第9章 神々の詰問
「神の力が破られた、って情報が入ってね、緊急で駆けつけたってわけ。クロノ、大丈夫?説明できる?」
きらびやかな6人のうちショートの青い髪、眼鏡のお姉様がよく通る声で言った。
表情そのものは優しげにも見えて、多少あどけなさが残るような印象なんだけども、口調は厳しい。有無を言わさぬ、といった剣幕だ。
クロノのほうはひたすら怯えている。
「あ、あ、あのあのその、えっと」
「クロノ、落ち着いて。私まだ怒ってないから」
うわ。この人やっぱ怖いな。クロノは歯が鳴るほど震えており、話ができるようになる気配もない。
仕方ないな。俺から話そう。
元々、俺は五きょうだいの真ん中の生まれ。ごたごた沙汰には慣れていた。それも遠い昔の話だが。
「あのーすんません、俺がやったみたいです」
「あらぁ、そちらの人間のお方は逞しいわね。うふふ……凄ぉい」
今度は俺のほうに、スタイル抜群の金髪美女が官能的な態度で話しかけてきた。この人も神様なのか?
肩出しの、胸元が大きく開いたドレスのような服装で、目のやり場に困る。まあ俺は上半身裸なんだけど。
「んー、そんじゃおまえ、説明してくれるか」
頭の後ろに引っ詰めた緑の長い髪を揺らしながら、多少男性的な印象の美女が横から口を出してきた。
俺よりも長身で、眉がしっかりした美形。ぶっきらぼうな態度が似合う。
それでいて、ちょっと背伸びして見せているような感じもある。男からも女からも憧れられていそうだ。
「えーじゃあ、説明いたします。ちょっと300年も前からの流れになりますんで、記憶が曖昧なとこもあるかと思いますがご了承願います。
300年前、この小屋に祀られていたクロノ……時の神様の石を俺は落として割ってしまったんです。
あれ、なんで割るようなことになったんだっけ」
「マット、しーっ」クロノが俺に黙れという合図をした。悲痛な形相だった。
「なるほど、クロノ。つまり300年前、あなた仕事サボって寝てたのね」
眼鏡のお姉様が冷たい視線をクロノに向ける。クロノはもう泣いていた。
……あ、そういうことか。まず石になってた時点で既に、怒られるような事案なんだな。申し訳ない、普通に言っちゃった。
話を続けてごまかそう。
「それで、俺は神様の罰として、永遠に同じ一日を繰り返す空間に入れられました。謝るまで出してあげない、的なやつでした。
でも俺は筋トレにハマってたんで、それは丁度いいや。って考えてしまって。結果300年も居座ってしまったんです。
そんで、ちょっと鍛練の成果を確認しようかなーと思って、今しがた全力で暴れてみたところ、この有様です」
我ながら、明快な説明だった。これである程度は理解してもらえるだろう。
後はクロノが怒られそうな流れだけど、まあこいつサボってたみたいだし。仕方ないね。
「えーマジで!?人間って、300年鍛えたら神の力すら超えんの!?」
「しかも、この子って『ギフト』すら貰ってなくない!?やばくね?」
繁華街にいそうな喋り方をする女子二人は隣り合い、双子のようにそっくりな見た目と声だ。
くるくるの髪と大きな襟の付いた水兵のような服、短すぎるスカートも二人同じ。
一人は大きな耳当てのようなものを頭に着けているが、外からの声が聞こえづらいんじゃないだろうか?
俺の真後ろから、また違う声がした。
「はい。ありませんね、ギフト。この者の氏名はマット・クリスティ、317年前に生まれており、おそらく300年間の罰というのも事実のようです」
多少ぼさぼさした前髪で顔が隠れた、暗そうな女の子が、俺の情報を出してきた。
話し方も理知的というか、読書オタクっぽい印象を受けたけれども、その灰色の髪からのぞく顔は寒気がするほど綺麗だった。
クロノの先輩方、みんな美女やん。この世界どうなってんだ。
「ふぅん、この子、そんなに力があるのね。私、なんだかマット君のことが気になってきちゃったわぁ」このエロい人は何の神なんだ。愛とかそういう系?
「そーだな、しかし神の力すら超えるっていうのは大ごとだね」ぶっきらぼうな人は、この状況が楽しそうだ。
「過去に例がありません」今のところ、細かい情報はこの人が全て出してきている。その前髪をどけてみたい。
「あの、あのっ、皆さん、すみませんでした。わたしの不手際です」
やっとクロノが喋った。世話のやける神だな。
「クロノ、マット君の話してくれた内容で相違ない?」お姉様が尋ねる。口調がいちいち鋭くて怖い。
「……はい。すみません」
「とにかく、困ったわね。我々の管轄で、あなたがこんな……人権持ったバケモノ育ててたとは」
「うふっ、クロノちゃん。こんな立派な体の男子と300年間も、いったい何を楽しんでたのかしらねぇ?」
「なっ……そんな、わたしは、ただ罰を」
「きゃーっ、そゆこと!?そゆことなん!?」
「マジマジ!?クロノ、あんたは純情だと思ってたけど、そゆことなのね!?」
「いや、ちが」
クロノの首から上が紅潮しすぎて、別人みたいに見えた。いや別神か。
こいつ何を恥ずかしがってんだ。やましいことなんてなかっただろ。
ちゃんと言い訳しなきゃ、この流れはヤバいぞ。