116話「奪還への"道"」
――イオネが、金髪の騎士の攻撃を防いだ。同時に障壁の罅へ黒い矢を放ち、障壁を破る。
「行け、アギエル!」
イオネがそう叫ぶよりも前に、アギエルは加速していた。白衣の騎士は止めようとしたが、それは躱される。その後すぐさま金髪の騎士が妨害に入るが、イオネに阻まれた。
金髪の騎士は煩わしいと言わんばかりの表情で、イオネを睨みつける。白衣の騎士はその隙にアギエルを追おうとしたが、そこまで瞬間的に移動したイオネが阻む。それと同時にイオネはアギエルの後を追い、騎士たちを妨害しながらついていく姿勢を見せた。
その姿を見た金髪の騎士は、一直線に向かおうとした白衣の騎士を呼び寄せる。それからしばらく作戦を話し、イマジュアに「そちらへ行くかもしれない」という旨を連絡する。
金髪の騎士が考えた作戦で、道中で止められたらそれでよし。止められなかったら、わざとレガリアに追い込んで四人で止める。
金髪の騎士は嗤いながら、白衣の騎士に実行を伝えた。
――そして、戦いは音速を超えた舞台に昇る。アギエルが一番前を飛行し、その後ろをイオネが飛行している。後方を常に視界に入れながら。
金髪の騎士と白衣の騎士は、並列飛行しながら攻撃を仕掛けていた。それをイオネは捌きつつ、アギエルと一定距離を保つ。加えて反撃の魔力刃を織り交ぜ、騎士たちの連携崩しも行った。
激しい吹雪が出現し、騎士たちの姿を隠す。同時に吹雪の中に金色の矢が顕現した。イオネは音だけ聞こえたため、そこに何があるのかわかっていない。
その吹雪はイオネたちに合わせて動き、一定距離から離れずにいる。不気味な感覚を覚えたイオネだが、既に攻撃はされていた。
(幾千もの矢を隠していたのか……!)
突如、タイミングと方向をずらした金色の矢が迫ってきた。イオネは両手に魔力刃を生み出し、能力を発動する。
――瞬間、総ての矢はイオネに吸い込まれるような軌道に変わる。イオネへ向かう軌道以外に道が無かったように、勢いよく迫っていく。そしてそれらは、魔力刃により斬り捨てられた。
しかし、最後の一矢だけ残っていた。それは不気味な吹雪を纏って進み、矢を中心に渦を成す。そして雷光が矢先から生じる。それが矢をより目立たせ、イオネの注目を引き付けた。
いざ、衝突――と言った数秒前。魔力刃を構え迎え撃とうとしていたイオネだが、嫌な勘を覚えた。
5000年以上の歳月を生きたイオネ、永年の戦闘経験を持っている。故に、それによる勘が出来上がっていた。その勘から、周りに何かがあるとイオネは推測している。
イオネは、周りに注意を向けた。
(……!)
この辺りの上空と低空に感じたのは、微かな魔力。しかしそれは、巧妙に隠されたものだろう。どうするか、あまり考えている時間は無い。
矢を弾き飛ばした後にどうするか考えよう……と左手の魔力刃のみで弾こうと構えた時、想定外が起こった。
「なんだこれは……!」
「わっ! なんなの!?」
アギエルと凜の声が聞こえ、気付く。しかしいつの間にか、停止している事には気付かない。
(――魔力吸収の障壁……それに加え、全体を金色の雲が覆っている……何かあるのだろう。やられた、ここで止めて殺す気か!)
イオネは、そちらへ意識を向けてしまった。故に、対処が遅れた。
「――ぐっ!?」
吹雪と雷光を纏った金色の矢が、イオネの左腕をつんざく。即座に右手の魔力刃で切り落とすものの、傷は浅くなかった。しかしそれは、悪魔化の力が治療する。
すぐさまイオネはアギエルの方を向いたが……そこには、刃の雨が降り注いでいた。アギエルは魔力で弾きながら雨を躱しつつづけていたが、その表情からは限界が近い事が見て取れる。
イオネは再び能力を使用し、雨の軌道を奪う。
そして雨はイオネに吸い込まれるように迫っていったが、少しだけアギエルの方へ向かっていった雨が少数。イオネは視認できたが、それくらいなら躱せるだろうとアギエルを信じた。
イオネは魔力刃を強く握り、考える。
(雨を弾いても、このままでは不利になるだけ……なら、同時に障壁ごと消し飛ばす!)
イオネは魔力刃をクロスさせ、常人には見えぬ速度で振りぬく。瞬間、衝撃波が辺りを駆け巡る。金色の曇天は晴れ、魔力吸収の障壁は消し飛んだ。加えてそれはアギエルや、後ろから手を出そうとしていた騎士たちにも影響を与え、近づけさせなかった。
イオネは周囲を見渡し状況を確認すると同時に、アギエルに近づく。しかし、それを阻むように爆発が起こる。白と黒の魔力の奔流がイオネたちを襲い、進行と合流を防ぐ。
だがそれは傷こそ与えたが、致命的なものではなかった。イオネは手で魔力を裂きながら、アギエルの気配がするところに近づく。そして、話しかける。
「アギエル、怪我はないか?」
「あると言えばある……が、今しがた治った。しかし、今のはなんだ? 私たちの魔力と似たものを感じたが……あの障壁が吸収したものだろうか」
アギエルが推測を織り交ぜた考えを呟いていると、イオネが比較的小さな声でアギエルに言う。
「ともかく、早く行くぞ。時間は掛けていられん」
「そうだな、行こう」
アギエルのその言葉と同時に、飛行する。
――騎士たちは、その様子を静かに見ていた。そして、金髪の騎士はイマジュアに連絡した。了承と確認の返事と同時に、騎士たちはアギエルたちを追いかけた。
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――アルヴァダ帝国、その中央に位置する宮殿"レガリア"。その一室で、イマジュアは金髪の騎士からの連絡を受けていた。
それを把握したというのと、作戦通りにやるぞと金髪の騎士に言ったところで通信を切った。そしてドルナイトに金髪の騎士からの通信内容を伝え、レガリアにて迎え撃つため持ち場につく。
アギエルたちがレガリアに到着するまで、残り三分と言ったところだろうか。
嗤いながらではあるが、油断は無く持ち場につく神たち。
その心に在るのは、どのような感情だろうか――。
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――そして、三分。アギエルたちがレガリアに到着し、正面にあった壁を蹴り飛ばして入ってきた。
その近くにいた警備の一般兵数名は、突然の事態に戸惑う様子を見せたが、瓦礫に押しつぶされて死亡。アギエルたちは気にする余裕は無いため、凜が示した場所へと向かって低空飛行した。
やけに高級そうな床の上を通り、凜は何処にいるか感じ取る。
「地下です! 地下の牢獄らしき場所にいます!」
「わかった……破ろうか」
返事をしたのは、アギエルではなくイオネだった。凜が指定した方向に魔力を込めた拳を振り上げ、床に向って叩きつける。
瞬間、床にひびが入る。そして、イオネの拳から飛び出した魔力が奥深くまで貫いていく。崩れるか……と、そんな考えが凜の頭の中をよぎった。しかしレガリアそのものを崩すわけではなく、來貴が囚われている場所への"道"を作り出す穴ができたのみであった。
崩せば、騎士たちや神たちの足止めにはなるだろう。しかしそれは、同時に自分たちの邪魔になる事も意味する。瓦礫が凜に当たる可能性や、結月來貴のいる場所も崩れる可能性も考え、イオネは崩さなかった。
そして入ろうとしたところで、二つの人影が現れる。
「ここまで来たか……想定内だが、ここで終わりだ」
「勇気か蛮勇か、戦いで確かめましょう」
――ドルナイトとイマジュアだ。その姿と気配に、思わず動けなくなるアギエルたち。しばらくその状態が続く中、空気を切り裂く音が響いた。
イオネはその音にすぐに反応し、音の正体――イマジュアの拳を防いだ。その拳は重く、イオネを以てしても軽く吹き飛ばしてしまうほどだ。アギエルはイオネだけでは持たないと判断し、凜だけを行かせようと「穴に入れ」と言う。
しかし、言い終わった直後にドルナイトがレーザーをアギエルと凜目掛けて放つ。それにより回避と後退を余儀なくされ、イオネが作った穴の位置から遠のく形となった。
凜を抱えながら、アギエルはイオネとどうするか小声で話す。
「絶望的だな……単純な力量は負けているだろう。我らが勝てる部分はあるだろうが、それ以上に負けている部分の差が激しい」
「それに、私と君でないと足止めはまず無理だろう。荒く扱ってしまうが、凜には穴の中に入ってもらう。機会を見て私が投げるから、上手く入って上手く着地してくれ」
「は、はい……!」
即興で考えたために、無茶苦茶で穴だらけ。だが、これ以外に方法が無いのは確かだ。
――そして、アギエルとイオネは深く息をつく。
「これを使うのも、久方ぶりだね」
「使わなければならない状況故だがな。ただ、帰りの分を温存するため使いたくはなかったがな」
それは、アギエルとイオネ――いや、最強の全力。全力を出すとは言っていないが、全力を出すのだろうと肌で感じた。凜から見たところ姿形が変わっている所は無いが、雰囲気は明らかに変わっている。
物静かな雰囲気から、触れるもの全て傷つけるような刺々しい雰囲気に。しかし、凜を抱えている手が暖かいことは変わっていなかった。
――そして、想いを賭けた戦いが始まる。
ドルナイトとイマジュアの攻撃は、今までの騎士とはまるで違った。一つ一つが強大で、それでいて鋭い。能力のようなものは使ってこなかったが、それを補って有り余るような魔力の使い方だった。
それに加えて、途中から金髪の騎士と白衣の騎士も加わってきた。しかもいやらしいことに、白衣の騎士が障壁で穴を塞いでいる。これでは凜を投げ入れても、障壁を突破出来なければ無駄死にするだけだ。
ここでアギエルとイオネは、凜に賭けることにした。互いに距離を取り、睨み合っている状態にて。アギエルは、凜にボソッと話した。
「……凜、もう君にかまっている余裕はない。現に、君にもかすり傷が付き始めているだろう?」
「……はい、すみません、私のせいで」
凜が目を逸らすが、アギエルが無理矢理自分と目を合わせる。怒っているのかと凜は思ったが、表情を見て違うとわかった。だってアギエルの表情は、優しい笑みをかたどっていたから。
「大丈夫だよ。君がいなければ、ここまでスムーズに進まなかった。結果的に、私が助けられたところもあったからね」
アギエルは、優しい声音で凜へと言った。
「――だから君に賭ける。私がいけると思ったタイミングで投げなくとも、自分で行っていい。障壁は、自分でなんとかしてくれ。凜、君ならできるはずだ」
それを聞いた凜は、驚愕を表情に浮かべた。そして、それを物語っていたのは「自分にはできない」という言葉。しかし、それを言っていられる余裕がないという事はわかっていた。
「できない……とは言わせない。何せ、君は望んでこの場へ来たのだから」
「――わかりました、やります」
凜の目に、一歩を踏み出す決意の形が宿った。中身はまだ、満ちていないが。
「来るぞ、お前ら」
イオネの言葉と同時に、睨み合いは終わった。
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――凜は、アギエルに決意を見せた。しかし、心のどこかには不安を抱いていた。
(私と、私以外の人たちでは、力の差が大きすぎる)
それが、不安を抱いている理由。ただ、これでは不安を抱くには不十分だ。戦いにおいて、力の差は結果を如何左右する?
――それは、勝敗。上の者が勝ち、下の者が負ける。この場において凜は下にいるため、世界の裏側において、敗北は「死」を意味する。
真に凜が不安になっているのは、死だ。正確には、死によって來貴に会えなくなること、來貴が死んでしまうことだろう。それら二つを何よりも、凜は恐れていた。
だが、飛び出さなければもう一度会う事すらできない。ハイリスクハイリターン、あまりにも馬鹿げた話だった。
故に――凜は、自分の気持ちに沿った結果を勝ち取れる選択をした。
(ミカエルさん……もっと、力を貸してください)
力が足りないなら、足せばいい。小学生でもわかることだ。ただし、それはそんな単純なことではない。故に、ミカエルはこう返した。
『いいだろう……しかし、これ以上は貴様の身体に影響が出るぞ』
了承するも、凜に忠告をする。
――凜は覚悟を決めたような声音で、ミカエルに告げた。
(構いません……それで來くんを助けられるのなら。あ、安心してください。死ぬつもりは無いので)
凜の返事を聞いたミカエルは、「それならばいい」と言って凜が使う正義之聖神と裁断執行の容量を増やした。
そして力の増幅を確認した凜は、アギエルにそっと言う。
「……なるべく穴の方によってください、その時に行きます。妨害は考えなくても構いません。なんとかしますので」
「! ……わかった、行こう」
アギエルはドルナイトたちの攻撃に隙ができた瞬間、イオネが作り出した穴の方による。イオネはアギエルと凜の意図を察し、先行してドルナイトたちを妨害した。
それでも攻撃はアギエルの方へ行っているが、そんなもの今の凜の前には無力だ。
「――行きます」
そう呟くと同時に凜はアギエルの抱擁から抜け出し、一直線に穴へと迫る。
それに気づき、愚かだと思いながら金髪の騎士は矢を数十本放つ。それはアギエルやイオネをすり抜け、凜の頭を撃ち抜く軌道だ。
しかし、アギエルとイオネは見向きもしていない。それを妙だと思いながら、金髪の騎士は警戒し続けている。わざわざ連れてきたのに、こうも簡単に見捨てるのか――と。
だが、凜が撃ち抜かれることは無かった。
こめかみ、両腕から血を出しながら、凜がその矢を打ち消した。金髪の騎士たちが驚愕している間に、凜は拳を握り障壁を砕く。
――一人、抜け出した。
「ドルナイト様、追いかけてください!」
イマジュアが、ドルナイトに向って叫ぶ。
「わかっている! ……ええい、邪魔だ!!」
だが、真に実力を発揮できるようになったアギエルとイオネの妨害により、それどころではなかった。
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――現在、凜は暗闇の穴の中を落下している。もう6秒以上落下しており、深いところに來貴はいるんだなと思っている。
しかしぼんやり思考していながらも、着地時に負傷しないための準備はできていた。こめかみから垂れてきた血をぬぐいながら、想いを馳せる。
(待っててね、來くん――)
來貴が解き放たれる時は、近い。




