114話「戦の始まり」
潜水艇から出て、來貴の元へと目指す凜たち。その数は、凜を除けば十二人。その全員が、一段階以上の覚醒を終えている。
――そして凜以外の全員悪魔化及び天使化のいずれかを使用しており、それにより生えた翼による飛行でどんどん内部に迫っていた。
ちなみに凜はまだ天使化を使えないため、アギエルに抱えられている。凜が周りの風景が見えているかどうかは気にせず、戦える状態にあるかどうかだけを気遣っていた。
――凜は視覚に頼らず、來貴のいる場所を"感覚"で示していた。今は距離が遠いため、もっと奥などアバウトに。
凜を抱えたアギエルを先頭に、イオネたちは後ろについてきている。アギエルは前方の注意を、後ろの者たちが前方以外の方向に注意を向けながら飛行していた。ここはアルヴァダ帝国の支配地であり、いつ兵が出てくるかわからない。故に、気を抜くことなどできない。
この場にいるかぎり、いついかなる時であっても。
現在地点は森の中。アルヴァダ帝国の沿岸部は全て草木が生い茂っており、森林が構成されている。そこから都市部との境界線の前に、アルヴァダ帝国軍部の施設が建設されている構成だ。
上空を飛んでしまうとすぐに見つかってしまうため、木々の中を飛んでいる。幸い森の木々はどれも10m以上はあるため、飛行が可能となっている。
飛行して約十分、いまだに接敵は無い。しかし、いつ来てもいいようにと心構えは全員済んでいる。ただ、全員の心の中には不気味さが影を差していた。アルヴァダ帝国の力ならば、侵入者の把握及び始末はすぐに可能だろう。
だが、誰も来ない。その事が緊張を助長をさせていた。
――ハイスピードで大森林の中を飛行するのを視つつ、凜は來貴の居場所を"感じる"。だが、ずっと奥だという事には変わらない。
「……アギエルさん、そのままずっと奥に」
「了解した……少し飛ばすぞ」
そして、アギエルたちは加速する。後ろについてきていたイオネたちも、合わせて加速した。
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――そうして、数分。
高速飛行をしていたアギエルたちの前に、神衛騎士団の"騎士"が三人、現れた。
その騎士たちの登場に、アギエル一行は翼を止める。空中で留まり、戦闘態勢をとる。アギエルだけ後ろに下がり、イオネたちに庇われる形となった。元々、こういう作戦だったのだ。
数秒睨みあう中、誰かが声を発す。
「あれ、あの子は……?」
小柄で無邪気な少年のような騎士が、アギエルに抱えられている凜を指差す。その一声で、張り詰めていた空気が崩れた気がした。
「無駄口を叩くな。……命令を遂行する、こいつらを殲滅するぞ」
そして、咎めるような声音で言ったのは、大柄で壮年の騎士。しかし、その目は凜の存在を訝しんでいるようにも見える。
見たところ悪魔か天使のどちらかはわからない。だが、翼すら出せない足手纏いをこの場へと連れてくるのはおかしいと感じているのだ。それ故に、口では咎めつつも判断の時間を欲している。
「……!」
その僅かな時間を好機と見たのか、アギエルは急加速。それについていくのは、イオネと他七名。
少年の騎士と壮年の騎士の顔に、出し抜かれたで焦ったような表情が表れた。しかし、どこか焦りを感じさせなかった。
「――行かせないわよ?」
三人目――白衣を着た女性の騎士が、アギエルたちの前に障壁を展開した。それにより、アギエルたちは翼を止めてしまう。
同時に、止まっていた騎士二人は攻撃を仕掛ける。だが、注意を向けていたマサハスたちが攻撃を防ぐ。そして、上陸してから初の戦闘が始まった。マサハスたちは騎士たちと応戦し、アギエルたちは、攻撃に当たらないようにしながらなんとか突破する手段を試行錯誤する。
――まず始めに、少年の騎士がマサハスに剣を振るう。しかし、防がれる。ただ、防いだのはマサハスでは無かった。防いだ隙に後ろから、壮年の騎士が雷撃を放つ。マサハスたちはそれを躱しつつ、次の一手を考える。
一方白衣の騎士は、アギエルたちに接近しようとしている。ただ、一対一で妨害されて行くことができない。それは同時に、一人封じ込めていることを意味していた。
刻一刻と時間が過ぎていく間に、マサハスは能力使用のタイミングを計る。今はダメだ。
騎士の注意が自分とアギエルたちに向いていないかつ、騎士たちの距離がアギエルたちから遠くなった時。
一度引いて睨み合う状態になった時に、その旨を伝えた。了承の返事が返ってきたため、実行することとなった。適度に戦いつつ、マサハスは状況を俯瞰する。タイミングは何度か来るだろうが、時間はかけない方がいい。故に、一度で決める。
――白衣の騎士は、相手と鍔迫り合い状態。こちらに意識は向いていない。
――少年の騎士は、アギエルたちから約60m。相手だけを見ているようだ。
――壮年の騎士は、地面にいる相手に意識を向けている。空中に意識を向けるまでのタイムラグがあるだろう。
今だ。
そしてマサハスは、能力――無効消失を"発動"する。対象はもちろん、あの障壁だ。抵抗されるまでもなく、驚くほどあっさり障壁が消え去った。
「今です! 行ってください!」
マサハスは叫ぶ。
――すぐさま、アギエルたちは飛行する。返事はいらない。その時間さえ、無駄となるから。
騎士たちは追おうとしたが、マサハスたち三人に妨害されて追うことができなかった。そして必然的に、その者たちの相手をすることとなった。
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「もっと……奥です。この森の中にはいないです」
「了解した。……だとするならば、かなり深刻な状況だな。この森を抜けたら、アルヴァダ帝国の都市部に入る。一般人の家にはいるはずがないだろうから、中央の宮殿にいるだろう。あの場は文字通り、国の中心にある。ここからだと、1000km以上は離れているだろう」
1000km以上。その途方もない距離に、凜は絶望しそうになった。だが、ここで折れては連れてきてもらった意味がないと、気を強く持った。
「――だが、必ず取り戻す。君のように情が理由なわけではないが、彼を失うわけにはいかないからね。都市部に入ったら、一気に速度を上げる。開けた場所故、木にぶつかる心配をしなくていい」
アギエルのその言葉に、凜は違和感を覚えた。情が理由ではないのなら、失うわけにはいかないという言葉を用いるのは言葉の前後に矛盾が生じている。故に、興味本位で凜は聞いてみた。
「どういう……ことですか?」
「フフッ、君もいずれわかるさ」
――騎士たちから逃れて数分。凜は、來貴の"場所"を示していた。だが、來貴の元へと辿り着くには時間がかかるだろう。
現在人数は凜を除いて9人。そのアギエルとイオネ以外の全員が神衛騎士団に負けず劣らずの力を持っているが、勝てるかと言われれば口を閉じざるを得ない。
アギエルとイオネは、大抵の敵が来ない限りは負けることは無いだろう。何故ならば、他の者たちは生きている年数が違う。故に、最強なのだ。そのため、二人は最後の壁となるであろう神たちとの戦う算段となっている。
「……来たぞ、四人だ」
イオネが言う。噂をすれば、というものか、"騎士"が四人来た。
全員停止し、凜を抱えたアギエルを庇う陣形になる。
――そして、再び戦いが起こる。最初に動いたのは、太刀を携えている仮面を被った騎士。まっすぐにアギエルたちへと向かい、太刀を振るった。青き魔力を伴った斬撃は、広範囲に及んだ。その余波は、大気を揺るがし森の木々を薙ぎ倒す。
しかし、先頭にいたイオネに防がれたため、アギエルたちに斬撃は来なかった。その後、イオネは仮面の騎士を蹴り飛ばして距離をとる。同時にアギエルとイオネともう二人以外の悪魔・天使たちが飛び出す。
残りの騎士三人――まだ20歳も行っていないような青年の騎士、美しい容姿を持つ騎士、眼鏡を掛けた長髪の女性の騎士が、反応して飛び出し応戦。
全員が持っている力を全て使い、派手な戦いとなっている。
探り合いなど慎重な展開などは無く、最初から力と力のぶつかり合いとなった。戦闘に夢中になっている隙に、アギエルたちは森の向こう側を目指して飛行する。しかし、それに気づかない騎士たちではない。
すぐさま騎士たちはアギエルたちを抑えようとしていたが、他の者たちの妨害で逃してしまう。
――アギエルたちは先へと翼をはためかせた。
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(……思っていた以上に、神衛騎士団の面々は強かった。アイツらが撤退まで持つか懸念しかねる……しかし、我やアギエルならば、かつて戦ったあやつら以外には負けぬだろう)
イオネは思案する。常に周囲に警戒を向けながら。神衛騎士団の騎士は、イオネが記憶を頼りに知っているのは人数が十人であること。しかし一人死んだため、残り九人。先程まで接敵した騎士たちの数は七人。そのため、後二人残っていると考えている。
しかし、今まで接敵した騎士たちに、イオネとアギエルが負ける可能性のある騎士はいない。そのため、もっと後ろで待機していると考えられる。もし待機しているならば、この辺りだろう。森を抜けようとしている、この時に――――。
「やはり来たか。人数は……一人、いや二人か」
――――来る、最後の騎士。金髪で傲然とした雰囲気を持つ男性の騎士と、幼さが残る少女のような外見の騎士。どちらも、強者の気配を纏っている。だが……他の騎士とは、どこか「異質」であった。
その姿に、アギエルとイオネは警戒を顕著に表す。それは、凜から見てもわかるほどであった。
「そうツンケンしたら、綺麗な顔が台無しよ? アギエルちゃん」
アギエルに向けてそう言ったのは、少女の騎士。その親しい口調に対して、アギエルが返した言葉は辛辣なものだった。
「……貴様に言われる筋合いはない」
そう吐き捨てられた言葉を受け取った少女の騎士は、顔を覆ってシクシク泣くような動作を見せる。まるで「悲しい」とでも言っているように。その動作に動揺もせず、警戒を解かずに距離をとるアギエル。それを感じ取るように、少女の騎士は顔を上げた。
「そっか、それは残念だよ。……ところで」
少女の騎士の目線の先には、アギエルに抱えられた凜が映っている。そして、次の瞬間。
「――その子、何のために連れてきたの? 見たところ天使化すらできないようだけど」
アギエルの背面上空に回り込み、魔力の矢を打ち込む。少女の騎士は、凜が天使でありこの場で最も弱く異質であることを見抜き、最初に処理しようとした。その攻撃に見たたイオネは、矢を弾こうとアギエルの元へと向かう。
しかし――。
「向かわせぬぞ、イオネよ」
――金髪の騎士に邪魔され、その場に留まる事を余儀なくされる。
そしてアギエルは、なんとか凜に当たらないように回避ができた。その結果に、少女の騎士は残念そうにしている。だが、腹の内ではそんなことを気に留めてもいない。本当は、次の一手を試行錯誤しているのだ。
アギエルは、騎士二人から離れる。凜に当たらないように攻撃を避けるのが、至難の業だと判断したからだ。だが逃がすはずもなく、少女の騎士はアギエルを追う。逃す理由が無く、凜が途轍もなく怪しいからだ。
「……邪魔、君たち!」
しかし彼女は、控えていた二人に妨害され、アギエルの元へ行けなかった。
同時に金髪の騎士もアギエルへ接近しようとしていたが、自分が邪魔したようにイオネに妨害され、行ける状況ではない。
「チッ、行かせぬか」
金髪の騎士は悪態をつきながら、イオネと一対一の戦いを始めた――。
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――現在、ドルナイトは国の中心にある宮殿――"レガリア"にいる。そして今、レガリアの屋上にて眼下の都市と森の方を見ていた。
その目に、アギエルたちや騎士たちの姿は映っていない。だが戦闘が勃発し、二人抜けだしたのはわかっている。このまま放置していると、一気に速度を上げてレガリアに迫ってくるだろう。ドルナイトはそれをわかっていながらも、何もしない。
仮にここに辿り着いたとしても、原初神と統制神の包囲を抜けて結月來貴を救出できるとは思っていないからだ。
イマジュアは騎士たちに連絡したようだが、その顔に焦りは無い。現在は、騎士たちの状況と侵入者たちの位置を術で把握しているところだろう。
「――さて、貴様らは何処まで抗えるのだ?」
ドルナイトは嗤いながら、遥か遠くに映ったアギエルと凜に目線を向けた。




