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戦場の霧に立ち向かう

 戦車兵は砲兵でもあります。現代のようにレーダーやコンピュータの助けはありません。敵の方向と距離が正確にわかっているほど、命中させるチャンスは増します。そのためには正確な地図か、自分たちで目印と目印のあいだを測量した手製の地形図が必要です。さらに小隊や中隊で連携するためには、車長たちが目印や距離関係の入った図面を共有していなければなりませんし、互いに連絡し合う無線機が必要です。


 これらが欠けていると、戦車と戦車の位置関係を個々の判断で変えることができませんし、いったん戦車兵が車内にこもったら「止まれ」の指示を行き渡らせることも容易ではありません。ドイツ戦車の敵たちには、そうした弱点をさらして敗れて行った者もいました。


 ドイツが優勢を占めた場合でも、戦車兵たちの行動には、今日のドイツ戦車兵のイメージとはかけ離れたものもありました。戦場の霧にまかれて暮らす彼らは、リスクを見つけてつぶすことが期待されたのです。例えば指揮官たちは攻撃開始地点までの集結命令を出したら(当然、安全な地域の移動です)、現在地から現場まで自分で確かめに行って、地図が正しいことを確かめ、部隊のために目印などを立てました。地図の上では道であっても、ロシアでは丸木橋でつながっている場所があったりしました。単に、手に入った地図が古すぎて現状に合わないこともありました。これは我々がGoogle地図を使って地勢を確かめる場合もそうで、ダムによって戦後にできたヴォルゴグラード湖は、スターリングラード付近の古戦場の一部を沈めてしまっています。


 正確な地図、事前偵察、主な目印間の測量をベースとして、彼らは砲兵のように振る舞いました。滞陣したときは、いつも駐車する陣地内の位置を前と片方に杭を打ってしっかりと決め、戦車から主な目印への方向と距離が正確に出るようにしました。観測班から無線や野戦電話で「300m右」とか指示を受けながら弾着を修正するのは、不確実な要素がたくさんあります。大戦末期のフィリピンで戦った日本陸軍の砲兵士官が「あらかじめ道路の交差点への角度と距離をしっかり測量しておいて、そこを狙って(つまり、いちいち観測しないで)砲撃するのが効果的だった」と回想していたのを読んだことがあります。「確実にわかっていること」が多い場所で戦うことは、勝利と生還の見込みを引き上げました。


「洗礼」という当時の兵隊用語があって、指揮官たちが未知の土地を偵察し、主な目印や道路状況を確認していくことを言いました。主な目印に部隊内で通用する「名前を付けていく」ことになるからです。地図に山や丘の標高が書かれているときは、それをそのまま「203高地」などと呼びましたし、地域に「3a」「4b」などと番号を振ることもありました。


 ですから大隊長以上になると、狭くて暗い指揮戦車に乗って陣頭に立つか、地図を広げて通信事情の良い後方で指揮するかは悩ましい選択でした。他所の様子は総合的によくわかる半面、自分の戦場で起きていることは肌で感じられなくなるからです。人の集団の常として、安全なところにいる指揮官には部下の厳しい目が刺さりました。大隊や連隊の先頭を切る数両の偵察班には重い責任と、「罠のはじき役」としての高いリスクがあり、それでもそこに経験を積んだ優秀なクルーが当てられました。


 ドイツ軍の命令書によく出てくる、時にはスタンプで押されている決まり文句は、「Nur durch Offizier(士官により取扱のこと)」です。重要な報告と命令伝達は師団司令部、連隊本部、大隊本部の「副官」または「当直士官」が引き受ける仕事で、中尉のうちに陸軍大学校へ推薦される士官はよく受験前に大隊副官を経験しています。はるかな先輩士官に「大隊長殿の命令をお伝えしますッ」とやるわけですから嫌な顔もされます。命令を受け取ったり持って行ったり、それに伴って交渉もしたりで睡眠時間を削られる仕事でした。師団司令部には「参謀長」がおらず、少佐か中佐の「作戦主任参謀」がそれに当たる仕事をしました。その下の当直士官(Ordnanzoffizier)や、それとは別にいる少佐くらいの師団副官は、もう陸軍大学校に行ける時期は過ぎた、実直で経験ある士官たちでした。師団副官部となると人事書類の管理も膨大な仕事になってくるので、作戦主任参謀らの統帥部と副官部が分業をしていました。

「戦闘/行軍」について書いて終わりにする予定でしたが、雑多な内容になるため分けます。あと1回続ける予定です。

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