それじゃとりあえず燃料を入れようか
ミリタリー系の洋書でPOWという言葉が出ていたらたいていPrisoner of War、つまり捕虜のことです。ところがイギリス軍の古い兵隊言葉では、もうひとつの意味がありました。Petroleum、Oil、Water。つまり日本で言う一斗缶、イギリスで言う4ガロン缶のことです。
イギリス軍はこの容器でずっとうまくやってきたのですが、近代になって大量の燃料が必要になり、この安かろう悪かろうの容器の限界がはっきりしてきました。積み上げると下の缶がつぶれ、積み上げなくても戦場での荒っぽい取り扱いで、簡単に壊れて漏れるのです。持ち手も戦場ではちょっとしたことで取れてしまいます。北アフリカへの燃料はイランのアバダン付近から運んでいて、このあたりで缶も作ったのですが、「flimsy」というのがPOWの新しいスラングになりました。
ドイツ空軍はタンクローリーも使ったのですが、陸軍は自動車輸送ではドラム缶とカニスター(いわゆるジェリカン)で押し通しました。ドラム缶の中央にはポンプを突っ込む弁があり、横倒しにして中身を汲み出しました。
POWはドリフターズがコントに使えるほど薄くて軽いブリキ缶でしたが、カニスターは右半分と左半分をそれぞれ1枚の頑丈な鋼板からプレスして、真ん中で溶接してありました。マイソフが小学生のころに模型についてくるカニスターは持ち手部分が太い帯のようでしたが、最近の模型は正確に、3本の細い持ち手が並行しています。あれは空き缶をふたつ並べたら片手で持ち上がるように工夫されているのです。
「イギリス軍の燃料缶」を模型で見たことがないなと思ったら、カニスターを寸分たがわずコピーして捕獲品と混ぜて使っていたそうですね。ちなみにジェリカンのジェリとはクラゲのこと。「クラゲ型ヘルメットのドイツ野郎の缶」ということです。
ドイツ軍はアフリカへ出動することになって、水を運ぶ白十字の描かれたカニスターも用意しましたが、どうも間に合わなかったようで、しばらく空軍の水タンクを陸軍も分けてもらいました。トラックに隙間なくぎっちり詰めるためか、細長い長方形をしています。大きさは3種類あります。
もし実物を手に入れられることがあっても、水を汲んで飲むことはお勧めしません。空軍ではこの容器を、滞空時間の長い大型機でトイレとして使っていたからです。




