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お偉方にはわからんのです

 兵器のカタログスペックを見て、「どっちが強い」などと語るのは、誰でもすることですよね。でもカタログスペックに現れないことの良し悪しで、使い心地が上がったり下がったりすることは、私たちの暮らしによくあることです。100円のレトルトカレーより350円のレトルトカレーのほうがたいていおいしいですが、箱の裏側を読んで「ほらここが値段の差につながってる」と違いを見つけることは困難です。


 III号戦車には24口径(短砲身)75mm砲を積んだN型がありましたが、それ以上重い砲は積めませんでした。実物の戦車もプラモデルと同様に、砲塔は車体に「乗って」います。III号戦車の場合、その接点には円筒形のベアリングがぐるっと並んでいて、砲塔が回るようになっています。この部分が重さに負けると砲塔が回らないわけです。その能力を強化しようとすると、車体上部を丸ごと別のものにしないといけないので、そこまでになったわけですね。


 戦車を速くしようとすれば、エンジンパワーを上げればいいわけです。しかし大出力のエンジンは熱もたくさん出します。廃熱システムが戦闘室に熱気を持ち込まないよう、例えば十分に大きな排気口を持つようになっていればいいのですが、イギリスのカベナンター巡航戦車のように熱気がこもって長時間戦えない戦車ができることもありました。ドイツでもII号戦車を高速化する研究は難航し、結局II号戦車とはいいながら、車体のデザインを丸ごと変えたII号戦車L型が完成するころには、他のスペックが魅力的でなくなってしまい、ごく少数の生産にとどまりました。


 積める弾の数も大事な要素です。50mm砲搭載のIII号戦車は型によって違いますが、少ないものでも80発以上の主砲弾を積めました。ところが75mm砲のIII号突撃砲は、砲弾が大きくて車両の背が低いので、G型のカタログスペックでは54発でした。少なくとも一部の突撃砲旅団では、突撃砲の中にある弾薬棚を全部取り外してしまい、弾薬箱をぎっちり積むことで持てる弾数をいくらか増やしました。ソヴィエトの名戦車と言われたT34/76戦車の砲弾のほとんどは床下に格納されていて、壁にある9発の弾丸を撃つと、残り68発(初期型)に手を付けるのに時間がかかってしまいました。別にドイツだけが仕様以上の弾を現場の創意で詰め込んだわけではないのですが、弾数以外に取り出す容易さも命のかかった差であったのです。


 その他にも鉄道貨車の幅、船で輸送するときの標準的なクレーンの限界重量、工兵が作る仮設橋(を作る器材)の限界重量など、その範囲に収まる・収まらないで兵器の価値が大きく変わるたくさんの物差しがあります。大戦中期以降、III号戦車やIV号戦車は平凡なスペックになってしまいましたが、平凡であることで防げる厄介ごとがありました。例えば1944年に連合軍はフランスの橋をしつこく爆撃して落としてしまったので、工兵の橋で退却できず処分されたティーガー戦車はたくさんあったと言われます。アメリカのM4シャーマンは大戦後半としては最強スペックとは言えませんが、あまり重い戦車だと揚陸できる港が限られてしまうわけです。


 もちろん、持っていたけど結果的に無駄だった死にスペックもあります。例えばドイツ軍のサイドカーには牽引用の金具を引っ掛ける基部がついています。BMW R75サイドカーのエンジンはキューベルワーゲンより排気量が大きいぜいたく品で、軍からの要求仕様では500kgの荷重に耐えることとなっています。乗っている兵士の体重や個人装備も含めてのことですが、37mm対戦車砲は327kg前後(資料により少し違います)ですから3人目が乗らなければ楽に引けたでしょう。実際には伝令役か、騎兵代わりに使われましたから、あまりけん引役はやらなかったろうと思います。


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