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六、封じられた記憶

六話めです。


幼女が全く可愛くないです。もともと可愛かったのかはともかくとして。


悪魔が殆ど喋りません。人見知りなんですね。

 ずっと昔から言われてきた。

 化け物、と。


 生まれた時からずっとずっとずっと。

 一度しか顔を見たことのない親も、孤児院の先生たちや孤児たちも、教会の神父やシスターたちも。


 何故化け物と呼ばれるのか。自分が何をしたのか。

 何もわからなかった。


 けれど、この世界の誰もが自分を化け物と呼ぶのなら、それは紛れも無い真実なのだ。

 涙なんて、流さない。悲しくもなんともない真実だから。


 なのに、嗚呼、彼に出逢って言われた言葉に縋ってしまった。


「お前のそのチカラは必要だ。」


 目が眩んでいたんだろう。

 国を背負うことになる彼が、自分なんかを必要とするから。


 もしかしたら、わたしも、あの明るい光の下で誰かと笑いあえるんじゃないか、って。

 誰かに愛してもらえるんじゃないか、って。


 ……そんなこと、あり得ないのに。


「おお!全能のチカラだ!」


 いいえ、いいえ。

 宰相様、そんなことは全くないのです。もしも全能ならわたしはみんなに愛されているでしょう。そういう風にチカラで現実を改変したでしょう。


「恐ろしい悪魔の子だ。」


 いいえ、いいえ。

 神官様、わたしは人間です。たとえ悪魔が使うようなチカラが宿っているとしても、わたしはひとの親から生まれた、ひとの子なのです。


 違うんです。全部全部、間違っているんです。

 わたしはただの人間なのに。

 心も感情もある、血の通う人間なのに。


 どうして誰も、気づいてくれないの?

 どうしてみんな、わたしを見てくれないの?


 いいよ、いいよ。大丈夫、愛してくださいなんて我儘、もう言わないから。

 せめて、望むのは一つだけ。


 わたしの名前を呼んで下さい。

 記号なんかじゃない、わたしの存在を示す言葉を下さい。……きっとそれだけで、わたしは生きてゆけるから。


 息が苦しくて、口を押さえた。


 腹の底のどろどろした感情が喉の奥までせり上がって口から飛び出る機会を狙っている。


 これはなんと言うのだろう。

 愛を確かめ合う男女を、名を呼び合う人々を、笑い合う子供と大人を、殺してしまいたいほどに、憎悪するこれは。


 どうして、どうして、どうして。

 それはわたしには、与えられなかったのに。不公平だ。


 そんな感情を必死に中にしまいこんで、出てこないようにと祈っていた息苦しい日々に、その命は下った。


『全知全能の大悪魔を捕らえるように。そしてこの国に貢献させろ。』


 それはつまり、わたしはもう用済みということか。

 わたしより、その悪魔の方が有用だということか。


 当たり前だ。

 わたしは悪魔の紛い物らしいから。ひとに間違えて生まれた悪魔らしいから。


 でももうこんな思いしなくていいんだ。

 誰かに愛してほしいなんて望みを抱いてしまうような光を見なくていいんだ。


 もうずっと闇の中で耳を塞いで目を閉じて眠っていていいんだって。だって用済みのわたしは廃棄処分だから。


 わたしは頬に伝う何かを無視して笑う。


 悪魔は、ミルファーレンは森の奥で狼の身体を丸めて寝ていた。

 何故だろう?

 わたしには、ソレが蹲って泣いているように思えた。悪魔が泣くなんておかしいけど。


 記憶がふっと浮かんでくる。彼が言っていた言葉。


『アレは昔国に仕えたらしい。魔法大国と畏れられた国に。そう、そこにはかの有名な《天変地異》や《絶対零度の停滞世界》も仕えていたという。末恐ろしいな、あの化け物どもを下すとは。……ああ、その国は悪魔どもが出払っているうちに国民全員皆殺しにされたらしい。戻ってきた悪魔たちも殺されかけたが、契約者たちに逃がされたのだと。』


 この悪魔は真実独りぼっちだ。同じ悪魔たちがいないということはそういうことなんだろう。


 悪魔に心の中でそっと語りかける。


 独りが淋しい?

 殺された契約者たちの死を悼む?

 国民が殺されて哀しい?

 国が滅ぼされて憎い?


 わたしたちに気づいて悪魔が身を起こした。こちらをひたと見据える黄金(きん)色は凪いでいる。

 それは静かに、自分の終わりを待っていた。


「君たちは?」


 警戒も何もない、疑問のみの言葉。そして、幾らかの安堵。

 わたしたちが殺してくれると思っているのだろうか。


 そんな訳ない。そんな世界は都合良くできていない。

 貴方はそれをよく知っている筈。


 わたしは悪魔に向かって一歩踏み出す。

 森の中の開けた小さな広場のようなそこは悪魔が座っているとかなり狭くて、1人くらいしか広場に足を踏み入れることができなさそうだったのだ。


 勿論、木々の合間に姿を隠すものたちもいるけれど。


「わたしたちは、貴方へ提案をしに来たのです。」


 わたしは多分とても(いびつ)(わら)っていた。


「我が国へ仕えてくれませんか?」


 黄金(きん)の中に、焔が灯った。

閲覧ありがとうございました。


と、言い続けていますが六話まで見た方はきっといないでしょう、ええ。


ここまで見てくれた神様みたいな方は是非最後までよろしくお願いします。拝みます。



次回、最終話。

檻の中で眠りこける悪魔。謁見の間的なところに連れてこられたかと思ったらあの君主の息子が何故かドヤ顔していて……!?

「七、契約」

ネタバレみたいなタイトルだけどよろしくねっ。


というおふざけ次回予告でした。本編は真面目です。


あとこの話の途中の君主の息子の台詞の中の二つ名が痛すぎるとかそういうことはそっと心の中にしまっておいて下さい。中二病が再発したんです。

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