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第56章 どうせ人は死ぬんだから

「さよならだ、勇者キーヴァイン」


 マッドが何処を見るともなく、呟いた。




「な、なるほど!魔法剣をかけるのが、自身でなくパートナーであれば、剣術のほうに集中でき、より強くなるのですかぁ!


魔法には、こういう使い方もあるんですねっ!」


 エリーゼは新しい発見があるたびに嬉しそうだ。俺達のほうに歩いてきたマッドを、キラキラした眼で見つめている。


「いや。もしキーヴァインが生きていたら、僕はイリスの魔法剣があっても勝てなかったと思うよ。


水槽に入れられる前から、彼は死んでいた。僕は、ただ弔っただけさ」


 イリスがマッドに寄り添い、さっきキーヴァインに斬られた眼を確認していた。


「見えてるかね」

「うん、大丈夫だ。見えてるよ」


「眼は神経が細やかだ。きちんと治さなきゃ、後に差し障る」

「ありがとう。本当に、助かった」


「まったく、あんたは本当に命知らずだねぇ」

「どうせ人は死ぬんだから、心配なんかしてても楽しくないだろ?」


「明日より今、ね。ひゃひゃ」

「あははっ!美少女の姿でその笑い方も、聞いてると可愛くなってくるね」


「なっ、からかうんじゃあないよ!このチャラ坊が」

「うん。やっぱり可愛い」




「……なるほど!では、私のような症状に困っているのは、エルフだけではないということですね!?」

「はい。人間も、特にエリーゼさんのような『女性』『高身長』という条件が揃うと、膝の障害が格段に発生しやすくなります。


理由は単純に、力学的な関節への負荷は大きく、それを支える筋力が不足している、ということですね。


つまり、魔法で体を支持し続ける以外に、健康な日常生活にとって有効な方法は『筋トレ』だけです」


「では、具体的な内容としては?」

「膝に関して言えば、直接的には大腿四頭筋の筋力を向上させながら、拮抗筋であるハムストリングとの筋力比を2:1より広がらないように、同時にハムもトレーニングする必要があります。


しかしエリーゼさんの場合、体幹の筋力も不足しているため、そもそも骨盤が後傾してしまっています。


こうなると必然的に、膝は中心線より前方に出やすくなり、爪先側に強く体重がかかります。


つまり、問題は痛みのある『膝そのもの』ではなく、『膝に負担を強いる全身姿勢』なのであり、その原因が『筋力不足』なのです。


エルフ族も二足歩行で生活している以上、人間と同じように、体幹の筋力が重要なんですよ」


「ほおお……マットさんは、筋トレのことになると博士のようですねぇ!もはや尊敬しておりますよ!


正直なところを申しまして、筋骨隆々な人族というのは、頭蓋骨にまで筋肉が詰まっているのかと思い込んでおりましたので!でゅふふ」


 ……エリーゼ、さらっと笑顔で凄いこと言ったよな。しかしまあ、人間の認識も、それほど変わらないか。




 さて、これからどうするか。


「一旦、リヴァのところへ戻ろう。それで依頼達成だ。まあ、イリスの姿は少しばかり変わっちゃったけどね!


そしてベンファトには、エルフの肉体が本当に存在したこと、それをもって人間が生き永らえることは不可能に近いこと、その二点を報告する」


「ベンファトが、エルフの肉体を欲しがったら?」

「その時は、ビジネスだね」


「ではでは皆さん!次に来られる時には、罠をレベルアップしてお待ちしておりますよっ!」

「えー!?エリーゼちゃん、容赦ないね!あははは」

「皆さんがここまで来れたってことは、今後も人族が辿り着く可能性はありますからねぇ!どぅふ」


 エリーゼくらい突き抜けた性格でないと、遺跡の管理は務まらないのかも知れないな。そもそもこんな場所に一人で研究してるわけだし。


「よし、じゃあ、帰ろうか」

「また長い道のりだねぇ、まったく」


「クロノ様、自分の脚で歩いてみます?」

「むうう……おんぶがいい」

「ちょっと筋トレしましょうか」

「おんぶがいいもん!」

「子供か」




 エリーゼに手を振って、別れた。


 マッドがパーティを組んでいた二人、ジャメイとカイムの遺体は、エリーゼの研究への献体ということになった。


 マッドにとっても「勇者」キーヴァインは、特別な存在だったのだろうか。




 階段を下りていく。この一段一段が低い妙な構造は、どうもエルフ族の体力に合わせて造られたもののようだ。謎が解けた。


「あ。さっき壊してくれた壁、もう元に戻ってるね」

「本当ですね。クロノ様、ちょっとここに居てください」

「うん」


 バグォォンッ。


 ちょっと本気でやりすぎたか、衝撃で壁一面が崩れ落ちた。


「俺の筋力、まだ強くなってるんすかね?どうもそんな感じが」


「もはや人間なんて消し飛んじゃうレベルだよね!あっははは」

「バケモノっぷり、どんどん進化してるねぇ!ひゃひゃひゃ」


 ……筋力が伸びるほど、それを発揮した時の筋肉への負荷も増す。


 ということは、トレーニング量も頻度も減っている今のほうが、さらなる筋発達の可能性はあるのか?


「ヘビーデューティ・トレーニングか。


アランの筋トレ理論とは対立する概念だけど、レベルも上がってきた今、その意義は高まっているのかも知れないな」


「おぬし、また何をぶつぶつ言っておる」

「あ、クロノ様、腹減りました。肉あります?」

「まだまだあるけど」

「お願いします」


「まったく、困った人間じゃな。マットは」

「その人間におんぶされてんだから、お互い様じゃないっすかね」

「むう……でも、そうかもね。ふふ」


 背中のほうから、肉の焼ける音と匂いがしてきた。




 歩きながら食べる。このスタイルも板についてきたよな。

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