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第26章 最強の凡人

 漸く視力が戻ってきた。俺は……あれ?


 魔力の壁の、外にいる!?


「「熟練の二人、マイクとレイによる魔力の壁ッ!絶対に壊れないはずの壁ッッ!


その耐久性を、マットのパワーが上回りましたぁッッ!」」


「「数秒前までは、デニーのペースだったんですけどね。いや今、ぜんぶ鳥肌立ってる」」


 そうか。俺が魔力の壁を壊してしまったのか。




 俺は慌てて舞台に戻ろうとしたが、もともと弾力性を持つこの虹色の壁は半円状をまだ維持していた。俺が飛び出てきたらしい壁のひび割れも確認できるが、形はほとんど元に戻ってしまっている。


 ……場外負け、とかルールになかったよな?


 いや、もっと重要なことを思い出した。デニーはどこだ。俺は目の前にある虹色の壁に両手を着け、内部を確認した。


 いない?


 あ。上にいた。そこか。


 俺の体当たりは、どうも若干ずれて衝突したらしい。飛ばされたデニーは、壁の天辺に近いあたりに頭から突き刺さっていた。


 ……その体は完全に力を失い、吊られた畜肉のようにだらりと垂れ下がっている。


 カンカンカンカンカァン。


 試合終了を告げる、荒々しい鐘の音。




「「勝者ぁ、『最強の凡人』!マット・クリスティ!いやーウルさん、正式にはデビュー戦で、この闘い振りです!」」

「恐ろしい新人が出てきましたね。ええ」


 瞬時に壁が消え、支えを失い落ちてきたデニーらしき肉塊を、マイクとレイが丁重に受け留めた。早く治療してやってくれ。


「「二人の『ウォーラー』の魔力によって構築された壁の強度は、これまでの歴史が証明していたはず!


それをデビュー戦で、一撃のもとに破壊してしまいましたッ!」」


「「いや、もうね、怖い」」

「「10年以上解説を務めるウルさんも、これには驚、愕、ですッッ!」」


 やっぱり実況はうるさい。


 そう思っていると、クロノが駆け寄ってきた。表情は明るい。よかった。


「マットぉ!」今回も俺の胸に飛び込んできた。こういう時のクロノは素直だな。そしてやはり触れた瞬間、体中に感じていた痛みは一瞬で消え去った。


「観ててどうでした?ネイザーの時よりはマシだったんじゃないっすかね」

「……ヒヤヒヤしてたんだからね。まったくもう」




「「それでは皆様!勝利者インタビューですッ!『持たざる者』マッド……失礼、マット・クリスティ!大きな拍手を!」」

「「あー、あ。ありがとうございます」」


 相変わらず、この自分の声が大きくなるのには慣れない。


「「マット選手。デビュー戦で、魅せました!」」

「「えーそうですね。負ける気がしたんで、どうせなら一発殴ってから負けようかな、と」」


 笑い混じりの歓声が沸く。皆、こんな受け答えをけっこう真面目に聞いてくれてんだな。


「「デニー選手の風の魔法、切れ味はいかがでしたか!?」」

「「あれ以上食らい続けてたら、ヤバかったっすね。だからこそ、全力で行ったんですけど」」


「「最後に、次の試合も期待してよろしいでしょうかッ!」」

「「次もできるだけ、お金たくさん欲しいです。よろしくお願いしまーす」」


 大歓声の中に、労いと期待の言葉が幾つも聞こえていた。


 ……300年の筋トレという俺の地道な努力を、初めて公に認めてくれたのは、この闘技場という存在なのかも知れない。




「お疲れさん。そんじゃあ今回の賞金、合計で501万ロニーだ」

「ありがとうございます。今日のほうが多いんすね」

「そりゃ、あれだけ話題になったからなぁ。しかし、これからが問題だぞ。


なんせ、ネイザーとデニーを立て続けにぶっ倒しちまったんだ。そんなバケモノと試合するのを、易々と受けてくれる相手がこの先出てくるかって話だ」


「ネイザー以外の『魔闘技四天王』の人達とかは?」

「四天王の立場を、守りたがるだろうな。まして、ギフトがない相手なら飛び道具で勝てる!と踏んで勝負に出たデニーが、あの様だろ?」


 試合枯れ、か。それは困るな。まあ半年に一回くらい闘えれば、経済的には問題ないと思うけど。


「おまえさんが相手を選ばないってんなら、自分の実力も考えねえ命知らずな奴らを、片っ端から相手していけばいいかもな。


それこそ、マッド・エリスビィみたいな奴は、幾らでもいるだろう」


「俺のほうは別に、それでいいんですけどね。毎回痛いの嫌だし」


 ……マッドか。あの自由人、今ごろ何してんだろ。


「あ。そう言えば、マッドがやってる『請負人』っていう職業は、何をして誰からお金を貰ってるんですかね?」

「ん?そりゃもちろん、多岐にわたるぜ。傭兵やそれに近い仕事もあれば、特定の害獣や魔物の駆除なんかもやってる。


簡単に言えば、公の職業という枠に嵌まらない内容の仕事依頼を、まずシャオンの仲介所が受ける。それを、やくざな野郎共が金額と内容を考慮した上で引き受ける。って流れだ」




 請負人。次の試合が決まるまでは、シャオンの依頼を受けて仕事をこなしていく、というのもアリかも知れないな。


「クロノ様。俺、『請負人』の仕事もやってみようかと今思ったんですけど、どう思います?」

「内容による。誰かが大っぴらに頼めないことを、大金貰って引き受けるんじゃから、基本的に真っ当な仕事ではないよ」


 まあ、とりあえず話を聞いてみよう。やるかどうかは後で決めればいい。


「それにしても、腹減りましたね」


「ふふ、今日はご馳走してくれるんじゃろう?」

「クロノ様の、その幸せそうな顔見てたら、毎回浪費せざるを得なくなりますね」


「いぇーい!ごはんごはん!」

「子供か」

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