表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/89

第24章 明日より今

「えーっ、ほんとに?残念だなあ。僕が出すんだからマットも来ればいいのに。


あ、ひょっとして。大衆酒場って苦手?僕達はもう、あのごちゃごちゃした感じがお馴染みなんだけども」


「酒は飲んでると楽しいんっすけどね。アルコールって筋肉にとって、やっぱりマイナスなんですよ。短期的にも長期的にも。


適量と言われてるアルコール摂取量でも悪影響は確実にあるし、もし翌日まで残る飲み方なんてしようもんなら、筋トレの効果を全部もって行かれてしまうみたいですから」


 ……とか言いながら、昨日もここで一杯やっちゃってるしな。


「あはは、真っ直ぐ生きてるなあマットは。僕もそのくらい真面目にやれればいいんだけどね、結局、明日より今なんだよなー」

「明日より今、か。そんな生き方もいいですね」

「うん!だから毎日楽しいよ、僕は」


「おいマッド、早く行こうぜ」

「一刻も早く始めてぇだろ」


 悪そうな人達が急かしている。マッドも年とっていくと、あんな風貌になるんだろうか?


「わかったよー。それじゃな、マット。また何処かで」

「そうですね。マッド、また何処かで」


 マッドら一行は、わいわい騒ぎながら繁華街のほうに歩き去った。あしたっていまさ、という不揃いな歌声が、遠くなってからも聴こえていた。


 シャオン・ライの店の前。そろそろ今日も陽が落ちる。


「腹減りましたね」

「そうじゃな。ふふ」

「クロノ様?どうかしました?」


「……いや。名前だけでなく、中身も似ておるなーと思ったのじゃ」


 茜色に照らされたクロノが、くるりと振り返ってこちらを見た。少し遅れるように揺れて光を反射する、鮮やかなロングの黒髪。


 もう神の美しさには見慣れてしまったと思っているけど、たまに条件が重なる時は、今でもドキッとさせられる。無邪気に笑う、こんな姿に。




「また山で大きいヴィルボーアとか、いっぱい獲ってきましょうか」

「むう……またあれ食べるのか」


「今日だけでお金、160万も減っちゃいましたからね。節約にもなるかと思って」

「それは確かにそうじゃが……」


「どうかしました?」

「一緒にいろんな店、巡ってみたいなーって思っただけ」


「可愛いワガママ言ってくれますね」

「べ、別にそんなんじゃないもん」




 料理屋に向かう途中。俺は僧帽筋の上部から中部にかけて、ピリッとした収縮を感じた。つまり、首筋に嫌な予感が走った。


「どうも……さっきから、後をつけられてますね?」

「気づいたか」クロノが無感動に言った。


「友達になれそうな人達かなー」

「うーん……さっき、仲介所でいろいろ知られたからなぁ。


マットよりも、マットが持っている大金のほうとお友達になりたい、というような奴らではないかな」


「やっぱ、そんな感じっすね。残念ながら」


 俺が足を止め、周囲を見回すと、5人ほど確認できた。あちらもそろそろ隠れる気はなくなったらしい。


「……すんません、さっきシャオンの店でお会いした方々ですかね?」

「そうだ。察しがいいな」


 悪人の見本みたいな外見。人は見た目が九割、というのはけっこう本当なのかも知れない。


「俺が出せる金は、マッド・エリスビィにあげちゃった分だけですけど」

「……へっ。これを見ても、まだ同じことが言えるかな?」


 男達が懐や脇に手を差し入れ、金属製の筒のような形をした何かを取り出して見せた。


「あれ、何ですかね?」

「銃じゃな。火薬の爆発力で、筒から鉄球を発射する。現代の弓矢みたいなもの」


 パァン。


 甲高い破裂音が、クロノが話し終える前に響いた。


「痛てっ、うわ熱っ」俺は腹斜筋、つまり脇腹のあたりに着弾を感じた。衝撃より熱さのほうが特に不快だ。


「なんでいきなり撃つんですか。痛いんすけど」


「おい、なんか効いてねえみたいだぞ、あれ」

「そんなことあるか!確かに当たったんだ」

「そんじゃあ、残り全員で撃ってみようぜ」


パァン。パパパァン。


 4発のうち、3発が俺のあちこちに命中した。熱した石をぶつけられたような感じか。


「痛いって言ってるでしょ!?」

「マット、もう大丈夫じゃ。基本的に銃は一発撃つと、次の弾と火薬を装填するまで機能しない」

「いや既に大丈夫じゃないんですけど。撃たれてるし」


 連中はじりじりと距離を詰めてくる。今度は刃物を手に携えて。


 その中で一足先に近づいてきた男が、手に頭くらいの大きさの火球をこしらえていた。魔法だ。


「改めて言っとくぞ。金をよこせ」


「クロノ様、もし俺がやりすぎたら対応お願いします」

「あー平気じゃろ。跡形もなく吹っ飛ばすとかでないなら、ほぼ治せるよ」

「頼りになるなあ、神様は」俺は素早く足元の砂を握り込んだ。


 かなり加減しないとな。俺は軽く、男達のいる方向へ砂を投げつけた。


 バオッ。


「ぐああ」

「ぎゃあ」

「うばしゃああ」


 口々に悲鳴を上げ、5人は倒れ伏せた。


「……うん。やりすぎたかも」

「大丈夫じゃ。粉々になってはいない」


 俺とクロノは、倒れている男達に寄って確認した。


 砂の散弾を浴びた5人は、けっこう大変なことになっていた。片眼が潰れている者もいるし、夥しい流血を催している者もいる。


「死なない程度に治療する。マット、こいつらと話をしてみよ」

「ありがとうございます!ほんとに、流石は神様だなあ。


で……あのー、あなた方は何故、強盗なんかしようと思ったんですか?」


「うう……そりゃあ、てめえが、金持ってるからだろ」


 まあ行動原理としては、この上なくわかりやすいな。


 マッドの言葉を思い出し、今度は寂しくなった。明日より今、か。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ