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真実と想いの業  作者: 神無月凍夜
第五章 大罪編
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105話「逢魔の時世」

 マサハス・ロンディーネは、ジョセフ・イニーガルと秘密裏に会話をしていた。その話題は、結月來貴がアルヴァダ帝国の兵に誘拐された事である。これは想定していた事態ではあったが、こんなにも簡単に誘拐されるのは想定外であった。


 來貴の近くには、マサハスとジョセフよりも強い桂がいる。大概ならば、対処出来るだろうと甘えていたのだ。しかし、現実はそう簡単にはいかない。その桂よりも強い兵が現れ、桂を倒して來貴を誘拐した。


 桂を殺さないのは、桂の立場を知っているからだろうか。それについて、マサハスとジョセフは考えないようにしていた。今、それは重要ではないからだ。重要なのは、別にある。


「……俺たち二人では、どうする事も出来ないだろうな。唯一人間で悪魔の選定を突破した者が、誘拐された。ただ事では済まされない。とりあえず、"イオネ様"には連絡を取ってある。もうじき、ニッポンにやってくるはずだ」

「そうか。……では、イオネ様たちの寝泊まりする場所を用意しておく」


 ジョセフの言葉に、マサハスが考えてから返事をする。そして、次の話題をジョセフが繰り出す。


「了解した。……次に、一応天使たちはどうするか考えるか」


 ジョセフが言ったことに、マサハスがそれなら――と言葉を被せる。


「――イオネ様が、天使たちにも連絡を取ったと先程聞いた。来るかどうかは知らないが、協力してくれるのならば、奪還するのは少し容易になるだろう」


 マサハスから繰り出された情報の数々を、数秒使って吟味すうr。來貴が連れ去られたのは、軍事機関にとっても悪魔にとってもマズい事である。


 何故ならば……來貴は、軍事機関にとって未来の最強と目される存在であり、悪魔にとっては"傲慢"を継承した者だからだ。そう簡単に、渡すわけにはいかない。軍事機関の幹部、高貴な悪魔という二つの立場を持つからこそ、わかった事実である。


 ――というより、ジョセフは情報を吟味していく中で、気付いた事があった。それも二つ。


「來貴の奪還は、確定事項か」


 呟くようにジョセフがそう言うと、マサハスが当然と言った感じで返事をする。


「ああ、当然だろう。結月來貴は最重要存在だからな」


 マサハスはそう言いながら、イギリスが一する方向を見やる。ジョセフもマサハスが見ている方向に、イギリスがあるとわかった。


 ――そして、それがどう言う意図であるのかもわかった。ジョセフは、もう一つ気付いた事を口に出す。


「いつ、イオネ様から連絡が来たんだ?」


 これである。ニッポンへ行くと連絡をしたジョセフではなく、隠れているマサハスに天使の事を連絡した。連絡するのなら、マサハスかジョセフのどちらかのみだろうと、ジョセフは思ったのだ。


「……お前が来る約5分前だ。その時に、イオネ様から『私たちの宿場を用意せよ。その場を拠点とし、"傲慢"奪還の作戦を練る。それと、天使たちの宿場もだ。協力してくれと連絡したが、何が目的で来日するかは知らない』――と来た。オレに連絡が来たのは、伝手の問題じゃないか?」


 連絡の内容は、把握した。奪還すると断言したのは、これが要因であると考えながら。彼が奪還を計画しているならば、マサハスとジョセフはそれに従うのみである。


 ――そして、マサハスの口から飛び出てきた発言に疑問を覚えた。


「……俺にも、伝手はあるつもりだが」

「いや、それじゃない。お前にも伝手があるのはわかる。しかし、それは軍事機関の軍人だろう? お前は悪魔の部下を日本に連れてきていない。……オレは二人だけだが、その二人にも多くの伝手がある」


 ジョセフの「伝手」とマサハスの「伝手」は、種類が違う。マサハスに連絡した理由は、軍事機関と繋がりが無いからだ。ジョセフは軍事機関の幹部であり、軍人との繋がりは多い。変に行動をして、自分たちの事を探られるのは避けたい。


 そのため、マサハスに連絡した。……ただ、日本に行くと言う事は、両方に連絡をした。これは伝えておかないと、後々困ってしまう可能性があるからだ。


「――イオネ様たちを待つか。後の事は、それから決めよう」

「ああ。そうするよ」


 またな、と最後に言って、ジョセフは帰った。マサハスは、西の方角を少し見てからジョンの家に戻った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 悪魔の中で、最強と謳われる存在。悪魔戦士団(デモンズウォーリア)団長であり、悪魔たちを率いる者――イオネ・ロヴネーヴァ。かの悪魔は、十数名の精鋭を連れて日本へ来日した。


 来日してすぐ三つのグループに分かれ、目立たないように行動している。


 そして、来日してすぐマサハスに連絡を取った。目立たないようにしているが、軍人に見つかりたくないからである。さっさとマサハスたちと合流して、奪還の作戦を練りたい。


 ――それから別々に行動し、最終的に合流して今は森の中に潜み、マサハスの返事を待っている。待つこと数分、返事が来た。


『案内します。今、イオネ様の近くに居ますので』


 その連絡をイオネが見た直後、スッとマサハスが現れた。イオネと一言二言交わしてから、マサハスが先頭に立って歩き始める。


 そして、静かに東京の中に消えていった――――。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――――一方、日本へ来る影がもう一つ。"アギエル・エーゼリオン"率いる天使たち十数名である。中には選別の天使もおり、どうやら協力だけが目的では無いようだった。


 別々に行動はせず、気配を絶って目立たないようにしている。


「――行くぞ。我々は、目立ってはならない。既にイオネと連絡は取ってある。返事が来たら、すぐに向かう」


 アギエルの言葉に、天使たちは無言で頷く。そして、空港を出て返事を待ちながら歩き回る。


 周囲の人間の品定めをしながら、アギエルたちはイオネの返事を待ち続ける。遅いなと考えつつも、別の事を考えて時間を潰す。


 ――そうして歩き回ること十数分。イオネから連絡が来た。


『今から迎えに行く』


 という一文の内容。それをアギエルが見た直後。スッと、マサハスとイオネが現れる。


 一言二言言葉を交わしてから、アギエルたちはマサハスとイオネに着いていった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 イオネたちとアギエルたちは、日本の地に集った。エオとジョンが見つけた廃村の広場で、悪魔と天使たちは会議を始めようとしている。


 今会議の場にいるのは全員ではなく、その一部。悪魔側はイオネとマサハス、そして高い立場の悪魔が二人。天使側は、アギエルの他三人の天使。


 合計、8名である。その全員が張り詰めた空気を醸し出しており、これからの会議は真剣なものになると誰もが予想した。


 ――そして、始まる。聖と邪、混沌の災禍が。


 早速口を開くのは、イオネである。


「今回呼んだのは、知っての通り"傲慢"の継承者――結月來貴がアルヴァダに攫われたからだ。結月來貴は最重要存在だ……そう簡単に取られるわけにはいかない」


 言い終えたイオネの顔は、明るいものでは無かった。端正な顔にある眉間にしわを寄せ、茶色の髪が金色の瞳に掛かっている。質素な白シャツと黒のズボンにも皺があり、それはイオネに余裕が無い事を表していた。


 ――イオネは、かつての"堕神大戦"に参加していた。そこで、原初の悪魔(オリジン・デーモン)の力を目の当たりにしている。だからこそ、傲慢の力が必要だと分かっているのだ。


 アギエルたちはイオネの話を聞きながら、情報を整理する。


 誘拐された悪魔の名は結月來貴。"傲慢"の能力を継承している。そのため最重要存在であり、奪還する……全ての情報を整理し終えたアギエルは、質問をするため口を開いた。


「……その結月來貴という者は、本当に"傲慢"を継承しているのか? 継承していないならば、助ける価値はないと思える」


 アギエルの質問は、至極当然のものだった。本当に、來貴が傲慢を継承しているのか。実際に報告が来たマサハスとイオネとは違い、アギエルは知らない。継承したと断言出来なければ、アギエルたちは協力しないだろう。


 それに、アギエルも500年前の堕神大戦を経験している。原初の悪魔(オリジン・デーモン)原初の天使(オリジン・エンジェル)の力も知っているのだ。だからこそ、本当かどうかを確かめるべきだと考えている。


 ――アギエルが、イオネの方を見る。その青色の瞳は、イオネの顔をしっかりと見据えていた。銀色の長い髪を風が揺らし、重たい雰囲気を運ぶ。


 静寂が、場を支配している。音が発すれば、自然とそこに注目が行くだろう。


「ああ、継承している。マサハスはルシファー様から報告を聞き、我は繋がりから報告を受けた。……結月來貴が傲慢を継承しているのは本当だと、我は断言出来る」


 その言葉を聞いたアギエルは、目を閉じる。数秒後に目を開け、言葉を発した。


「――その言葉、信じよう。私たちも、"傲慢"奪還に協力する。……ただ、別の目的もあって日本へ来た。それを邪魔しないと、契約出来るか?」


 抜け目が無いな……とイオネは思いつつ、どうするか考える。数瞬の思考の内、最善であろう手を考えついた。


「了解した。ただ、軍事機関には手を出すな。それを契約の一つに加えられるならば、成立させよう」


 協力を要求したのはイオネであるが、それを意に介さない態度。相変わらずだとアギエルは思いつつ、返事をする。


「――わかった、ここに契約は成立した。……さて、続きをしよう。奪還するならば、まずは状況を知りたい。私とて、何でも知っているわけでは無いからな。教えてくれるか?」


 アギエルの要求に応えるのは、マサハスである。一番來貴の状況を知っているのは、第三の選定の悪魔として関わっているマサハスだ。そのため、答えろとイオネが目線で指示をしたのだ。


「――結月來貴は今、覚醒の反動で能力を使えない状態です。アルヴァダ兵と戦い、その結果覚醒してルシファー様が宿りました。恐らくその状態を狙い、誘拐されたと考えています。……そして、誘拐された要因にもオレは検討がつきます」


 マズい状況だな……と、アギエルが呟いた。來貴が置かれているのは、能力を持っているのに能力が使えない状態だ。そんな状態を狙われれば、イオネやアギエルだって凌ぐのは難しい。


 いくら世界一の天才であったとしても、経験が圧倒的に勝る者に不平等条件では勝てなかった。


 傲慢が失われれば、今後起きるであろう戦争に不利となる。勝つためにも、助け出さねばならないと誰もが考えている中……アギエルは、冷静にマサハスの発言で気になった部分を聞く。


「誘拐された要因に検討がつくようだが、それは何だ?」


 これは、イオネも気になっていたことである。マサハスは、"それ"を誰にも言っていなかった。問題しか無い事であるため、来たるべき時が来るまで放置していたのだ。そして、それは今だと言えるだろう。


 マサハスは、間違いなくこれが原因だと思っている。聞いたならば、誰もがそう思うだろう。何故ならば――――。


「オリケルスから聞いた話では、結月來貴は万物具現化の眼リアライゼーション・アイを保有しているとの事。この神の能力を狙われて、アルヴァダ帝国に誘拐されたかと」


 ――――そう、來貴は神の能力の保有者でもあるのだから。


 一瞬、場が固まった。それはそうだろう。数あるパターンの中で、想定し得ない最高で最悪のパターンが来たのだから。神の能力は、持っているならばとって大きな力になる。ただそれは、持っているならばの話だ。


 今その保有者である來貴は、アルヴァダ帝国に誘拐されている。今行われているのは、來貴の魂からその能力を剥がす実験だろう。それが終われば、來貴は殺される。それは、傲慢が彼方に消える事を意味する。


 なんとしても、防がなければならない事態だ。


 そして、アギエルとイオネは我に返り冷静に分析をする。


「うん、間違いなくそれが原因だろう。……ならば、一刻でも速く奪還及び救出をしなければならないな。まず考えるべきは、行きと帰りの手段だ。翼で飛ぶのも良いが、帰還時にガス欠なら飛べない。どうするつもりだ?」

「ならば、潜水艇を用意させる。勿論、最上級のものをだ。それで問題ないだろう」


 潜水艇――イオネが用意するそれならば問題ないかと、アギエルは次の問題を提示する。


「では、これが一番の問題だろう。……結月來貴をどうやって見つけるか、だ。まず、容姿を知っている者はいないか?」


 アギエルの問いに、マサハスが答える。


「身長は約185cm、銀灰色の髪に金と紫の瞳を持ち、とても端正な顔立ちです。……かなり目立つので、見ればわかると思います」


 マサハスから言われた來貴の特徴を頭の中で反復し、一瞬のうちに覚えたアギエル。他にいる天使たちに、覚えたかと聞き、全員から覚えたと返事が返ってきたため、次に進める。


 イオネも、他の悪魔たちに覚えたかを聞く。全員覚えたと言ったため、アギエルの話を聞く体勢に入る。


「これで、見たならばすぐに判別できるようになった。……問題は、何処に囚われているかだな」

「……そうだな。我々は、アルヴァダ帝国の構造を把握しているわけでは無い。この問題は、じっくり考えるとしよう。先に考えるべきは、アルヴァダ兵たちとの戦いだ」


 いくら考えてもわからない問題を後回しにし、それと同じくらい大きな問題を提示する。


 ――アルヴァダ兵との戦い。有象無象の十字大隊軍(サザンクロス)や、それに毛が生えただけの強さである造人尖兵軍(マスプロソルジャー)、そして自分たちの劣化である聖邪闘鋭隊(カオスエージェント)


 この三つは問題ない。この場にいる者たちならば、一瞬のうちにして屠れるだろう。


 問題なのは――。


神衛騎士団(ゴッドクルセイダース)……か。あれ程の奴等とやり合うのは、我らでも厳しい」

「そうだな……一対一なら勝てるが、複数相手は厳しい。それに……ドルナイトたちが来る可能性もある。……神には、今の私たちでは勝てない」


 溜息をつきたくなるほどの戦力差である。


 神衛騎士団(ゴッドクルセイダース)とは、アルヴァダ兵の中の精鋭中の精鋭。その数は、十名――いや、一員であったジーレストが殺されたため九名である。その者たちは人間だが、全員が一段階以上覚醒しているという怪物集団だ。


 それに加え、与えられた力と自身の力を使いこなしている。そこら辺りの者とは、格が違う。


「――できるだけ見つからないようにして、奪還して即帰還……しかないだろうな。それもアルヴァダの技術じゃ厳しいが……やるしかないな」


 イオネの言葉に、アギエルは頷く。問題をあらかた解決し終えたところで、イオネは会議を終了させる。


「では、今回の会議はこれで終わりだ。問題はまだあるが、追々解決していくしか無い。……今は、出来ることをしよう」

「そうだな。その内、解決策も見えてくるだろう」


 イオネとアギエルの言葉に、了解と返す悪魔、天使たち。


 そして、それを最後に廃村から影は消えた。

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