103話「不意に訪れる――」
超展開となり始めます。
家に向かって歩を進めていながら、スマホを片手に凜姉に連絡をしていた。帰る前には連絡をしろという、凜姉からいつも言われていることだからだ。
親指で、「今から帰る」と打つ。そうして数秒、すぐに「わかった。待ってるね」と返事が来た。俺はスマホを仕舞い、視線を前に戻す。空は暗くなり始め、光りが消え始めている。周りに家は無いため、設置された灯りだけが道を照らしていた。
――そんな中、俺は気配を感じた。家を出てから感じていたが、その数は数人。しかし、俺は歩みを止めない。その正体が、既にわかっているからだ。それ故、俺は無視している。
ここから家まで遠いので、着くときには時間が経っていそうだな――なんて、考えながら。
歩いて、十分ほど。神藤の家がある地を抜け、町に出た。神藤家は山の奥にあるため、そうそう見つからないし行くのが面倒なのだ。
それに、結月家とは隣の町にある。それも相まって、遠くて行くのに時間が掛かった。途中から屋根の上を走ったのは、そのためである。今の自分の身体能力を確かめたかったのもあるが。
町に入った途端、気配の数が増えた。
(――これは厄介だな)
この気配は、少々面白くない。俺は足を止め、後ろを向く。そして、口を開いた。
「いるのはわかっている。出てきたらどうだ?」
――途端、前方から迫る刃。俺はバックステップで躱し、その相手を見据える。
整えられた軍服に、光りの無い目。その手には、一振りの刀を持っていた。間違いなく、アルヴァダ兵である。
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そのアルヴァダ兵が攻撃したのをきっかけに、ぞろぞろとアルヴァダ兵が出てきた。來貴はその数を数えながら、アルヴァダ兵たちの強さと目的を分析している。
(まぁ、目的は俺のだろうな……狙うならば、魔力の無い今のタイミングが最適なのはわかる。だが何故、ジーレストよりも弱い兵たちを複数寄越してきた? 捕らえる目的なら、アレより強い者を寄越すはずだ。……いや、俺が消耗した後に来ると言う可能性も考えられる。周囲には、常に注意しておかないとな)
考えを纏め、來貴は身構える。既に、アルヴァダ兵たちは來貴に接近してきていた。先程のアルヴァダ兵から繰り出される突きと斬撃を躱し、回し蹴りを頭に叩き込む。
頭が吹き飛び、丁度その先にあった電柱に叩きつけられる。直後、首の無い身体は力無く倒れた。その衝撃で血が道路に撒き散らされ、來貴とアルヴァダ兵の間が紅く染まる。
その瞬間――生きているアルヴァダ兵たちは、時間が止まっているように感じた。來貴はそんなアルヴァダ兵たちを尻目に、死んでいるアルヴァダ兵から刀を奪い取る。そこでようやく、アルヴァダ兵たちは動き始めた。
しかし、その時にはもう遅かった。來貴はアルヴァダ兵の後ろに回り、攻撃しようと肉薄する。アルヴァダ兵も後ろの來貴に気付き、仕留めんと再び攻撃をした。
斬撃、発砲、能力――その全てを回避、防御する。以前よりも大幅に上昇した身体能力に、來貴は驚愕しつつも反撃を開始する。一人一人の首を斬り落とし、心臓を突き刺す。
――アルヴァダ兵たちは悲鳴を上げる暇も無く、次々に命を散らしていった。
道路には鮮血がこびりついているが、來貴にその鮮血はついていない。
斬撃と刺突の速度が極まっていたため、返り血が着く暇が無かったのだ。來貴は刀の血を払い、周りを見渡す。そしてある方向を見て、声を掛ける。
「……いるんだろ、隠れてないで出てこいよ」
來貴がそう声を掛けると、ある人物たちが出てきた。
「……これ程までか。さすがだな……俺たちが出る幕も無かった」
出てきたのは、桂だった。他にも、比謝矼と鮮花がいる。ただ、琴音と明人は神藤家宅にいるが。
そして、その目的は來貴の護衛。襲撃してくるかもしれないアルヴァダ兵の魔の手から、來貴を護るためである。ただ、全員を連れて行くわけにはいかない。桂だけでは手が足りぬと思い、その秘密を知っている比謝矼と鮮花を連れてきた。
ちなみに琴音と明人は、明人が狙われる可能性があるので琴音は護衛として家に留まっている。他の使用人にも、侵入者には注意せよと言っていた。そのため、來貴の護衛は三人で行っているのだ。
「いる目的は俺の護衛か。……まぁ、狙うなら覚醒しているとは言え能力の使えない今だろうな。まだ来る可能性もあるから、警戒して――――」
來貴が言いかけていた言葉は、最後まで発せられることは無かった。
上空から突然、魔力の塊が飛来してきたからだ。來貴はそれを躱して桂の方に近づき、先程までいた場所を見る。
その場には、クレーターが出来ていた。
「これは躱すか。まぁ、一段階覚醒している事はある」
そう発言したのは、上空に佇む一人の男。アルヴァダ兵と同じような軍服を纏っているが、その特徴の一部が他とは違う。それがまるで、他の兵と一線画しているようだった。
そのアルヴァダ兵――いや、"仮面の騎士"が地面に降り立つ。その手には、かつてと違い太刀を構えて。桂は一目で、あの時戦ったアルヴァダ兵と同じだと分かった。太刀を持っている等の違いはあるが、仮面と風貌は全く同じである。
桂は來貴を比謝矼と鮮花に預け、一人その騎士に肉薄した。
「一人で向かってくるか。まぁ、妥当な判断だ」
桂はここで仕留めると意思を固め、瞬時に刀を一閃する。だが当然の如く、太刀で受け流された。桂は一端距離を取り、目線で來貴たちに逃げるよう促す。比謝矼と鮮花はすぐにその意図を読み取り、來貴の手を取り一目散に走り出す。
しかし、騎士の仮面の裏は変わらない。ただ無表情に、桂と剣戟を繰り広げている。そして、突然その合間に声高々に言う。
「――兵たちよ! 目標を捕らえろ!」
突然の発声に、桂の手は一瞬だけ止まる。その隙を突き、騎士が刺突を繰り出す。桂はすぐ我に返り、騎士の刺突を躱した。
一方來貴たちは、騎士の叫びを気にせず走っていた。
――しかし、次々と現れる気配には戸惑いを隠せずにいる。周りを見渡しながら、新手のアルヴァダ兵であう追手を撒くため神藤家宅とは違う道へと行く。この辺りの地形は把握しているため、行き止まりや追い詰められないような道へと素早く入り込む。
だが、簡単に撒くことはできなかった。後方、前方、上方、左右。四方八方から迫るアルヴァダ兵たちから、比謝矼と鮮花は來貴を逃がす事は叶わなかった。途中で追いつかれ、戦闘が始まった。
來貴の誘拐に集ったアルヴァダ兵たちは、騎士以外全員が聖邪闘鋭隊である。数人程度なら、三人で全て殺戮出来ただろう。だが、十数人以上いるならば話は別だ。
比謝矼と鮮花では対応出来ないし、來貴は魔力と能力が使えないため勝つのには時間が掛かる。それに、奪った刀もそこらに捨てていた。
――比謝矼と鮮花は、数人を相手を相手取っている。來貴も、数人を相手にしていた。
比謝矼も鮮花も能力を使い、全力で相手をしている。來貴は一般人同然の状態だが、身体能力はこの場では一番高い。それを生かし、上手く相手をしていた。
比謝矼はブレードと拳銃、鮮花は二本のナイフ。その武器を構え、能力を使用する。能力の乗せた一撃では、精鋭は斃せない。それどころか、相手の攻撃が当たりそうになる。時間が経てば経つほど、來貴たちが不利になるのは明白だった。
そうして数分――十数分、戦闘が続いた。そして今、その戦いが終わろうとしていた。今この場に立っているのは來貴と六人のアルヴァダ兵だけであり、比謝矼と鮮花は倒れている。死んではいないが、しばらく動ける状態では無さそうだ。
比謝矼と鮮花は、六人のアルヴァダ兵を斃した。そして、倒れた。立っているアルヴァダ兵は、來貴を捕らえる目的を優先したため戦っている。騎士に与えられた命令は、比謝矼と鮮花を殺すことではない。來貴を捕らえることが、与えられた命令なのだ。
自分の意思でそう判断し、來貴を捕らえるために動いている。
今は距離を少し開け、來貴を囲むような位置取りにある。これでは簡単に逃げられないため、來貴もその場に留まらざるを得なかった。そのため、來貴は周囲を睥睨しながら少しずつ距離を取っている。
――そして、アルヴァダ兵全員が來貴に接近した。來貴は空中に跳び上がって距離を取り、壁を走って包囲から逃れる。そして倒れている比謝矼から拳銃とブレードを取り、発砲。
弾丸が三発しか残っていなかったため、三人しか殺す事が出来なかった。残りは三人。その程度ならばなんとかなるだろうと、來貴は比謝矼の拳銃を前方に投げ捨てる。それにより、迫る銃弾の軌道が逸れた。
そして、來貴は距離を詰めてブレードを振るう。
ギィンッ!!
響く金属音。アルヴァダ兵の刀と來貴のブレードが当たった音だ。來貴が直線的な動きをすると予測出来たため、反応する事が出来たのだ。
その拮抗は十秒以上続く。緊迫している状況の中で、ある声が響いた。
「――ここまで、よく時間を稼いだ。褒めてやるよ」
それは、聞き覚えのある声だった。いつ頃だったのか……それは、数十分前である。來貴が、声のした方向を見た。來貴と切り結んでいたアルヴァダ兵は、いつの間にか少し距離を取っていた。
――いたのは、やはり"騎士"だった。桂と戦っていた、その騎士である。
「君の父は、向こうで倒れているよ。まぁ、諸事情によって殺せないから、死んではいないけど」
仮面を被った騎士は、桂が倒れている方向を見やる。すぐに視線を戻したが、來貴はその視線の先が、数十分前に居た場所だと気付くことが出来た。
來貴はブレードを両手で持ち、剣先を騎士に向ける。その構えは、來貴が戦う意思があることを示していた。
「……へぇ、戦うか。まぁ、長くは続かないと思うけどね!」
騎士が來貴の後ろに回り、正拳突きを放つ。來貴はブレードで受け止めたが、大きく飛ばされる。続けざまに繰り出された蹴りが脇腹に命中し、民家の壁に激突した。痛みを堪えて來貴は立ち上がり、ブレードを構えて騎士に肉薄する。
次々に繰り出される斬撃と刺突を、騎士は魔力を流した太刀で受け止める。大きく振りかぶって攻撃しようとしたところで、腹部を蹴って体勢を崩させる。
しばらく立ち上がれなくなったところで、首に手刀を下ろす。
來貴は気絶し、比謝矼のブレードを手から放した。騎士は來貴を抱え、生きている兵たちに「帰るぞ」と言った。
――そして、騎士たちは夜に消えた。この日は、曇りだった。
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「――クソッ、連れて行かれた……!」
桂は、既に立ち上がっていた。走って來貴たちの行方を探していたところで、來貴を抱えた騎士が消えていくのを目の当たりにした。
――ひとまず桂は、比謝矼と鮮花が無事なのかを確認することにした。数分探して発見出来たが、二人とも倒れている状態だった。起きるまで待とうかとも思ったが、時間が無い状況となった。一刻も早く、來貴を取り戻さねばならないのだ。
桂は二人を担いで、走って神藤家宅に戻った。ちなみに放置された武器は回収した。それからは、二人をベッドに寝かせて陽子と琴音と明人を呼ぶ。
――琴音たちは、桂からの呼び出しとその内容を受け急いで向かっていた。來貴が誘拐されたと言う……その内容の重要さに焦りを感じながら。家の廊下を端居r、桂が指定した部屋に向かっている。
走ること数分――桂が指定した部屋に到着した。
行きが少し切れながらも、琴音たちは椅子に座る。桂は琴音たちの呼吸がトと脳をを待って、話を切り出した。
「……來貴が誘拐されたと言うのは、わかっているな? まず誘拐したのは、やはりアルヴァダ帝国の手先だった。そして、その中には俺より強い者もいる。完敗だった。攻撃を全ていなされ、見事に気絶させられたよ」
桂の発言の意味を悟った琴音たちは、険しい表情をしながら質問を繰り出す。
「……追いつけないのですか?」
質問したのは、琴音だった。そして、桂はその問いに静かに首を横に振る。
「俺の目の前で、連れて行かれる様を目の当たりにした。その時に使ったものは、あの時に俺と琴音に使われたものと同じものだと考えられる」
その答えに琴音は納得し、考えを巡らせる。
(――まさか、桂さんよりも強い人がいるなんてね……考えていた事だけれど、もし攻め込まれたら勝てる見込みは……)
琴音はそこで、違和感を覚えた。
それ程までの戦力を持っているのにも関わらず、何故攻め込んでこないのか。桂を上回る程の戦力が多くいるのならば、桂が最高戦力である日本は容易に潰すことが出来る。
単に興味が無いだけなのか。或いは、攻め込めない理由があるのか。攻め込んでこないのならば、どちらでも構わない。ただ、來貴の誘拐と関係がありそうだと熟考した。
静かな空間の中、スマホの通知音が鳴り響いた。
「――今、比謝矼と鮮花が起きたと報告が来た。起きてすぐで申し訳ないが、以前琴音が持ち帰った"あの機械"について持って来てもらっている」
桂は、遠い方を睨みながら言った――――。




