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不細工の俺が街歩いてたらイケメン枠のアイドルにスカウトされたんだけど、これは詐欺……じゃない!?

作者: 和風好き

息抜き用です。



 俺は不細工だ。見事に不細工だ。百人が百人、その中に母親を入れても不細工だというだろう。テメェの遺伝だっつのに。


 学生時代、女性関係に関して、悲惨だったと誰が見ても予想できる。


  ま、実際そうだったし。


 いや、でもだ。別に村上菌とか言われて、女子達で鬼ごっこしていても、罰ゲームで俺の机を触る事が流行ったとか聞いても、軽く身体が触れたらガチ泣きとか…されても。俺はへこたれ無かった。


  あ、俺の名前、村上武蔵ね。


  へこたれない。何度、枕を涙で濡らしても。枕カバーを毎日変えても。アイドル2次元ラノベアニメメイドカフェ、全てを駆使し、己の心を保つ。学校だって、ちゃんと卒業した。


 不登校ってね、案外辛いよ?


  まぁ、色々あったが。村上武蔵はそうひねくれずにここまできたのだ。


 毎日、自己暗示していたらそう思えたよ。うん。今も続けてる。


 中の下でもいいよ。詐欺に騙されないように、身の程をわきまえながら、そこそこ遊び生きていこう。独り身であれば、金があるし。沢山あるし。あるし。


 「そこのおにーさん!ビビっと来ました!貴方!アイドルになりませんか!イケメン枠で!」


 「眼科がソコにありますよ?あ、そうか!目がおかしい人に指さしても分からないか!」


  この頭のおかしいスカウトマンが現れるまでは、そう思っていた。寂しい完璧な人生計画はここから崩れ出す。







 「うん!うん!いい!いいよ!貴方!私のセンサーがビンビンよ!」


  「完全に壊れたセンサーを直す病院は知らないな…。悪いことは言わないから違う職を探しなよ」


  「いやよ!天職だもの!」


  「間違いなく最悪手だよ。周りのヤツ誰か止められなかったか?」


 「お母さんが泣いてたわ!!」


  「俺もよく泣かせたけど、多分お前ほど致命的なものは無いと思うぜ」


  人生の多分一番大事な分岐点を大失敗している。ここまで見事な失敗は中々無いのでは?なんて、産まれてきた時から間違えてきただろう奴に思われているのだから相当だ。


  「ええ。私の口座に面白いくらいにお金が入ってくるから母さん嬉し泣きしちゃて……あの時は困ったわ…」


 「へぇ、そんなに儲かる副業があるのか、教えてくれよ」


  「なんで、頑なに本業で稼いだと思わないのかしら。まったく、無自覚イケメンは……」


 もうっ!仕方がないわねぇ!と、テンションが上がる女性。そこで、なにかに気がついた村上は肩にかけていたバックをモゾモゾと漁る。


 「ん?なに?」


 「ほら。見てみろ」


 「通帳?なんで?」


 「俺には取るだけの金が無いんだ。ほら、分かったらさっさと他にいけ。俺は久しぶりに女子と喋ったから気分がいい。見逃してやるから」


  「いや、詐欺じゃないわよ!」


  「じゃあ何なんだよ!!」


 「スカウトマンだって言っているじゃない!!」


  「そんなんで騙せると思っているのか!いくら久しぶりに女性と話して気分がいいからって、そこまで落ちぶれちゃいない!ほら、一万やるから!」


 「なんでお金払うの!?いらないわよ!」


  「じゃあ!二万!」


 「そうじゃないわ!」


  「時計か!車か!それとも束か!いくら積めばいい!」


 「いらないって言ってるでしょ!?あーもう!もう実力行使よ!付いてきなさい!」


  「ハイッ!」


 「ちょろすぎない!?」


 馬鹿め。詐欺師が!分かってても付いていってしまう非モテを舐めるな。財布の三万くらいくれてやる。今、手を繋いでいるだけでその価値がある!美人だし!もう死んでもいいや!






 「さぁ!着いたわ!吉村芸能事務所!」


 「おいおい、うっかりさんかおまえは。吉村プロといえば日本最大の芸能事務所じゃないか。お前が行くべきはあそこの暗い路地裏だろ?ゴツイ男を待たせると、俺が余計痛いから早くいくぞ」


  「いや貴方…違うけど例えそれだとして…それでいいの?」


  随分と手の込んだ詐欺だな。まぁ、今も手を繋いでいるからいいんだけど。加算式かな?お金足りるかな?


 「行くわよ。ほら!」


 「おいおい!警備員買収してんのか!?俺にそんな金無いって!やめとけ!」


 「ここまできてそれ言えるって相当ね!?何がそうさせたの!?」


  「世の中だよ!!」


  「凄い心が篭ってるわね…。歌手いけるわ!」


 皆が女性の顔をみて頭を下げる中、買収金額を予想し顔を青くする村上。実家を売るかと考えだすのであった。






  そして、1ヶ月後。


 「なぁ、そろそろ辞めない?流石にこの規模は俺の臓器売っても無理だよ」


  「いい加減無理あるわよ、ソレ。いいから私を信じなさい。それともこの名プロデューサーを信じられないの?」


 「だって、眼科行ってくれないじゃないか…」


 「行かないわよ!私、目がいいもの!」


 「いや、俺だって信じたいよ。早川さん。貴方が今をときめくアイドルのプロデューサーだったのは驚いたけど…。でも、俺をスカウトした汚点があるからなぁ…」


  「汚点ってなによ。汚点って」


  「ねぇ、早川さん。カミングアウトするならいまだよ?実は不細工お笑い芸人として雇いましたって。ほら、ほら」


 「違いますー!まったく。いい加減現実を見なさい!」


  「現在進行形で幻想を見ている人に現実って言われた…」


 「あーもう!貴方!いえ!村上くん!貴方はグループアイドルが主流の中、たった一人なのに大きな会場を借りてライブが決定した新進気鋭の注目イケメンアイドルなのよ!デビュー1ヶ月でそれが決まった偉業!そろそろ自覚しなさい!」


  「ここは笑う所?」


  「誇る所よ!」


 ゼィゼイと息が切れる早川さん。敏腕プロデューサーの乱心を止める者はおらず…ここまで来てしまったが。………ライブかよ。プロレスとかじゃねぇよな。


  いや、一応稽古したよ?うん、手の込んだ詐欺だなぁと思いながらそこそこ必死に。


  でもさ、俺一時的でも不登校なのよ。つまり、人前に立つの苦手なの。ライブとか、冗談かと思ったけど…遂に当日、五分前。


 「逃げたらどうなる?」


  「貴方の望み通り私が路地裏に連れていくわ。大丈夫、顔だけは傷つけないから」


 「一思いに顔をやってくれよ。骨盤矯正されて多少良くなるかも」


 いや、それは無いか。ジャガイモはへこましても、ジャガイモだ。ただでさえジャガイモなのに、時間が経つと毒の芽が出る。じゃがいもォ…。


 「ほら!聞こえる!この黄色い歓声!貴方をお呼びよ!」


  「フッ!安心しろ…これでお前がクビになっても俺が貢ぎ続けてやる!」


  「養ってはくれないのね!ほら、行ってらっしゃい!」


  さぁ、遂に証明の時間だ。彼女の目がおかしいのか、彼女の頭がおかしいのか!病院へのお金は俺の生命保険から出してやる!!




















 大盛況でした、まる



 みんな、ビートルズって知ってる?むかし、流行った音楽グループなんだけど、あまりに人気過ぎて当時の女性ファンが気絶するほどだったらしいんだ。


 「救急車沢山…」


 「まったく!ここまでやれとは言ってないわよ!」


  「誰がこれを予想できる?」


 「私がしてたわ!」


  そうでした。救急車待機させてましたね。早川さん。流石、名プロデューサー。用意周到です。その手腕で眼科を手配してほしいな。さっきの観客全員に。


  「……村上さん!タイッター!見て!凄いわ!バズってる!ところでバズって何?」


 「知らないよ…。って、本当に凄い…俺と同姓同名のアイドルいるんだな」


 「いねぇよ」


 おっと、さすがの早川さんもそろそろイラッとしていらっしゃる。これ以上はやめよう。


  「あ、電話。5つ同時かぁ…」


 「えっ?電話5つも持ってるの?」


 「はい、担当の早川です。はい、はい、その件は後でもう一度お話させてください」


  「誰から?」


 「紅白」


  「饅頭?」


  「はい、もしもし。……それでは規模が小さ過ぎます。少なくとも二万は無いと…」


  あ、無視ですか。いいです、寂しくないです。すこし、泣くだけです。


 「しかし…いくらエゴサーチしても叩かれている記事を見ねぇな。写真も…俺だし…」


 もしかして、今まで間違っていたのは俺なのか?実は俺はイケメンで、自分で気が付いていなかった?


 「そうか…そうか!理解したぞ!」


 俺は……イケメンだ!何故気が付かなかったのか。俺はカッコイイ、学生時代ガチ泣きしたのは嬉し泣き。……多分そう!


 そうと気が付けば、相手してくれない早川さんを置いて少し出かけよう。大丈夫、未成年には手を出さないから。お酒とか飲まさないから!


 いざ、夜の街へ。百人抜きしてやるぜ!











  ふぅ、枕カバー買っておいて良かったな。三つじゃたりないや。


 「…グズッ…みんな眼科いけよぉ…」


  出会い頭、ビンタはねぇだろ。死ねよ、不細工。身の程をしれカス。この街で息をするなって、ストレート過ぎて酷いやァ!


  「電話だ…このまま家電を眼科に繋げて会話させようかな…」


  流石にそれは早川さんブチ切れそうだから、やらないけど。


  「は「村上さん!今どこに!「家「分かりましたそこで動くなよ!」


 そりゃ、来るよな。いや?来るのか?……世の中がおかしいのか…俺がおかしいのか。早川さんがおかしいのか。


  「もう…いいや…考えるのをやめよう…全て早川さんに任せよ…」


 男は疲れきっていた。だって、最近自分の常識が何一つ通用しないのだから。







 そして、栄光の階段を登っていく。










 「村上さん。海外公演の件なんですが…暴動の恐れがあると…」


  「………一年って早いね。早川さん」


 「…?そうですね。初公演から、もう1年です。あの、白黒ジャクソンより人気ですから随分と出世しましたよ。そう言えば、私の見る目をそろそろ信用してくれる気になりましたか?」


  「あの眼科の医者、ヤブだよヤブ」


  「世界一位の名医ですよ…」


  アイドル活動で、調子に乗って外に繰り出す度に痛い目を見ていた村上。もうわけが分からない。


  「まったく…じゃあ何をしたら信じて貰えるんですか?また、逃げられても困りますし。ほら、正直に言ってください」


 なんか、ワガママなアイドルの望みを聞くみたいなスタンスだな。違うし…いや、そうなのか?なら。


 「じゃあさ、俺にキスしてよ」


  これで、分かる。俺を馬鹿にして楽しんでいるのか。俺が不細工で、性根のひねくり曲がった存在だと本心で思っているならなら絶対しない。触れられると泣かれるレベルだし。


  「えっ…えっえええ!む、村上さん!わ、私を、そ、そんな目で!だ、ダメです!アイドルに手を出すなんて!プロデューサーとして…」


 演技が上手いなぁ。そうやってはぐらかすつもりだろう。そうだ、そうに決まっている。なるほど、ようやくわかった。……ちょっと期待したのに。


  「ふん、ここは、飛行機の中だし。パパラッチも何もいないよ。てか、専用機だし。出来ないの?まぁ、出来ないよ「んっ!」


 「こ、これで…いいですか……ダメですよ…バレちゃ…芸能生活終わっちゃうんですから…」


  ……………もう、わけがわからん。




  そして、男は栄華を極めた。賞という賞はとり、人気は全世界で更なる盛り上がりをみせた。アメリカの大統領と三回ハグしたくらいには有名になった。興奮して喋る大統領ににこやかに微笑みながら。手を振ったのはいい記憶だ。まぁ歓迎ムードだったけど、すぐ帰ったよ。


  だって英語わかんないし。大統領力強いし。背中痛かったもん。







 更に月日が流れ。遂にその日が来た。




  三年後の突然の電撃引退。通称、俺普通の男の子になります事変。世間が混乱し日本の株価が大暴落した、その更に四年後。


 ある病院のある一室。


 「まさか、貴方が幻のアイドル村上武蔵だなんて…どうして…医者に?」


  「人はね、自分が見ているもの他人が見ているものその感じ方も捉え方も千差万別なんだ。なにかが、変わればその人の印象が劇的に変わる…かもしれないしそうじゃないかもしれない。」


  「流石…幻のアイドルは言うことが違いますな…で、それでなんで眼科に?」


 「多分人間の目にはまだ科学が見つけていない神秘がある。それを突き止めたくてね」


  「はぁ…」


 全く理解してない患者のオッサン。それはそうだろう、俺だって分からないもん。


  「おや?電話ですな」


 「ん?はい、もし「貴方!今日は早く帰るって言ったでしょ!」す、すいません早川さ「また間違えた!もー!いい加減慣れてよ!()()()()二年目だよ!」


 「ハッハッハ、奥さんですか。さて、最後の患者の私はそろそろ帰ります。いつか芸能人時代の裏話聞かせてください、相当遊んだんでしょう?」


  ゲスな笑みを浮かべ帰っていくオッサンを苦笑いしながら見送る村上医師。


  「ハ、ハハ。そう…だったら…良かったのに……なぁ」


  ああ……不細工って…イケメンって…なんだろうなぁ…。眼科の医者になってもなんにもわかんないし。


  ただ、一つ。不思議な事…は沢山あるか。いや、早川さんの目を検診している時に僅かに紅く揺らめく炎が見えた気がしたんだ。


  あれって…いったい何だったんだろう…。


  ま、いっか、早川さん可愛いし。ぶっちゃけ、どーでもいいし。










 「フフッ……アナタ…アナタ……フフフフッ!」


 ソファで寝転がりながら()()()()()()()()()()()()を捲る。


 「はぁ…武蔵くん。この頃も可愛いなぁ…私は……うーん地味ね…。だから気が付いてもらえなかったのかなぁ…。まったく…幼稚園からの付き合いだっていうのに。早川って名前でピンッときなさいよ」


 私は一目惚れでずっと目で追ってたのに…、あっちは眼中に無いときたもんだ。本当に傷つくなぁ。


  あんなに、()()()()でカッコイイ人、中々いないよ。トップアイドルにだってなれる。本当になったし。


 「仕方ないよね……だってあんなに格好よかったら他の女に取られちゃうし…だから…ちょっと()を使って…周りの女の人全員の武蔵君本人の眼を弄ったのは…しょうがないよね。だって…とられちゃいやだもん」


  揺らめく紅の炎が左眼に灯る。眼がおかしいなんて、核心突いてて驚いちゃったよ。


  「フフフッ…もう、私のモノ。他人から見て不細工に見えるようにしてるから、心も身体もぜんぶ、全部…」


  ガチャりと音がする。帰ってきた。愛しの我が旦那。旦那だよ?旦那。ヤバくない?ヤバいよ。


  昔軽く肩が触れて、感動して泣いたし。ガチ泣きしたし。


 「おかえりなさい、アナタ。今日もカッコイイわ」


 「よしっ、今日も定期検診だな。眼を見せなさい」



 こうして望んだ日常は紡がれていく。


 全てはあの時の偶然街中で出会ったと思っている彼との、幸せな生活の為に仕組んだ全て。


  それは、決して解き明かせない神秘。決して解き明かしてはならない秘密。


 「はぁい、どうぞ」


  明かす時が来るなら、それは皺くちゃのお婆ちゃんになってから。彼の全てを知った時に、ゆっくりと答え合わせをしよう。


 人生を賭して、神秘(私の事)を調べるアナタが愛おしくて。人生の最後に、ずっと私の事を(神秘)を調べていたと伝えましょう。


  願わくば、それを聞いて笑っていて欲しい。と、そう思いながら。


 ―――全ては紅き炎が見せた、臆病な少女の儚き夢。


実はイケメンだったと。タイトル詐欺とか言わないでよ。でも、ごめんなさい……とは言っておきます。

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