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真実と想いの業  作者: 神無月凍夜
第五章 大罪編
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幕間「西宮寺琴音 ~足元と頭上~」

思っていたよりも長くなりました。

「――はぁ」


 琴音は溜息をつきながら、校長室で事務処理をしていく。現在琴音はとても忙しく、軍事機関から来た案件と学校の問題を対処している。その量の多さと案外くだらないものの多さに、思わず溜息が出たのだ。


 しかしもうすぐで全て終えられるため、終わったら一息つこうと考えていた。


 ――そうして十数分、琴音は全ての事務処理を終えた。かなりくたびれた様子で、座っている高級な椅子にもたれかかった。目を閉じて、脳と目を休ませる。事務仕事でかなり酷使したからだ。


 そして、琴音は珍しい事に過去を思い出していた。


(……兄さん)


 ――その人は、琴音がこの道を選んだきっかけである。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 西宮寺琴音(せいぐうじことね)は、西宮寺家の長女として生まれた。上に兄が一人、下に妹と弟がいる。四人兄妹の、六人家族だった。そして一つの特徴的な点として、母以外の全員が金髪碧眼であること。母は、黒髪で茶色の瞳である。


 西宮寺家であるとか、軍人の家系であるとか関係なく、琴音たちは幸せな日々を過ごしていた。琴音は、毎日家族で遊び、純粋に笑う。欲しいものも、大抵は手に入る。父も母もいろいろな事を教えてくれて、琴音に不安や不満は無く、ただ幸福だった。


 ――この頃は、能力や魔力などの世界の裏側を知らずにいたから。そして、幸福な生活を送っていたある日。


 きっかけは些細な事だった。家の棚が転倒したときに、それぞれの能力で防ぐ形で、兄と琴音に能力が発現した。兄の能力は、上位の操作系。それにより棚をせき止めて防いだ。初めてとは思えない程の精度であり、父はその力に感心した。


 ――琴音の能力は『紺青統一(ブルーユナイト)/あらゆる青を支配する能力』。それによる"青"で棚を止めた。……琴音のその能力は、現象系の最高位。間違いなく、兄よりも強力であると判断された。


 それからは、世界の裏側――能力や魔力の事について父から教えられた。まだ能力を発現していない弟と妹には教えていないが。幸いその現場も見ておらず父が棚を元に戻したため、まだ何も知らない子供でいられている。


 だが、こちらへ来た琴音たちは選択をする必要があった。一般か、軍人か。どちらの道を歩むのか。兄の選択は、父と母のように軍人になること。この能力で、自分にしか出来ない事をしたい――というのが選択の理由だった。


 対して琴音は、選べずにいた。しかし、琴音こそ結論を出すべきであると父は考えている。それは、最高位の能力を持っているから。人を能力で判断している――と言われても仕方の無い言葉だが、幹部の軍人として父はそう言ったのだ。

 

 無論、娘にはじっくりと将来を選んで欲しいし、その能力に縛られる必要も無いと考えている。だが、最高位の能力の危険さ・強大さを知っているからこそ、そう言ったのだ。


 ――結論から言うと、琴音は一週間の猶予をもらった。一日目と二日目は、ただ呆然と過ごしていただけ。短い時間に多くの事が起こりすぎたため、琴音は処理しきれずに考えられなかったのだ。幼い琴音が知るには、早すぎる事柄だったから。そうして考えられずにただ時間だけが過ぎていく中、自宅の縁側に琴音は訪れていた。


 その目的は、自身の進路を考えるため。縁側から足をぷらぷらさせ、能力を使いながら考えごとをしていた。手から溢れる"青"に目を向け、琴音は溜息をつく。どちらの道へ進むのか、未だに悩んでいる。兄はすぐに軍人の道を選んだが、自分はすぐに選べなかった。


(私は……どうしたいんだろう?)


 琴音にはわからなかった。自分が、何をしたいのかが。手を引き、青を消す。考えるために縁側に来たのに、結局、答えは出なかった。自分の部屋に戻ろう――そう思ったときだった。


「琴音……少しいいかな?」


 来たのは、琴音の兄――西宮寺承馬(せいぐうじしょうま)


「迷っているように見えてね。僕から何か伝えようと思って、ここに来たんだ。まず僕が何故、軍人の道を選んだのか」


 彼は琴音の隣に座り、自身が何故軍人の道を選んだのかを語り出す。


「僕は、"僕にしか出来ない事をやりたい"……そう思ったから、軍人の道を志した。琴音が何をしたいのかは知らない。だけど、自分のやりたいことをしていいんじゃないかな。それが無いから迷っているんだろうけど、後で見つかるかもしれないからね」


 承馬はそう言った後、縁側から去って行った。承馬を見送りながら、琴音は自身の心を見る。やりたいことは、無い。しかし、なんとなく軍人の道を歩めば見つかりそうな気がした。兄の意思を聞き、決意が出たから。


 ――結論の日が来た。琴音は父の目を見て、はっきりと答える。


「私は、軍人の道を選びます」


 ――そう、答えた。


「そうか、わかった」


 父は興味なさげにそう言っているが、内心では娘の選択を尊重している。そうして承馬と琴音は、軍人の道を歩むことを選んだ。


 それ故に、軍人を育成する学校――軍事育成機関小学校に入学することになった。承馬は既に七歳のため、ある程度の勉強をしてから二年生に編入。琴音は五歳のため、入学の準備として一年生の範囲を予習していた。


 そうして一年後、琴音は入学する事となった。新入生たちの参列に加わり、学校長の説明と担任紹介が終わるのを待つ。そうして終了後は、指示に従い流れに任せる。流れに任せた結果、十数分で終わった。それから琴音は家に帰り、承馬と今の学校について話した。


 ――軍人の道を志し、学校に入学した承馬と琴音。彼らは軍人の学生にとって、普通な生活を過ごしていた。能力の特訓や、基礎的な事の勉強、そして身体作り。充実した日々を過ごしていた。能力の本質理解は、その小学校の時点で終えていた。


 ――そうして承馬と琴音は、それぞれ首席で学校を卒業し、そのまま軍事育成機関中学校に入学した。そこでも軍人の学生として過ごしたが、一つ琴音は驚いたことがあった。


 ――それは、人を殺せたこと。最初に人を殺せるかの試験があり、驚くほどあっさり刃を切り込むことが出来た。その際についた返り血にも、飛び退き嫌悪する事は無い。いずれやらなければならない事だったが、あっさりその一線を越えられたことに驚いている。


 その後の初依頼も、難易度は高めだったがあっさり終えられた。琴音の初依頼の内容は、犯罪者の取り押さえ。人数は多かったが、琴音の能力の前には無力だった。承馬も、試験と初依頼をクリア出来ている。


 それから、依頼をこなしながら琴音は学校生活を過ごした。たまに面倒な依頼が来たが、兄の承馬に手伝ってもらったり同級生に手伝わせたりして解決した。


 それから、承馬が中学を卒業して高校へ入学し、琴音が三年生になった時である。琴音の妹――西宮寺陽菜乃(せいぐうじひなの)が、この中学校に入学した。琴音と陽菜乃の弟である西宮寺真(せいぐうじまこと)は、まだ入学していない。


 後一年経てば、入学することになるだろう。


 陽菜乃は優秀で、承馬や琴音と同じようにあっさり最初の試験と初依頼をこなした。そして琴音の妹という事もあり、陽菜乃はよく琴音と一緒に依頼に行っていた。


 ――そうして琴音の卒業と入れ替わるように、真が入学する。そして、琴音は承馬と同じ高校に入学した。


 そこでは中学よりもハードな授業と依頼があり、忙しい日々に疲れながらも毎日琴音は頑張っている。承馬は慣れている様子だったが、それでも疲労があるのは明白だった。


 ――忙しくも充実した日々を送り、承馬は高校を卒業。琴音は二年生になり、そろそろ進路を考え始める時間となった。陽菜乃は中学三年生に、真は中学二年生になった。


 父と母は変わらず軍人を続けており、もう50代間近であるのにも関わらず衰えを感じさせない。父は50歳になったばかり、母は47歳である。だが、父は承馬よりも強くまだまだ現役だ。母は陽菜乃よりも能力の練度が高く、年の功を感じさせる。


 ――承馬は軍事機関に所属することになり、父――西宮寺辰巳(せいぐうじたつみ)と母である西宮寺柚木(せいぐうじゆずき)の下につくことになった。そこで承馬は辰巳の指導を受けながら、日々両親と共に依頼をこなしているそうだ。


 承馬がやりたかったこと。それは、高校の内に見つかっていた。それは、軍人の仕事である。承馬は自分の力を、有効的に使いたいと考えている。それには、軍人という仕事は最適解だった。


 そうして、それぞれの日々を過ごしていた時。


 ――悲劇が起こった。


 辰巳、柚木、承馬その他のメンバー約三十名で、依頼へと赴いた。その内容は、巨大な犯罪組織――"レイヴン"を壊滅させよというもの。レイヴンは今まで、盗み・暴力・殺害・能力犯罪・武器取引等してきたなんでもありな凶悪な集団。


 今まではその存在の下部組織が表に出ていて、この組織の存在は明らかになっていなかった。しかし、一つの手掛かりから承馬たちがその存在を突き止めたのだ。


 そして、軍事機関が今までの情報と新しい情報を纏め、組織の本拠地を特定させた。その特定は数日で終わり、情報が正確だった事が証明される。


 ――そうして、依頼へと赴いたその日。


 順調に駒を進めていたが、作戦と認識の食い違いが、承馬たちとそれ以外の者で起こっていた。それに加え、どうやら油断しているようだった。承馬たちがいるから、勝てるだろう――と。案の定、一人殺された事から混乱が始まった。


 伝播していくように、他の者も普段の動きが出なくなる。承馬たちも迫り来る敵したが、思わぬ敵の登場に殺されてしまう。そこから、敵の一方的な虐殺だった。持っている情報は奪われ、軍事機関にとって最悪の展開となった。


 ――結果は、全滅。生き残りは誰一人としておらず、依頼は続行不可能と判断された。その報告を聞かされた琴音は、怒りで身が震えていた。


 場所を無理矢理聞いた琴音は、一人でレイヴンの本拠地を潰しに行った。陽菜乃と真は止めたが、琴音とは強さの差がありすぎる。琴音を止める事は、出来なかった。


 ――琴音の潜入に、レイヴンの者たちは上玉の女が来たと心の中で歓喜した。今から拘束して、あれこれしてやろうと下衆な妄想と計画を立てている。


 そして、琴音に一斉にレイヴンの構成員が掛かってきた時。


「ギャアアアアアアァァァァァァアアアア!!!!!」

「熱いいいいィィィィイイイイ!!!!!」

「腕が、腕がああアアァァァァアア!!!!!」

「身体が……凍って……」


 ――阿鼻叫喚の地獄が、生まれた。一人一人が違う事で喚き散らし、涙や鼻水、そして糞尿と血液と内臓が撒き散らされている汚い絵面である。


 琴音はそれを冷めた目で見ながら、眼前にある物体を視認した。そこには青い炎で焼死した死体や、魔力の斬撃により死亡した死体や、青い氷によって凍死した死体が転がっている。他にもその過程で飛び散った物もあり、普通に歩くには汚すぎた。


 そのため、琴音は足に魔力を纏わせる。穢らわしい物体で汚れないために、靴底にすら張り巡らされた魔力は、足元にある尊厳すらも踏みにじっていく。琴音は足元に興味を示すこと無く、次の敵を探す。


 魔力を流して感知をしながら、承馬たちを殺した張本人について考える。その辺りの情報は無かったが、立場が高い者であると推測していた。


「お? ここに来たか」


 ――琴音が入った部屋は、偶然にもレイヴンのボスの部屋だった。琴音は瞳に怒りと憎悪を宿しながら、問う。


「……あなたが私の兄と両親を殺ったのですか?」

「その兄と両親が、先の侵入者たちの強い方ならば……俺になるな」


 このレイヴンのボスこそが、自身の家族を殺した張本人だと。そう確信した琴音は、即座に能力を発動して戦闘準備。


「戦うか。俺を楽しませてくれるのか?」


 ――その言葉を合図に、戦闘が始まった。


 ただ……決着は一瞬だった。琴音が部屋全体を瞬時に凍らせ、そこに青い雷を流す。それにより、ボスは凍ってから感電死した。


 興味なさげに部屋から出た琴音だが、その横顔には哀しみが見えていた――――。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「姉さん、もうこんな危険な事はしないでください!」


 ――――そうして、琴音は家に帰ってきた。軍事機関にいろいろな報告をしてから。それ故、遅れて現在時刻は11時。夕食は、軍事機関で済ませたため腹は空いていない。そして帰ってきた途端、陽菜乃に怒られながら泣きつかれた。


 琴音を止めようと戦った影響か少しボロボロに見えるが、琴音は気にしない。真もボロボロではあるが、現在午後11時という事もあり今は疲れているためリビングのソファで寝ている。


 琴音は陽菜乃を慰めて落ち着かせながら、自分の部屋に戻った。部屋に戻った琴音は、陽菜乃の顔を思い浮かべる。陽菜乃の目は腫れていて、涙を流した事がうかがえる。何故涙を流したのか。その原因を、琴音はわかっていた。真の様子は見ていないが、恐らく同じだろうと琴音は考えている。


(……家族がいなくなるのは……みんな嫌だよね)


 寂しさを募らせながら、琴音は眠りについた。


 ――そうして、次の日。


 琴音は、軍事機関に来ていた。軍事機関で琴音の報告を聞いた軍人に、明日も来るようにと言われたからだ。


 そうして連れられた部屋は、ある空き部屋。その中にいるのは――神藤桂だ。


「よく来た。今回は、君に話があって呼ばせてもらった」


 どういった話だろうか……琴音は怪訝に思いながら、桂が話し出すのを待つ。


「――先日の報告書、見させてもらった。一人でレイヴンを壊滅に追い込む……たいした実力だ」


 琴音は、桂が何を言いたいのかわからなかった。桂の実力やその詳細は、琴音も知っている。選択肢と知識の一つとして、父から聞かされたからだ。


「そこで一つ提案がある……日軍第零課に入らないか?」


 一瞬、琴音は何を言われたのかわからなかった。数秒経ってから、やっと言われたことを理解した。ただその選択をするには、琴音は違う道を望んでいた。


「――私は、軍人たちの教師になりたいのです。ですので、その提案は受ける事は出来ません」


 桂は断られることは予想の範囲内だったが、教師になりたいという言葉は予想外であった。


「……なら、少し見学していかないか?」

「はい……そうします」


 しかし、日軍第零課に興味が無かったわけでは無いため、見学の件は了承した。


 ――そうして見学を始め、その仕事ぶりを見ていたが……琴音は一つ感じたことがある。


(他の軍人とは、格が違う……!)


 日軍第零課は、日本最強の軍人集団。他の軍人とは、一線を画している。依頼に一回ついていったが、強すぎて琴音が出る幕は無かった。


 そうして見学を終えた時、桂から再び話があると呼び出された。今度は何だと思いつつも、琴音はそれに応じた。


「……聞きたいことがある。……神の因子は知っているか?」

「――!」


 琴音は、その言葉に驚愕した。"神の因子"――それは、琴音たちの身体に宿るもの。それこそが琴音たちの強さの要因であり、元々持つ遺伝子を強化している。それにより、西宮寺家の先祖である西洋人の金髪碧眼が今の今まで受け継がれているのだ。


「……はい、知っています。ですが何故、あなたがそれを?」


 琴音が知っているのは、承馬が卒業したとき承馬と一緒にそれを聞かされたからだ。だが、桂が何故知っているのかはわからない。だがそこで琴音は、桂の名字を思い出した。


「俺が"神藤"家の一人だからだ。神藤は、神の因子を入れられた一族の一つ。今回君に声を掛けたのは、この事を聞きたかったからだ。知っている証拠として……俺は、一段階覚醒している」


 その言葉に、琴音は驚愕した。覚醒という事象について、琴音は知識として頭に入っている。だが、実際に覚醒している者は見たことが無かったのだ。それ故に、琴音は更に興味が湧いた。


「……桂さん。私と、戦ってくれませんか」

「構わない」


 その申し出を、桂は断らなかった。自身の力に、絶対的な自信があるから。それに、この申し出を利用するつもりでいるのだ。


 ――そうして、琴音と桂の戦闘が始まった。勿論殺しや再起不能に繋がる攻撃をするのは禁止である。


 決着は一瞬。桂の勝利で、互いに怪我は無い。桂が能力で怪我が出ないように倒したからだ。


「……参りました」


 その言葉を聞いた後、桂は能力を解除して琴音を立ち上がらせる。


「俺には目的がある。その目的を達成するために、君を日軍第零課に……協力しあえる立場にするためにね」


 協力しあえる立場……そう聞いた琴音は、ある事を提案してみることにした。


「では……桂さん。一つお願い事があるのですが」

「何だ?」


 桂に催促され、琴音は言う。


「私たちは今、ピンチな状況にあります。両親と兄が死に、家の事情が厳しくなっています。家事は陽菜乃がしていますが、お金が足りません。……そこで、桂さんが私たちを金銭的に支援する代わりに、私が日軍第零課に入る――互いに協力しませんか?」


 その強かさと頭脳に、桂は思わず笑ってしまった。確かに、日軍第零課の指揮官である桂は、かなりの額を保有している。だが、それを頼むだろうか。少なくとも、それを頼めるものは少ないだろう。直球な「お願い事」に、桂は琴音は普通じゃないと思わせるには十分だった。


「いいだろう。だが、日軍第零課に所属するタイミングはどうするのだ? 軍人の教師になりたいならば、軍事大学に行かなければならないぞ」


 そう桂が問うと、すぐに琴音は答えを出した。


「考えています。今の高校を卒業した時です。軍事大学に通いながら、日軍第零課の仕事をします。……これで構いませんか?」

「――ああ、いいだろう。これからよろしくな」


 こうして、琴音の提案は成立した。父たちが残した遺産では少し足りなかったため、桂の支援のはありがたかった。


 ――そうして、桂の支援と父たちの遺産でやりくりをして生活を始めて一年。


 琴音に懐いてくる後輩が出来た。その後輩の名前は、如月刀華(きさらぎとうか)。よく琴音や陽菜乃と一緒にいて、仲良くしていた。


 琴音が高校を卒業して軍事大学に進学した時も、よく電話して関わっていた。自分も軍事大学に進学する――と言っていたのを、琴音はよく覚えている。あまり頭の方はよくなかったが、教師になれるのだろうか。琴音は刀華にそう言う印象を持っていた。


 ――そして大学に入学してすぐ、琴音は桂に意外な事を頼まれた。


「子守……ですか?」

「……まぁ、そうなるな」


 頼まれたのは、桂の息子――神藤一羽(じんどういつは)護衛(子守)。まだ四歳である一羽だが、その身に秘めた力は強大だ。世界で最高の才能を、その幼い身に持っている。


 一羽の弟である神藤明人(じんどうあきと)には、神藤家の使用人たちがついているため不安は無い。だが、そこに割いて一羽の護衛がいないという問題が起き、そこで琴音を起用したのだ。


 桂はしばらく家に帰れないようで、そのため家に襲撃があった時に対処が出来ない。使用人たちは確かに強いが、戦っている途中に一羽や明人を護れるとは限らない。そのため、琴音を加えて警戒を強めようと考えたのだ。


 ――琴音は一羽の子守をしていた時、いろいろ教えていた。一を教えれば十を理解する一羽が、何処まで理解するのか興味があったのだ。それだけでは無く、居るときは大体自分の後をついて来る。そして何よりも――。


(かわいい……!)


 ――幼くも端正な顔立ちであった一羽は、大衆の目にはかわいく映るだろう。それに正直であり、琴音の言うことに何でも従う。琴音の目には、それがとても可愛く見えていた。


 琴音が「お姉ちゃんって呼んで」と言ったときに、一羽が「お姉ちゃん! ……これでいい?」と言った時には、琴音の目には天使が見えた。


 琴音の家には陽菜乃(知ったようなガキ)(生意気なガキ)しかいないので、純粋な一羽は新鮮だったのだ。


 ――しかし、悲劇は再び起こる。


 一羽が六歳になった日、一羽を安全な場所に避難させるため西宮寺家に預ける事になった時。桂と琴音がアルヴァダ兵の殲滅のため、一羽から目を離してしまった。それが原因で、一羽がいなくなった。


 攫われたのか、何処かを彷徨っているのか、それとも死んだのか。……それすら、わからない。モヤモヤを残したまま、琴音は残りの大学生活を過ごした。


 ――そうして、卒業の日がやってきた。琴音は首席で卒業し、教員免許を獲得することが出来た。


 元々得意だったため数学を教えていたが、戦闘や軍事学も担当している。しかし、それ以外にも個人で教えていることがあった。


 "軍人としての生き方"――能力の使い方、依頼に行くときの心構え、普段の生活等様々。承馬たちの後悔を塗りつぶすように、それらを教えていたのだ。『軍人としての生き方を教える事』が目標だった琴音は、それだけで満足していたが、突然命令が下った。


 ――それは、軍事育成機関高校の新しい学校長となること。忙しくなるため最初は承認を渋っていたが、桂の言葉によって承認を決意。


 それからは学校の制度を変えて執行科(エンフォースメント)などの学科を設立したり、日軍第零課の依頼をこなしたりして更に忙しくなった。


 ――だが、琴音は後悔などしていない。


 何故ならば、未来を信じているから……。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――琴音は目を開け、時間を見る。経過していた時間は約30分……少し寝過ぎたなと思いつつ、琴音は校長室を出る。行く先は職員室。もうすぐ教員会議のため、行かなければならない。


(……來貴、信じてるからね)


 想いを残しつつ、未来へと向かった。

「西宮寺陽菜乃」って名前長いですよね。六文字ですし。次から第六章です。

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