

 ――私から言う事はありません。ただ、清く思うがままに生きてください。


 魂が、燃えていく。それに呼応するかのように、世界はそれぞれの色で輝いていった。


「今の貴様らでは、長くは持たない。いつか必ず――」

「……クフフ、これは一本取られましたね」


 そう言葉を残し、ドルナイトとイマジュアは封印された。


 やがて、ルシファーたちの身体は落ちていき――。


「……!」


 ――目覚めた。その後すぐに浮上し、來貴は落ちていく凜を抱えて浮上した。そして、状況を理解したイオネは叫ぶ。


「撤退だ! ルシファー様たちが作ってくださったこの状況を無駄にするな!!」


 そして、戦禍は終わりへ近づく――。

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