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第83章 腕相撲大会

「腕相撲……大会、って書いてありますね」


「あれじゃろ?台の上に向かい合って手を握り、相手の腕を横倒しにする競技」

「たぶん、それのことだと思うんですけど」


「おぬしの得意分野ではないか。平和的に壺を取り返す、良い機会であろう?」

「うーん、そうとも言い切れませんよ。腕相撲の動作は主に肩関節の内旋ですので、主働筋は肩甲下筋になります。


特殊な動きですから、熟練している者のほうに分があるでしょうからね。


賞品を懸けて大規模な大会が開かれるレベルってことは、ドワーフ族の得意分野なんじゃないかな」


「ふふっ。それほどまでに成長した今も、慢心の欠片すらない。マットらしい姿勢じゃな」




 ……腕相撲には正直、いい思い出がまったくない。


 幼少時、兄にはずっと歯が立たなかったし、故郷オプティマの農家には「腕力の印」を持つ家系があった。クロノとの300年がなかったら、おそらく一生あいつらにも、勝つことは叶わなかったはず。


 そして、さっき「主働筋は肩甲下筋」とクロノに言ったが、現実にはその強さで勝負が決まるわけじゃない。


 肩の内旋には大胸筋や広背筋などの大きな筋群「も」関与する。確かに、そのことは俺にとって有利な要素だ。


 しかし他にも、腕相撲には「相手の親指に近いところを握ると力学的に有利」「釣り手、噛み手などという技術的側面」「生まれつきの腱の付着位置によって、競技の向き不向きが決まっている」といった特徴がある。


 要は「腕相撲に特化した者には、俺が負ける可能性も十分ある」ということ。




「とりあえず賞品の壺は、リプリス様が創ったやつで間違いないんすかね?」

「それは確かめる他ないな」


「そうですね。あ、人がいる。すんませーん!」


 俺は近くを歩いてきた、働き盛りと思われる若いドワーフの男に話しかけた。


「あー?君、俺に言うてんの?しかも人族やん。珍しいな」

「はい。あの、腕相撲大会ってご存知ですか?」


 近付いてみると、やはりドワーフ族は背が低い。眼の高さはクロノよりさらに少し低かった。


 しかし骨太で、筋肉質。髭が顔を覆っていたので一見わかりにくいが、その声といい、まず間違いなく彼は若者。


「なんや、兄さんも壺が目当てか!大会、もう明後日やで!


俺も言われて一応出るけど、まーあかんやろな。バケモンみたいな奴、知ってるだけでも幾らかおるしなあ」


「壺って、入れた水が全部うまい酒になるっていう壺?」

「もう人族まで知ってるんや!?酒の力は偉大やなー!せやで。こないだ川を流れてたやつ、たまたま近くに居った誰かが拾って来よってん!」




 ……ドワーフ族って、特有の話し方するよな。訛りはあるけど聞き取れるし、荒っぽいというか親しみやすいというか。




「それ俺も欲しいんすけど、大会って俺も出られますかね?」

「おーなるほどな!兄さんが人族代表ってことかぁ!確かに、ええ筋肉しとるやん!


まあ出れるやろ普通に。いっつもあれや、身長とか違ってもルールで揃えてるしな!」


「揃える?」

「魔法でな。身長差がある試合は、高いほうが縮めてもらって合わせる、っていうのを毎回やっとるんよ」




 なるほどね。じゃあ俺、余計に不利やん。腕長いから勝てるだろうと思ってたのに。




「出場の登録って、何処でやってますかね?」

「いや、何かにつけて毎年1回は大会やっとるけど、当日朝に出る奴みんなで名前書いて、くじ引きで対戦表決める感じやで!


明後日の朝8時に、あの広い建物あるやろ?あそこに集合したらええんよ」


「了解っす。ご丁寧に教えていただいて、ありがとうございました」

「おう!君も見た感じ、かなり強そうやしな。楽しみにしてるでぇ!」


 若者は笑顔で、のしのし歩いて行った。




「クロノ様。とりあえず、みんな呼びますか」

「ああ。そうじゃな」


 クロノが光の玉を瞬時に生み出し、空中に投げた。それは大きく膨れあがり、天高く昇っていく。


 バシュッ。


「なっ!?」思わず、叫ぶような声が出た。


 大きな矢。それが光の玉を貫き、爆散させたのだ。


「クロノ様、見ました!?あの矢!」

「腑に落ちたよ。あれは、我々を狙ったものと同じ」


「何処から発射されたんだ?」

「集落から少し外れた、あのあたりの森からじゃな。おそらくは、空中からの侵略に備えた『自動迎撃機構』」


「ドワーフ族の技術力は、人間より進んでるってことですか」

「分野による。ただ『魔力そのものの物質化』は、ドワーフにしかない技術じゃな」


 魔力の物質化。人間が魔石の力を使って物質を動かすのに対して、ドワーフ族は魔力を物質に変えてしまうのか。




 ガランガランガランガラン。


 集落全体に、鐘のような音が響きわたる。どうもこれは警報ということらしい。建物のあちこちから、ドワーフ族が慌ただしく出てきた。


「これ、俺達って不審者なんじゃないっすかね?」

「大丈夫。現在、人間とドワーフが争っているわけでもない。ずいぶん昔に拵えた機構が、今でも正常に働いておるというだけじゃろう」


「本当に大丈夫なのかな……あれ、なんか殺気立ってるように見えるんですけど」

「まあ今日、既に2回目じゃからな。流石にピリピリしていても、おかしくはないか」


 ……やっぱダメじゃん。呑気な神様だな。

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