表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/89

第80章 目覚ましの水

「マット、これは……」クロノが、俺を手で制した。


「どうしたんですか?」

「うん。まだ寝ておる」


 えー?殻を割っても、まだ起きないのか。悠長だな。


 そう思いながら、俺はドワーフの神の姿を確認した。いや布団被ってたわ。それを俺は、丁重にめくってみる。


「神様……って、これ本当に神様なんですかね?」

「そうじゃ。たぶん」




 女の子だった。


 全体的に見ると、丸っこい。短躯で、しかも肉づきがよく、むっちむちな印象。寝相のせいもあるのか、多少ごわついた髪はくるくると癖づいている。


 顔も丸く、首が短いのと相まって、外見はとにかく幼い。俺が生まれ育ったオプティマの村の農家には、こういう家系もいたな。農作業で筋肉が発達するから、元々が低身長だとひたすら丸い印象になる。


 しかし、俺が思うに、めちゃくちゃ可愛い。


 寝顔から涎が垂れている。なんだか懐かしい、というか親しみ易そうな見た目だし、まさに小さいけれど力持ちっていう筋肉量だ。いっぱいメシ食いそう。




「むう……寝ていられても面倒じゃ。起こすぞ」


 クロノがそう言い捨てると、さっきから大岩を飛び越える角度に制御していた滝を、あろうことか、ドワーフの神の布団にぶつけた。


 瞬間、川の流れは元通りになっていき、神はその中に布団ごと沈んでいく。


「あははっ、沈んだ沈んだ!クロノちゃん、かなり手荒だけど大丈夫なのかな!?」

「知らぬ。我は川を元に戻しただけじゃ」


 頬っぺたを膨らませて、明らかにご機嫌斜めなクロノ。


 ……あ、そうか。俺がドワーフを「可愛い」って思ったのを読んで、怒ってるんだな。ほんと子供。


「ぷぁっ!?」ドワーフの神が、水面から顔を出す。


「あ、出てきおった。魔法で底に沈めておいたんじゃがな」

「やっぱ神様でも、水責めは効くみたいっすね。っていうか意地悪すぎでしょクロノ様」


 神様は川からこちらへ跳躍、ドンと着地。顔から体を高速で回転させ、水滴を飛ばした。タヌキか何かかな?


「こぉらぁ!おまえらー!」


 うん。予想通り、お怒りだ。俺はクロノを庇うように、一歩前へ出た。


「すんません。あの、ドワーフの神様でいらっしゃいますか?」

「何じゃおまえ!?わし、めっちゃ溺れかけとったやんけ!


誰やねん!おまえがやったんか!?こらぁ!」


 ガラ悪いな、この神様。


 まあでも、ドワーフって作業員っぽいとこあるよな。可愛い外見と中身のギャップに、思わず笑いが出てしまった。


「なぁに笑とんじゃあっ!!あかん、もうキレた。殺すわ」


 神様が短い右手を挙げると、そこに突然、とんでもない大きさの金槌が現れた。神様は、それを両手持ち。


「ヤバいな。クロノ様、離れて!」俺はクロノを後ろへ押す。


「死ねやぁっ!!」


 ズゥン。


 振り下ろされた槌を受け止めようとして、俺の体は地中に埋まった。


 流れ星が落ちてきた後みたいに、周囲が窪んでしまっている。クレーターっていうんだっけ、こういうの。


「リプリス殿、ここは地盤の状態が良くない。そのような衝撃を加えると、川が」

「うっさいんじゃぁ!こいつ、ほんま殺す」


 槌を支えるのに必死で、上を見ることはできなかったが、クロノは説得してくれているようだ。ドワーフの神は、リプリスという名前なのか。


 また金槌が浮き上がる。


 これ、本格的にヤバいぞ。俺の体か地面が、壊れる。


「おらあああぁぁ!!……へ?」


 ……止まった。振りかぶった状態で、リプリスは動かなくなっていた。


「我は『やめろ』と言っておるのじゃ、リプリスよ」

「はぁ!?な、何やねん!その魔力は」


「我は人族の神、『遊撃特別警邏』クロノと申す」

「神?あー。あんたも、神さんか」


「リプリス殿。そなたが塞き止めていたマソフィト川を、我々は正常な流れに戻そうと、ここに来たのじゃ」

「……わしが、この川を?」


 刹那、俺の3倍ほどの大きさがあった金槌は、リプリスの手へ吸い込まれるように、するすると小さくなっていった。




「クロノ様ー!この穴、直せます?」

「わかっておる」その瞬間、俺は地面と共にせり上がった。


 最初に駆け寄ってきたのはイリスだった。


「マット、大丈夫かい!?あたしゃ、さっきから魔力で地盤を固めてたんだ。


それが沈下するくらいの衝撃だ、本当に神様じゃなきゃ起こせないレベルだよ。それで、ケガはないのかい?」


「あ、大丈夫っす。


あの金槌をショルダープレスの姿勢で受け止めるの、エキセントリック(伸長性)トレーニングとして良いかも知れないっすね」


 イリスは、ぽかんと口を開けたまま、隣のマッドと目を合わせた。


「あっははは!もう人間として扱うのは無理だね、マットは」

「はぁ。心配したあたしが、ばかだったよ」


「いや心配はしていただいて大丈夫ですからね。俺、いきなり理不尽に殴られてるんで」




 俺はドワーフの神へ向き直った。


「リプリス様、ですね?あらためまして、人族のマット・クリスティと申します。


多少の行き違いはあったようでございますが、何卒よろしくお願いいたします」




 こういう時こそ、丁寧な態度が重要だ。


 相手が怒っていたら、あまり気にせず、一歩も退かず、しかし丁重に応対。それを俺はクロノから習っている。




「あ……わし、勘違いで殴ってしもたんか」リプリスは明らかに凹んでしまっていた。


 ……神様ってだいたい情緒不安定だけど、大丈夫なのか?この世界。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ