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狩人少女冒険旅行記  作者: 無風はじめ
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第八話 街道

今日はちょっと長めです。

 私たちは村を出て街道を歩いてる。


 今日はいい天気で旅の格好をしてなければ、女の子二人でポクポク歩いてる姿は、お散歩でもしてるように見えることだろう。

 私はふと疑問に思ったことをステラに聞いてみた。


「ねぇステラちゃん、どうしてあの時はあんな森の方まで来ちゃってたの?この街道歩いてれば鋼熊に襲われることも無かったのに」


 聞かれたステラは照れくさそうに笑いながら答えた。


「えっとぉ、笑わないでくださいね?私、チョウチョの収集してましてぇ、あの時も見たことないような藍色のチョウチョがいましてぇ、行っちゃいけないのはわかってたんですよ?

わかっちゃいたんですけど無性にフラフラ~っと誘われてしまいまして、気がつけば森の泉の側まで行ってしまい、あの熊に襲われたんですよねぇ、ホンとにユミルちゃんいなかったらあそこで私の人生は終わっちゃってたかもですよぅ」


 ・・・っていうかそのチョウチョって


「ねえ、ステラちゃん。そのチョウチョって藍色で飛ぶとなんだかキラキラした燐粉みたいなのが出てなかった?」


 しばらくアゴに人差し指を当てて思い出すようにしていたステラは思い出せたのかポンと手を打つ。


「そうですですぅ、なんかキラキラがすっごく綺麗でぇもっと近くで見たいなぁ、捕まえたいなぁって思ちゃったんですよねぇ」


 やっぱり・・・


「あのね、そのチョウチョは魔蟲だからね、マドワシジミって言って、人間とか動物を魔獣とか大きな獣の近くまで誘い込んで襲わせるんだよ」


「えぇっ!じゃ、じゃああの時も私は熊の近くまで誘い込まれたんですかぁ?」


「うん、そうだよ」 


「一体なんのためにそんなことするんです?」


「えとね、人とか動物の血を吸う為だよ。あのチョウチョは普段は花の蜜でも生きていけるんだけど、産卵期が近くなると蜜の栄養だけじゃ足りなくなるの。だからメスの為にオスが自らを犠牲にして誘い込むんだよ。誘われた人や動物が流した血をメスが啜りにくるんだよ」


「ひええぇぇぇ、私も栄養にされかけたって事なんですねぇ」


 まあ、そういうことになるよね。


「知らない人は抵抗が無いからよく誘い込まれるよ。でももうステラは私が教えたから大丈夫だよ。今度見ても誘われないはず」


「そ、そうなんですか?そういうものなんですか?」


「うん、魔獣とか魔蟲とかの流す魔力とかって、知ってると知らないじゃ全然抵抗力が違うの。例えば鋼熊より大きな『鬼熊』っていう魔獣がいるんだけど、そいつは『咆哮』ってスキルを使ってくるんだよね。それは聴いたものをしばらくの間硬直させる状態異常を起こさせるんだけど、そのスキルに対しても知らないで戦って使われたら、硬直させられてその隙に攻撃を食らうけど、今のステラみたいにそういうスキルを持っていることを知って戦えば『咆哮』のスキルを使われても完全じゃないかもしれないけど抵抗することができるんだよ」


「はぁぁ、そういうものなのですねぇ」


「うん、だから魔力を持った獣や蟲と戦うには、強い武器よりも知識が必要なの。相手の事を『知る』ことによって、相手のスキルが驚異じゃ無くなるから」


「そうなんですねぇ、ところで鬼熊?って鋼熊とどう違うんですか?」


 私は腰の弓を手に取ると矢筒から矢を一本取り出して


「・・・ちょうどあんな風に目が赤くて角が生えてる。だから『鬼』熊っていうの」


 そう言って私は弓をピュンとならして、矢を遥か向こうに見える茂みに向かって放つ。

 矢は一瞬で茂みに到達すると、そこに隠れて潜んでいたモノに突き刺さる。


「ガァアアアアアアァァァァッ!!」

 

 潜んでいたものが茂みを揺らして立ち上がる。その姿はこの前の鋼熊よりもさらに一回り大きく、額の部分に角が生えていた。

 私が放った矢は、その右目に突き刺さっている。


「え?え?なんで熊?魔獣なんですか!?」


「うん、滅多にこんなところまで出てこないんだけどね、アイツは大きいけど狡猾、ああやって茂みとかに潜んで獲物が通りかかるのを待っているの」


「じゃあ、知らずに通りかかったら・・・」


「うん、間違いなく食べられてたね」


 鬼熊は首を振って、右目に刺さった矢を引き抜くと、残った左目でこちらを睨み付けてくる。

 その目は赤黒い光を放って、怒りを表しているようだ。


「な、なんだかすっごい怒ってるように見えるんですけどぉ?」


「うん、怒ってるね。多分逃げても追っかけてくるくらい」


「ど、どうするんですか?」


「そんなの簡単」


 私は鬼熊に向かって走り出す。


「倒せばいい」


 恐らくステラは戦えないので私の側にいない方が安全だと思う、だから一気にダッシュして置き去りにする。

 近づいてくる私を見て鬼熊は大きく息を吸い込んだ。


「ステラッ『咆哮』がくるよっ」


「はっはい!!」


 後ろの方からステラの返事が聞こえた。その直後溜めてた息を全て吐き出すかのように、鬼熊が魔力を乗せて空気を震わすように『咆哮』した。

 私は少しばかり走る勢いを殺されたが硬直はしなかった。チラリと後ろを見るとステラも無事だったようで


「はあぁぁーはあぁぁーわかってても恐いですぅ!」


 何やら騒いでるが、騒げると言うことは無事だったということだ。

 私は再び鬼熊に視線を戻し弓に矢をつがえて、残った左目に向けて放つ。さすがに魔獣と呼ばれるだけあって、知力が高いのか顔を背けて目を庇う。矢は鬼熊の毛皮に阻まれて弾き飛ばされる。鬼熊も鋼熊同様にその剛毛は刃物すら弾き返すのだ。


 私は矢筒をトントンと2回叩く。するとカシャンと音がして黒かった矢羽が緑色に変わる。私は緑色の矢羽を取り出すと弓につがえ鬼熊の前で立ち止まる。矢の先端には紫色の怪しげな液体で濡れている。


 鬼熊は立ち止まった私を警戒しながらも、右手を降り下ろすように攻撃してくる。私はその攻撃をギリギリのところでかわして、脇の下に向かって矢を放つ。

 

「グアッ!」


 脇の下は他の部分に比べると毛皮が薄いので、尖った物なら皮膚まで届くのだ。それでも浅かったのか矢はすぐにポロリと落ちてしまう。


 だけどそれだけで充分だ。

  

 私は鬼熊から少し距離を取り逃げるように走り出す。鬼熊は自分の事を少なからず痛め付けた人間を逃がすものかと、私の後を追いかけてくる。


 私は、微妙に走る速度を落として、追い付けそうで追い付けない距離を保ちながら鬼熊を走り続けさせる。しばらくすると、目に見えて鬼熊の走る速度をが遅くなり、苦しそうに呻き始める。


 さっき脇の下に撃ち込んだ矢の毒が、走ったことによって全身に回ったのだ。微妙な距離で走ったのは、本気で走って置き去りにした鬼熊が、今度は動かないステラに目を向けないようにするためだ。


 毒が回った鬼熊はすでに目も見えていないらしく、私が後ろの方に回り込んでも蹲ったまま動こうとしない。


 私は再び矢筒をトントンと叩くと、カシャンと音がして今度は緑色から赤い矢羽に換わる。赤くなった矢を私は引き抜かずにピッと弾くように矢筒から投げ、矢が矢筒から抜け出る瞬間にその先端を捕まえる。

 

「え、ええええ?なんかおかしいですよぅ?なんでそんなに長い矢が出てくるんですかぁ?」


 ステラが驚くのも無理はないと思う、なんせ今取り出した赤い矢羽の矢は明らかに矢筒の5倍はある徹鋼矢てっこうやなのだから。


 私は魔力を弓に流し込む。


 魔力を受けて弓は1メル程だったのがさらに50セル程伸びて伸びて、私の身長とほぼ同じ大きさになる。伸びただけじゃなく、太さ自体も一回り太くなり剛弓ごうきゅうへと変化する。

 

「ま、まだ大きくなるんですか?その魔弓は!?」


 驚くステラにコクりと頷き返すと、動かない鬼熊に狙いをつけて、矢を引き絞る。

 ギュリギュリギュリとなんとも言えない音を立てながら、弓は力を溜め込んでいく。


「す、スゴいです、大人でも引けなさそうな弓なのに・・・」


 鬼熊の後頭部に狙いをつけると、フゥッと息を吐きながら矢から指を離す。


 弓の溜め込んでいた力を余すとこなく受け取った矢は、一筋の赤い光となって鬼熊の後頭部に吸い込まれる。


 矢が当たった鬼熊の頭は「バシャッ」という湿った音を立ると、その首から上が消失していた。巨体がグニャリと崩れ落ちて、徐々に光の粒になって消えていく。


 これも普通の獣と魔獣の違いで、魔獣は死ぬとこんな風に消えていくのだ。後に魔石やドロップと呼ばれる何かを残して。だから獣を狩る時のようにお祈りはしない、魔獣や魔人は忌むべき存在だから。


 完全に巨体が消え去ると握り拳大の魔石と、角が落ちていた。頭と一緒に消失したはずの角がドロップとは少し変な感じがするのだけど、戦闘で失った部位とドロップは関係がないらしい。これも魔獣の不思議なところだけど。


「スゴいです!ホンとにやっつけちゃいました!しかも無傷で!!ユミルちゃんってホンとに強いんですねぇ」


「信じてくれた?」


 ようやくいいとこ見せられた私はちょっと照れながら聞く。


「はいですぅ!すっごい格好よくて・・・あのその、ぎゅってしてもいいですかぁ?」


「それはダメ」


「ええぇーそんなぁー」


「ダメなものはダメ」


「ううぅーユミルちゃんがいけずですぅ」


 ステラのことは嫌いじゃないけどなんかこう・・・身の危険を感じるのだ、本能がガンガンと警鐘を鳴らしているのだ。


「あ、それよりなんなんです?その矢筒?マジックアイテムなんですか?」


 ステラは私の腰についてる矢筒を見ながら聞いてくる。


「うん、私が作ったの。矢は多分100本位入って叩くと種類が換わる。普通の矢、毒の矢、強矢、炎の矢、癒しの矢と色々入ってるよ」


「ええ?ひゃ、100本も入ってるんですか?だって5本位しか見えてないじゃないですか?」


「ああ、いっぱい出てると抜きにくいからこうやって抜くと」


 私は普通の黒い矢羽の矢を引き抜く、すると5本から4本になったはずの矢筒は、やっぱり5本入っていた。


「補充されてくの」


 再び引き抜いた矢を矢筒に入れると、6本になったはずの矢筒は、やっぱり5本しか入っていない。


「ね?面白いでしょ?」


 ステラはポカーンとしていたが、やがて矢筒を指差してぎぎぃと音がしそうな感じで私の顔を見る。


「こ、これユミルちゃんが作ったって言いました?」


「うん、私が作った。狩りしてると色々便利なものが欲しくなるよね」


「ば、バーン様に教わったんですか?錬金術」


「ううん、何となく作るものみんな面白い効果が出るんだよね。父上がやってたからみんな当たり前に使えるんだと思ってたんだけど・・・違うの?」


「私昨日もバーン様に言ったような気がするんですけど、王国ですら二、三人いるかどうかですよ?それだってそんな容量無視の本数や、何倍も長いものが入る矢筒なんて・・・あれ?ひょっとして矢筒じゃ無かったらこれってアイテムボックスなんじゃ・・・」


「アイテムボックス?」


「そうですよ!たくさんものが入って重さも軽減してくれる鞄みたいなモノですよ!確かそんなに数が出回ってなくて一個がお屋敷買うのと同じくらいの値段がするんですよ!矢筒じゃなくて鞄だったらどえらいことになっちゃいますよ!?矢筒でも充分すごいんですけど」


「ふ、ふぅーんだと大変な事になっちゃうんだ?」


 私はステラと視線を合わさないようにして聞く。


「だから言ってるじゃないですか!お屋敷と同じ値段だっ・・・て・・・」


 ステラは私が目を合わさない訳に微妙に気付いてしまったのか、私の背中に背負っている小さめの肩掛け鞄に注目する。


「ユミルちゃん・・・まさかとは思いますけど・・・その背中の小さな鞄は手作りなんですか・・・?」


「・・・エエヘ、バレた?今度作ってあげるからナイショね?」


「バレた?じゃないですよぉぉ!!ナイショにしますともっ!作ってもらいますともっ!!でも他の人に絶対言っちゃダメですよ!?しゃべったら悪い人に襲われますからね!!」


「う、うんわかったよぅ」


 どうやら私が当たり前だと思っていたことは、外の世界では全然当たり前じゃなかったようだ。母上が外の世界を見てきた方がいいって言ってた訳がわかったよ。

 

それにしてもステラはちょっと抜けてるところもあるけど、根っからの善人みたいだ。黙っていて油断したところでご飯に薬でも混ぜれば楽に奪い取れたかも知れないのにね。わざわざ外で話しちゃいけない事とかも教えてくれるし、まあ、遠慮もしないみたいだけどね(笑)。


 よし、私のとりあえずの目標はこの善人の国を手助けすることにしよう、この、優しい人が悲しまないように。




 それにしても、前にアクセサリーを持っていったお店が大騒ぎになった理由がやっとわかったよ、気を付けよう。

読んでくださってありがとうございます。

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