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vs生徒会

 五月二十七日、火曜日。

 中間試験も終了し、咲のお陰で全員赤点回避した。

 あーでもないこーでもないと原稿について話していると、美術室の扉をノックされる。

「はい」

「失礼する」

 話を中断して創が声をかけると、扉を開けて入ってきたのは勇だった。

「生徒会長…」

「貴様が神聖な此処に足を踏み入れるとはどういうつもりだ」

「え、詠子は口を挟まないでくれ。僕の用があるのは部長くんだ」

「何だと?」

「うっ…」

 詠子の目を見ないようにあさっての方向を見ながら言う勇に、相変わらず弱いな、と思う。

「明日の放課後、生徒会会議を行う。部長くんは出席するように」

「何それ、あたし達も行くよ!」

「部の責任者との話だ。部外者は遠慮したまえ」

 茜の言葉をばっさりと切って捨てる勇に、咲が立ち上がった。

「冗談じゃないわ。私達の部の存続がかかってるのよ。話に参加する権利はあるでしょう」

 当然の言い分に、ゆっくりと勇は咲の方を向いた。

「君は…二年首席の藤沼さんだね。君ほど頭のいい人が、屁理屈はやめたまえ。部員がこぞって参加する会議がどこにある」

「屁理屈じゃないわ。私達は四人でチームなの。だから四人で聞くわ。それとも、創くん一人の方が丸め込みやすいって事かしら?」

「むっ、そんな事を考えているのではない! ただ、僕は常識的に部長くんだけが来るべきだと言っているのだ!」

「ちょ、ちょっと…」

 ヒートアップする咲と勇の言い合いに、創はおろおろとした。

「まぁまぁ、いいじゃないか」

 勇の後ろから入ってきて声をかけたのは門屋だった。

「門屋先生…!」

「オレに免じて、全員で参加させてくれないか?」

「ですが…」

「ただでさえ入ってきたばかりの一年生が部長なんだ。生徒会だけ全員がいたのでは萎縮してしまって公平性を失うと思うが?」

 もっともらしい言い分を並べ立てられて、勇は俯いた。

「…分かりました…。門屋先生も明日の会議には参加して頂きますので」

「うん、分かった」

 にこっと笑んで頷く門屋に、勇は小さくため息を吐く。

「明日の会議は三時半からです。それでは失礼します」

 そう言い残して、勇はその場を後にした。

「ふぅ…」

「ありがとうございます、門屋先生」

「いやいや、君たちのチームワークは素晴らしい。応援させてくれ」

 頭を下げた創の肩をぽんぽんと叩いて言うと、門屋は先程とは違う人懐こい笑みを浮かべる。

 四人は顔を見合わせ、ぺこりと再度頭を下げた。

「明日は負けられないな…」

 創がぼそっと口にすると、後ろから軽く頭を小突かれた。

「ほら、気負わないの。私達がついてるわ」

 あくまで強気な咲に、心強くなる。

 その横では、茜と詠子も微笑んでいた。

「うんっ。明日はみんなで頑張ろう!」

「うむ。そして四人でイベントに出るのだ」

「おー!」

 門屋は、そんなそんな四人の様子を見て、青春だなぁと楽観的な事を思っていた。

 一人になった帰り道で、創は歩いていた。

 すると突然腕を引っ張られて、校門の裏手に投げ出された。

「何っ…」

「よう、ソウクン」

 それはクラスメイトだが、あんまり近寄りたくないタイプの生徒二人だった。

「…何?」

「お前さ、茜ちゃんと何宜しくやっちゃってんの? キモオタの癖に」

 茜もオタクなのだが。

「別に…茜さんとは部活が一緒なだけで…」

「はぁ? 何だよ、聞こえねーよ」

「別にやましい事はこれっぽっちも無い!」

「何口答えしてんだよ!」

 どうしろというのだろうか。

「ちょっと痛い目見なきゃ分からねーようだな…」

 バキバキと拳を鳴らすと、にじり寄ってくる。

 殴られる、そう思った瞬間。

「ちょっとぉ、ソウくんに何してんの!?」

「茜ちゃん…!」

 登場したのは茜だった。

 明らかに二人が動揺する。

「こいつが悪ぃんだ、茜ちゃんに馴れ馴れしいから!」

「同じ部活の仲間なんだから当たり前じゃん! 早くどっか行かないと先生呼ぶよ!」

「ちっ…覚えてろよ寒河江」

 捨て台詞を残して去っていった二人に、創はほっとした。

「大丈夫? ソウくん」

「うん、ありがと」

 差し伸べられた手を取って立ち上がる。

「あーあ、完全に目ぇ付けられたなぁ」

「大丈夫だよ、あたしが傍に居れば!」

「やだ、かっこいい」

 笑いながら言う創に、茜も笑いながら言った。

「帰ろ」

「うん」

 一抹の不安を残して、帰路に着いた。 


 五月二十八日、水曜日。

 不良どもは目を合わせるたびに威嚇してくるので、お前らは何の動物気取りなんだと言いたくなる。

 茜が近くにいるおかげか、あれ以来ちょっかいを出されることは無いが。

 そんなことより、問題は今日だ。

 生徒会室の前に集まった四人と門屋は、じっと扉を見つめていた。

 創の内心は敵地に飛び込む緊張と、相手も生徒なんだから話せば分かるという思いが混ぜこぜになっている。

 そんな創の内心を見透かしたように、茜がきゅっと手を掴んできた。

「ソウくん、大丈夫だよ。咲先輩も、詠子ちゃんも、門屋先生もついてるから」

「…うん、茜さんもね」

「へへー」

 苦笑混じりに言うと、茜は気楽に笑う。

「さぁ、行こう」

 意を決して、生徒会室の扉を開いた。

 するとそこには生徒会役員が揃い踏みだった。

 ごくん、と緊張の表れである唾を飲み込むと、創はこう切り出した。

「あの、同人部ですけど」

「あぁ、ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ」

 一人の女生徒が立ち上がり、上品な笑顔で声をかけてきた。

 ポニーテールでまとめ上げた長い黒髪が揺れていた。

「あ、どうも…」

 会釈をすると、手に導かれるように側面にある扉から会議室へ通される。

 後ろから生徒会長を含めた役員達もぞろぞろと移動してきた。

 パイプ椅子に腰掛けて、同人部と生徒会が真っ向から対面する形になった。

 いよいよ始まるんだ、と思うとドクドクと鼓動が速くなった。

「では始めましょうか。私は副会長の新井 真里です。どうぞお見知りおきを」

 その丁寧なお辞儀につられて、同人部の四人はペコリと頭を下げた。

「では、会議を始める。まず、この部活の活動内容として金銭を扱っているのは間違い無いな?」

「ちょっと待ってください、前にも言ったとおり、僕らは先生方の許可を頂いた上で活動しています」

 勇の単刀直入すぎる物言いに、創はムッとする。

「確かに僕らはお金を扱う部活ですが、それだけで不当な評価をするのは適切でないと思います」

「学内の部活で金銭が発生する、という事自体が問題なのだよ寒河江くん」

「…!」

「それでなくとも同人というのは、調べてみれば著作権違法がまかり通っているそうじゃないか。それを君達はどう思う」

「…それには僕たちは当てはまりません。オリジナルで活動しますから」

 やはりそうきたか、と思った。

 勇がちゃんと同人についての基礎知識がある事は明白だった。

 もちろん、少し調べた程度の偏った知識ではあるが。

「しかし世間はそうは見ない。同人部という名前を聞けば、それだけで著作権違法をこの学校は容認するのか、という意見も出てくるだろう」

 イメージとしては正にその通りだとも思えた。

「まして、部費を使って即売会とやらに出て、金稼ぎをしているという風に見られかねない訳だよ。現実は違ったとしても」

「しかし私達はまだ活動という活動をしていません。部費は文化祭用だけですし、活動したら収支報告を必ず提出するという約束もしています」

 更に言い募る勇に、咲が反論した。

「藤沼さん、頭の良い君なら分かるだろう。収支報告など何の意味もない。いくらでも嘘が書けるのだから」

「それは私が虚偽報告をするとでも!?」

 あまりの言われようにカッとなった咲は、ガタンと立ち上がる。

「座りたまえ藤沼さん。そう言ってるのではない。僕はあくまで考えうる事を話しているんだ」

「っ…」

 カタンと席についた咲の顔は、怒りで赤く染まっていた。

「咲先輩…」

 横に座っていた茜が、心配そうに腕を擦る。

 咲は、心配するなというようにその手を握って下ろした。

「同人誌の売買というのは、領収書でも付くのかい? いくらで何人に売った、というのはもしかしたら君達自身だって間違うかもしれない」

「勇よ、それ以上我らの仲間を侮辱するのは許さぬぞ…」

「うっ…。ぼ、僕は生徒会長だ。そんな脅しに怯まないぞ!」

 今まで黙っていた詠子が言うと、勇はぶんぶんと頭を横に振る。

「じゃあ、その生徒会長に聞こう。君は生徒か外部のイメージか、どちらを大事にするんだ?」

 門屋がそう切り出すと、勇の目線は門屋に移った。

「それは暗に生徒の意見を汲むべきだと言う事ですか?」

「そう。君はこの学校で生徒会長として選ばれた。その君が生徒の気持ちを軽んじていいのかな?」

 穏やかに言う門屋に、勇は鼻息を鳴らす。

「じゃあ聞きますが、他の生徒の気持ちはどうなります? 現に同人部という名前が僕たちにまで聞こえる噂になっています」

「しかし、まだ何もしていない部をそのイメージだけで弾圧するというのはどうかと思うがね」

「実際に活動して、問題が起きたらどうします。先程言った通り、収支報告だってどこまで本当か…」

「じゃあ、会長が見に行けばいいのですわ」

 その堂々巡りの論争に終止符を打ったのは真里だった。

「…は?」

「同人部の皆様、うちの会長が数々の無礼な発言申し訳ありませんでした」

 深々と頭を下げる真里に、四人はぽかんとする。

「私と致しましては、このまま平行線を辿るより、実際に活動するところを会長に確認して頂くという事を提案したく存じます」

「確認…とは?」

「即売会に同行するのです」

『はっ!?』

 その驚きの声には勇の声も交じっていた。

「…誰が?」

「ですから、会長が」

「なぜ僕がそんなことを!」

「あら、会長は皆さんを心配してらっしゃるのでしょう? それならいい方法かと存じますけれど」

「うっ…」

「それとも、芽を摘むだけで生徒会長としての職務を全うしている気ならば、この私が解職請求しても宜しいのですよ?」

 たじたじな勇を見て、思わぬ論戦の着地点に同人部一同は顔を見合わせる。

「門屋先生はいかがでしょう」

「あ、ああ。それで実情を知ってもらえるならばいいと思うけれど…」

 門屋がちらっと創を見た。

「それで活動させてもらえるんですね?」

「えぇ、それは私が保障致します」

「勝手に保障するな!」

「なんですか、みっともない声を出して」

 創はこの攻防を見て思った。

 勇にとっての最強は詠子ではなく、真里だったのだと。

「ま、待ちたまえ、僕がそこに行って問題ない大丈夫だと思ったところで、一般の生徒や保護者が納得するものか」

「それを説明して、納得させるのは生徒会長としてのお仕事の一つだと思いますけれど」

「…」

 ぐうの音も出なくなった勇に対して、あくまで真里はにこにことしていた。

「それではこれでお話は終わりですわね」

 ぱん、と両手を合わせてそう言い切った真里に、異論を唱える者はいなかった。

 そのまま会議は終了し、とりあえず問題はあるが活動停止にならなかった事を良しとする。

「僕が行って、問題があるようなら即刻部活停止だからな!」

 勇が言い残した言葉は、真里が居なくなった後に放たれた。

 どんだけ真里に虐げられているんだ、と推察してしまうが関係がないので放っておく。

 生徒会室を出た同人部四人と門屋は深いため息を吐いた。

「門屋先生、今日はありがとうございました」

「いや、何の役にも立てなくて済まないね」

 謙虚に言ったその姿勢を見て、この先生が顧問で良かったと改めて思わされる。

「それじゃあ、オレはこれで失礼するよ」

『ありがとうございました!』

 四人で頭を下げて見送ると、顔を見合わせて笑った。

「さて…と、大変なことになっちゃったね」

「いえ、これで真実を知ってもらえると思えばいいのよ。人を嘘つき呼ばわりしやがってあの阿呆会長」

「咲先輩、どうどう」

 相当腹が立っていたらしい咲の背中を茜がぽんぽんと叩いた。

「だが、これで決まったな」

「何がー?」

 詠子の言葉に、疑問符を浮かべる茜。

「最初に出るのは、オリジナルしかないと」

「そうだね」

「なんで?」

「まず、勇の奴を納得させるためにオリジナルで出る。すると、どれ程費用がかかってどれ程の売り上げがあるかが奴にも分かろう」

「ふむふむ」

「最初に納得させておけば、もうイベントに同行する等とは言わぬだろう」

「そっか」

「元々二次創作は部活外の事。だからこそ生徒会の目が無くなってから活動するのが良い」

「なるほどねー」

 詠子の説明を聞いた茜が納得したところで、創がこう言った。

「とにかく、最初のジャンルは決まった。後はイベントを確定するために申込しなきゃね」

「うん、頑張りましょう」

「じゃあ、次の部活の時にイベント日程とそれぞれの担当する事を決めよう」

「おーっ!」

 茜が元気いっぱいに手を振り上げるが、その元気がもう創には残っていなかった。

「とりあえず今日は解散しよう。疲れた…」

「そうね…」

「じゃあ帰ろうか」

 それぞれ荷物が教室に置きっぱなしだったので、取りに戻る事にする。

「さー、一緒に帰ろう、ソウくん!」

「元気だね茜さん…」

「創よ」

「?」

 振り向くと、俯いた詠子が居た。

「どうしたの?」

「…」

 詠子がちらりと茜を見ると、茜は気を利かせたように先に行った。

「その…済まぬ。我が闇の力も光の戦士の前ではまるで無力だった」

「!」

「我が一番敵を熟知しているというのに、何も出来なかった…」

 詠子は俯いたまま言う。

 創はふっと笑った。

「詠子ちゃん」

 その創の声に、びくっと身を強張らせる詠子。

「オレ、今日すごく怖かった。それなのに生徒会と対峙出来たのってみんなのお陰だと思う」

 詠子が顔を上げる。

「創…」

「それって、結構すごいことだと思わない?」

 にっと笑顔を浮かべて言う創に、詠子も笑みをこぼした。

 その何かを吹っ切ったような笑顔は、揺れるウェーブの髪の毛と相まって綺麗だった。

「…そうだな。どうかしていた。忘れてくれ」

「うん、じゃあまた金曜日に」

 軽い足取りでタタッと走り去っていく詠子を見て、何故か創は嬉しくなっていた。

 今日一日で、色々と疲弊した部分はあったが、それだけでは無いと創は強く思った。

 確実に絆は強くなってる、そう思った。

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