第二話 出会い
悲鳴が聴こえた方向に少し急ぎ足で向かうと、森の中にある泉の側だと気付いた。
まっずいなぁー、この辺りはアイツの縄張りだって言うのに・・・。
私が住んでるポムル村に住んでる人なら、狩人じゃない人でもこの辺りには不用意に近づくことはしない。
ああ、ちなみに私の村って100人くらいの集落なんだけど、その半分以上が狩人、もしくは森の植物なんかを採取して生計を立ててるんだ。
だからこの辺りに来ちゃうのは、大概町から来た冒険者か、旅の人なんだよね。
まあ、いつもなら知らないウチに食べられちゃってることもあるんだけど、私が近くを通って運が良かったね。
1度、小虎(それでも2メル位)を狩った後、内臓を綺麗にしてたら、指輪なんかの装飾品が出てきたことがあるから、少なくとも一人や二人は絶対食べられてるはず。
しばらくすると、黒い大きなものが動いてるのが見えた。やっぱりこの辺りを縄張りにしてる鋼熊だった。
鋼熊はその名の通り体毛が鋼の様な硬さの熊で体長は大きいもので5メル程になる。
目の前にいる鋼熊は大体4メル位かな?左の耳がちょっと欠けてるから間違いない。
鋼熊は雑食だけど殆んど木の実なんかを食べてるから、滅多なことでは人を襲わない。っていうか肉自体あんまり食べてるところ見たことない。
多分肉よりも魚派なのだろう、川で魚食べてるのは見たことあるし。
なので大概出会い頭でビックリしちゃって、自分を守るために戦うのが主な理由。あとは子連れはちょっと気が立ってるので要注意なんだけどね。
その大きな体の向こう側にチラチラと金色の髪の毛らしきものが見えてる。おそらく声の主だね、動いているってことはまだ生きてるってことだ。よかったよかった。
私は岩の影に身を隠して様子を見る。鋼熊は唸り声で威嚇しているが、攻めあぐねている感じ。
襲われてる人が武器で対抗してるのかな?ホンとはこういうときはそのまま後退りして、鋼熊の縄張りから出るようにすればいいのだろうけど、そんなこと知らない人が対応できるわけ無いか。
腰に着けたポシェットの中を探って赤い小瓶を出して開けると液体が入っているのだけど、コレまた赤い。
コレはカリカリの実を煮詰めて作った香辛料で普段は調理用なんだけど、今の状況をまーるく納めるにはコレを使うのが一番だと思う。
辺りを見回して手頃な小石を拾って、それに小瓶の赤い液体をふりかける。
ちょっとだけ指先が熱くなるのを我慢しつつ、鋼熊に狙いをつけて手首のスナップを効かせて投げる。
その肛門に向かって。
ちなみに私の投擲スキルは50メル先の的だって当てることが出来るのだ、10メルも離れてない鋼熊のデリケートな部分を狙うくらい造作もない。
小石は鋼熊の敏感な部分に一瞬めり込んだ後、ポロリと落ちる。その敏感な部分に香辛料を塗り付けて。
なんだ?とでも言いたげに一瞬後ろを振り向くが、すぐに変化が訪れる。
肛門がヒリヒリとし始めたのか、自分の尻を追いかけ回すが、所詮自分の尻なので追い付くことが出来ずグルグルしまくる。
そんな事をしばらく繰り返していたけど、とうとう我慢出来なくなったのか、地面にお尻を擦り付け始めた。
あーあ、そんなことしたら・・・
まさにケツに火が着いたかのごとくビョンッと、跳ねる。
おそらく擦り付けた時に傷でもできて、香辛料が染みたんだね、自分でしといてなんだけどかわいそうに。
鋼熊は泉の方向に向かって、一目散に走り去っていった。
点々とナニかを漏らしながら。
鋼熊がいなくなった後には、呆気にとられた顔をした金髪の女の子(多分年上)がへたり込んでいた。
「だいじょぶ?怪我してない?」
近付きながら声をかけると、女の子はプルプルして
「怖かったですぅー!もうダメかと思いましたぁー!!」
と、涙と鼻水でグチョグチョになりながら私に抱きついてきた。
「もうだいじょぶだよー、怖くないよー」
あーあー私の服が色んな汁まみれになってるけど、しょうがないか、どうせ帰って洗濯しようと思ってたしいいか。
しばらく頭を撫でていると、ようやく落ち着いたのか私のあんまりおっきくない胸に埋めていた顔を上げる。
色んな汁が無くなった彼女の顔はかなり美人さんだった。
「わっわたしステラ=マイヨールっていいますぅ、本当にありがとうございました。この近くの村に行こうと思って迷子になってしまって、その上あんなモンスターに襲われちゃってホンとにどうしようかと思いましたよぅ」
ステラちゃんかー村って私の村だよね?この近くに他に村なんかないしねー、まあ帰るついでに連れていってあげよう。
「まあよく旅の人とかも襲われてるからね、どんまいだよ。ちなみにアレは魔獣じゃないからね」
「えぇ、そうなんですかぁ?」
「うん、魔獣って言うのは魔力持ってて目が赤く光ったりしてるんだよー、さっきのはただの獣の鋼熊だよ。まあアレだけ大きかったら魔獣じゃなくてもビックリしちゃうよね」
「アレが魔獣じゃないなんて・・・わたしどうしたら・・・」
「ま、まあ行こうとしてる村は多分私の住んでる村だと思うから一緒に行こう」
「はいぃ・・・」
なぜか落ち込んじゃってるステラちゃんと並んで村に向かって歩き始める。
その際さっき狩った獲物をよいしょっと背負うと何でか目を真ん丸にして私の事を見てた。なんだろーね?
それにしてもこの子一体何しにこんなとこまで来ちゃったんだろう?
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