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第88章 モノづくり

 俺がゆっくり手を降ろすと、着地したランコはよろよろとバランスを崩し倒れかけ、その肩をデンが支えた。


「ランコ?おまえ大丈夫か?」

「う……酔った。吐きそう」

「あかんあかん、深呼吸してみ!ほれ」


 もたれ掛かるランコを受け留めるデン。周囲のドワーフ達は心配そうに、しかし二人を羨む感情もあるのか、色々を綯い交ぜにしたような表情で見守っている。


「あ、人族の皆さん!申し遅れまして。俺はデンいいます。デン・パダイラ。集落の設備全般を管理しとります」


「全般?では領空への攻撃も、おぬしの主導で行っておるのか?」


 クロノが問う。口調にはなかなかの迫力があった。流石は神様。


「あー!なんや。あんた方かいな、一発目が反応したんも!いや、迎撃は古くからの設備がやっとりまして、索敵から攻撃まで全て自動なんです。俺は整備だけですわ!


……お?ってことは、あれが反応するほど大きな乗りもので来た上、あの追尾する矢を避けたと?」


「そうっすよね、クロノ様?」

「うん。ドラゴンで来た。めっちゃ速いやつ」


「かっかっか、ドラゴンかいな!ほんま、とんでもない人達や」デンの笑い方は珍しく、聞き慣れないものだった。


 気がつくと、集落に住むドワーフ族のほとんどが出て来たらしく、周囲には三桁を優に超える数のドワーフが集まっていた。


「ランコ、ええな?明日、調整とか手伝ったるし。大会で頑張り」

「うっさいんじゃ。アホ」


「ええよ。俺はアホでも、おまえは勝たなあかんねや」

「……おまえに言われんでも、わかっとる」


「ほな、決まりやな」


 デンがランコの頭に手を置き、大きく息を吸い込む。


「皆さんッ!明後日の腕相撲大会ですけど、本命はこのマットさんいう人族と、そこに並んで、こいつ!ランコ・コルムでっせ!


せっかくのお祭りやさかい、盛り上げていきましょうや!!ほれ、ランコも言うたりーや」


「おう!みんな、今日はみっともないとこ見せてもーてごめんな!


せやけど心配要らんで。大会は勝つからなぁ!!一から、出直しますッッ」


 ドワーフ達は一斉に沸き立ち、歓声をあげながら、頭の上で打ち合わせるようにして拍手を送っている。その仕種がドワーフ族にとって流儀のようだ。




「え、いいんすか?ご馳走になっちゃって」

「ええねんええねん!せっかくの面白いお客様ですさかい、メシくらい食べて行ってーな。


ほんでランコ、なんでおまえも来んねん」


「いいやんか!何やねん、うちかてお腹空いとんねや」

「ふーん。まーええけど」


「クロノ様、さっきから割と緊張してらっしゃいましたけど、そろそろ慣れました?ドワーフの集落」

「我は人の神じゃぞ。全然慣れぬ」

「ダメですやん」


「あっはは!クロノちゃん素直!」

「人もドワーフも、神様にゃあ苦労してるんだねぇ。まったく、何処も同じようなもんだわ」


 ドワーフ族の街並みを、デンに連れられて歩く。建物は全体的に低く、しかし土から造られていると思っていた壁は、近づいて見ると正体不明の光沢を放っていた。


「デンさん。この壁って、どうやって造るんですか?」

「壁って?家の壁かいな?何や、こんなもん普通に土やで」


「え、マジっすか」

「うん。それよりなぁ、俺みたいなんに『さん』付けはやめといて!だいたいあんたらのほうが年長やん?」


 ……年長?クロノはともかく、俺が?まあ実際のところ317歳は超えてるんだけど。


「兄さん、20歳くらいやろ?俺まだ13歳やで」

「じゅ、じゅうさん!?」


「まあ、ドワーフはこれで大人やねんけどな。ちなみにランコも同い年ですわ」

「デンがチビやから子供に見えるんやろ。痩せとるし」


「何言うてんねん。人族の皆さんからしたら、おまえも大して変わらんて」

「あ?やんのかコラ!?」


 また喧嘩してるけど、二人は幼馴染みということらしい。周囲に他のドワーフがいなくなったのもあって飾る必要がないんだろう、どことなく態度が柔らかい。


 俺はクロノの耳元に顔を寄せた。クロノも無表情のまま耳を寄せてくる。


「クロノ様。この二人に『仲良しなんですね』って言ったら怒られると思います?」

「それ、もう『バカップルですね』でいいんじゃない?」


 お互いに笑い合って、ふとマッドのほうを見た。イリスと二人、俺達と同じような笑顔。


「この辺り、どうもバカップルしか見当たらないね!?あはははっ」

「ひゃひゃひゃ!それをチャラ坊が言うかい」




 ドワーフ族一般の話かは不明だが、少なくともこの集落のドワーフは13歳で「大人」だという。寿命のほうは長ければ100年を超える者もいるようだ。


 しかしドワーフも人間と同様、酒に溺れて早死にすることも多いとか。ほぼ全員が酒好きで、自らすすんで飲まないのはデンくらい、というのが当人の弁。




「皆さん、ここですわ。集落でパダイラ家が一番、色々進んどるで」

「いちいち偉そうに言うなや!おまえみたいなキモオタが、引きこもって発明やら何やらばっかりしてるだけやん」


 突然、デンの眼が怒りを露にした。口元は髭に隠れて見えないぶん、眼でものを言っている。


「ランコ。そろそろ黙りや」

「……な、何やねん」


 デンは一旦大きく深呼吸してから、今度は落ち着いた笑みを浮かべて俺達に向き直った。


「人族の皆さんも、そろそろおわかりになられましたかいな。ドワーフの男いうのは、大概が口数少なくて、内向きですねん。俺がうるさいんは例外やけどな。かかかっ!


まあそれだけに、得意な分野もあるんですわ。それがいわゆる『モノづくり』ってやつやね!


何やかんや、珍しいと思っていただける思いますんで、さあどうぞ。お入りくださいな」

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