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第82章 何処の神様も、そんな感じ

「ここが、インゼリーですか?」

「最寄りと言っておったからな。間違いないじゃろう」




 自然が豊かなその景色は、現代のオプティマよりもずっと穏やかで、むしろ俺が生まれ育った300年前の故郷オプティマに近いものだった。


「あのひときわ大きなやつが、村の権力者の家ですかね」

「そんな感じがする。行ってみよう」


 コン、コン。


「はーい!開いておりますので、お入りくださいませ」女性の声が返ってくる。


「すんませーん」俺はドアを壊さないよう丁寧に開け、挨拶してみた。


 中はそれなりに豪華と言ってよく、剥製となった巨大なシカの首が壁に掛かっていた。敷物も、クマの魔物の毛皮だ。


「あら、旅の方かしら。村長にご用でしょうか?」女性は雇われの立場らしく、使用人の服装をしていた。

「はい。マソフィトの上流を塞き止めていた大岩ですが、無事に何とかなりましたので。ご報告を」


 俺達にも一応の功績はあるからな。無下に扱われたりはしないだろう、と思う。たぶん。


「えー!あの誰もどうしようもなかった岩、もう片付けられたんですか!?」

「うん。岩は我々で処理した。流れの制御に当たっておった魔法使い達は、まだ帰って来ておらぬか?」


 …流石に、クロノの移動が早すぎたか。でも距離はそこまで遠くなかったはずだし、もうすぐ追いつくだろう。




 その時、階段の上でガチャと音がした。


「まったく、騒々しい。おい!もう少し静かにできんのか!」

「すみませーん村長!あの川の大岩ですけど、旅のお二人が解決してくださったみたいなんです」


「何、それは本当かね?」

「もう今、下に来られてまーす!」


 ドタバタ急ぐ足音と共に、村長らしき人物が下りてきた。まだ老人と呼ぶには早いと感じる、元気な男性だった。


「お待たせしておりました、お二人は……ありゃ?初めまして、ですな。私はてっきり、オプティマからの方々のことかと」

「あ、マッドとイリスですね?俺達も、あの二人に呼ばれて来ました。協力して岩を砕いたんです」


「それはありがたい!すぐに、村の者で確認してまいりますので。もちろんその後、お礼もいたします」

「あのー、その岩の問題の他に今、もうひとつ重大な事案がありまして。


川が塞き止められた時期あたりから、水質などに問題はありませんでしたか?」


「水質、かね。それはほとんど心配なかったと思いますぞ。川に水が流れなくなってから、近隣の者がすぐに対応してくれたようですからな」


「一時的にでも、川から酒のような匂いがしたり、下流に壺が流れ着いたり、といったことは?」

「酒?いや、そのような話は……ああ、そういえば!


マソフィト川の、ここより少し下流の向こう岸で、ドワーフ族の奴らが、どんちゃん騒ぎをやっておった。という報告がありましたな。あれは……ちょうど、川に落石があった頃だったと思いますが」


「本当に?そのドワーフ族の方々は、お酒が入ってた感じですかね?」

「はい。ほとんど間違いないでしょうな。元来、奴らは寡黙な種族ですが、酒を飲むと快活になりますので」


 俺とクロノは同時に、顔を見合わせ、頷いた。


「クロノ様。壺は、ドワーフの手に渡ったと」

「ドワーフの神が創った物じゃからな。惹かれたのかも知れん」




 どうする?何か事故が起きる前に、取り返すしかないか。


 しかし素直に「返してください」と言ったところで、すんなり返ってくるとは思えない。


「何か、良い案ってあります?」

「良い悪いなどと言っておる余裕はない。さっさと取り返して、処分する」


 話を横で聞いていた村長が、ひとつ咳払いをした。


「どうも、まだ問題は残っているようですな?」

「はい。向こうの神様が、ちょっと大変なお方でして」


「神様、ですか」

「何処の神様も、そんな感じなんすけどね」


「誰のことを言っておるのじゃ?」

「行きましょう、クロノ様。一刻も早く」

「……むうう」


「ほら、拗ねてる余裕はありませんよ。村長、ドワーフ族の村はどのあたりですか?」

「我々の感覚ですと、『村』というより『市街地』と考えたほうが適切かも知れません」




 川を挟んで向こう側、さらにしばらく東とのことだった。早速、俺達はそこへ向かう。


 ……とは言っても、俺達が考えたことは推論に過ぎない。


 実際にドワーフ族が川で壺を発見し、その酒を飲み騒いでいたとしても、それが1週間前の話。大切に持ち帰って、毎日のように遊んでくれていればいいんだけど。


「まだ、希望はありそうですね」

「わからんよ。例えば壺の奪い合いになって、そのうちの誰かがまた川に流したり、争うくらいなら壊したほうが……と粉々にしてしまっている可能性も考えられる」


 瞬間移動で目まぐるしく変わる視界のなか、俺とクロノは会話を続けていた。


 ……神様もしばしば間違う。その力が強すぎるだけに、ひとつの間違いが、世界に大きな影響を与えてしまう。


「人間も例外ではないよ。マットだって、力任せに暴れたら大変なことになるんだから」

「心読むの、もう禁止にしません?」




「よし、着いたようじゃ。この特徴的な建造物、ドワーフ族によるものとみて間違いない」


 クロノの視線の先に、土壁で造られた低い建物がいくつも点在していた。おそらく規模はインゼリーより大きい。


「あの横断幕、何ですかね?」俺は集落の真ん中あたり、大きな文字を指差した。


「……ほお。とりあえず、最悪の事態は避けられたようじゃ」


 俺は歩き、近づいてみる。その豪快な達筆で書かれた文字の意味が、漸く理解できた。




「神の壺を手に入れるのは誰だ!?力自慢よ、集え!腕相撲大会!!


参加者、募集中」

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