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第40章 失われる力

 どのくらい歩いただろうか。ずっと薄暗く不潔な環境が続き、パーティの口数もほとんどなくなってきた時、ふと、マッドが向こうの壁を指差した。


「あれだ、あの壁だよ。魔法使いの二人なら、わかるかな?」


 示されているのは、今までもひたすら見続けてきた、地下道の壁だ。そうとしか俺には見えない。


「ほぉ、こりゃ高度な魔法だねぇ。魔法使いでも、あたしくらいのレベルでなきゃ気づかないだろう」

「うん。ただの壁と擬装するために、表面にだけ質量を持たせておるからな。


まあ、もちろん我には通用せんよ。ふっ」


 またドヤってる。皆が壁に注目していて、誰も見ていないようだったので、こっそりクロノの頭を撫でてやった。


 クロノは驚いたようにこちらを見て、耳を赤くしたが、結局まんざらでもない顔で撫でられていた。愛らしい神様だな。


「この壁を抜けると、地下世界への道がずっと続く。進んでいくうちに、深さは20階層を越えるよ」


 マッドの声を聞いた瞬間、クロノの身震いが俺の手に伝わった。


 ……もうすぐ、神の力が失われる。


「それじゃ、行こうか」マッドの表情には、冷たさが宿っていた。




 魔法の壁を抜けてからは、ひたすら土壁のトンネルが続いている。クロノによると、ここも崩れてしまわないように魔法の力で支えられているらしい。


 何でもありだな、魔法。まあネイザー・エル・サンディなんか、魔法で筋肉まで肥大させてたもんな。




 下水を抜けてから、しばらく行った時点で、クロノが張ってくれたシャボン玉の魔法は消すことになった。


 クロノ曰く、別にシャボン玉と照明と焼き肉だって同時に出来るそうだが、やはり複数同時は難しいのかも知れない。


 ……俺が筋トレする時でも、基本的には部位ごとにアイソレート(独立)させたほうがよく効くもんな。「全部を一度にこなせる」というのは、「全部が中途半端になる」とほぼ同義なのかも。




 歩きながら、クロノが肉を焼いて寄越してくれる。俺は黙って食べる。クマの肉、美味しいよね。ちょっとハマってきた。クロノの焼き加減もどんどん上達してるし。


「ひゃひゃひゃ!マットがいい匂いさせて肉ばっかり食べてるもんだから、どうも真面目な気分になってこないねぇ」

「イリスも食べます?あ、これ岩塩振っちゃってるんでネコはダメか」

「あたしゃ何でも食べるよ。本物のネコじゃないんだからさ。ひと口ちょうだいな、ほれ」

「じゃ、はい。どうぞ」

「まむまむ、まむ」

「食べてる時は喋らない!」

「にゃーう」

「なるほど、こういう時だけネコの特権を用いるのか。可愛いからつい許しちゃうな。流石、長年生きてると違いますね」

「それはそれは、お誉めに与り光栄だわ!ひゃひゃ」

「ネコに遊ばれておるな、凡人め」




 地底もかなり深くに来たせいか、何となく空気の匂いが変わったような気がした。


 その時、クロノが俺の服を引っ張り、足を止めた。


「どうしたんですか?」


「……ここじゃ。この高さが、人間の領域と、エルフの領域の境界になっておる」

「これ以上進んだら、神の力は使えないんですね?」

「そう。今まで、我は管轄内でしか働いたことはない」


 その様子に気づき立ち止まったマッドと、俺の肩で寝ていたイリスも、クロノのほうを向いている。


「クロノちゃん、怖いのかな?大丈夫!愛しのマットが守ってくれるからさ」

「何だいクロノ!さっきの自信満々な顔はどこ行ったんだい?


あたしだって、あんた達を頼りにしてんだよ。それだけの器量があると見込んでるんだからさ」


「ここから先がどんな所か、俺は見てきたことないんで、わかんないですけどね。


クロノ様、このパーティなら大丈夫です。多分。知らんけど」


「知らんのかーい!」


 皆で笑い合ったら、クロノも少し安心してくれたようだ。俺の袖は掴んだままだけど。


「うん。皆、よろしく頼む」


 クロノは頷いた。自分の心を落ち着かせるように。


「それと、マット。踏み出す勇気をちょうだい。少しだけ」


 俺は手を差し出す。クロノがそれを握り、固く手を結ぶ。


 俺も首を縦に振った。行こう、の合図。クロノは深呼吸をひとつ、ゆっくりと地の底に向かって歩きだした。


「どうですか?越えました?」

「越えたよ。わかる?」

「いや、外見からは全然。何も変わってないように見えますけどね」


「……体が重い。我自身の重みを、初めて我の力だけで動かすと、こんなふうに感じるんじゃな」

「いいじゃないっすか。重いなら、筋トレになりそうだし」

「よくない!しんどい、って言ってるんだよ!?」

「じゃあ、はい」


 俺は肩に乗せていたイリスを両腕で抱え、しゃがみ込んでクロノに背中を見せた。


「ほら、乗ってください」

「え?いやっ、いいよ。恥ずかしいし」

「じゃあ、行けるとこまで歩いてみましょうか」




 結局、5分くらい経過したところでクロノは遅れ始め、むう、とか言いながらも俺の背におぶさった。


 イリスは腰に着けた俺の道具袋から顔を出し、揺られている。


「あたしに続いて、さらに荷物が増えたねぇ!ひゃひゃひゃ」

「むう……マット、かたじけない」

「あはは、帰りはついでに僕もお願いしようかな!」

「マジっすか。長時間の運動なんで、遅筋しか発達しないような気もしますけど。まあ全然いいですよ」

「流石に冗談だからね!?わかってくれてるかな!?」


「マット。お腹空いたら、すぐ言うんじゃぞ」

「じゃあ、とりあえずクマの肉10ポンドで」

「もう空いておるのか!?さっき食べたばかりなのに」

「これが『背負うものの重み』ですね」

「むうう」

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