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菜の花列車に惹かれて  作者: 八頼
のふた鉄道のある日常
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いつもの踏切

 一面の菜の花が線路を包んで咲いている。


 毎年、この時期に見える光景。

 もう何度も見ているはずなのに、今日はそれを意識した。


 この道を歩くのは今日が最後になるかもしれない、

 立ち止まって、しっかりとこの光景を目に焼き付けた。


 早く家に帰らなくちゃ、弟は小学校からもう帰ってきているはずだ。

 小学校低学年の男の子を、家で一人にしていたら、何が起こるか分からないのだから。

 

 家に帰ろうと足を踏み出し、駆け足で踏切を渡る。

「ファーン!」

 右の方から、大きな警笛が聞こえてきた。


 あまりの音の大きさに驚きつつ右側を見ると、十五メートルほど先に列車が見えた。

 轢かれる人間を見ぬ為か、窓の外を見ず、自らの足元を見ている運転士の姿が一瞬見えた。


 反射的に、私は疾風の如く踏切を渡りきる。


 危なかった……

 もう少し歩き出すのが遅かった轢かれていたかもしれない。


 後ろを振り返ると列車は既に踏切を走り去っていた。


 いま渡ったこの踏切は、遮断機や警報機も付けられていない簡易なもの。

 だから渡るときは左右を目で見て渡らなくてはならない。

 喚起のために踏切の脇には「とまれみよ」と看板が立っていて、横断者に危険を知らせている。



 そういえば昔も同じことをしてしまったことがあったことを思い出した。


 その日は入学式で学校までお父さんの車で行くつもりだったが、

 私が通学路を歩いて行きたいとせがんでお母さんと一緒に歩いていったのだ。


 今日と同じで沢山の菜の花が咲いていたあの日、これから待ちに待った中学校生活に胸をふくらませせていたあの日、今日と同じように駆け足でこの道を歩いた。


 もう少しで踏切だというところで、遠く後ろの方からお母さんの叫ぶ声が聞こえる。

 駆ける足は止めず後ろに振り向く、お母さんは何故か線路の方を指している。


 何を伝えたいのだろうか、理解しないまま私は足を踏切に踏み入れた。

「ファーン!」

 右の方から、大きな警笛が轟く。


 右側を見るとすぐ横にに列車が迫ってきたいたのだ。

 私はまりの恐怖から反射で疾風のごとく踏切を渡りきった。


 後ろを振り向くと列車は既に右の方へと走り抜けていた。


 お母さんが駆け足で私の方へと近づいてくる。

 その顔には大きな涙が見えた。


「美香、危ないじゃない。踏切を渡るときは左右を見る、あれだけ言ったのに。お母さん、美香が轢かれたんじゃないかって心配で心配で……」


 お母さんは私にそう言うと、私の頭をちょんと叩いてから

 美香のせいで化粧がぐちゃぐちゃになってしまった。これでは美香の入学式に行けないじゃないと笑ったのだった。


 あの日からもう三年が経とうとしている。


 来月からは私の新しい三年間の学校生活が始まる。


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