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真実と想いの業  作者: 神無月凍夜
第六章 逢魔之戦禍編
121/234

113話「魂の抗争」

投稿遅れてすみませんでした。これから多くなります。


 一方その頃、來貴たちは――。


『もうそろそろ来る時間だと思うよ。前回来た時から20時間以上経っている』


 ドールの報告は、まるで終焉を告げるようだった。抵抗できなければ待っているのは死であるため、あながち終焉というのは間違っていないが。


 そんなことはさておき、來貴はゆっくりとドールのがいる方を振り向いた。その際に見えた横顔は、どこか決意を宿したように見えた。


「……わかっている。もしルシファーが耐えられなかったら、俺が出る算段だろう」


 そう言いながら、來貴は立ち上がる。そして、ドールの方へと歩く。ドールの正面についたところで、ドールはまた口を開いた。


『というか、そうなったらそれしかないよ。万物具現化の眼リアライゼーション・アイがとられれば、僕は消えるし君も5割以上弱体化する。それに……そうなれば君は用済みとなり、ドルナイトに命と身体を奪われるだろう』


 それが、目的だからね……と、最後に付け加え、ドールは目を閉じた。同時に、淡い光となって消えていく。


 ドルナイトが魂を侵食したときの影響が出ないように眠るのだろう、と來貴は考える。もうその場にいる意味は無いため、來貴はこの世界の外側へと歩き始めた。まだ出る時でないため出ないが、いつでも意識として出られるように身構えている。


 ――もしルシファーが、ドルナイトの魔力に耐えられなかったときに。


 來貴はその可能性は無いと信じたいが、そうなる可能性は高いと考えている。ルシファーにとって、ドルナイトの魔力は「異質」であるから。しかし來貴にとっては「異質」でないため、耐えることが可能ではないかとドールは考えた。それ故の、この手筈なのだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――ドルナイトは、全ての用事を終わらせてから休憩していた。あと数分休憩したのち、來貴のもとへと騎士たちと共に赴く。


 目的は二つ、万物具現化の眼リアライゼーション・アイの奪還と結月來貴の身体の略奪。


 能力を取り戻せば、かつての実力へ戻っていく。結月來貴の身体を依り代にできれば、この重い身体を捨てられる。目的を達成できれば、計画もより円滑に進めることができる。この心に宿る霧を、晴らすことができる。


 全てを滅ぼし、新世界を創り出す。その先に、何があるかはわからない。だが、何かを証明できるはずだ。


(……ままならぬものだな。だが、それももう終わる)


 ドルナイトは、自分がいつから破滅を望むようになったのかはわからない。だが、何かに()()していたのは確かだ。しかし、それはわからない。堕神した影響で、記憶が薄れたのだろうか。


 わからないことの息苦しさに頭を抑えながら、ドルナイトは部屋を出る。


 無人の廊下で声を上げ、騎士二人を呼んだ。そして、結月來貴の元へと向かう。それは、()()()目的のためか――。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――そして、運命の時。ドルナイトは來貴のいる牢獄へと歩く。その足取りは、放っているおぞましい雰囲気とはとは対照的に、ひどく冷静だった。


 後ろでついてきている二人の騎士は、何も言わない。ドルナイトの雰囲気はいつもと違っているが、それが忠誠を違える理由にはならない。騎士は、ただついていくだけであった。


 ――ドルナイトは、歩きながら自身の考えた策を纏める。


 一つ、白黒の魔力を使って來貴の魂に自身の意識を侵入させる。二つ、その際に精神世界で魂の中から万物具現化の眼リアライゼーション・アイに直接干渉する。三つ、精神世界の結月來貴たちを内倒して能力を奪還。


 これが考えた策だ。魂から能力を剥がす際、ドルナイトは邪魔が入るだろうと確信している。故に、"それら"を跳ね除ける……倒せば、確実に奪えるだろうと考えている。


(結月來貴……今こそ、終わりにしてやろう!)


 ――ドルナイトは、來貴がいる牢獄の壁を開いた。対して、來貴は動かない。ただ、ゆっくりと首を動かしてドルナイトの姿を見るだけ。


 その態度は、ドルナイトを憤らせるには十分なものだった。しかし、ドルナイトは冷静に手を來貴へと向ける。同時に、騎士の二人が牢獄の壁を閉めて警戒態勢をとる。


 ――白黒の魔力が、渦巻くように來貴へと迫っていく。それは牢獄の全域へと広がっていったが、やがて來貴の元へと収束する。前までとは違うパターンに、來貴は戸惑いを覚えた。がしかし、抵抗する姿勢を見せる。


 ドルナイトは口元に歪みを残しつつ、膝を地面に突く。同時に、來貴は目を大きく見開き心臓を抑えた。騎士二人はすぐさまドルナイトの元により、來貴から距離を離して警戒を強める。


 それからしばらく状況が動かぬままであったが、騎士たちは警戒を緩めなかった。


 ――そして、心の中。


『ぐっ……まさか魂に意識ごと入り込んでくるとは……あなたは、何がしたいんですか!?』


 まず初めにルシファーとドルナイトが交戦し、数分経った今も交戦している途中だ。互いに純粋な拳と拳のぶつけ合いで戦っており、武器や能力は使っていない。


 自身の魂の中にいないため、ドルナイトとルシファーに能力は使えない。精神世界の中の身体能力は、現実世界における身体能力とほぼほぼ一致する。何故なら、それが自分の身体能力の高さだと無意識に「認識」しているから。


 実体のない精神世界では、精神の持ちようが全てを左右する。故に、ここでの負けは死を意味するのだ。何を定義に負けとは、一概には言えない。ただ……動きを止めたならば、心が折れたと見なされるだろう。


『何度も言っただろう……全ての破滅だ。そしてその過程に、これが必要だっただけよ』


 そう言いながら、先ほどよりも強い打撃をルシファーに叩き込む。直前でガードが間に合ったルシファーだったが、衝撃は抑えきれず数メートル吹っ飛んだ。


 ダメージを感じさせない様子で、ルシファーは空中で身を翻す。それから、魂の核を足場にしてドルナイトに接近する。その勢いのまま右拳をドルナイトの顔面に放つ。


 ドルナイトも直前でガードしたが、やはり吹き飛んでしまう。空中で一回転してから着地し、距離を詰める。ただ純粋に、殴り蹴るだけ。それは、低俗な喧嘩のようにも見えた。二人とも環境すら使いこなす頭脳と技術を持っているが、発揮されるのは純粋な身体能力のみだろう。


 何せこの世界に、小手先の技を使う環境は無い。ただあるのは、暗闇と光りのみ。他にあるとするならば、ルシファーの後ろに魂の核がある。要は、持ち物や使える物が無いのだ。精神世界に何か持ち込めるはずないし、卑怯戦術の鉄板である砂もない。


 そして、実体が無いため当然出血しない。やってくるのは痛みだけだ。故に、何を代償にするかが勝負の決め手となる。


 ――ルシファーが、距離をとった。そして、ドルナイトに問いかける。


『……あなたは破滅の先に、何を望む。その先に待っているのは、とめどない無だろうに』


 距離を詰めようとしたドルナイトだが、その足が止まる。突如、奇怪な質問が出てきたからだ。


 そして、ドルナイトは顔に手を当てる。直後、大きな笑い声が辺りに響く。もっとも、聞いているのはルシファーしかいないが。


 笑い終えた後、ドルナイトはこう言った。


『――わからぬか? 今私は心のままに行動している。誰だってそうであろう?』


 ドルナイトは、手を大きく横に広げる。


『我々は永き時を生きている。故に、知性を持つ存在にある"感情"の正と負を知っている。貴様もそうだろう、何せ貴様たちは負から生まれたのだから』


 原初の悪魔(オリジン・デーモン)原初の天使(オリジン・エンジェル)。この存在は、神たちも持つ感情の"起源"から生まれた。七つの大罪と美徳。それこそが、それぞれに与えられた感情の起源の力だ。


 ただ、これはルシファーも知っていること。今更このようなことを聞きたくて質問したわけではない。


『……何が言いたいのですか?』


 思わず、ルシファーは続きを促すように言う。ドルナイトは、フッと笑いながら言う。 


『同じということだよ。誰かを憎む(復讐)ように、誰かを愛する(幸福)ように、感情を元に欲を出す行為とな。その過程と行為で得られた結果を、欲しているのだ。……貴様は、待っているのは無だと言ったな。それこそが、私が欲しているものなのだよ』


 ――意味がわからない。そんな感想が、ルシファーの中に生じた。言いたいことはわかるが、ドルナイトの言い方では全ての行動は単純な感情が元となっている……という解釈になる。


 ならば、ドルナイトは何を起源に破滅という暴挙に出たのか。ルシファーはそう思った。


『何故……という顔をしているな。私の破滅という行動の元にある感情が、わからぬからだろう。ならば教えてやる……簡単なことだ。――()()だよ』

『……ッ!!』


 ――そうして、ドルナイトはルシファーに蹴りを放つ。ルシファーは急な攻撃に対応しきれず、腹部に受けてしまう。そして、ドルナイトは追撃をするため接近。放たれる拳と蹴りによる攻撃は、苛烈さを増していく。


 ルシファーは防戦一方で、反撃しようにも攻撃が激しすぎてその隙が無い。しかし……ルシファーにも、意思や感情はある。何を起源に、この戦いに臨んでいるのか。昔から、それは変わらぬものであった。


 それは――"情"だ。今から約10億年前、ルシファーたちが生み出されたころから、500年前の堕神大戦まで。その過程で、ルシファーは世界に愛着を持った。創造主であるドルナイトと関わったことで、性格を知った。故に、狂っていくのを放っておけなかった。


 一般における伝承の悪魔とは、負や邪悪にまみれた欲望を持っているだろう。しかし、悪魔は「神」という存在に作られた知性ある存在。負の面だけでなく、善の面も、一般にとって「普通」である感性を持っている。何せ――人間も天使も、神だってそうなのだから。


 そして、ルシファーは反撃に出る。ラッシュに生じる隙を突き、胸元に拳をぶつける。近距離故に、見えづらく反応も遅くなった。結果、ドルナイトは怯んで一秒以上止まる。再び生じた隙が仇となり、ルシファーはお返しかのように反撃をする。


 やっていることは、自分がやられたことのやり返しだ。


 ただ……相手が悪すぎた。ドルナイトは眼前に迫る拳を正面から受け、そのまま跳ね返す。ルシファーの体勢が崩れた瞬間、頭部にめがけて迫る回し蹴り。


 ルシファーはそれを受け、力尽きる。意識はあるが、動けない状態になった。もともと、ドルナイトの魔力を受けて擦り減らしていた身。ドルナイトを相手に、健闘したと言えるだろう。


『……』


 この場に、邪魔する者はもういない。ドルナイトは魂の核に近づき――数メートル手前で止まった。


『――いるのだろう? 結月來貴よ。出るのならば、出るがいい』

 

 その言葉とともに、魂の核の中から現れる來貴。その眼はドルナイトを見据えていたが、チラッと倒れるルシファーの方に目を移す。ルシファーは動けず、來貴の方を見ていた。一瞬、來貴は目が合った気がした。


 その時、口が動いた。何を言っていたのかは、わからない。ただ、託されたような気がした。


 そして、來貴はドルナイトに攻撃を仕掛ける。


 ドルナイトは冷静に攻撃を捌きつつ、警戒を高める。何故ならば――。


ドゴォン!!


 ――來貴だけは、能力を使用可能だから。ドルナイトとルシファーが能力を使えないのは、魂を離れているから。ならば、ドルナイトとルシファーがいる魂の持ち主はどうだろうか。


 答えは、使用可能。精神世界では、その魂の持ち主のみが能力を使用可能である。


 ただ、今の來貴が使っているのは覇壊の轟き(オーバー・ドライブ)のみ。能力を使用可能とはいっても、使えるのは一つだけだ。それに加え実体を伴う能力も使えないため、実質的に使えるのはそれだけだった。


 以前の力を遥かに超えた今の力で、ドルナイトを殴りつける來貴。來貴は、ドルナイトを殴りながらあることを考えていた。


(ドルナイト……現時点ではあまり強く感じない。まぁ、ここは現実ではないからあまり参考にならないが)


 精神世界の事は、既にドールから教わっている。故に、探り合いは必要なかった。來貴は目を細め、

ドルナイトを撃退するため攻撃を苛烈化させる。


『――調子に乗るなよ! 我を誰だと思っている!』


 ドルナイトは攻撃をすり抜け、來貴の顔面に蹴りを浴びせる。來貴はのけぞったが、すぐに体勢を立て直す。直後、視界にドルナイトの拳が映る。


(早いな……やはり神は伊達じゃないか)


 來貴は首を傾けて躱し、跳躍してドルナイトの上をとる。そして、背中を思いっきり殴りつけた。ドルナイトは地面に落ち、口から痰を吐き出すように咳をした。


 続けざまに踏みつけようとする來貴だが、ドルナイトはもうその場にはいない。


 直後、後ろから感じる殺気。來貴は身体を180度捻り、腕をクロスして防御した。鈍い音が響きそうな一撃が入り、來貴は数歩下がる。


 ――そして、永き戦いが続く。


 現在時刻は、日本で言うと午前4時頃。時差を考えると、アルヴァダ帝国では午前5時頃だ。時の流れは、自身の感覚と同じである。何故ならば、精神の中にいるから。心が全てである精神世界では、時間の流れさえ感覚で決まる。


 ――その感覚において、來貴は1時間と30分ほどだろうか。それほど経過し戦っていた感覚だった。対するドルナイトも、來貴と同じく1時間半経過したと感じている。


 來貴は肩で息をしていて、覇壊の轟き(オーバー・ドライブ)は切れかかっている。1時間30分にも及ぶ戦いで、かなり疲弊したからだろう。対してドルナイトは、疲れてはいるが來貴ほどでもない。


 しかし、來貴の目には闘志が宿っている。攻撃を受けた数は、來貴の方が多い。それでも、まだ戦えるということだろう。


『まだ戦うか。よかろう、このまま嬲り殺してやるわ』


 ドルナイトが來貴との距離を詰めようとする。來貴も、身をかがめ接近する体勢をとった。


 ――その時。


『『……!!』』


 來貴とドルナイトは、何かが近づいているのを感じた。更に、來貴の魂の中にいるドルナイトに語り掛ける騎士。


〈ドルナイト様、悪魔と天使たちの侵入者です! 結月來貴を助けに来たのかと!〉


 告げられる、アルヴァダ帝国への侵入者の存在。ドルナイトは冷静に状況を判断しながら、舌打ちをした。


 このまま戦えば、ドルナイトは自分が勝てると客観的に判断している。だが、それにかかる時間は長いだろう。その間、この場所に侵入者が来たらたまったものではない。侵入してきた悪魔と天使たちの強さが本物だということは、ドルナイトは知っている。


 その上で、自分たちもそれに引けを取らないとも自負している。悪魔と天使たちの対処を、有象無象の兵たちができるはずがない。故に、戻って始末してから戦いを再開するのが最適だと判断した。


『……命拾いしたな、結月來貴よ。だが、すぐに戻るぞ』


 そう言って、ドルナイトは來貴の魂から消えた。來貴は、その姿を見ながら魂の核へと戻った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――現実へと戻ってきたドルナイトは、牢獄から出て侵入者の存在をアルヴァダ帝国の兵たちに共有した。


 それからイマジュアたちと作戦会議をし、迎撃の準備をする。


「やはり来ましたね、助けが。ただ、状況としてはこちらが圧倒的に有利です」

「そうではあるが、油断はするな。来るということは、結月來貴を救出できる算段があるのだろう」

「でも、悪魔と天使たちにそのようなものは無かったはず……」


 神衛騎士団(ゴッドクルセーダス)の騎士たちが話し合う。それが少し落ち着いたところで、イマジュアが口を開いた。


「……何か、切り札のようなものがあるのかもしれない。それ故に、結月來貴が幽閉されている場へと侵入してくる前に殺します。行くのは当然、君たちです。ただ全員を一度に出すのではなく、だんだんと消耗させるように出します。人数を分散させている可能性がありますからね。……結月來貴がいる場には、私とドルナイト様が控えます。安心して行きなさい」


 イマジュアの指示に、頷きを見せる騎士たち。その後、細かな配置と作戦を決めてから、出陣した。


「案外、無謀なことをするものだな」


 そして、戦が始まる。その戦の名は――"逢魔之戦禍"。

ちなみにルシファーとドルナイトが戦っていた時間は2時間ほどです。

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