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第25章 風の魔法使いデニー・ウォルフ

「まったくよ、鳴り物入りのデビュー戦になっちまったなぁ!まあ、おまえさんは『四天王』ネイザーを倒した『持たざる者』だしな。期待されるのは仕方ねえ。


……よし、確認だ。オプティマ闘技大会『魔闘技』部門、今日の対戦相手はデニー・ウォルフ。風の魔法使いだ」


 俺は小指のほうから順番に指先の一本ずつを立てていき、片手での逆立ちをしている。今の俺なりのウォームアップだ。すぐ腹減るし、あんまり動きたくないけど。


「まあ相手が誰でも、勝って稼げりゃいいんで大丈夫っす」

「頼もしいこった!しかし、デニーも『魔闘技』で十指に入る実力者だぞ。


そして、ネイザーとはタイプがまったく違う。ネイザーは強化した自身の体を武器にしてたが、デニーは飛び道具がメインだな」


「相性は……どうも、悪そうですね」

「まーおまえさんとの相性で言えば、最悪だろうなぁ。はっはっは」


 ついこの間も、離れたところから銃で好き放題撃たれたからな。今日の試合もあんな感じで一方的にやられそうだ。


「なんせ過去の対戦では、デニーがネイザーを倒したこともあるからな」

「え。あのバケモノを?」

「初動から距離をとって、ひたすら風の魔法でネイザーを削り続けた。そういう内容だった」


「……なるほどね、わかりました。そのデニーって人、俺がギフトを持ってないのを知って、試合を受けたんだろうな」

「それはそうだが、な。あの時、会場にいた人々しか、まだマットのことを知らねえんだ。


未知の相手のオファーを受けてくれたんだから、デニーには感謝しないとなぁ!?」

「はは、そうですね」


 太鼓の音が鳴り、この控え室にも響いてきた。出番だ。


「マット、気をつけてね」

「了解。ありがとうございます、クロノ様。行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 クロノが、ぎこちない笑顔で手を振っていてくれた。俺は背を向け、歩きだす。


 俺のことが心配なのを、必死に隠そうとしてくれている。その表情が暖かく、切なく、俺の心は少し痛んだ。生きて帰ってこよう。




「「それでは両選手、入ッ場ですッッ!」」


 前回よりは落ち着いているか。しかし、この音量、熱狂する観衆、閉じられた檻の中で殺し合う現実。慣れるってことは永遠にないのかも知れないな。


 向かいの花道から跳び、一瞬にして舞台に上がった男が、デニー・ウォルフ。


 肌は白く、体格はネイザーより小さいけれども広い肩幅が目立つ。そして当然というか、俺よりデカい。


 耳を痺れさせる大歓声のなか、俺は今回も歩いて舞台へと向かった。怖いか、って訊かれれば、怖いと答えるだろう。


「マットぉ!おまえに賭けたぜ!」

「持たざる者の希望なんだぞぉ!おまえは!」

「クリスティさぁーん、頑張ってー!」


 名字で呼ばれたのが珍しかったので、自然とそちらに視線が向いた。


 あ、職安のローラさんだ。やっぱり。


「きゃーこっち向いてくれた!筋肉かっこいー!大好きーっ!」


 ……ちょっとだけ手を振った。あんまりやると、後で怒る神様がいるので。




 舞台上、デニーと向き合う。


「「当試合の『ウォーラー』、お馴染みマイクとぉ、レイ!」」


 虹色の壁がつくられ、俺とデニーは閉じ込められる。


「あのーデニーさん、今日はよろしくお願いします」

「君が街中を騒がせた『マッド・エリスビィの偽物』マットか。思ってたより若いね」

「一応、317歳なんですけどね」

「ふはは、なかなかの道化だな君は。しかし加減はせんよ」


 一応、事実なんですけどね。まあ信じてくれるとは思ってなかった。




「「ジャッジ、オーケイ!?さあっ大注目の一戦、試合開始です!


それではぁ!皆様ご一緒に、ファイダーウッ!」」


 カァン。


 鐘の音が高らかに響く。さあ試合開始だ。


 と思った瞬間から、壁の中に暴風が生じた。飛ばされそうになり、俺は身を低くする。


 デニーは素早く最も遠い壁際まで俺から離れ、両手を広げる。


「早速だが終わらせよう、風切の刃(ウィンドスライサー)


 あ、これダメなやつだ。


 ジャドドドドドドジャドドドドッ。


「「出ました、デニーの十八番ッ!風切の刃(ウィンドスライサー)、本日はより激しめに撃ちまくっております!どうですか、解説のマルクス・ウルさん!?」」

「「まあ予想通り、いつも通りの展開ですね」」


 痛え、そして冷てえ。風の魔法か何か知らんけど、一発が銃弾なんかよりはるかに重い。


 俺は頭を抱えるようにして、荒れ狂う弾の嵐に耐える姿勢をとった。しかし、ここから動けない。


 ジャドドドドドドドドッドドドド。


 俺の皮膚が、そこらじゅうから破けてきた。血の飛沫が舞う。弾の発射されるリズムが、さらに早くなっていく。


 腕が、眼が、耳が冷たくなり、感覚が失われてくる。まずいな。いや、さっきからわかってんだけど。


 とりあえず、負ける前に一発くらい殴っとかなきゃ。


「ノォペイイィンッ」俺は全力で叫んだ。


 壁全体に振動が起き、暴力的な反響が巡っている。それが耳に効いたのか、デニーは一瞬怯んだように見えた。


 刹那、俺は真っ直ぐに跳ぶ。暴風の中、デニーの姿を曖昧な視力で捉える。今しかない。


 ……あ。パンチはタイミングが合わないし、いいや。


 このままぶつかろう。


 ボンッ。


 もつれ合うように、二人とも壁に激しく叩きつけられた。俺は頭から行ったせいで、衝撃を受けて視界が真っ白になった。


「いたた、マジ痛え……やっぱ脳は鍛えられないのか」


 何とか起き上がった俺は、なかなか視力が戻らず、頭を振ってみた。ヤバいぞ、早く攻めなければ。また魔法の嵐で動きを封じられる。


 デニーはどこだ?どこにいる?


 それ以前に、俺は舞台上の何処に位置してるんだ?


「「なんとぉ!『闘技』史上、このような事態が起きたことはあったのでしょうかッッ!」」

「「いやーちょっと、前代未聞ですね。えらいことになりました」」


 実況が聞こえる。何が、どうなった?

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