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イン・ザ・タンク

作者: ぢのしま

 轟音、味方の戦車が隣で激しく燃えているのが見えた。グレネードの類が飛んできたのだろうか。

爆発音は前方、後方からも聞こえていた。破裂音が聞こえる度に天が震えるような感覚に見舞われる。


 こちら側の不利は覆られないらしい。前方から敵の戦車の大群がこちら側へと雪崩れ込んでくるのが見える。

細長く突き出た砲が煌る。

刹那、雷撃とも似た音と共に私の乗り込んだ戦車の前方に着弾した。鉄の箱舟は私の恐怖心と共鳴するかのようにぶるりと震えた。


 無理やり気概を奮いたたせ、中窓から外を覗くと、煙の中に光るものがあった。徐々にその光は大きくなっていく。

それが再び敵の戦車から放たれた爆撃だと理解した途端、私の意識は闇の底へと沈んでいった。


 目を覚ます。視界がぼやけている。暗い視界の中に唯一映るものは、暴力的な迄の青であった。

ここは。そう声に出そうとして、声が出るべき場所が無いことに気付いた。口はおろか、自らの手足までまるで見当たらないのだ。首を動かす感覚さえ無かった。


 徐々に視界が鮮やかさを取り戻してきた。目の前の景色は純粋な青から、具体的な形をとり始める。

前方に浮かんでいるのは無数の円形の水槽。青い液体が浸されたその中には、人間の脳と思わしきものと、目玉が二つ、その下に律儀に並んでいる。それは先程の戦場の風景にも勝るとも劣らない凄惨なものであった。

何だこれは、そう考えようとして、私は思い出す。

私はただ、極めて現実的な夢を見ているだけに過ぎなかったのだ。


 現在、人類は皆肉体を捨て、水槽の中で半永久的に生き続けている。

精巧なコンピュータによってそれぞれがリアルのような夢を見させ続けられているのだ。それをリアルだと心から錯覚させられる程には。

これが、人類の選んだ未来。死ぬという終着駅から逃れ、永遠に生き続ける為の選択だった。

こうして、私のように夢の中で一度死んだ者だけが、真の現実を短い間ではあるが認識することができるのだ。


 再び視界がぼやけていく、夥しいまでの水槽が形を失せていく。

私達の未来の選択はこれで正しかったのだろうか、夢幻の世界から解放される時は来るのだろうか。

そんなことを考えながら、機械に抵抗することもできずに、意識は新しいリアルへと沈んでいくのであった。


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