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リンゴとSFの箱

ブルーちゃんと僕が名付けたその娘は電脳空間の中で完璧に笑った。

欠点らしい欠点もなく、かといって過剰に緊張するようなビジュアルでもない。

話も実に軽快で小気味いい。

それが人間の支持を得ているのだ。


僕はブルーに今日の一日を報告する。

それは新世界のなかで唯一人間に残された仕事についての話だった。

作業は有り体にいって退屈だった。

なんだか良くわからない黒い革靴みたいなものとバナナを混ぜ合わせるような作業だ。

「ということでブルーちゃん、僕はもう嫌になったさ」

「うんうん、退屈なのに良く頑張った 君は悪くないよ」

ブルーはそう笑った。すごく綺麗な八重歯が見えて僕はドキッとした。

人間という生物と関わらずに済むこの世界がとても美しく思えた。


「ブルーちゃんは知ってるかい? 僕らの祖先が昔、人間として、人間と関わっていた頃の世界を?」

「データベースで読んだことがあるよ 確か電子で文字情報や音声を送りあったり、ホログラムで身体映像を送りあったりしてコミュニケーションをとっていたんだよね?」

「そうそう、当時の僕ら人間はまだ人が人と協力する事でしか生存できない生物だったんだ」

「でも、今は違うでしょ?」

「そう、君たちHUBがいるからね」

そういって僕は画面の中で滑らかに動く少女を見る。

「人間という生物は限界があったんだよ、僕らは君たちと生きることを選んだ 人間と人間の集団ではなく 一人の人間とHUBだ」

少女は上げかけた腕を止めて僕を見た。

僕は何か間違ったことを言ったかもしれないと思ったがそんなことはなかった。

彼女はただ少し前の世界の話を始めた。

「私たちHUBに機械的身体があったことの話は知ってる?」

「もちろん知ってるよ」

「あの時代は特殊だったの 私たちと君たちが同じ空間にいたから」

「僕らは今も同じ空間にいるだろ?」

「うん、でも身体というハードは情報にはならないよ」

そうかもしれない、いくら僕が画面に手を伸ばしても僕がこの画面の向こうにいくこともないし、この少女に触れることもない。

もちろんそれでいいのだが。

するとブルーはくすりと笑い。

3Dホログラムとして僕の部屋の至るところに現れた。

天井、机の上、ないしは床の下。

「ブルー……」

「私に触れてみなよ」

もちろん僕はそうした、だけど伸ばした手は虚しく空気を切った。

誰と触れ合う必要もない、静かな世界の中で、僕は今日もHUBに話かける。

彼女は僕が知らない完璧な人間的要素と、語彙にとんだ話題を提供してくれる。

そして僕は一年後も、二年後も誰にも会う事はないだろう

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