107話「原初神」
――ドルナイトは、苛立っていた。何に対してか……と問われると、來貴とその憑き物たちである。
その憑き物の一人であるルシファーの妨害により、いつまで経っても來貴の魂から万物具現化の眼を奪えずにいた。自身の力を絶対的に信用していたドルナイトにとって、その事実は屈辱でしかない。
そのため、ドルナイトは無理矢理引き剥がそうとも考えていた。しかし、冷静な頭脳はその衝動を抑えていた。今殺してしまえば、魂ごと万物具現化の眼は消えてしまうから。
ドルナイトは今すぐにでも殺してしまいたいが、それを心の内に抑えた。
傲慢であるドルナイトは、自身の力が最強だと確信している。いつからそう思ったのは、自身でもわからない。ただ自身の目的の達成を、妨げる要因となっている來貴たちは許せなかった。
(万物具現化の眼を奪還せし次第、すぐに殺してやろう――結月來貴!)
決意を心の中に剥き出しにしながら、ドルナイトはあの牢へと行く。"そこ"は、來貴が囚われてい場所である。
――静かに、ドルナイトはそこへ入る。背後に、二人の騎士を連れて。青白い色に塗装された床を、ドルナイトは歩く。その足音を聞き、來貴はドルナイトたちの存在に気付いた。
來貴はドルナイトがいる方を見る。……そして、目が合う。ドルナイトは殺意を、來貴は鋭い目線を向けた。後ろの騎士たちは構えず、ただ一歩退いた場所で様子を見ている。
ドルナイトは殺意を冷たい眼に残し、右手を來貴に向ける。段々とドルナイトの存在感が高まり、その手から白と黒が溢れ出る。
それは渦の形を成し、一直線に來貴の元へ向かっていく。それは身体の中に入り込み、魂を侵食していく。中から何かを取るように、白と黒は蠢いている。白と黒の狙いは、その魂に宿る万物具現化の眼。
白と黒の魔力で魂を侵食し、能力を引き剥がそうとしているのだ。
そしてその状況がしばらく続き、ドルナイトは苦い顔を、來貴は余裕のある笑みを浮かべていた。
――そうして数分、ドルナイトはおもむろに手を下げた。それと同時に、來貴の身体から白と黒は消えていく。
「――また失敗だ。良い方法は無いものか……」
そう言い残し、ドルナイトは騎士たちを連れてその場を後にした。ドルナイトと騎士が出たと同時に、牢は閉ざされる。全てを通さぬように。
殺意を心に宿したまま、ドルナイトは自室へと向かう。騎士たちは何も言わず着いていき、自室に着く少し前に何も言わず去って行った。
――そうして、ドルナイトは自室の前に着いた。静かにその中に入り、扉を閉める。灯りもつけないまま、高級感のある椅子に深く座り込む。そして眼を閉じ、思考を集中させる。
考えるのは、來貴……の中に潜むルシファーの事。
來貴にジーレストを当て捕獲が成功したならばそれで良し、失敗したならば消耗した隙を突いて捕らえる。その全てはドルナイトとイマジュアが考案した作戦であり、全てが上手くいった。
しかし、予想外の事が一つだけあった。それこそがルシファーである。來貴にルシファーが宿るなど、ドルナイトとイマジュアでさえも予想していなかった事態だ。それに加え、ルシファーに妨害され能力奪還が上手くいっていない。
ルシファーをどう対処するか……ドルナイトは考えていた。
(……いっそ、結月來貴の魂に入ってしまおうか。その魂の内側に、万物具現化の眼とルシファーが宿っているだろう。能力奪還後、魂ごとルシファーを破壊……試してみる価値はあるか)
今日はやるべき事があるため、決行は明日だ……と決意を固め、ドルナイトは自室を後にした。
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暗闇の意識の中。ルシファーは目を醒ます。額からは汗が流れ出て、その様子からは疲れが見える。食らい地面に座り込み、息を吐く。ルシファーに呼吸など必要無いが、溜息もつきたい状況なのだ。
ルシファーが來貴の代わりに抵抗を始め、三日が経った。それまでの間、ドルナイトは不規則に訪れてきた。暇さえあれば来ていると、ルシファーは考えている。
そして……ドルナイトが居る間ずっと、万物具現化の眼を狙われた。そのたびに白と黒の魔力が成り代わったルシファーを蝕み、魂を削った。白と黒の魔力はルシファーよりも上位のもので構成された力だ。今は耐えられているが、いずれ限界が来るだろう。
その時には、魂は朽ち果て静かに崩壊していく。その前に、何とか此処を抜け出したい。そう、ルシファーは考えていた。
(いつまで持つか……「――」はもう無い。マサハスたちが助けに来てくることを祈ろう……)
ぼんやりとルシファーはそう思いながら、暗闇の世界を見上げる。当然、見上げた先には何も無い。その光景に何も思わず、胸に手を当てる。
手を当てた先にあるのは、ルシファーの魂。それはひどく歪になっていて、今にも崩れそうな形だ。來貴の魂は白と黒の魔力を受けても無事ではあるが、ルシファーの魂はただでは済まない。「悪魔」は「神」には勝てないのだ。
それを理解しているから、ルシファーは代わりを買って出た。今は休息を取り、時が来るのを待っている――――。
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來貴は、光りある世界の中でぼんやりとしていた。する事が無いため、暇なのである。魔力も既に回復し、能力も使える状態だ。しかし、何も出来ない。それ故この世界に閉じこもっている。
何も無いこの世界では、ボーッとする事しか出来ない。ルシファーとドールはおらず、今まで誰とも会っていない。特に何か感情を抱いているわけでは無いが、なんとなく話したいような気分であった。
そんな感じで過ごしていると、後ろから声が掛かった。
『……君は楽そうだね。僕は今、やっとまともに出歩けるようになった状態だよ』
「ドールか」
來貴が振り返った先にいたのは、やつれた様子のドール。腰に手を当てていて、やれやれと言った感じで來貴の隣に座った。隣に座ったドールを來貴は横目で見ながら、何をしに来たのかを問う。
「何しに来た?」
いきなりの問いかけに、ドールは苦笑しながら答える。
『そうだね……お喋りだよ。話題は、彼――ルシファーの事だ』
ドールは続けて喋る。
『彼は……無事に帰ってくると思うかい? いくら原初の悪魔とは言え、神の魔力をずっと食らい続けては無事ではいられないと思うよ』
確かに……と、來貴は思った。自分でさえも、あの魔力には太刀打ちできない。自分よりも強いであろうルシファーがどうかは知らないが、原初神は原初の悪魔よりも上。自分と同じようになっているだろうと……來貴は思っていた。
それに、一時的に表へ出ているルシファーはやつれているようである。精神から目を通して現実の世界は見ることが出来るため、そこからルシファーがそうなっているという情報を得た。
「……まぁ、いつか朽ち果てるだろうな。それがいつかは、俺にもわからないが」
來貴はそう返し、ドールは「そうだね」と言った。ドールの言葉通り、ルシファーは魂を磨り減らしている。このままでは、來貴が言うように朽ち果てる。
そんなわかりきった事を話してなんだ……と、來貴がドールに視線を向けた後、ドールが表情を引き締める。ようやく本題か……と來貴は、ドールの話を聞く。
『ルシファーが朽ち果てた後、君はあの"魔力"に耐えられるかい? ドルナイトは同じ手段を繰り返さないだろう。どんどん能力奪取の手段を改善してくると思うよ。……もし耐えられなければ、僕と君の命は終わる。助けが来るとも、限らないしね』
――静かに、來貴は聞いていた。ドルナイトは何回も、能力を奪おうとしてきていた。だが、その全てが失敗に終わっている。……そして、その手段も同じという訳では無い。
それを踏まえた上で、來貴は答えを出した。
「耐えられるさ。"家族"が待っている。だから――死ぬわけにはいかないんだ」
來貴の答えに、ドールは笑みを浮かべただけで何も言わなかった。しかし……険悪な雰囲気を流しているわけでは無い。寧ろ、気を許した級友のようになっていた。
『まぁ、頑張ってね。それが君の役目だから』
最後にそう言って、ドールは光に消えた。その姿を一目見て、來貴は光とは逆の方向へ歩いた。
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――ドルナイトはイマジュアとの用事の最中であった。その用事とは、これからの方針を決めること。今まではドルナイトが封印されて鳴りを潜めていたため、本格的に活動していくのはこれからなのだ。
「今我々が場所を把握している"神の能力"は、三つです。一つ目は、捕らえている結月來貴に宿る万物具現化の眼。二つ目は、中国・上海にある全ては零と無限。三つ目は、南極にある全知全能の因果。全知全能の因果は、既に確保班が確保していると連絡が来ています。現在、ここに転送中とも」
イマジュアの報告を聞いたドルナイトは、目を閉じ情報を整理する。更に、これらを踏まえてどう行動すべきか判断していた。
万物具現化の眼は、先程考えついた方法で明日強奪。全ては零と無限は、偵察隊を派遣。状況次第で、行く者を選定する。全知全能の因果は、こちらに来たとき取り込む。
そして他の神の能力は、神衛騎士団を神の能力の気配のある場所に向かわせる。ドルナイトが漠然と気配を感じた場所に、それを感知出来る神衛騎士団を向かわせるのだ。
最後に、來貴の救出に来るかもしれないため警戒を更に強化する。特に北の沿岸部。来る可能性があるとすればそこであるため、イマジュアを通して警戒するよう言っておこう。
考えを整えた後、ドルナイトは命令を下すため口を開く。
「万物具現化の眼は我に策がある、任せよ。全ては零と無限は、上海に偵察隊を派遣し状況を確認させるのだ。そして、状況を報告させ行く者を選べ。その判断はお前に任せる。全知全能の因果は、我の元へ送れ。他の神の能力は、今から言う場所に"ラオスト"と"ミラン"を向かわせるのだ」
「承知。では、彼らに言っておきます。それで、あの二人を向かわせる場所は何処ですか?」
イマジュアの言葉を受け、ドルナイトは説明をする。
「ラオストは、エジプトと北極だ。そこに、能力があるはずだ。ミランは、アメリカとカナダだ。最後に、ロシアに向かわせるのだ。あの国は広い。それ故、二人でやらせると効率がいいだろう」
ドルナイトが言ったことを一言一句狂い無く記憶し、術で伝達係の部下に連絡をする。その間は1秒も無く、同じく神であるイマジュアの力がうかがえる。
統制神は原初神が最初に創り出した神であり、その力と頭脳、そして手腕はドルナイトが一番の信頼と信用を置くほどである。
そのイマジュアが、この対面で初めて意見した。
「――ドルナイト様、結月來貴の救出のため悪魔たちの襲撃が来る可能性ですが。警戒を強めるだけで無く、海と空にも目を向けた方がよろしいかと。奴等は恐らく、行く手段と帰る手段を用意してくるはずです。それに加え、戦闘のため神衛騎士団のラオストとミランの派遣は襲撃の後にした方が良いかと」
イマジュアの意見を聞いたドルナイトは、どうするかを考える。確かに、襲撃が来る可能性があるなら、ラオストとミランは留めておいた方がいい。神衛騎士団は凄まじい戦闘力を持つため、戦闘にはもってこいだ。
それに、自分たちは易々と表に出るわけにはいかない。今は能力を失い、あまりまともに戦えるとは言い難いからだ。
――ただそれでも、簡単には負けないが。
「そうだな、まだ留めておこう。……イマジュア、他に懸念すべき点はあるか?」
ドルナイトはイマジュアにそう問う。イマジュアは逡巡し、他に何かあるか探る。数秒間考えた後、捻り出すように口を開いた。
「――結月來貴に注意してください」
予想外の言葉に、ドルナイトは眉をひそめる。そんなドルナイトを見ながら、イマジュアは話し続けた。
「あの者の魔力は既に回復しています。……何をしてくるか、予想が付きません。土壇場に力を引き出す可能性もあるため――」
「――だから、気をつけろと?」
途中で遮って返すドルナイト。その声には怒気が混じっているようで、威圧的だった。普通の者なら、怯えて腰を抜かすだろう。しかしイマジュアは、動揺も怯えもせず、肯定を返す。
「そうです」
その返事に、ドルナイトは「気に留めておく」と言った。
――その後、話すべき事が無くなったドルナイトたちはそれぞれの自室へと戻った。
イマジュアは半分だけ口を歪ませながら、ドルナイトは不気味に嗤いながら――――。
忙しくて投稿が遅れました、すみません。次も遅れるかもしれないため、ご了承ください。




