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真実と想いの業  作者: 神無月凍夜
第六章 逢魔之戦禍編
123/234

115話「禍中曇天」

 ――マサハスたちは、三人の騎士に苦戦を強いられていた。今はアギエルたちに近づけさせないなどの制限が無いため、三対三の乱戦となっている。


 しかし優勢は、騎士たちの方だ。単純な力量は、騎士たちの方が上。故に、時間を掛ければマサハスたちが不利になっていくのは明白であった。


(クソ……無効化が追い付かねぇ。それに、オレも他の奴らも消耗が激しい……持つか? 撤退まで)


 後先の事に不安を持ちつつ、マサハスは奮闘する。だが、防戦一方。その戦いの様子から、力量の差が浮き出ていた。


 マサハスが主に相手をしているのは、少年の騎士。純粋な剣の勝負であるが、思っていた以上にその騎士が強かった。見た目以上に、年を重ねているのだろう。それに加え、魔力の消費も多い。常に能力を発動するのではなく、要所要所で発動するようにしてもだ。


 少年の騎士は頻繁に能力を使用し、その度にマサハスは無効化している。だが、全て無効化できているわけではなく――――。


「ぐっ……」


 ――――剣閃により、マサハスは出血。すぐさま、悪魔化(デーヴィス)の力が治療を施す。そこから反撃に転じようとしたところで、目の前に少年の騎士を視認した。


「……!」


 攻撃するが、躱される。しかし、その姿は目に映ったまま。体勢を整え、一閃。少年の騎士も、それに応じるように剣を振るう。


 だが、少年の騎士は直前で身を翻した。マサハスの剣は空を切り、隙が生じる。


「あははっ、楽しいねぇ!」


 それが命取りだった。


 ――少年の騎士はマサハスの後ろに移動し、剣を振り下ろす。


「がはっ!」


 背中を斬られたマサハスだが、悪魔化(デーヴィス)がその傷を治療する。そのため、すぐに戦闘不能になることは無い。雷を放ち、少年の騎士から離れる。このまま戦うのは不利だと考えたからだ。


 まともに斬り合うのは危険なため、離れて対策を考える。離れて戦おうにも、魔力を使う上流れ弾に当たる可能性があるため、やはり接近戦は必要なのだ。


 ただ――。


「あれれっ、離れちゃうの?」


 ――この少年の騎士が、何を考えているのかがわからないというのが不可解だが。少年のような言動と、長年の積み重ねを感じさせる技術。その二つのギャップが、その不可解を加速させていた。


 もしかしたらの話だが、全て自分の掌の上……なんて思っているかもしれない。


 さすがにそれは無いと思うが、完全に無いとは言い切れないというのが不気味だ。マサハスは、少年の騎士を見逃さないようにしつつ、周りの状況を見る。


 他の者たちは、防戦に偏りつつも騎士たちを相手できていた。その事にマサハスは安堵しつつも、少年の騎士を意識から外さない。他人の心配で、自分が心配されるような状況になっては意味がないからだ。


 ――そうして、上陸から十二分。


 突如、騎士たちが一か所に集まった。その状況の不気味さに、マサハスたちも一か所に集う。休憩とどう戦うかを話すのだ。


(何だ……何をするつもりだ?)


 それから何かを話し合ったと思えば、急に騎士のうちの一人が消えていった。どこへ行ったかは、簡単に予想がつく。しかし、それを考えている暇はない。人数に差ができて、こちら側に有利が傾きかけたのは確かなのだから。


 ――そして、再び戦いは始まった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――次に、仮面の騎士たちと戦っている者たち。


 四対七の人数差により苦戦こそ感じさせなかったが、魔力や体力等の消耗はこちら側の方が多かった。個人の実力は、やはり騎士たちの方が上回っている。それが、対処の際に必要な消耗を激しくさせていた。


 ――仮面の騎士が太刀を振る。青の一閃が、大気を振るわせて悪魔と天使たちを襲う。魔力により範囲と威力は向上しており、あの七人の中で一番強い者でなんとか防げるという状況だ。


 その一番強い者――彼女、とでも呼ぼうか。


 彼女は仮面の騎士と一対一で戦っている。炎をあらゆる形に変え、放つ事で戦うスタイルだ。太刀を使う仮面の騎士と対等と呼べる程に戦えているが、このままでは彼女は段々と不利になっていくだろう。


 そして他の騎士は、彼女以外の者たちが複数でかかっている状況だ。しかしこちらは、割と余裕がある。複数で相手をしているからだろうか。


 その者たちも、自分たちがそれをわかっている。だが、戦うしかないのだ。


 この戦いの目的は、時間稼ぎ。先に行ったアギエルたちが、結月來貴を奪還し帰還するまで、この騎士たちを足止めすることだ。負ければ、全員が死ぬだろう。むしろその確率の方が高い。


 魔力刃を炎で防ぎ、炎の散弾を太刀で斬り捨てられている攻防の中、彼女はこう考えていた。


(……思ってた以上に、強いなぁ……だけど、死んだら意味が無いんだよ)


 故に、彼女は戦う。戦いの結果に、意味を持たせるため。()が認めた結月來貴を、その目で見るために。


 命を燃やすように、戦いは激化する。炎を巨大な鳥の形に変え、仮面の騎士が太刀を振り終わったと同時に放つ。飛んできた魔力刃は躱し、彼女は仮面の騎士の上をとる。見ると、仮面の騎士は炎の鳥にまともに当たったようだった。


 そこへと追撃するように、炎を一点に集中し放つ。槍の形と変化したそれは、仮面の騎士を穿つように迫っていく。


「……」


 だが、青年の騎士が妨害に入った。炎の槍を消し、彼女に接近して蹴りを放つ。彼女は躱して、炎の散弾を放ちながら距離をとる。青年の騎士は全て躱しながら、仮面の騎士の方へ行ったものは消していった。


 ――仮面の騎士は、青年の騎士の方に後退しながら何かを言う。何を言っているかは聞き取れたが、彼女はこちら側の利益になりえない情報のやり取りだったため、記憶はしなかった。


 ちなみに、騎士二人は「助けられたつもりはない。俺はあれを叩き斬ることが可能だった」「え、ひどくないですか。躱すのに割と必死な中消したのに」みたいな会話をしていた。


 同時に、青年の騎士を相手にしていた者たちが彼女の元へと集う。騎士たちが固まっている所に突っ込むのは愚策と判断し、相手に同じ状況を押し付けるためだ。


 そして美麗の騎士と眼鏡の騎士も、騎士二人が集まっている所へと行った。唐突の行動に、相手をしていた者たちは追おうとしたが、彼女が大声で静止した。それから自分たちの元へと呼び寄せ、より警戒するように、敵が何をするかわからないと忠告した。


 ――休憩しつつ、彼女たちは話し合う。もちろん、騎士たちに警戒を向けながら。主に話し合ったのは、力を温存するか否か。結月來貴を奪還した後、即撤退する。そのためには、悪魔化(デーヴィス)及び天使化(エーゼル)による飛行が必要だ。走っていったら、間違いなく追い付かれる。


 捕まるのは、死を意味する。故に、余力は残すべきだろう。だが、この騎士たちに余裕を持って勝つ……というのは、至難の業だ。そのため、彼女らは悩んでいるのだ。


「! ……来る!」


 そして話に夢中になりそうなところで、騎士たちは行動を起こした。この場にいる騎士全員が、彼女たちへと接近する。


 彼女たちはすぐさま距離をとり、体勢を整えた。その後彼女は仮面の騎士を相手どる。他の者たちは、先ほど相手をしていた騎士が相手だ。


 炎が舞い、太刀筋が光りの軌跡を残す。彼女と仮面の騎士の戦いは、更に激しさを増していった。


(必ず、証明するんだ……!)


 その日の天気は、曇りだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――そして、イオネたちが戦っている場では。


「ぐっ……」


 イオネは金髪の騎士に殴り飛ばされ、かなりの距離を吹き飛ばされてしまう。しかしすぐに体勢を整え、距離を詰める。同時に、こちらへ急接近する金髪の騎士の姿を視認した。


 特に焦るわけでもなく、イオネは冷静である。飛行しながら右拳を引き、そこに魔力を込める。金髪の騎士も、同じように拳に魔力を込めていた。


「ハッ!!」

「ヌッ!!」


 雄叫びを上げ、拳をぶつけ合う。その瞬間、衝撃波が周囲を襲う。大気、森林、大地。その全てを破壊し、荒野と変化させる。


 よく見ると、少女の騎士と相手をしていた二人にもその余波は届いたようだ。しかし、どちらもダメージが入った様子はなく、そのまま戦い続けている。


 ――イオネは拳に力を籠め、金髪の騎士の拳を弾かんとする。だが、負けじと金髪の騎士も力を籠めていた。


 両者とも、苦しそうな表情はしていない。力を温存しているのだ。そして弾けるような黒い魔力が放出された後、イオネは距離を取っていた。金髪の騎士は、負傷した拳を見る。すると、一瞬の内に治っていく。


 一方少女の騎士は、二人を相手に善戦していた。実力差があるため、二人が相手でも余裕があるのだ。


 金髪の騎士の方を一瞬チラッと見た後、二人を弾き飛ばしてそちらの方へ向かう。相手をしていたい二人はすぐさま追いかけようとしたが、騎士が二人いるところに突っ込む勇気はなかったようで、イオネの方へと行った。


 騎士たちの動きを警戒しながら、自身の状態を話し合う。それらを話し合い、撤退するほどの余力を残せるかを考えている。


 今は全員が余力を残せるほどだが、それは向こうも同じ。騎士たちがギアを上げていけば、こちらもギアを上げなければならない。そうすれば、余力を残す余裕は無くなるだろう。


 ――アギエルたちが結月來貴を連れて撤退するまで、それに耐えられるか。できる出来ないの問題ではなく、やるしかないのだ。それを理解している故、少女の騎士を相手にしていた二人の表情は明るくない。


 なんとか持たせてくれ……と精神論に頼るしかなかったイオネはそういうとしたが、突如金髪の騎士が"レガリア"の方角へ飛行するのが見えた。


(アギエルたちを追うのだろう……あの騎士は、我らを同時に相手どれると言うのか。だが、そう簡単に行かせると思うなよ!)


 イオネは静止した状態から急加速し、金髪の騎士を追う。しかし、それは向こうも同じ考えであり――。


「キャハッ、行かせると思う? そう簡単にさ……」


 ――少女の騎士が、花のような剣を召喚してイオネの進行を正面から斬り防いだ。イオネは魔力を拳に纏い、剣を受け止めている。


 跳ね除けるのは可能だが、そうすればもしもの時に間に合わない――イオネがそう危惧していたところに、別の影が通った。


 風を纏った拳が少女の騎士めがけて放たれ、暴風により少女の騎士は吹き飛ばされる。イオネは少女の騎士の妨害が無くなったため、金髪の騎士の後を追う。心の中で、暴風を放った彼らに感謝を述べながら。


 一方、吹き飛ばされた少女の騎士はというと。 


「きゃっ!? 女の子は優しく扱わないと!」


 そう叫びながら、暴風を切り裂いた。そして、暴風を放った二人を睨みつける。


 直後、放たれるのは魔力刃。二人はそれを躱しながら、先ほどとは雰囲気が違う少女の騎士を見据えた。


「……あの方の命令に反する行動は、取り締まらないと」


 戦いは、より熾烈へ――。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――現在アギエルたちは、音速の数十倍の速度で飛行していた。結月來貴が囚われているであろう、レガリアを目指して。


 レガリアまではかなりの距離があり、辿りつくまでにアギエルは自分たちの身が持つか案じている。しかし、もう後には引けないところまで来た。それに、結月來貴を取り戻せていない。


 撤退まで、命以外の全てを賭けて気力を保とうと静かに決意した。


 一方抱えられている凜であるが、來貴の場所を感じながら地上を見ていた。アギエルが速すぎて断片的にしか見えないが、アルヴァダ帝国の民がこちらを見上げているのがわかった。


 それに加え何か言っているようだが、離れすぎていて聞こえない。だが、何を言っていても関係ないだろうと、凜は意識から国民たちの存在を外した。


 ――同時に、アギエルが急停止する。どうしたんですか……とそう聞く前に、アギエルが答えた。


「追手か……厄介だな」


 凜に聞こえるよう呟いたアギエルの目は、前を見据えている。見えるのは、白衣の騎士。そして、約50km後方には金髪の騎士。


 アギエルは凜を抱えていて、戦える状況ではない。それが意味することは、圧倒的不利だ。


 ――そして、白衣の騎士が障壁を出す。アギエルたちの進行を文字通り阻む程巨大な障壁であり、下の国民たちが気付かないのがおかしいほどだ。


 しかし、アルヴァダ帝国の国民たちには見えていない。何故ならば、そういう"細工"をかけられているから。


 その巨大な障壁を前に、アギエルは表情を険しくした。


(障壁……大きく広げている分、脆いだろう。だが、あの騎士が妨害しないはずがない。加えて、凜を抱えたままだ。時間をかければ、後ろにいるあの騎士が来て終わりだ。……さて、どうするかな)


 アギエルは、静かに笑みを浮かべた。そして、加速する。


 白衣の騎士を躱し、障壁目掛けて幾千もの白い魔力刃を放つ。だが、それで壊れてしまう程脆くは無い。


 それを認識すると同時に、白衣の騎士が氷の散弾を放つ。それを一つ一つ躱していきながら、今の体勢で放つ事ができる最高威力の攻撃を考える。


(凜には悪いが、少し飛行が荒くなってしまうだろう)


 ぼんやりとそう考えながら、接近してきた白衣の騎士を魔力を乗せた羽ばたきで吹き飛ばす。


 しかし白衣の騎士はすぐに体勢を立て直し、広範囲に及ぶ氷の竜巻を何個も放つ。アギエルは回避は難しいとし、少し離れた場所で一部分のみの迎撃を選択した。


 だが、自身の翼が障壁で囲まれている事に気付いた。これで飛行はできず、同時に今の勢いのある竜巻に飲み込まれるかもしれない。


(やられた……これでは思うように動けない……!) 


 アギエルは魔力で防壁を作り防ごうとしたが、それでこの竜巻を防げるとはあまり考えていない。長時間の天使化(エーゼル)の維持で、魔力の量が減っているからだ。


 よく観察しようと氷の竜巻を見たアギエルは、その軌道が自身を少し外れている事に気付く。


「ミカエルさんの力を借りて、少し竜巻の軌道を変えました……あまり力添えできませんが、少しでも力になれたなら……」

「ああ、十分だ」


 凜のおかげで直撃する軌道ではなくなったため、アギエルのが作った防壁で防ぐことが可能だった。


 白衣の騎士は特に慌てるわけでもなく、後方にいる金髪の騎士を見据える。どうやらその騎士を待っているようだと、アギエルは確信した。


 そしてアギエルは一瞬だけ翼を閉じ、再展開する。それにより障壁を逃れ、白衣の騎士に羽ばたきを浴びせた。


 しかし二度目は当たらず、躱される。それと同時に放たれた氷の散弾も、アギエルは全て躱した。その後状況を俯瞰しようと思ったアギエルだったが、白衣の騎士の姿が見当たらなかった。


 白衣の騎士は、散弾を放つと同時にアギエルに接近していた。冷気を感じる拳を、凜ごと貫く勢いで放つ。アギエルは右足を振り上げ、蹴りで軌道を逸らす。同時に羽ばたき、距離を取った。


 ――それから障壁へ急接近し、アギエルは足を振り上げ、魔力を足裏に集中する。上空へと加速しながら、急降下。その勢いのまま障壁へと迫る。


 途中、白衣の騎士が小さな障壁を出したが、それすらも貫く。そして、障壁と衝突。激しい衝突音が鳴り響き――勝ったのは、障壁の方だった。


「無理だったか……」


 しかし、確実に障壁は脆くなった。その証拠に、アギエルが蹴った部分を中心に罅が広がっている。


 氷の散弾を躱しながら、あの罅に攻撃する機会をうかがう。


 ――だが、ある"声"が響く。それは白衣の騎士にとって、アギエルにとって、それぞれ何を意味するのだろうか。


「残念、タイムオーバーだ」


 その声の正体は、金髪の騎士。同時にそれは、金髪の騎士の到着を意味していた。


 同時に、金色の矢が幾億もの数表れる。白衣の騎士は自身を障壁で覆っており、被害が来ないようにしている。……先ほどの防壁では防げそうにない。


 凜を通したミカエルの力でも、この数は捌ききれない。


(……もう少しか)


 無慈悲にも、金の矢は放たれる。最後のあがきとして躱そうとするが、矢の軌道からは逃れられない。何個も矢がアギエルの身体をかすめ、当たりそうになる。凜にはどれも当たっておらず、それは見事だと金髪の騎士は思っていた。


 ――そして、アギエルの周囲を矢が迫る。これは、さすがのアギエルでも躱しようがない。


 このままでは死であろう。だのに何故か、アギエルは笑みを浮かべていた。


「――すまない、遅くなった」


 その声と同時に、アギエルに迫っていた金の矢は弾き飛ばされた。金髪の騎士は、その正体を見て忌々しそうな目を向ける。


「全く、遅いじゃないか」


 イオネが、アギエルたちに追いついた。

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