102話「不可解な事」
來貴たちは、昼食を取るためにリビングへと来ていた。そのとても広いリビングでは、神藤家の使用人たちが全員分の昼食を作っている。ちなみに、陽子は手伝っていた。
使用人の人たちだけに作らせるのは申し訳ない――と言う理由で。いつもの事なので、使用人たちは気にせず作業をしているが。
食卓に料理が着くまでの間、來貴と明人と桂は話をしていた。
「――巻物は、もう一つある。そこに覚醒やら何やら記されてあるが、それは昼食を食べた後だ。……先程は説明するタイミングを逃して、何も喋れなかったからな」
桂は頭に手を当てながら言う。そして、そこからは他愛の無い話をした。先程までの雰囲気を、紛らわすように。
――そうして数分、昼食が出来上がった。來貴たちは、七人で食事を取っていた。來貴、明人、桂、陽子、琴音、比謝矼、鮮花である。使用人である比謝矼と鮮花がいるのは、知っている者として話がしやすいからだ。
合掌し、昼食を食べ始める。最初の方の会話は、和やかな内容であった。來貴も桂も、覚醒しているため腹は減らない。だが、身体の構造が変わっているわけでは無いので味は感じる。
勿論、昼食がマズい訳がない。陽子と使用人たちの腕は、そこらのプロよりも上であるのだ。來貴と桂も、美味しいと言っていた。
しかし、途中から一般人には話せない内容になった。元々、そう言う内容を話すためにこうしたのだ。そう言う話になってしまうのは、必然だっただろう。
「――西宮寺家も、神の因子を入れられた一族の末裔だ。ただ、その神の因子の量は神藤家よりも少ないがな。他で言うと、紫﨑家と帝家もだな。ただ……その辺りとは西宮寺家のように話せていない。家の場所が遠いのもあるが、西の管理と北の管理を任せている。忙しいんだ。俺も、日軍第零課指揮官という立場にある。時間を作る余裕が無いんだよ」
今は、來貴が桂に他に神の因子を入れられた一族はいるのかと問いかけていたところだ。
紫﨑家と帝家と言う一族も、神の因子を取り込んでいる。紫﨑家に関しては、來貴はそうだと予想出来ていた。紫﨑家には、兇介がいる。兇介は、15歳になる前に能力の全てに耐えられていた。それに耐えられると言う事は、ただの人間では無いと言う事。それ故、予想が出来ていた。
しかし、まだいるとは思わなかった。神の因子に耐えられる人間は、そう多くは無い。桂の話から、それはわかっていた。だから、神藤・西宮寺・紫﨑の三つだと來貴は思っていたのだ。帝という家系がなんなのか、來貴は知らない。関わりすらも無い。しかし、関わりも無く会うことも無いだろうから、考えなくてもいいと來貴は思った。
――紫﨑家は、西を管理している。正確には、京都にある軍事機関京都支部の事であるが。そこの長は、紫﨑玄造。兇介の父である。軍事機関支部は、文字通り軍事機関の支部。京都支部は、京都から西の秩序を保っているのだ。そこの長である玄造は、当然忙しい。
会議の時に会うことはあるだろうが、プライベートでは殆ど会うことも無いし会えない。それ故、神藤家とは関わりが無かった。
――帝家は、北を管理している。正確には、北海道にある軍事機関札幌支部の事であるが。そこの長は、帝尽。札幌支部は、北海道全域の秩序を保っている。そこの長である尽も、当然忙しい。それ故に、会うことも無い。
そのため、神藤家は神の因子を持つ一族の中では西宮寺家としか関わりは無かった。
では何故、どうやって西宮寺家と関わったのか。次の來貴の疑問は、それである。
「……大体分かった。じゃあなんで、西宮寺家とはこう言う関係になっているんだ?」
――そして、新たに西宮寺家との関係を問いただした。
先程神藤家に遺された巻物の内容を來貴と明人に説明しているときも、琴音はいた。ただ、端に立っていて椅子に座っていなかったが。それについては、桂がそうしたのでは無く琴音がそう申し出たからである。
「――西宮寺家との関わりは、前からあった。数年前とかそんなもんじゃなくて、俺が生まれる前からだ。その時から、巻物の内容を共有等をして協力関係にあった。神の因子を持つ一族として、助け合っていこうってな。……俺と琴音の関わりも、その協力関係で生まれたものだ」
なるほど、と來貴は心の中で呟いた。そして、思考を巡らせる。
桂が生まれる前、その祖先は何故協力関係を取ったのか。その目的を、來貴は知りたかった。しかし、桂の口振りからして知らないだろうと判断し、目的を聞くのは止めた。
(……父さんは、赤真七透咢に真実を問いただしたい……と、考えているようだ。ただ、不可解な点は幾つかある。神の因子を持った一族の者が、どうやって死んだのか。寿命以外では、他殺しかないだろうな。そして何故、この存在が周りに知られていないのか。広められていない……で片付けられるわけが無い。噂程度には、広がってもおかしくないだろう)
來貴は目を閉じる。そして、一番の難点を考えた。
(そして、赤真七透咢がどう言う存在なのか。これが一番不可解だ。もしドルナイトと繋がっているならば、どう言う経緯で繋がったのだろうか。それに……何をしようとしているのかが気になる。他にも、今までやってきたことだな。……それ次第で、対応は変わってくるだろう)
――そして、昼食を食べ終わる。
食べ終わった後、その食器は全て比謝矼と鮮花以外の使用人が片付ける。來貴たちは、再び部屋に戻っていた。
鮮花がもう一つの巻物を持ってくるまで、來貴たちは無言でただ待っている。部屋には既に、重々しい雰囲気が漂っていた。そして、その雰囲気を全員が感知している。
この場にいる全員が、まだか――と、鮮花の到着を待っていた。
そんな雰囲気の中、それを斬り裂く音が響いた。
「――旦那様。巻物を持って参りました」
鮮花の声は、静かだった。しかし、その声は部屋の中にいる全員に聞こえている。桂は鮮花に向かって「入れ」と言う。その返事を聞いた鮮花は、失礼しますと言って部屋に入った。
部屋に入った鮮花は、無言で机の上に巻物の入った箱を置く。そして、扉の近くに控える。
「……さて、続きを話そう。この巻物には、覚醒や他の事に関して記されている。当然、お前たち以外のこの部屋にいる者はその内容を知っている。まぁ、前置きはいいか。早速見せよう」
桂は、早速箱を開封する。中に入っているのは、勿論神藤家に遺された巻物である。ただ、一つ目のものとは色が違っているが。
その巻物には、筆記者『神藤泡妖』の名と"覚醒について"・"神の因子によって起こる影響"・"忠告"と言う項目の内容がある。
桂はまず、"覚醒について"と言う項目を開く。そして、その内容を來貴と明人に見せる。
來貴は一部を除いて流し読みしていたが、明人は一つ一つ丁寧に見ていた。
覚醒について。覚醒とは、この世の理を外れることだ。その条件は、一定以上の強さを持つ存在が、何かを強く渇望しながら身体を巡る聖邪の力を魂に込める事。覚醒する事によって、神の領域に『近づく』事で世界の常識から外れ強くなるのだ。
ここで言う聖邪の力とは、"聖純"・"邪悪"の事である。私もこれ以外の事は詳しくしらないため、詳しくは記せないが。
そして覚醒は三段階あり、私は二段階覚醒している。神の因子を手に入れてから、数十年間鍛錬し続けた結果だ。他の神の因子を持つ者も、最低でも一段階は覚醒している雰囲気ではある。正確にはどうなっているかわからないがな。
覚醒の恩恵は、段階ごとにわかれている。一段階目は、寿命が一万年以上となるのに加え食事の必要がなくなる。二段階目は、呼吸と睡眠が必要無くなり、寿命が大きく延びる。三段階目は、世界に留まるのに肉体が必要無くなり、不老不死となる。
この全ての恩恵は、理を外れることにより得られているそうだ。ただ、身体の構造が変わっているわけでは無いので、食事も取れるし呼吸も出来る。睡眠も、必要無いが擬似的な事は出来る。
他にも、魔力の増量や身体能力の向上、能力の出力増大の効果もある。これは覚醒により純粋に強化されたものだ。
そして、覚醒した者としていない者の間には"壁"が出来る。要は、格が違うのだ。それ故に、覚醒していない者は覚醒している者に勝利する事は無い。
――そこで、最後だった。來貴が見ていた部分は、最初の聖邪の力の部分と神藤泡妖が覚醒していたと言う事実の部分のみである。対して明人は、隅から隅まで頭の中に刻みつけるように見ていた。
桂は來貴と明人が全部見たと確認したタイミングで、その二人に話しかける。
「……來貴、明人。覚醒について、どう思った?」
その問いかけは、非常に単純。先の内容の、感想を言えばいいだけなのだ。來貴が答える前に、明人が口を開いて答える。
「……世の中には、まだまだ上があるんだって実感したよ。ただ、よくわからない部分がまた出てきた」
「……そうか。來貴はどうだ?」
桂にそう問われ、來貴は口を開く。
「どうも無い。俺は、その事実を知っているからな。神藤泡妖が二段階も覚醒しているのには驚いた。それと明人も言っているように、不可解な部分がある」
來貴と明人は、持っている知識の違いで感想は違った。ただ、二人ともこの内容と現実には不可解な部分があると気付いていた。
桂は、その二人の感想を聞いて吟味した上で、続けて話をする。
「――ああ。お前たちの言う通り、不可解な部分がある。……神藤泡妖は、二段階覚醒している。だが、神藤泡妖は死んでいる。二段階覚醒しているならば、ウン十万年は生きられるはずだ。他殺は考えられない。俺より強いご先祖様が、そうそう殺されるとは思えないからな。自殺も、する理由が見当たらない。自殺も他殺も考えられないから、不気味なんだよ。何故これを遺したのか、今どうなっているのか。生きている可能性も考えられるが、まず無いだろうな」
來貴と明人は、静かに聞いていた。桂の考察の内容と、自分の考えが合っているのかどうか確かめるために。そして、その内容とほぼ全て合致していた。神藤泡妖は、今の桂と來貴よりも強い。
二人だけの一段階の覚醒に対し、泡妖は二段階の覚醒なのだから。経験と、格が違う。二人で掛かっても、勝てないだろう。それ故に他殺は考えられず、自殺の可能性の方が僅かに高いかもしれないと三人は考えていた。
しかし、する理由も考えつかない。だからこそ、不気味。
「……まぁ、これについてはよくわからないからな。考えないようにしよう」
桂の言葉に、來貴と明人は同意した。そして桂は、"神の因子によって起こる影響"と言う項目の内容を開く。その内容を、來貴と明人に見せる。
神の因子によって起こる影響は、様々だ。人間離れした身体能力や頭脳を得て、強き能力を得やすくなる。その他にも、身体に聖邪の力が混じり、覚醒の条件に必要なものを得ることが出来る。
そして――神の因子と家系の血筋の繋がりが時空を超えることにより、起こる現象があるらしい。その現象を、ドルナイトは"先祖返り"と呼んでいた。私は神の因子そのものを取り込んだため経験していないが、これを見ている末裔は経験していることだろう。
その現象が起こった暁には、返った先祖と同じ容姿・能力を持って生まれる。それに加え、神の因子の繋がりを辿り、その先祖たちの経験をその身に得ることが出来る。
それ故先祖返りが一族の原点に近い程、生まれてくる子供は強力になる。その理由は、原点への時空を超える程神の因子が溜まり、魂の格が上がるからだ。
そして、格の高い魂により強力な能力を呼び寄せられるからである。先祖返りは珍しい現象では無く、神の因子を持つ家系に生まれた者であるならば殆どの者がしている。先祖返りをした者が強いのでは無く、先祖返りの度合いが大きい者が強いのである。
ならば、時代を重ねる程強力になる……というのは、間違いだ。子供を作るためには、別の者の血を介入せねばならない。それが故に、神の因子や純粋な家系の血が薄れる。そのため、時代を重ねても強力にならないのだ。それに、神の因子の影響で子供が少し出来にくくなっている。これも、理由の一つだ。
ちなみにどこまで先祖返りをしているかどうかは、返った先祖との繋がりで判断できる。全てドルナイトが言っていたことだが、役立ててくれると嬉しい。
――そこで、最後だった。この内容に関しては、來貴も明人も隅から隅までじっくりと見ていた。両者とも、知らなくて興味のある内容だから。
そうして見終えた來貴と明人は、驚愕しつつも納得した感じだった。
來貴は、これが自分に大きな才能がある理由か――と。
明人は、だから親父も兄さんも強いのか――と。納得している理由はそれぞれ違うが、内容もしっかり理解出来ている。
「理解出来たな。その先祖返りという現象は、俺も琴音も経験している。お前たちも、先祖たちの力を身に持っているはずだろう。……その繋がりを感じる方法は、琴音が知っている」
桂がそう言うと、琴音が桂の近くに来た。
「神の因子は、身体の中にある。これはわかっているよね? それは魔力とは全く別だから、意識を向けて感じ取れたらすぐにわかるはずだよ。來貴、明人、やってみて」
琴音の言われた通りに、來貴と明人は身体の中に意識を向ける。目を閉じ、集中している様子だった。
――來貴は、すぐに感じ取ることが出来た。魔力が空であったのは、あまり関係無い。覚醒により、一度繋がりを感じていたからだ。
(……!)
目の前の景色が、変わった。浮かんでくるのは、男が刀を振るっている光景。辺りは夜で、空には星が浮かんでいる。そして、その地は草木生い茂る山だった。それは演舞……或いは、演武とも呼べるほど美しい。
來貴は立ち尽くし、その剣技を見ていた。見続けているとやがて、その男が來貴の目の前まで近づいてきた。そして、その男は口を開いた。
『私の名は神藤泡妖。私との繋がりを持つ者よ、幸あれ……』
――それを最後に、景色は途絶えた。同時に、頭にスッと何かが入り込んでいる感覚を覚えた。それは数秒で終わり、來貴は神藤泡妖の経験を継承したとわかった。神藤泡妖以外の先祖たちの経験は、無意識に入っている。
そのため、今回の繋がりで完全に継承が終わった。
來貴が密かに繋がりと継承を終える中、明人は少し苦戦していた。繋がりがあまりわからず、数十秒間目を瞑ったままだったが、やがて繋がりを感じる事が出来た。
そうして数秒――明人も継承を終えた。そのタイミングを見計らい、桂は話しかける。
「……誰と、繋がっていた?」
桂のその問いに、明人が答える。
「神藤刹那って人だった。今から十五代くらい前の人らしい」
明人の答えを聞きながら、來貴は継承した経験を整理している。力の使い方を覚えたが、今すぐ実証できるわけでは無い。そのため、いつでも実証できるようにしているのだ。
「俺は……神藤泡妖だった」
來貴から繰り出された答えに、驚愕する者と納得する者が現れる。全員が落ち着いた頃に、桂は口を開いた。
「やはり……か。だから、狙われたのか。お前が5歳の頃、連れ出しただろう。アレの目的は、お前を狙うアルヴァダからお前を逃すためだ。……その時に、何故狙ったのかを聞いた。身体に聞いたところ、"ドルナイト様のため"と言う答えが返ってきたからな。……恐らくは、お前のその才能……或いは、別の何か。それはわからないが――來貴」
桂の呼びかけに、來貴は無言で目線を寄越す。
「気をつけろよ、まだ狙われている可能性はある」
そう言って、桂は次の項目を開く。最後は、"忠告"という内容だ。内容は短いが、目を通す価値はある。
『自身の力に傲るな。いつ何処で、予想外の事柄が起きるかはわからない。この世は、誰が敵かもわからぬのだから』
その言葉の裏側を、來貴は理解出来た。明人はあまりよくわかっていないが、気をつけようとは本能的に思っている。
――これで、全て見終わった。鮮花は静かに巻物を片付け、部屋を出て行った。
――そして、次は訓練である。能力の力を、魂に押し留めるための。力が暴発する可能性もあるため、部屋では無く広い庭でやっている。來貴は大事を取り、琴音と一緒に見るだけにした。
來貴の目の前では、明人が桂と比謝矼と鮮花の三人体制で教えられている。よくわかっていないが、感覚は掴めているように見える。
しばらくすると、明人は能力の力を魂に押し留めるのに成功したようだ。その証拠に、今までより無駄なく能力を使えている。
「兄さん、出来たぞ!」
そう言って、明人は能力を使っている。魔力の操作に、無駄は無い。來貴や桂の目から見ても、そうだった。
來貴は、よかったなと明人に言っていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――そして、家に帰る時間だ。現在時刻は、午後6時。そろそろ帰らなければ、凜姉に怒られるだろうから。
俺は父さんたちに帰ると言ってから、家に向かって歩を進めた。
(……先祖返り――それが、俺が天才だった理由か。納得がいく……が、それだと作られたものだと思えるな)
そう、考えながら――――。




