第一話 少女
新作書き始めました、ヨロシクです。
(*´∀`)
私は今日も今日とて野山を駆け回る。
別に遊んでる訳じゃあないのよ?お仕事だからね。
おっと、獲物発見。私は元々殺していた気配を完全に消して、木の影に身を隠す。
向こうから見えるか見えないかのギリギリのラインで見るようにして獲物を見つめる。
獲物は異様なまでに後ろ足が発達して、跳躍力に優れた跳び兎だ。一生懸命に長い後ろ足を縮めて草を食べている。
しかし、あの後ろ足を縮めた格好が曲者なのだ。
常にバネを縮めた状態でいるために、逃げようと思った瞬間に跳び去ってしまうのだ。
しかも跳び兎の間接は解体するとわかるのだけど、ロックするような窪みがあり、今はそのロックが効いている状態になっている。
このロックされた状態から外した時が、奴等の瞬間最大速度が出ると言われているのだ。
私は父上に作って貰った愛用の弓を、音を立てないように慎重に腰から外して矢筒から出した矢をつがえる。
ゆっくりと半分ほどまで引き絞る、まだ撃つわけじゃないので全部は引かない。
なぜなら跳び兎はかなり視界が広いので、ホンとの真後ろに入るまでは視界に捉えられてしまうのだ。
草を食べながら跳ぶのには使わない前足で、ズリズリと、這いずるように移動しては、また草を食べ続ける。
まだ、柔らかそうな草はだいぶあるので、跳び兎が後ろを向くまで根気比べである。
しばらくじっとして様子を見ていると周辺を食べ尽くしたのか、違う草の塊に移動しそうな気配がある。
私から見て跳び兎の左にある塊に移動するか、向こう側にある塊に移動するのか、息を殺しながら向こう側に行ってくれる事を願う。
そんな私の願いが通じたのか、跳び兎は向こう側の草に向かうために私に背を向けた。
今だ!はやる気持ちを抑えながら、矢を完全に引き絞り、木の影から半身を出して狙いをつけ、息を少し吐きながら矢を放つ。
ヒョウッと軽く風切り音がして一瞬跳び兎の耳がピクリと動いた気がするがもう遅い。
流石に放たれた後の矢から逃げる術はなく、矢は吸い込まれるように跳び兎の首を貫き、一瞬で絶命させる。
「ヨシッ、晩御飯げっと!!」
私は1人拳をグッと握り、小さくガッツポーズをとる。
おっといけないいけない、その前に獲物にお祈りしなきゃだった。
私は丸まったように動かなくなった跳び兎に近づくと、後ろ足のロックをゆっくりと外すように伸ばす。
昔、これをやらずに持ち上げたらビョンッと伸びた足に思いっきり鳩尾を蹴られて、死ぬかと思うくらいにのたうち回った事があるのだ。
狩人は同じ失敗を二回しちゃいけない、コレ父上の教えね。
そう、私の仕事は狩人。
父上も狩人、お祖父様も狩人。多分その前のご先祖様も狩人。由緒正しき狩人の一族なのだ。
私くらいの年(ちなみに15才)の女の子は、色々とお洒落とか服とかに興味を持つらしいのだけど、私は全く興味が沸かずに、こうして野山を駆け回っている。
父上や母上に一時期心配もされたのだけど、性にあってるのだからしょうがない。自然の中で駆け回る方がダンスを踊るよりも楽しいのだもの。
まあ、お洒落に興味ないわけじゃないよ?ちゃんときれい好きだし、獲物の牙とかを削って彫刻したアクセサリーだって、かなりの自信作だよ?この間、町に売りにいったらかなりの高値で買い取ってくれたし。
なんか店の人が「こ、これは・・・!?」とか言いながら右往左往した後一番偉い人が何故か出てきて「是非とも専属でウチに卸して貰えませんか!?」なんて言ってたけど。
私も暇な時間でしか作れないから、またできたらって事で納得して貰ったんだけどね。
私は跳び兎を前に置いて、膝まづいて両手を胸の前で組むようにして、祈りを捧げる。
「その命、その血肉、我らが命に、血肉に受け継ぎ、子孫共々感謝します」
ウチに伝わるお祈り。
まあ、私たちはこの子達のお陰でご飯も食べれるからね。まあ逆に食べられちゃう事だってあるんだけどね。(笑)
寿命で死んだ時でも、私たちは山にある葬台に果物なんかと一緒に置かれる。
そして1ヶ月程近づかないようにすると、後は獣たちが綺麗に自分達の栄養にしてくれる。
その獣達をまた私たちは狩って食べたりするのだ。
難しい言葉で循環とか言うらしいけど、まあお互い様だから感謝を忘れないようにってことらしい。
私にはまだ子供とかいないんだけど、いずれ出来るであろう子供や孫の為にも祈るのだ。
そうやってお祈りを済ませた私は、跳び兎の首筋を切り裂いて、木の枝のとこに引っ掻けて血抜きをする。
よくその場で捌いて内臓なんかは置いてく人もいるらしいけど、私のウチでは全部使いきるようにしている。食べれない部位は薬になったり無駄になるところなんか無いからね。
弓の手入れをしながら待っていると、血抜きが終わったようで、跳び兎から流れていた血は止まっていた。
よいしょっと足を蔦で縛って背負えるようにして、跳び兎を担ぐと、隠れていた木まで戻る。
木の根元には、その前に狩っていた走り鳥5羽が纏めて置かれている。それを反対の肩に背負い家に向かって森のなかを歩き始める。
ちなみに走り鳥とは、飛ばないがかなりすばしっこくて、地を這うようにちょこまかと移動する鳥だ。
丸々と太っていてかなり美味しい。特にお尻の先っちょにある脂の固まりなんて絶品だけど滅多に食べれない。
稀少な部位は高く売れるのだ。聞いた話によると、化粧品になったりするらしい。
食べないなんて勿体無い。
同じような景色が続くけど狩人は迷ったりなんかしない。狩人の方向感覚は常人のそれとは違うのだ。
例え目隠しされたって自分がどこの方角を向いてるかわかっちゃうのだ、えっへん。
あと少しで森を抜けて平野に出るかなーってところで何か聴こえる。
狩人は目もいいけど耳もいいのだ。父上なんか1キル(約1km)離れたところで獲物が転がした小石の音まで聞き取れるしね。父上すごい、まじバケモノ。
私もそこまでじゃないけど500メル(約500m)位なら聴こえると思う。
そんな私の耳に届いたのは、女の人の助けを呼ぶような悲鳴だった。
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