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第14章 オプティマ公共職業安定所

 オプティマの街は、俺が見たこともない技術で溢れかえっていた。


 まず驚きがあったのは昨夜から。とうに陽が落ちても、街は「魔石灯」という光で界隈を明るく照らし続けていた。


 詳しい原理はわかっていないけれども、そこに魔力を留めておきつつ、諸々の目的のために制御する「回路」というものに関する技術が、特にここ50年ほどで飛躍的な発展を遂げたようだ。




「300年ともなれば、眼に映るものの大抵が新鮮じゃろう?今のマットにとっては。昨晩からして、まず街の灯に不思議そうな顔をしておったくらいだもの。


言ったように、魔力も結局は物理じゃからな。それを効率的に使うシステムを人間が見つけただけのこと。


そして、ひと度そうなってしまえば、次には技術の競争が起きる。その過中にあるのが、このオプティマの街というわけじゃ」


「え、あーそうですね。いろいろ凄いなー」


「……むう、さては上の空じゃな?マット。


ふふ……おぬし、『職業安定所』がよほど気になっておるのじゃろう」


「へへ、ばれちゃいましたか」


「マットは何かに夢中になると、それしか見えんようになるからな。特に筋トレの時とか」

「筋トレは特別ですよ。集中してやらないと効果ないですからね。毎回、肉体の限界を少しだけ拡げていくんです」


「ふっ、そういう話をしてる時の眼が、いちばん輝いておるよ」




 かつては商人や職人、傭兵などがそれぞれのギルドに所属していた。


 しかし当時に限って言えば、基本的に高名な家系、もしくはギフトを持つものだけがギルドでは優遇されていた。俺達のような農家の生まれは、組合としてのギルドも存在せず、ただ搾取される側だった。


 そんな閉塞感のなかで、15歳の俺は筋トレを始めた。持たざる者のスタートライン。




「これが、職業安定所か。なかなか立派な建物だな」

「たしかに、ある程度の金はかかっておるな。現代は市や町など、自治体の単位で公共事業を管理する時代になったから」


「そう言えば……ここに来るまでの道、魔動車は結局まったく通りませんでしたね。実際に動いてる姿をまだ見てないんで、楽しみにしてたんですけど」

「あれは実用化、一般化にはまだまだ遠いよ。魔石も大量に食うからな。今のところは所詮、ベンファト家のような富裕層の道楽じゃ。


昨日だって、夫妻は何処かへ行きたかったのではない。ただ魔動車に乗って散歩しながら、自らの財力を見せてまわっておっただけじゃ」


「そうか……金だな。俺にも、金が必要だ。よっしゃ、中に入りましょう」

「ふふ、そんな風にはしゃいでると子供みたいじゃな。まあ、体はバケモノじゃが」


「クロノ様、なんか今日はえらくご機嫌ですね?よく笑うし」

「え?だって、マットのほうが嬉しそうな顔してるから……って、あっ、違う。べ別におぬしにつられてるわけではないぞ。


うぅ……って言うか、昨日やむを得ず一緒のベッドだったからって、変な勘違いしないでよね!?」


「あれ、やっぱ嫌でした?」

「……もう、今こっち見ないで。ほら、行こ」


 クロノは顔を袖で覆っていたが、真っ赤な耳は隠せていない。


 寝たフリをしてた昨日の自分を思い出してしまって、俺のほうも恥ずかしくなった。


「へーい。じゃ、行きましょ」


 大きな木製の扉を開くと、安定所の中が見えた。人が多く、活気がある。みんな俺と同じなのか?それぞれに風貌は違っているけれども。




「お待たせいたしました。えー、マット・クリスティさんですね。では、まず初めに労働条件からまいりましょう。


例えば、

『夜19時までには必ず終わる』

『週に2日の休みがある』

『日当10000ロニー以上』


など、クリスティさんの求める条件がありましたら、いくつでも仰ってください」


「すんません、ちょっとお待ちください……クロノ様。日当ってどのくらいあれば、俺が食っていけますかね?」

「おぬしの場合、食費が嵩むからな。諸々考えると、最低でも15000ロニーは必要じゃと思う」


「了解。じゃあ、『日当15000ロニー以上』で『勤務中、1時間に1回の食事ができる』仕事ってあります?」


「はぁ……え!?ちょ、ちょっとクリスティさん。申し上げにくいのですが、後のほうの条件がありますと……」


「いや、でもそれは外せませんね」


「うーん……内職などの在宅ワークか、成功報酬制の『請負人』か……あとは、あ。そうだった!


これなんかどうです?『闘技者』。クリスティさんの逞しいお体を拝見した感じ、向いてそうだなって思いますよ」


 闘技者。


「それは、どういう仕事内容ですか?」

「え、ご存知ありませんか!?


このオプティマ市でも週に2回、1万人もの観衆を集める『格闘技』と『魔闘技』が開催されております」


 受付で応対してくれた職員の女性は、それを説明することが誇らしげだった。にこにこしながら、徐々に話に熱がこもる。テンション上がってきた。


「実は私も闘技、大好きなんですよっ!もちろん、観戦のほうなんですけどね。


もしクリスティさんが出ることになったら私、クリスティさんに賭けようかなっ!」


「その闘技って、ルールとかは決められてるんですよね?」


「ルールですか?ええ、とってもわかりやすいですよ!


『1対1』

『武器の使用以外、一切を認める』

『どちらかが降参の意思表示をするか、意思表示が不可能になったら決着』


それで、全てです!」


 ……ほぼ殺し合いじゃないのか?それ。

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