第三話 ポムルの村
ステラを連れだって森を抜けて、平野をしばらく歩き今は村に続く街道を歩いている。
私一人なら平野を突っ切って帰っちゃうんだけど、ステラはどうも方向音痴っぽいので、何かあってはぐれちゃったときに捜すのめんどくさいなって思って街道まで出た。
この道なら私以外にも誰かしら通るだろうし、獣達も寄り付かないから安心だしね。
「あのぅ、1つお聞きしてもいいですかぁ?」
んーなんだろ?とりあえず聞いてみようか。
「なーに?」
「大変今更感があるんですけどぉ、お名前お聞きしてもいいですかぁ?」
ほんとに今更だよ。出会ってからもう大分たってるよ?まあ名乗らなかった私もいけないとは思うけど。
「ユミルだよ」
「ユミルちゃ・・・さんですね!よろしくお願いしますぅ」
今明らかに「ユミルちゃん」って言いかけて「さん」に直したし。
別に同じ位の年なんだから気にしなくていいのに。名前を名乗らなかったのはこっちも悪かったと思うしね。
だって村の中だとみんな名前知ってるからわざわざ名乗らないしね。ひょっとしたらわざわざ名前教えたのってコレが初めてなんじゃないかな?
でもステラはそんなこと知らないだろうし、村に行って同じ目にあったら可哀想だから説明しとこっかな。
「ステラさんごめんね、私、村で育ったから今まで名前って教えたことなかったんだ。だからコレが初めて。ひょっとしたら村の人もおんなじような人いるかもしれないから、その時は今みたいにその人にも名前聞いてあげて」
私がそう告げるとなぜかステラは頬を少し染めて
「ユミルちゃんの初めて・・・ウフフフ・・・」
何やら気持ち悪い笑いかたでブツブツ言ってた。普通の人なら聞こえないくらいの大きさの声だけど、私狩人、バッチリ聞こえちゃった。
なんで「初めて」がそんなに嬉しいのかよくわかんないけどね、ステラがちょっと変わった子だって言うのはわかったよ。
だけど独り言だと「ユミルちゃん」って言ってるのに、なんでそう呼ばないんだろ?私の事年上だと思ってるのかな?
そう言えば歳いくつなんだろ?多分年上だと思うんだけど。
「ステラさんって何歳なの?私は15才なんだけど」
今度はさりげなく自分の歳も言えたよ。ちょっと会話スキルあっぷ。
「あ、私は17才ですぅ」
ほら、やっぱり年上だったねー。
「じゃあ、私よりも年上だよね、普通にしゃべっていいんだよ?いやむしろ私がちゃんと気を使わなきゃいけないのかな?でもあんまり村でもステラさんみたいなしゃべり方したこと無いからわかんないんだよね」
そう言うとステラは慌てた様子で両手をブンブン振りながら、悲しそうな顔をする。
「いえいえいえいえぇ、私のしゃべり方はクセみたいなもんなんですぅ。敬語とかじゃないんで気にしないで下さいぃ。それにユミルさんに敬語とか使われたら、なんか壁みたいなの感じちゃって悲しいですぅ」
なるほど、それで悲しい顔かー、壁ねぇ・・・さっき会ったばかりだけど悪い人じゃ無さそうだしねー仲良くしたいからいっか。
「じゃあステラちゃんって呼んでいい?私も堅苦しいの苦手だし」
「も、もちろんだいじょうぶですよぅ!むしろそう呼んでほしかったんですぅ、そ、それでは私の方もユミルちゃんとお呼びしてもいいのですかぁ?」
顔を赤らめながら両手の人差し指をでモジモジとしてステラが聞いてくる。
「うん、もちろん。じゃあ改めてヨロシク。ステラちゃん」
そう言ってニッコリと微笑みかけると、何故かステラは顔をカリカリの実と同じくらい真っ赤にして、アワアワしてしまった。
なんか変なこと言った?私。
「ごめん、ステラちゃん私なんか変なこと言ってたらごめんね?村の人って私と同じくらいの子ってあんまりいないから、どうしたらいいのかわかんないんだよね」
それを聞いたステラは今度はもげて飛んでいくんじゃないかと思うくらいに、首を左右に振って否定する。
「変なんかじゃないですよぅ!わ、私がさっきからちょっとおかしいんですぅ!なんでか知らないんですけどユミルちゃんを見てると胸がドキドキして火照ってくるんですぅ。女の子相手に今までドキドキしたことなんか無いのにぃ」
ん?どゆこと?なんで私にドキドキ?父上が昔アマゾネスっていう人たちは女の人しかいなくて恋愛対象も基本女の人だって言ってたけど、そいうゆうこと?ステラはアマゾネス?あ、ちなみにアマゾネスにとっての男はただの種とか言ってた。種とったら食べちゃうんだって。
へんなの人間なのに植物みたいに種が取れるんだね。まぁ食べちゃうのはどうかと思うけど。
「えっと、好かれるのは嬉しいんだけど、ステラちゃんってもしかしてアマゾネスだったりする?私はちなみに普通に男の子が好きなんじゃないかなぁって思うよ?まだ好きになったことはないけど」
「ちちち違いますよぅ!私は普通の人ですよぅ。大体アマゾネスなんて私の国からまだ南西に行ったところの島にしか居ませんよぅ。それに女の子にドキドキするなんてコレが初めてですぅ。だから私も戸惑ってるんですぅ」
とりあえず、アマゾネスじゃぁなかったみたい。ちょっとだけホッとしたのは内緒。
でもなんだろ?父上がなんか昔教えてくれたような・・・なんだっけなー確か高いところで吊られてるうちにドキドキしてー好きでもない人にドキドキ・・・あ、思い出した。
「多分だけど、きっと父上が言ってた首吊り効果ってやつじゃないかなぁ。ドキドキする時にそばにいた人を意識しちゃうとかなんとか?」
「首吊り・・・?初めて聞きますねぇ、まあ確かに首吊られるのにドキドキしない人はいないでしょうからねぇ。それだとみんな死ぬ瞬間には執行人の事を好きになっちゃいますけどぉ」
「うん、難しくてよくわかんないけどね、きっと鋼熊でドキドキしちゃったとこに、助けた私がいたからそうなっちゃったんだよ、きっと」
「そ、そうなんですかぁ、じゃあこの気持ちは首吊り効果のせいなんですねぇ」
そう言ったステラの顔はちょっとだけガッカリしてた。
「ところでなんでステラちゃんは私の村を目指してたの?」
「あぁ、国からのお使いなんですぅ、私の国は海に面してるんですけどぉ、最近なんでか海賊が集まってきてしまって、交易に支障が出ちゃってるんですぅ。そこで村にいるらしいバーン様に助けて貰おうと思いまして、はるばるやって来たんですぅ」
「ふーん。そうなんだ。大変だったねぇ」
「いえいえぇ、お蔭でユミルちゃんと知りあえましたしぃ♪」
それにしてもバーン様?そんな人、村にいたかなぁ?父上なら知ってるかもしれないから取り合えず家に行こう。
それから私とステラちゃんは色んな話をしながら村を目指すのだった。
やっと主人公の名前が出てきました。
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