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第11章 街への道中

「……マット、これで何度目じゃ?」

「いや、だってめちゃくちゃ腹減るんですよ。仕方ないでしょ」


「人権持ったバケモノ、か。今思えば、言い得て妙であるな」




 世界を見物、というより早速の職探しを目的として、俺達は街の方角へと歩いていた。300年前に俺が産まれたオプティマの村は現在、オプティマ市という呼称になっているようだった。


 発展したとはいっても、元々が山の斜面の村だ。まだ木々に遮られて道が若干狭かったり、舗装が砕けているようなところもあった。




 最初は30分くらいで感じた。腹が減ったな、と。クロノに少し待ってもらって、腰に着けた道具袋から肉と芋を出して食べた。


 そこから1時間も経たずに、また腹が減ってきた。


 そのあたりで、ようやく理解した。今の俺の体は、エネルギーの消費量が異常に多いのだ。


 このままでは帰ってきた初日に餓死も有り得る。俺は再度クロノに道端で待つようお願いして、山へ分け入り、しばらくしてシカのような魔物を見つけた。雄々しい角が張り出している。




「動物」と「魔物」の違いは、眼を見ればすぐわかる。とは言っても、幼少より山で過ごしてきた俺だから判別がつくというだけであって、誰にでもできることではないようだが。


 俺は魔物に忍び寄り、木々が入り組んで足場も悪い山のなか、考えた。今の俺なら、狩るのはそんなに難しくないんじゃないか?


 試しに足元の石をそっと拾い、狙いをつけて投げた。拳くらいの大きさの石だった。


 ジャッ。


 魔物は中心から爆ぜ、肉片が飛び散った。続いてその後ろの大木が、めきめきという音と共に横倒しになった。着弾した点から煙が立ち昇っている。


 ……えらいこっちゃ。俺の筋力どうなってんだ?あ、そう言えばジャンプが音速超えてんだっけ。忘れてた。


 まあいいや。とりあえず、肉だ。俺は肉片と魔石を拾い集め、腰の袋に入れてあった大きな布切れで包んだ。


 あ、ちょっと待てよ?ひょっとすると、この場で火も起こせるんじゃないか?


 俺は手近にあった岩に横薙ぎの手刀を入れてみた。


 ガオン。


 ジュウウウ。


 真っ二つに割れた岩の断面が焼けついている。やったぜ。俺はそこに魔物の肉を置いた。こんな簡単に食糧を確保できるとは。強くなったおかげだ。


 やっぱ筋トレは最高だな。まあ、そもそも筋トレのせいでこんなに腹減ってんだけど。




 それを道中で繰り返した3度目に、クロノは俺を「バケモノ」と呼んだのだった。なるほど、間違ってないな。これでは魔物と変わらない。


「それでも、飢え死にするよりマシっすよ。次はクロノ様もちょっと食べてみます?」

「いや、それは流石にやめておくよ」

「そっか、美味いんだけどなー」

「……味の問題じゃなくない?」




 メシの確保は喫緊の課題だな。お金もないし、街に出て獲物がいなかったらいよいよ本格的にヤバい。って言うか、考えてみたら無一文じゃねえか。


 神々よ、補助金制度とかなかったのか?


「マット、わかった。おぬしが大型の獲物を狩ってきたら、我が時空魔法で保管しておくというのはどうじゃ」

「マジっすか!?是非ともお願いします」

「まったく、世話のやける人間じゃな」

「クロノ様のそういうとこも、好きですよ」

「ぐむうっ、ごほんごほん……え、マットがそんなに上機嫌なの、300年間で初めてじゃない?」




 筋肉にとって、食事というのはそれほど重要なのだ。


 昔読んだアランの書籍には、毎日1ポンドの肉を食べよという記述があった。今の俺は1食で50ポンドくらい食べている。やはり300年の積み重ねは相当なもんだな。


「マットの体、食前と食後で大きさが全然違っておるな」

「基本的に、エネルギー源は筋肉や肝臓に蓄えられるみたいですからね。そういうもんです」

「生き物一頭も食べておるのに、まだ満腹にならんのか?」

「まだまだ食べれますね。満腹になるまでローディングすれば、もっと筋肉に張りが出ると思いますよ。


どうですかね、俺、やっぱバケモノっすか?」


 大胸筋を個別に収縮させて遊んでいると、クロノが羞じらうように顔を背けた。


「ん、ちょっと……もう街が近いし。これ、着て」


 クロノはどこからか大きな布を取り出し、広げた。袖がついている。ゆったりとしたジャケットのようだ。


「ほら。帯も巻いて。前のほう、見えちゃうじゃん」

「ありがとうございます。でも、なんで急に?今までずっと裸だったのに」

「……他の人間には見せたくないから」

「はい?今、何て言ったんですか」


「ごほん、かつてのおぬしがいた頃とは、とうに時代が変わっておるのじゃ。悪いことは言わん、着ておけ。下手をすると捕らえられてしまうぞ」

「あははっ、ありがとうございます」

「な、何を笑っておるか。むうううっ」


 つくづく素直じゃないよな。いや、最近はそうでもないか。




 二人でのんびり歩いていると、もう街が近い道の真ん中、荷車が停まっていた。


 一見すると幌馬車のようだが、馬はいない。おそらく、引くような構造にもなっていない。何の力で動いているのか。


「あれって、例の機械仕掛けってやつですか?」

「そんなことより、マット、あの車は……どうも襲われているようじゃな」

「え。マジっすか」


 もう少し歩み寄ると、さっきまでは俺の背丈の倍近くありそうな車の陰になって見えなかったが、それを漸く視認できた。


 巨大なイノシシのように見える魔物が、車の窓を覗き込んでいる。呼吸音がうるさい。


「あの大きさなら、今の俺でも満腹になりそうだ」


 俺は自然と笑顔になっていた。

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