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第23章 遭遇、マッド・エリスビィ

 扉についた鈴が鳴る。


「お、いらっしゃい……なんだ、昨日のバカップルのお二人じゃないか」


「すんません、連日にわたって」

「むう……バカップルって言われた」


 シャオン・ライ。服装も小綺麗で、落ち着いた印象の大人な男性。しかし俺は初対面から、その眼が持つ鋭さは感じていた。


「てっきり、もう昨日で懲りたかと思ったよ。それで、今日は何にする?またお薦めでいいのかい?」


「いや、ちょっと違う用事でして。


『この店で4番目と、9番目に強い酒を』お願いします」


「……あらら、そう。君達のような若い二人が、『そっちのほう』のお客さんだったのか。それは意外だったな」


 シャオンは酒が並んだ棚のほうから、こちらへと向き直った。


「それで、用件は?依頼を『請け負う』つもりかい?」


「いや、ちょっとマッド・エリスビィさんに用事があって。今どこにいるか、ご存知ですか?」

「マッド君か。ちょうど良かった、さっき戻ってきたところだよ」


 しかし、扉を開けた時から、店内にはシャオンしか見当たらない。


「ここに、マッドさんが?」

「ああ、今開けるよ」


 パチン。


 シャオンが指を鳴らすと、入口から見て最奥の壁の一部が突然消え、小さなドアが現れた。


「どうぞ、入って。癖のある奴が多いから、まあ気はつけたほうがいい」

「あ、ありがとうございます。クロノ様、行きましょう」

「そうじゃな。いざ行かん」


 クロノは何となく楽しそうだ。こういう物々しい雰囲気が好きなのかな。一方の俺はちょっと気が重い。また闘技場みたいにバケモノだらけだったら嫌だし。




「へー、こんな広いんだ」

「職安と造りが似ておるな。多少薄汚いし、狭いが」


 部屋の受付にいた「仲介人」らしき女性がこちらに気づき、視線を向けた。それに続き、20人ほどいる「請負人」と思しき面々のうち半数ほどがこちらを一瞥した。


「癖のある、ね」たしかに、はみ出し者という感じの容貌が多い。


「すんませーん皆さん、マッド・エリスビィさんって、どの方ですか?」


 返事はない。なるほど。


「俺はマット・クリスティです。この間、替え玉で魔闘技に出た者でーす」


「おまえがマット・クリスティ!?」

「持たざる者、か。意外と若いな」

「ネイザーをぶっ倒したんだって?」

「なんだ、『請負人』やってたのかぁ?」

「服で隠れてるが、すげー筋肉だな」


 人相の悪い男達が、一斉に寄ってきた。マッドはどいつなんだろう?


「おーい、僕がマッド・エリスビィだ。気がつかなくてすまねえ、話し込んじまってたわ!」横から声がした。


 そちらでの会話を切り上げ、見るからに古い椅子から立ち上がったその男は、俺と同じくらいの身長。体は細いけれども、鍛えているのがわかる。


 そして、二十歳くらいだろうか?たしかに髪の色とか、雰囲気は俺と似ているような気もする。それが見間違えるほどかは何とも言えないが。


「クロノ様、俺と似てますかね?」

「うーん……あんまり。あいつのほうがチャラい感じじゃ」


 マッドはゆっくりと、こちらへ歩み寄った。余裕のある態度だと思った。俺達も数歩、前へ進み出る。


「よろしくな。それで……えーと、僕はどこから説明したらいいかな?」

「騒ぎになった流れは、ほぼ聞いてます。俺から話すことはありますかね」


「賞金、幾らだった?」

「全部で320万と少しです」

「マジで!?そうか、僕どうせ負けると思ってたから、計算してなかったわ。あははは」


 なんか、想像してたより軽い奴だな。ただ、話はできるし、個人的に嫌いではないタイプ、という気がした。


「最初から負けるつもりだったんですか?」

「いーや、1億分の1くらいの、勝てるって確率に賭けてみたくなったんだな。


まーどっちにしてもファイトマネーは出るし、ネイザー・エル・サンディだってたぶん僕を殺すまではしないだろうからね」


「それで、賞金どうします?俺も間違いとは言え、他人の名前で出ちゃったわけだし、マッドさんの言い分もあるかと思いますんで」

「あー、マッドでいいよマッドで。たぶん年齢もそんなに変わらないでしょ?


あはは、しかし、マット君は正直者に『ばか』っていう冠が載るレベルのお人だな」


「俺もマットでいいっすよ。賞金、半分こにします?」


「何だと!?」

「ばかだろ、こいつ」

「おまえ、本気で言ってんのか!?」


 人相悪い人達が横から口を挟んできた。しかし、ばかっていうのが適切だとは思う。


 金の勘定なんて全然してこなかったからな。食い物は、必要な時に必要なだけ調達するものだ。今でもそう考えているらしい。


 人から言われてみないと、自分が変かなんてわからない。


 筋肉も同じだ。鍛えるのが当たり前になってくると、自分の強さも普通のことのような気がしてくるもんだ。


「ほんとに半分もくれるの!?僕は闘技場のルール的に、こっちにもちょっと入ってきたりしないかなーってくらいの、軽い感じで言ったつもりなんだよ」

「もう半分でいいんじゃないっすかね。面倒なんで」

「よっしゃあ、これでしばらく豪遊できるぞ!」


「なんだマッド、じゃワシにも奢ってくれや」

「俺も俺も」

「『請負人』仲間じゃねーか」


「あははっ、わかったよ。今日はついて来る奴全員、俺の奢りだぞー」


 まるで闘技場のような歓声の塊が、狭い室内に沸いた。マッドは狂喜する皆に、もみくちゃにされている。


「クロノ様、こんな奴もいるんですね。世の中には」


「ばかってこと?それならマットも負けておらぬよ。そもそも、神の罰を自ら300年間も受けるような変態じゃからな」

「そうでしたね」

「ふふ……そうだよ、ばか。ほんとにね」

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