動き出す同人部と生徒会
四月二十二日、火曜日。
図らずもハーレム状態の同人部だが、あの三人に着いて行ける気がしない。
いっそ男子部員が欲しいなと思いつつ、美術室に向かう。
後ろからは茜が例のごとく、ついて来ていた。
「あの…越後さんさぁ…。オレと一緒に部活行くのどうかな…」
「何で? 同じ部活なんだからいいじゃん」
「クラスメイトの視線、気にならないの?」
「別にぃ」
「あ、そ…」
創は諦めた。
茜は可愛い部類に入るようで、クラスの男子にも人気がある。
だからか、創がやっかみの対象になっているのを、知っていた。
茜は、色々影で言われている事を知らないのか、気にしないだけなのか。
こんなことを気にするなんて弱いと思われるかもしれないが、出来れば穏便に事を済ませたいというのが創の心情でもあった。
ガチャっと美術室の扉を開くと、既に咲と詠子が来ていた。
「待たせてすみません」
「いいえ、私達も来たばかりよ」
とりあえず、近くの席に座ると、茜もそれにならって座った。
「じゃあ四人揃ったし、自己紹介兼ねて、活動傾向と好きな作品を…」
「待って!」
創が進行しようとすると、茜が手を挙げる。
「何、越後さん…」
「その前にあだ名決めようよ! 寒河江くんは、ソウくんって呼んでいい? ハジメくんより可愛いっしょ?」
「何だそれ、いきなり…」
「親睦するつもりでー」
「勝手にしてくれ…」
がっくりと頭を垂れた創に、茜が続ける。
「藤沼先輩は咲先輩、中二先輩は詠子ちゃんでいいよねー」
「中二先輩って」
創が突っ込むが当の本人はわなわなしていた。
怒っているのだろうか。
「くっ、我をちゃん付け等…!」
そっちかよ、と創は思ったが口には出さない。
「可愛いじゃん」
「そ、そうか。なら良い」
「いいんだ…」
今度は咲が言った。
何気に茜は最強かもしれなかった。
「んで、みんな敬語禁止ね!」
「こらこら、先輩に失礼だろ」
元気一杯にむちゃくちゃな提案をする茜に、創がストップをかけた。
「私は別にいいけど」
「我も構わぬ」
「そうですか…」
なんかもう段々どうでもよくなってくる。
「あたしは茜って呼んでね!」
「えっと、茜…さん…とりあえず座って…」
テンションが上がって立ち上がり、完全に仕切り始めた茜に言う。
「呼び捨てでいいって、ソウくん!」
「女の名前をいきなり呼び捨て出来るほどオレは女に慣れてないもん!」
「胸を張って言う事じゃないわね」
開き直って言った創の言葉に、咲が突っ込んだ。
「コホン。それはさておき…」
自己紹介に話を戻すことにする創。
「とりあえず俺が好きなのは最近アニメで火がついたオレミタ! ハーレムものは男の夢だ!!」
「なんだ、今ハーレム状態じゃん」
「ただし二次元に限る!」
「うわ、言い切った」
「好きなキャラはなっちゃん。なっちゃんは俺の中の天使だ」
なっちゃんとは、オレミタの中のゆるふわ天然少女である。
実を言うと、詠子に少し似ている。
詠子に、じっと茜と咲の視線が集まるが、詠子本人は作品自体を知らないようだ。
その視線は、哀れむように創へと移った。
「あの、違うから。二次元限定だから」
創が言う。
「因みに、最初ここに来た時絵を描いていたようだけど、絵描きなのかしら?」
咲が話題を変えた。
「そう、マンガ描き。まだまだ始めたばかりだからへたくそだけどね。というところで、次は咲先輩」
「はい」
一つ咳払いをすると、咲は立ち上がった。
「会計を務める、藤沼 咲です。最近熱いのはポートボーラーの部長×主人公! 超王道カップリングね!」
「…腐カップリングに王道なんかねぇよ腐女子…」
「うっさいわね!」
創の遠い目をした突っ込みに、ヒートアップした咲が返した。
「一応小説書きよ。ポートボーラーの二次創作ばかりだけれど。去年一回だけコミック・ウォーにサークルで出たわ」
「マジで!? すごいね咲先輩!」
茜が目を輝かせる。
というのも、コミック・ウォーに出るためには、サークルの抽選に当たらなければいけないのだ。
実際に統計を取ったわけではないが、確立は五分五分と言われているらしい。
「じゃあ次は茜かしら?」
「はいはーいっ」
咲が座りながら促すと、茜が元気よく立ち上がった。
「越後 茜でっす! あたしはコス至上主義で、ウィッグの手入れとかしてるとマジで落ち着くんだよねー」
「衣装とかどうしてるの?」
「作ってるよ! 裁縫大好きだし、衣装出来上がると超テンション上がるし」
裁縫好きというところで、見かけによらず家庭的なのかな、と創は思った。
「流行りについて行く為にアニメもマンガもいっぱい見てるよ! ポートボーラーも、オレミタも大好き!」
ちょっと良い子かもしれない、と創と咲は目配せをした。
好きな作品を褒められると嬉しくなるという、オタクの性だ。
「じゃっ、オオトリは詠子ちゃん!」
「ふむ」
茜と入れ替わるように、詠子が立ち上がる。
「月永 詠子とは仮の名だが皆を我と奴等の聖戦に巻き込むわけにもいかん。だから詠子ちゃんで赦そう。詠子ちゃんで」
何気に詠子ちゃん呼び気に入ってないか、と全員が思ったが心にしまっておく事にする。
「我は創作小説を書いている。挿絵もな。まぁ、皆にはその良さが分からないかもしらんが」
「要するに自分の世界にどっぷり浸ったオリジナル小説を書いていると」
咲がなかなか的確な言葉で言うと、詠子が唸った。
「自分の世界にどっぷり浸っているのは、我だけでは無かろう。皆そうだ」
「確かに…」
創が苦笑交じりに頷く。
「てゆーか、このメンバーでどうやって一つのサークル作るの?」
「…」
「…」
「…」
茜の発言に、暫し沈黙が流れる。
「ポートボーラー女性向け!」
「コス写真集!」
「オリジナル文庫!」
「待て待て待て待て」
ほぼ同時に放たれた三人の言葉に、創がストップをかけた。
「全体に統一感無さ過ぎるだろ…。俺だって好きなジャンルでやるならオレミタだし…」
「まず一次創作か二次創作かよね」
創が言うのに、冷静になった咲が加える。
「コス写真集なら一次も二次も出来るよ」
「茜さんだけしか写ってない写真集作って先生になんて報告するんだよ…」
がっくりとしながら正論を吐くと、茜はしゅんとした。
「それに、カラーはコストが高い。創よ、部費はどうなっている?」
「それがですね…」
詠子の言葉を受けて、文化祭分の部費しか出ない為普段の同人活動には一切使えないことを説明する。
「ついでだから言いますけど、赤点取ったら活動停止です」
「まぁ、うちの学校大体そういう事になってるけど…」
咲がのほほんと言うと、対面で茜と詠子が真っ青になっていた。
「あ、あたし…赤点取らないなんて出来るかな…」
「そこは頑張ろうよ! オレもまだこの学校のレベル分からないけども!」
口元を隠して震える声で言う茜に、創が言う。
「ていうか…詠子ちゃん…?」
「わ、我にはそんな呪いの言葉は通じぬぞ…!」
あからさまに動揺しているのを見て、咲と創はうわぁ、と思った。
「詠子ちゃん…成績そんなに悪いの…?」
「わ、我は闇の住人。テストなどというものに惑わされたりはせぬ!」
茜の質問に、意味不明な弁明をする詠子。
これは本格的に駄目かもしれない。
というか、詠子の能力とやらでどうにでもなるんじゃなかったのか。
「他には出された条件とかあるの?」
咲が話を変えることにしたようだ。
問題が先送りになっただけだが。
「えっと、売る作品は一部提出、と収支報告を必ず行うこと…かな」
「なるほどね」
「話を戻して、部費はほぼ無いと思ってもらったほうがいいから」
未だにガタブルしている茜と詠子に言った。
「ふむ…。モノクロのコピー本が精々だな」
冷静さを取り戻した詠子が言う。
「手作りグッズとか。…も、お金かかるかしら」
「作れてラミカ程度じゃないかな」
咲の提案に創が応えた。
「とりあえず、当面の活動はコピー本を作ること。内容は、金曜までに各自考えてくることにしよう」
『はーい』
その日の部活は、それで散会となった。
「あたし帰って勉強する! コスのために!」
動機は不純だが良いことだよな、と創は思った。
「だから咲先輩…わかんないところ教えて…?」
「はいはい、とりあえず一人でやってみなさい」
「わーい!」
キャッキャしながら約束を取り付ける茜は強かだ。
「詠子ちゃんも、私が分かる範囲なら教えられるわ」
「何、汝は三年の勉学までも先取りしているというのか」
「まぁ、一応」
「頼む! 我を此処に留まらせる為に力を貸してくれ…!」
「はいはい、勉強会しましょうね」
咲は本当に優秀なのだな、と思う。
とりあえず、ちょっとだけ羨ましい気がする創は、鞄を取ってこう言った。
「とりあえず鍵閉めるから出て下さい」
「はーい」
「じゃあまた金曜にね」
「我も失礼する」
ガヤガヤと出て行く三人を見て、創は少しだけ微笑ましく思う。
がちゃりと扉を閉めると、そのまま職員室へ鍵を返した。
もう生徒は部活の人間が残っているくらいで、下駄箱までの道のりはとても寂しかった。
上履きをしまって、登下校用の革靴を取り出す。
その時。
「待ちたまえ。君が同人部部長の寒河江くんか?」
唐突に声をかけられて、創は顔を上げた。
いかにも真面目そうな黒髪短髪の男子生徒で、どこかで見たような気がする。
ぴっちり着こなした制服が、異常なまでにしっくりきていた。
「はぁ、一応」
「僕は生徒会長の新宮 勇だ。君が立ち上げた部の事を聞いたのだが、問題有りだと思っていてね」
あぁ、だから見覚えがあったのか。
確か入学式で演説していたのだ。
創は一人で納得していたが、発言には引っかかった。
「…問題とは?」
「部費を使ってお金儲けをする部じゃないか、と噂が立っているのだ」
鼻息を荒くして言って来る勇に、来たか、と創は思った。
部を立ち上げるときに、こんな事は想定済みだ。
しかし、先生という強い味方がこちらにはついている。
「それはですね…門屋先生とこういう約束をしてまして」
門屋と話した内容をそのままそっくり伝えた。
「うむ、なるほど」
納得してくれたか、とほっと胸を撫で下ろした。
「だが金を扱う部には変わりないだろう!」
全然納得してなかった。
「だからそれは…」
「貴様、何をしている」
「!」
唐突に助けに入ったのは、詠子だった。
帰ったのでは無かったのか。
「詠子…!」
「勇よ、彼奴に近寄ると我の中の闇の波動が主を襲うぞ」
「マジか! それはいかん!」
いやマジな訳無いだろう、と創は思ったが口には出さない。
「詠子ちゃんの知り合いですか」
「この世界での幼馴染だ」
「え、この人ずっと一緒に居てこの反応なんですか?」
今度は思わず声に出た。
「詠子は昔は普通だったんだ。なのに、高校に入ったくらいから怖いことばかり言ってくるようになったんだ」
子どもかこの人は。
詠子はある種の高校デビューだったんだ、と創は納得した。
間違った方向にデビューしてるけど。
「詠子、そんな脅しには僕は負けないぞ!」
「では波動の力に喰われるがいい」
「くっ、嫌です!」
弱いなこの人。
とりあえず創は生暖かく見守ることにした。
「くっ…とりあえず、今日は詠子に免じてこのへんで引き上げるが、次に会った時に覚悟しておけ、部長くん!」
そう言い残すと、勇はダッシュで去っていった。
「えと…一応、ありがとうございます、詠子ちゃん」
「敬語は我には必要ない。先ほど話したろう」
「はぁ」
「それと、また光の戦士に絡まれたら我を呼べ。奴は闇に属する我が苦手なのだ」
まぁ、確かに詠子よりは光っぽいけど。
「分かった。ありがとう、詠子ちゃん」
一応、礼は言っておこう。
すると、ふわっと詠子は微笑んだ。
それを見て、見てくれだけは可愛いな、と創は思った。
四月二十五日、金曜日。
全員が集まったところで、創はこう切り出した。
「とりあえず、皆の意見を汲んだ上で言います。オリジナルで行きましょう」
「なんでっ!? 部長×主人公はっ!?」
「なんでそこ限定なんだ」
咲の絶望的な声に、創が突っ込む。
「二次創作が著作権違法っていう危うい立場なのは知ってるでしょ? それを学校に提出すれば、活動停止をくらうかもしれない」
「ふむ…」
創の説明を聞いて、詠子は考え込む素振りを見せた。
「でも、みんなやってる事じゃない」
「みんながやってるからって、やって大丈夫という保障は無いでしょう。こっちは学校の部活なんだし、そういうモラルは必要です」
創が淡々と言う。
「はいはいっ。グッズだけでもどうかな? コス写真集とかも」
「そこ粘るね。でも、調べてみたらコス写真集っていうのもかなり危険な立ち位置なんだよね」
「そうなんだ…」
茜がしゅんとする。
「グッズも同様。最近は同人グッズも海賊版として一部規制されたりとかしてるし」
「……」
咲が分かりやすく落ち込んでいるが、創は続けた。
「そもそも腐女子向けの作品、先生に見せたいですか?」
「うっ…」
痛いところを突かれた咲が、呻いた。
「総合すると、部活でやるにはオリジナルしか無いんですよ」
ごく冷静に考えればそれしかない、と創は思っていた。
「むぅ、上層部の力に屈するというのか…」
「なんかその発言、中二っていうより会社の中間管理職みたいですけど、そうです」
創が詠子に返す。
「ただ、イベントで茜さんがコスプレする分には、別に報告しなくてもいいから…」
「あたしだけ好きなキャラやっても意味無いよぉ」
茜が泣きそうな声で言ってきて、創の胸がちくんと痛んだ。
「あくまでオレ達は学校の中の組織です。多少窮屈かもしれないけど、しょうがないよ」
皆、下を向いてしまう。
「それに…詠子ちゃんは知ってるけど、既に生徒会に目をつけられてるから、目立つような行動は避けたいんだ」
同人部というだけで悪目立ちをしているのに、これ以上問題を抱えることは出来なかった。
暫し、四人は押し黙った。
「…それでいいのか? 創は」
「!」
「生徒会にも教師にも気を使い、それが本当に汝がやりたかった部活か?」
詠子が問う。
「…だって…しょうがないじゃないか…」
俯く創。
「…」
重い沈黙が場を支配した。
五分ほど経っただろうか、それは扉の開く音で壊される。
「お、どうしたーみんな。暗い顔して」
「門屋先生」
相談してみるべきだろうか。
創が咲に視線を送ると、言いたいことを理解したようにこくりと頷いた。
「門屋先生、二次創作で活動しては駄目でしょうか…」
「二次創作?」
疑問符を浮かべる門屋に、二次創作と著作権について説明する。
そして、その上で今話し合っていた内容を相談した。
「うーん、著作権か…」
門屋が暫し考え込む間創はずっと俯いていた。
「確かに、学校側としては承服出来かねるな…」
やはりそうだよな、と創はがっくりした。
「部活としてやるなら、学校は対処しなきゃならん。オレから言えるのはこれくらいだな」
「…ん?」
「じゃあ、頑張れよ」
そう言うと、にこやかに門屋は去って行った。
「今のって…?」
「部活外でなら、特に問題は無いと」
「というより学校は関与しないって事でしょう」
詠子の言葉を受けて、咲がまとめる。
「でも、それじゃあ同人部の意味が無いと思うんだ」
頭を横に振って創が言うのに、三人の視線が集まった。
「創の気持ちも分かる。ならば同時進行で両方やったらどうか?」
「両方!?」
「我が身に宿ったこの能力さえあれば、可能なことだ」
発言の意味はよく分からないが、創の背中を押す言葉ではあった。
「そもそも、ソウくんはなんでそんなに部活っていうところにこだわるの?」
「だって、部活じゃなきゃこのメンバーでやる意味なんて…」
茜が言う事は分かる。
しかし、部活外でやるのだったら、それぞれが好きなジャンルで個人活動すればいい話である。
その方が、皆の為かもしれないと思った。
無理にこのメンバーでやる必要なんて、それこそ自分のエゴだと思った。
「創くん。君がこの部活を立ち上げたからこのメンバーが揃ったのよ。じゃなきゃ、私ずっと一人で活動してた」
「咲先輩…」
創が顔を上げる。
「我もだ。創よ、汝らと出逢えて我は幸福だ」
「あたしも、あたしも。じゃなきゃ詠子ちゃんや咲先輩、ソウくんと一緒に出来ないもん」
「詠子ちゃん…茜さん…」
「私達みんな、このメンバーで活動したいって思ってるから」
創は、自分と同じ想いで居てくれる皆の気持ちが嬉しくて、涙がこぼれそうになる。
「だから、二つのサークルを立ちあげればいいじゃない。難しいこと、言いっこなし!」
慌ててごしごしと目をこすると、創は晴れやかな顔でこう言った。
「うん、そうしよう。そしたら、オリジナルと二次創作、両方頑張ろう!」
こくりと頷く四人の心は一つだった。
「じゃあ…」
「コス写真集を」
「ポートボーラー部長×主人公を」
「オリジナルを」
「オレミタを」
…心は見事にバラバラなままだった。
その後、とりあえず二次創作で何をやるかは置いておいて、オリジナルの中身を各自考えてくることにする。
「次の火曜は休みだから、親睦がてら外で集まらない?」
「いいわよ」
「うんっ」
「良かろう」
待ち合わせ時間と場所を決めて、この日は解散となった。
四月二十七日、日曜日。
詠子からの突然のメールが来た。
宛先を見ると、同人部全員に送っているようだ。
『このリンクから占いをやり、各々結果を報告せよ』
スマートフォンからタップしてリンク先に飛ぶと、ファンタジー職業占いと画面に表示された。
丁度時間もあったし、心理テストの要領で設問に答えていく。
創の結果、適職は僧侶と出た。
その旨を詠子にメールする。
何の考えだったのかは分からなかったが、それきり返信は無かった。
まぁ火曜日にでも聞けばいい、と思うことにした。
四月二十九日、昭和の日で火曜日。
いつもの癖で早めに待ち合わせ場所である駅の東口に着いてしまった。
まだ十五分ほど時間があったので、本屋にでも行こうと駅から離れようとしたが、その時声をかけられた。
「創くん」
「咲先輩。早いですね」
「それはこっちの台詞よ」
普段着の咲は、薄い水色のワンピースを着ていて、清楚なお姉さんといったイメージだ。
「私も早く着いちゃう癖があるの。創くんもそうなんだ」
「ええ、まぁ。いつも待つ方ですよ」
「いい加減敬語やめたら?」
「つい」
そんな事を喋っていると、待ち合わせ時間になる。
二人でなんとなく改札の方向を見ていると、詠子が駆け寄ってきた。
てっきり、ゴスロリ服でも着てくるのかと思っていたが、普通に女の子らしい格好である。
ふわふわ揺れるマキシ丈のスカートが、女性らしさを表しているようだった。
「済まぬ、魔界の追っ手を振り切っていたら遅くなった」
発言は勿論電波だが。
「追っ手って何だよ…」
「聖戦の真っ最中であるからな。外界に出る時はそれなりに…」
「もういいです」
ばっさりと詠子の口上を切り捨てて、茜を待つ。
暫く詠子がぶつぶつと文句を言っていたが、諦めたようだ。
「あっ、みんな~」
『遅い!』
茜が呑気に現れたのは更に十分程経ってからで、三人の声がハモった。
茜の服装は、デニムのショートパンツに七分丈のゆったりしたボーダーシャツだった。
快活な彼女にぴったりだと思えた。
「さ、移動しましょう」
「ファミレスとかですかね」
「そうね」
創と咲で適当に決めると、詠子と茜は黙って着いてくる。
ファミレスに入ると、まず注文をすることにした。
「ええと、ドリンクバーを四つ。とりあえずそれだけで」
「かしこまりました。ドリンクバーはあちら右手にございますので、ご自由におとり下さいませ」
そう言い、一礼して去っていく店員。
「我が此処を守る。皆飲料を取ってくるがいい」
「詠子ちゃん何がいい? 取ってくるよー」
「すまぬ。ならばブラッドオレンジの血を」
「オレンジジュースねー。了解ー」
茜の詠子に対する扱いが、レベルアップしているように思えた。
そうして全員分の飲み物も揃ったところで、話し合いに移ることにする。
「さて…皆考えてきた? オリジナルの中身」
「…」
創が言うと、茜と咲が目を合わせた。
「あたしは話作ること出来ないからみんなに任すよー」
「ちょっと、茜さんもちゃんと参加する!」
いきなり戦線離脱宣言をされて、創は慌てた。
「だって、色々考えたんだけど全く出てこないんだもん」
「そりゃいきなり話作れっつったって難しいかもしんないけどさ…」
悪びれもせず言う茜に、創がぶつぶつと言う。
「やっぱりボーイズラブものがいいと思うの」
「ブレないなあんたは。却下! 先生に見せるんだってば!」
「じゃあ百合もアウトだねー」
ごく真面目な顔で言う咲に突っ込みを入れると、茜がのほほんと言った。
「まぁこんな事言ってるけど、オレもオリジナルって書いたこと無いから全然思いつかなかったんだよね」
そう創が言ってため息を吐くと、自然と詠子に視線が集まる。
「詠子ちゃんは? そういえば日曜のメールって何だったの?」
藁にもすがる思いで詠子に話を振ると、一つ咳払いをする詠子。
ごそごそとバッグからノートを取り出す。
「我は、皆をモデルにキャラクターを生成した。土台としては充分だろう」
「へ?」
詠子を除く三人が顔を見合わせた。
「どういう事?」
「ファンタジー職業占いをやって貰ったろう。あれを元にキャラクターを作った」
ノートを開くと、そこにはラフ絵と設定が書かれていた。
「うわぁ、すげぇ!」
「そういう意味だったのね…」
「わー、詠子ちゃん絵上手いねー」
確かに自分よりも断然上手いラフ絵があり、創は人知れずちょっと落ち込んだ。
皆の食いつきように、詠子は少し顔を赤くする。
「わ、我の能力をもってすれば闇の住人を屠るよりも簡単なことだ」
早口でまくし立てる詠子の言葉が照れ隠しなのは、三人の目から見ても明らかだった。
そのノートを見ると、創は僧侶、咲は魔法使い、茜は戦士、詠子は召喚士とあった。
「勇者いなくない?」
「でも、それがかえって斬新かも」
「勇者としては勇を立てる」
ぺらっとページをめくると、勇のキャラクターデザインがあった。
「勇って誰?」
「生徒会長。でも何で?」
茜の当然の疑問に、創が答えた。
「ふん、敵が居た方が話が盛り上がるだろう」
「勇者が敵ってどういう事?」
「我は闇の召喚士。無論汝らもだ」
「えっ、あたしら悪役って事?」
「ふんふん。闇だからって悪とは限らないって事じゃない?」
咲が気づいたように言う。
「あ、なるほどね。それに、これだけキャラクターが立っていれば話は展開しやすいんじゃないかな」
創も、それに乗る。
「それにしても見事に職業が後衛ばっかりね…茜以外…」
「占いに固執しないで、職業変えちゃえば?」
「それじゃオレらをモデルにした意味無いと思う」
茜の言葉を聞いて冷静に反対すると、詠子がこくこくと慌てて頷いた。
「じゃあ、話の内容はこれから考えてくとして、この案で行こうか」
『おー!』
創がまとめ、全員が納得した。
「次に、二次創作の方だけど…これだけ女性向け、男性向け、コスで別れてるんだったら、一回一回ジャンル変えるのもありだと思う」
「ジャンルを変えるって?」
創の提案を聞いた咲が聞いてきた。
「茜さんに売り子としてその時のジャンルのコスして貰って、一回一回主催が変わるっていうか」
売り子とは、その名の通りサークルで店番をする人の事である。
「それいいねぇ。それなら全員の意見潰さずに出来るし」
「まぁ、オレが腐女子向けを描けるかとかは置いておいて」
「何事も経験よ」
「じゃあ咲先輩オレミタ書けるんですか?」
「…まぁそれは置いておいて」
逃げたな、と全員が思った。
「とりあえず、ポートボーラー、オレミタと一回ずつ出てみて方向性決めるってのでどうかな」
「さんせーい。どっちも好きだから喜んで衣装作る! あ、でもあたしのコス写真集は?」
気づかなくて良いところに気づいてしまった茜に、創はため息を吐いた。
「コス写真集は予算的に無理だって…。それに、コス写真集を売るほうが二次創作同人よりハードル高いよ」
「どうして?」
「コス写真の商用利用っていうのは、今問題になってる十八禁写真集以外でも結構白い目で見られるから」
問題になっている十八禁写真集とは、要はヌード作品だ。
女の子達が、乳房や性器を露にしている写真集がある、と洋介に聞いていた。
それが、色々な条例や法律に抵触する、というものだ。
そうでなくとも、コスプレ衣装は自分で使用する分には問題は無くても、写真集になると商用利用として見られるのだという。
オークションで、自作の衣装を売ったとして逮捕される事例もあった。
勿論、コスプレが同人誌よりも駄目なものというわけではないが、最近は取りざたされる事が多いのも確かだ。
「そうなんだぁ…。コストの面だけだったら、データでロムに焼くって方法もあるけど…」
「だから…ちょっと…」
「うん、分かった。ごめんねソウくん、困らせて」
茜は納得してくれたようだ。
「あ、そうそう。詠子ちゃんは二次創作って出来るの?」
いきなり茜に話を振られて詠子がぴくっと反応した。
「我に不可能は無い」
「そうなんだ、すごいねー、中二病って」
そこ納得するところか?
「えっと…書いた事はあるの?」
「無い」
「それじゃあ分からないんじゃ…」
即答されて、不安がよぎった。
「でもオリジナルが書けるなら二次創作って容易いと思うけど」
「それは、人によるんじゃないかな。オリジナル書けるから二次創作が簡単って訳でも無いし」
咲の言葉に、創が言う。
「とりあえず、オレミタとポートボーラー知らないなら、知るところからスタートだよね」
「じゃあ私次の部活のときにポートボーラー全巻持ってくるわ」
「オレも、オレミタの原作ラノベ持ってくる。それでいい?」
「問題無い。両方とも気になっていた作品であるしな」
「でも作品が気に入らなかったら、無理に書くこと無いと思うよ。同人なんて好きでやるものだから」
「うむ、理解している」
詠子が頷いた所で、ふと会話が途切れた。
「後は出るイベントとサークル名かしら?」
「そうだね。オレが次までにイベントの申し込み〆切と日程調べてくるよ」
創が鞄から手帳を取り出して、メモをした。
「じゃあ、話すことはこんな感じかな?」
「この後どうするー?」
「親睦を兼ねて集まったのにする事無いわね」
くすくすと苦笑しながら言う咲に、創も苦笑いした。
「はいはいっ、あたしカラオケ行きたい!」
「定番ねー」
「まーいいけど」
「我も問題無い」
「じゃあケッテー!」
はしゃぐ茜。
その後カラオケに入ったところ、ポートボーラーとオレミタのアニメ映像が入っていて咲と創が狂喜したのだった。
帰り道、方向が同じなのでなんとなく途中まで詠子と一緒に帰ることになった。
電車に乗り込み、二人並んで座る。
「…」
「…」
なんとなく創が会話を探していると、詠子が肩に寄りかかってきた。
「へっ」
思わず声を上げて詠子を見ると、彼女は夢の世界に居た。
すぅすぅと寝息を零す詠子は、いつもの発言を想像させない無邪気さだった。
「…お疲れ様…」
ふわふわの髪の毛がちょっとくすぐったかったが、悪い気はしなかった。
きっと、オリジナルの設定を考えて自分達に伝えるまで、緊張があったのだろう。
そうっと詠子の頭を撫でると、彼女は気持ちよさそうに緩んだ顔を見せた。
報いるためにも頑張ろう、そう思えた。
五月二日、金曜日。
部室に集まった四人は、早速イベントについて話し合い始めた。
「まず、コミック・ウォーは次八月だけど、サークル参加はもう締め切ってるんだよね」
「コミック・ウォーの締め切りは早いのよね。しかも申し込み用紙買わなきゃいけないし」
「えっ、そうなの!? 申し込み用紙にお金かかるの!?」
咲の言葉を聞いて、創は驚いた。
「スペース代も高いし、抽選式だし…だめもとで冬コミ申し込むにも、夏コミの後十日以内に申し込まなきゃいけないし」
「ハードル高いなぁ…」
夏コミとはお盆のあたりで行われるコミック・ウォーの事で、冬コミは年末に行われる同イベントの事だ。
「だから、出来れば十二月の冬コミに申し込みをして、その上で他のイベントに申し込むっていうのがいいと思うの」
「他のイベントっていうと?」
「それも調べたんだけど、コミック畑がいいと思うんだ」
コミック畑とは、通称コミバタという同人誌即売会イベントの事だ。
コミック・ウォーより規模は劣るが、基本的に抽選が無いので出場しやすい。
特に、春・ゴールデンウィーク・秋にやるイベントは盛大である。
「コミバタならほぼ毎月チャンスはあるし、規模もそれなりに大きいから」
「他にもオンリーとかもあるわよね」
オンリーとは、一つのジャンルに絞ったイベントの事で、企業だけでなく一般人が主催したりする。
例えば、ポートボーラーオンリーといったら、ポートボーラーのサークルだけが集まったイベントになるのだ。
コミック・ウォーやコミック畑などは、全てのジャンルが集まるので、オールジャンルイベントと呼ばれている。
「オンリーだったらまた調べなきゃいけないね。コス禁止のオンリーもあるから」
「とりあえずコミバタのほうがいいんじゃない? それぞれ買い物したいジャンルとか違うだろうし」
「じゃあコミバタで行くとして、最初に出るジャンルはどれ?」
ううん、と皆が唸った。
「オリジナルだと、本を出すに当たって少し先のイベントにしなきゃいけないと思うんだけど」
「というか先にどんな話にするか決めなきゃ」
「うーん」
また唸る。
「ならば大筋を我が書こう。それに沿って汝らがそれぞれ逸話を書けばいい」
「まぁ、そこは全員でやりたいところだけどしょうがないな。その間、オレたちは二次創作の話を練ろう」
「あたしは、あたしは?」
「茜さんは衣装の作成かな。三着作るの大丈夫そう?」
「いっぺんにじゃないし、イベント日程にも寄るけど、頑張るよー」
詠子の提案に乗り、それぞれのやるべきことをまとめた。
「咲先輩が前回出た時は、原稿どれくらい時間かかりました?」
「ページ数にもよると思うけど…コピー本で、一月くらいかしら」
「一月か…オレは一月で出来るかなぁ…」
コピーで本を作るなら、イベントぎりぎりまで作業が出来る。
未だに一本のマンガを描ききったことがない創にとって、作業時間がどれくらい必要か分からないので、早めに作業にうつる事が必要だ。
「詠子ちゃん、今度オリジナルの服装と色指定描いたラフ絵コピーして? それ元にして衣装作るから」
「うむ、了解した」
話し合いが一段落し、ふぅとため息をつく創。
「ゴールデンウィークはどうする? 各自で話考える?」
「みんなでイベントに行くのも、いい経験になっていいかもしれないわ」
「イベント?」
「五月四日にはコミバタの大きいイベントがあるじゃない」
「あーそういえば」
咲の提案に、創が考え込んだ。
「はいはいっ」
「何? 茜さん」
いきなり茜が手を挙げる。
「あたし出るよー」
「えっ!?」
「友達と一般参加でコスするの」
「あ、そうなんだ…」
この子も大概ブレないなぁ、と創は思った。
「我らはどうする?」
「勉強がてら行ってみる? 一般参加ってオレしたこと無いんだ」
「そうなの?」
「うん、イベント自体、先輩に連れられて行って売り子した一回だけ」
売り子という程の事はしていなかったが、説明も面倒なのでそう言っておく。
「じゃあ、茜さんは別行動になるけど、オレ達三人は駅で待ち合わせようか」
「なんか寂しい…」
「友達いるんでしょ!」
創が突っ込むと、茜がてへっと舌を出した。
「本格的に買い物しないならお昼くらいがいいと思うわ。並ばずに入れるから」
「それじゃあ四日、十二時に会場最寄の駅の改札で」
「うむ」
話がまとまったところで時計を見ると、五時を過ぎたくらいだった。
「とりあえずこれを持ってきたわ」
「あ、オレも」
どさっと二人が出したのは、ポートボーラーのコミックスとオレミタの文庫。
「時間のあるときに読んで」
「うむ、了解した。はまるかどうか保障は無いが」
「まぁそれはしょうがないわよね」
詠子の言葉に返しながら、咲が腕時計を見る。
「…っと、そろそろ私帰るわ」
「うん、じゃあ今日はもうおしまいにしよう」
「じゃあ一緒帰ろー」
「我は教室に寄ってから帰る」
ばたばたと帰り支度をして詠子と別れた三人は、職員室へ鍵を返して下駄箱へと移動した。
すると、そこには見覚えのある人間が立っていた。
勇だ。
「やぁ部長くん。ちょっといいかね」
「よくありません」
「ちょっとだけでいいから!」
創の即答に、彼は汗をだらだら流し震えた声で言った。
やっぱり弱いなこの人、と創は思う。
「…誰?」
「うちの生徒会長じゃないかしら」
「あぁ、道理でなんか見たことある」
ぽそぽそと後ろで話す茜と咲に、ひくっと勇の顔が引きつった。
「その二人は部員かね。丁度良い、こんな部活はもう止めるんだ!」
「なんで?」
正義感丸出しで言った勇に、茜が普通に聞く。
「ふっ。この部は金を扱う不正な部活として次の生徒会で議題に挙げる。今のうちに辞めたほうが懸命だ」
「え…」
思わず顔を見合わせる三人。
「でも、顧問の門屋先生は…」
「門屋先生にも会議に参加してもらう。それでいいだろう」
「……」
そこまで問題視されたら。
創は焦り俯いた。
「また貴様か」
「え、詠子っ! 何処から沸いて出た!」
「ふん、我をなんだと思っている。貴様を破滅へ導く為には何処からでも現れるわ」
「マジか!」
突っ込む気にもなれない応酬に、創は俯いたまま動くことが出来なかった。
「くっ、僕は負けない!」
「では昔の黒歴史を全校生徒に配っても良いと言うのだな」
「あの写真か…!? いや、卒業文集の詩か!?」
自ら露呈してどうする、と茜と咲は思った。
「詠子、とにかくこれは決まったことだ!」
「ほぉう…」
「うっ…」
怯えているのはよく分かったが、その上で詠子の瞳は笑っていなかった。
「そ、それでは部長くんと部員の諸君。中間明けの会議で会おう。詠子は来なくていいからなあぁー!」
ドップラー効果で素早く去っていく勇に、詠子はため息を吐いた。
「どうしよう…同人部が…」
うろたえる創に視線が集まる。
「落ち着け創」
「そうよ、一応先生からも公認されてる部なんだから大丈夫よきっと」
「でも…」
創の耳から、先ほどの勇の言葉が離れない。
「ソウくん、心配なら先生に相談してみたらどうかな?」
「そ、そうだね。とりあえず職員室に行くよ」
茜の言葉に、全員で職員室へと再び戻った。
しかし。
「門屋先生なら職員会議でいないよ。下校時刻になるから休み明けにしなさい」
そう他の先生に言われて、その日はおとなしく帰ることになってしまった。
「しょうがないよ、休み明けに相談しよう」
「そうね。生徒会の会議は中間明けと言っていたし、大丈夫よ」
そう言う茜と咲に従い、ゴールデンウィーク明けに相談することになる。
しかし、そんな悠長にしてていいのだろうか、という気持ちが創を支配していた。
その後三人と別れて帰ったが、皆が心配そうに見送っていることにすら、創は気づけなかった。
一人になった帰り道で、洋介に相談したいという気持ちが溢れてきた。
しかし、相談した所でどうにもならない、部活の事は自分が何とかしなくてはという思いがせめぎ合う。
結論としては、洋介に迷惑はかけられないと思ったが、不安は募るばかりだった。
この宙ぶらりんな状態で、ゴールデンウィークを迎えるのが嫌だった。
五月四日、日曜日。
コミック畑の日。
茜以外の二人と合流した創は、会場へと歩き出した。
一応、先に入っているはずの茜にメールを送る。
予想通り待機列は消化されていて、並ばずに入る事が出来た。
一般参加なので、入場時にパンフレットを購入する。
大きいイベントなだけあって、パンフレットが分厚くて一冊千円と手痛い出費だ。
パンフレットには、参加サークルの自己紹介カットや、イベントでの注意事項等が載っていた。
コミック・ウォーは自由購入制なのだが、コミック畑は一般参加者は全員購入しなければならない。
小さいオンリー等だと、サークル・一般の全員が購入しなければならないという所もよくあるらしい。
邪魔にならないところで、三人はパンフレットをまずチェックした。
西ホールの方にコスプレ広場というところがあり、返ってきたメールをチェックすると茜はそこにいるようだった。
後で落ち合うことを決めて、創はポケットにスマホをしまう。
そして、パンフレットを見る限り、今回洋介はスペースを取っていないようだ。
そっとため息を吐く創に、咲と詠子は顔を見合わせた。
「創くん、イベント久しぶりなんでしょ? 楽しまなきゃ」
肩をポンと叩きながら言う咲には、気遣いの色が見られる。
「…そうですね…」
「…」
詠子はちらりと創を見たが、何も言わなかった。
「もう創くん、今日は生徒会の事忘れなさい! 考えたってしょうがないでしょ!」
「う、え」
唐突に叱責されて、創は変な声を上げる。
「咲の言うとおりだ。創よ、何をそんなに恐れる? 汝には我々がついている」
「だけど…」
ぱたんとパンフレットを閉じながら言う詠子に、創は俯いた。
「あーもう! うじうじするなみっともない! 折角のイベントなんだから楽しみなさい!」
無茶を言う。
だけど。
「汝一人で悩むことでは無い。時が来れば全員で考えることだ」
今はこの二人の存在が、嬉しかった。
部長だからって気負いすぎていたのかもしれない。
「そうだね、ジャンルばらばらだけど、皆で一緒に回ろうか。そうすれば茜さんとも合流しやすいし」
ようやっとでいつも通りに戻った創に、咲と詠子は顔を見合わせて笑った。
「まずは、東ホールからでいいかな?」
「オッケーよ」
「良かろう」
意見が一致したところで、東ホールへ向かう。
東ホールには各マンガとライトノベル、アニメの二次創作ジャンルが集まっている。
西ホールがオリジナルのようだった。
まず、咲の希望である、ポートボーラーのスペースを回ることにする。
しかし、今女性向けで旬なジャンルなだけあって、人ごみが凄まじくて完売のオンパレードだった。
壁と呼ばれる、壁際に配置された大手サークルには未だに列が出来ていて、オタクの購買意欲というのはすごいものだと思う。
いくつか咲が買い物をして、オレミタのスペースへと向かう。
ポートボーラーの女性向けと比べると、オレミタのノーマルカップリングや百合はとても少なく感じた。
そして創が驚いたのは、オレミタ内では男子は主人公とその親友しか居ないのに、その二人をカップルにした女性向けがいくつかあった事だ。
とんだツワモノだと思ったが、咲曰く当然だという。
腐女子とはすごいなぁ、と逆に感心してしまった。
それでも、ノーマルと百合の本を何冊か買って、その場を後にする。
最後に西ホールへと移動して、オリジナルを見て回った。
東ホールに比べると、人が少なくてまったりしていた。
小説サークルの所を回ると、ぱっと見て本当に書店で売っていそうな装丁の文庫本があるのに気づく。
それを見て、詠子は目を輝かせていた。
「こういうの作りたいんだ、詠子ちゃん」
「あぁ、文庫はページ数が嵩むから印刷代も高くなる。我の夢だ」
そう語り、胸に手を当てる。
「オレも印刷所通した本作るの夢かも。ちゃんと製本されてるヤツ。オンデマンドでもオフセットでもいいから」
オンデマンド印刷とは、良質のコピーのようなものである。
コピーよりは高いが、オフセットに比べると安い、中間のようなものだ。
オフセット印刷は、普通のコミックスなどにも使われる印刷で、その分高い。
オンデマンドは小部数刷る場合によく用いられ、逆にオフセットは大部数刷る場合に使われる。
というのも、オフセットは版を作る必要があり、小部数だと高くなる。
それに対してオンデマンドは、データを直接出力するデジタル印刷で小部数刷る事が可能だからだ。
本のランクとしては、コピー、オンデマンド、オフセットの順に良くなるというのが一般的だ。
そんな事を話しながら、オリジナルの買い物を済ませた。
「一応これで買い物終わりかな?」
「そうね。後は茜だけど…」
「みんなみーつけたっ!」
話していた矢先、その声に気づいた三人が振り向くと、フリフリのカラフルな衣装を着て、長い黄色のツインテールのウィッグを装着した茜が居た。
背中から腰にかけて、大きな白いリボンがふよふよと揺れ動いている。
「茜さん…だよね?」
「そうだよー」
「すごい衣装だね! 手作りなの!?」
「もっちろん!」
笑顔でブイサインをする茜。
「これは何のコスプレなの、茜?」
「聖少女キャラウェルだよー。あたしがやってるのが主人公のキャラちゃんねっ」
茜の好きなアニメ、聖少女キャラウェルとは女児向け日曜八時台の魔法少女アニメで、大きいお兄さんが結構好きだったりする。
最近は変身ステッキなどがよくおもちゃ屋で売られているらしい。
「あたしすぐ撮影に戻らなきゃいけないんだー。友達が待ってるし」
「うん。わざわざ来てくれてありがとう。…って何?」
じっと創の顔を見てくる茜に、思わず創は視線を逸らした。
「うんっ、いつものソウくんだね。詠子ちゃん、咲先輩ありがとうっ」
満面の笑顔で言う茜に、詠子と咲が笑う。
創は、それだけでジンとしてしまった。
「じゃあまた学校でねー!」
去っていく茜を見送り、三人は顔を見合わせて笑った。
「じゃあオレ達も行こうか!」
「ええ」
「うむ」
三人は、そのまま会場を出た。
「オレ、生徒会と頑張って戦うよ。オレにはみんながついてるってのも、今日でよく分かったし」
「そうだな」
「頑張りましょう」
そう決意出来たのは、大きな収穫だった。
心配ばかりかけていられない。
創の言葉に、咲と詠子も頷いてくれた。
今はただ信じよう、と思った。
顧問の門屋も、仲間達も。
五月七日、ゴールデンウィーク明けの水曜日。
部活は無いが、放課後創達は集まり職員室に行った。
「失礼します。門屋先生」
「おお、お前らか。どうした?」
「生徒会長がこんなことを言っていたんですけど…」
門屋に経緯を説明する。
「その話なら、生徒会からさっき呼び出しがあってな。会議に顧問として参加して欲しいと」
「どうしたらいいでしょうか」
「まぁ、説得するしか無いだろうな。生徒会が思っているような部活じゃないんです、と」
「…」
有態の事を言われてしまって、創は沈黙した。
「とりあえずオレからは、まだ何も活動せず収支報告も出来ていないこの時点で判断するのは早計だと進言するよ」
「ありがとうございます…」
門屋の言葉に、また創の弱気が顔を出す。
「おいおい寒河江、お前がしゃんとしないでどうする」
「…そうですよね、大丈夫です。僕にはみんながついていますから」
後ろに佇む三人の顔を見て、そう言った。
「うん、その意気だ」
満足そうに笑う門屋。
「とりあえず、生徒会がどう出てくるかがまだ分からないから、気にせず活動していればいいさ」
『はいっ』
楽天的な門屋に、四人で返事をする。
「あ、中間の結果が悪かったらそれだけで悪印象だからな。勉強はしっかりしろよ」
「はい…」
創の後ろで、詠子ががたがた震えているのに気づいたが、気にしない事にした。
「失礼しました」
四人で職員室を出ると、ため息が自然とこぼれた。
「門屋先生もああ言ってるし、テスト期間で部活休みになるまでは今まで通りで行こう」
「そうね」
創の言葉に咲が頷く。
「でも、生徒会の会議が終わるまで、イベント日程は決めない方が良いかもね。どう転ぶか分からないから」
「どうって?」
「万が一イベント申し込んで出られない、なんて事態になったら目も当てられないでしょ」
咲の言葉は、生徒会によって部活停止まではいかずとも、イベント禁止を命じられた場合の事を指していた。
「…そんな事態には…させたくないな…」
「それは我ら皆一緒だ」
「そうだよ、あたし達は四人で一つ! ソウくんが一人で抱え込む事じゃないよ!」
「うん…。ありがとうみんな」
微笑んでみせると、三人がばしばしと背中を叩いてきた。
「そうと決まったら、とりあえず次の部活で話作りを進めようか」
「おー!」
「詠子ちゃんはオリジナル、咲先輩がポートボーラー、オレがオレミタね」
「茜は衣装ね。勿論話が思い浮かんだら参加するのよ」
「うんっ」
「よっし、ガンバロー!」
気合いを入れなおし、九日にまた部室でと約束した。
五月九日、金曜日。
「今日は中間前最後の部活です。という訳で、みんな自分の課題進めてきましたか?」
「おー」
「我から行こう。オリジナルの本筋はこうだ」
物語は、僧侶である創が勇者である勇と敵対するところから始まる。
モンスターをとにかく切ればいいとする勇に対して、モンスターにも敵対しないものはいると語る創。
すると勇は未熟な創を切り捨て、一人で旅に出る。
その愚行を止めるために創も旅に出る。
だがレベルの低い創は盗賊に襲われ、絶体絶命の時に戦士である茜と魔法使いの咲が助けに入る。
勇者を止めるために旅をしている事情を話すと、二人は力になろうと仲間になる。
その旅の中でモンスターに造詣が深いとされる召喚士の詠子の噂を聞きつけて、仲間にならないかと誘う。
勇の事を知っていて、尚且つ敵対していた詠子は喜んで仲間に。
詠子はモンスターの力を借りて戦う召喚士なので、勇とは元々折り合いが悪かった。
そして四人の旅が始まった…。
「というように考えたのだが、異論はあるか?」
そう言いながら取り出したのはこの間の設定ラフ絵。
そこには新たにレベルが記載されていた。
創はレベル一、咲はレベル三、茜はレベル十、詠子はレベル十五、勇はレベル五、とある。
「面白そうー!」
「いいんじゃないかしら」
茜と咲がうんうんと頷いた。
「ただ茜さんと咲先輩の立ち位置がちょっと弱く感じるかな…。その辺オレらが逸話で足せば充分だと思う」
「ふむ、成程」
創の意見を聞きながら、詠子がノートに言われたことをメモ書きをした。
「ありがとうね詠子ちゃん、一人で考えるのしんどかったんじゃない?」
「ふ、ふん。我の能力をもってすればこのくらい造作も無い事よ」
照れているときの詠子は早口になる。
それが分かっている三人は、ほのぼのとした気持ちになった。
「じゃあ、次は私ね。部長×主人公でお話考えてきたわ」
そうして咲がノートを取り出して語り始める。
…毎日、ポートボール部でガードマンとして練習を積む主人公、常盤 マモル。
部長としてマモルを見守る初瀬 高志。
高志はいつしかそんなマモルに恋心を寄せるようになる。
マモルの事をそんな目で見る自分に嫌気がさす高志。
そんなある日、マモルが練習中に頭を打ち気絶する。
血相を変えて保健室に運び込む高志。
ベッドに横たわらせ、外傷が無いか確認する。
どうやら気を失っているだけのようだ。
目を閉じているマモルに、思わずキスをする高志。
その時、気付いたマモルが顔を真っ赤にして高志を見つめる。
先輩は、男が好きなんですか…?と目線を外し、思わずそう聞くマモルに高志がこう言う。
男が好きなんじゃない、お前が好きなだけだ…。
そして再びキスをして…。
「ストップ」
「何よ、これからいい所なのに」
「もう、勘弁してください」
「情けないわねー」
ギブアップする創に咲が言う。
耐性が無いだけ、創にはきつかったようだ。
「オレ…ポートボーラー普通に好きだから余計ボーイズラブには描けないかもしれない…」
「まぁ、無理に描くことないよー。普通のラミカとか作ったらどうかな」
茜の呑気な声が、創にとって今は天の声のだった。
「ちっ…。詠子ちゃんはどう? 今の話」
「うむ、挿絵ならば我が描こう」
「ホント!? 部長×主人公の良さに目覚めた!?」
喜々として詠子の手を取った。
「否。だが今の話が中々どうして面白い」
「…いい人ね、詠子ちゃん…」
褒められたのは嬉しいが、カップリングにはまった訳じゃないんだ、と幾分複雑な気持ちで涙ぐむ。
咲本人は、ありがちなボーイズラブ話かもしれないと危惧していたが、詠子にとっては新鮮だったようだ。
「気を取り直して、オレね。百合とノーマルと迷ったんだけど、ノーマルで行こうと思って」
梅雨の時期の話。
なっちゃんこと那津子の誕生日に主人公である持田 亨が傘をプレゼントする。
なっちゃんに似合うと思ったんだ、そう言って渡された傘は、ごく普通の赤い傘だった。
亨くんはどうして私にこの傘を選んだんだろう、ただの赤い傘なのに、と不思議に思いながらも、受け取る。
その次の日、登校時に雨が降っていてその傘を使うことにした那津子。
那津子がそれに気付いたのは、学校に着いて、その傘を閉じた時だった。
雨に濡れた傘の表面には、桜の模様が浮かび上がっていたのだ。
那津子が一番好きな花である桜が映る素敵な傘だと知った時、亨のことが前よりずっと好きになっていた。
「って感じなんだけど…」
「可愛いお話だねー」
「そうかな…」
茜に言われて、創は頭をかりかりと掻いた。
「創くんも夢見てるわね」
「だからあんたに言われたくないよ」
「何よ、夢見てるって時点で私だって一緒よ!」
「違いますー、なっちゃんが亨を好きなのは公式でちゃんと書いてありますー!」
「くっ…」
「汝達、醜い争いは止めよ」
小学生のような創と咲の言い合いに、詠子が止めに入った。
「これはマンガで描くのか?」
「そのつもりで話作ったんだけど、まだコマ割りとか考えてない。でもマンガで描くには長いかなぁ」
「そうか」
詠子の質問にそう答えると、詠子が考え込む素振りを見せた。
「どうしたの?」
「否、するとオレミタに関しては、我と咲の入り込む余地の無い気がしてな」
「そういえばそうね」
詠子の言葉に、咲も乗っかった。
「あ、じゃあこういうのはどう? 今の話半分をソウくんがマンガで描いて、半分を咲先輩が小説で書くの」
茜の提案を聞いて、ふむと考え込む創。
「それ面白いかもね。リレー形式で話が進んでいくのか」
「でしょでしょ? んで、咲先輩の小説に詠子ちゃんが挿絵描くの!」
「成程」
「でも、各スペースに本一冊って…寂しいわよね…」
『………』
咲の言葉に、重い沈黙が落ちた。
「そ、それはこの先考えよう。茜さんの作業の方はどう?」
創が話を変えることにしたようだ。
「うーんとね、一応こんな感じっ」
荷物の中から取り出したのは、ポートボーラー主人公の校名付きユニフォームだった。
「すげー! 茜さん本当に手先器用なんだね…」
「いやん、マモルくんが着ていたもの…興奮するわ…!」
「着てないから。ど新品だから」
「うるっさいわね、少しくらい夢見させてよ!」
「汝達…」
咲と創の応酬に詠子が呆れたような声を出すが、茜は得意気だった。
「えへへ、まだこれしか出来て無いけど。ウィッグは今探し中で、オレミタとオリジナルはまだ全然」
「充分であろう。まだイベント日程も決まっていないのであるし」
「イベント日程ねぇ…そこ問題よね」
「それは中間明けの会議が終わってからだね。どういう風に生徒会長が出てくるのかも分からないし」
「考えても詮無き事だ」
「分かってるよ、詠子ちゃん。もう考え込むのはやめた」
笑顔で言う創に、詠子もにこりと笑った。
「じゃあとりあえずこの方向でそれぞれの原稿と衣装を少しずつ進めるとして、問題は…」
「なーに?」
茜が呑気に聞いてきた。
「中間テストだよ…」
『……』
創の言葉に再び沈黙が落ちる。
先ほどより、空気が重く感じる。
「ど、どうしよう…」
おろおろとして、さっきまでの元気が茜には無かった。
詠子に至ってはガタガタブルブルと変な汗をかいている。
「どうしようじゃないよ…もう…」
「来週一週間はテスト前で部活休みだから、集まって勉強する?」
「そうしよ! 一人でやってても意味わかんないし!」
「わ、我も咲に教えを請いたい…」
「いいわよ。一応今センターの勉強してるから、三年の範囲も多少なら」
「さすが学年首席…」
先ほどまで欲に塗れていたようには見えないくらい、咲はしっかりしていた。
「じゃあ、とりあえず同人部は今からテスト終わるまでお休み。勉強に集中しよう」
「はーい」
中間テストは五月十九日から二十二日まで。
二十三日は試験休みのため、次の部活は二十七日になる。
それぞれ個人で勉強した上で、咲に教わるために木・金と図書室で落ち合う事にした。
この日の帰り、創は図書室に寄った。
しかし、ノートと教科書を広げているとどうも眠くなる。
「…くん、創くん」
「は、え、咲先輩?」
いつの間にか意識を飛ばしていたらしい。
「もう下校時刻よ」
「マジですか。全然進んでない」
はは、と自嘲気味に笑う。
「無理してない?」
「え?」
「部長だからって、力入れすぎないようにね!」
寝起きのぼうっとした頭に、咲の優しい笑顔が染み渡る。
ぱんと背中を叩かれて、創は嬉しくなった。
「帰ろっか」
「はい」
片付けて言うと、咲は後ろから着いてくる。
心強い仲間を持った、と思えた。
五月十五日、中間前の木曜日。
創が図書室へ行くと、既に勉強会は始まっていた。
「進んでる?」
後ろから創が小さい声で声をかけると、茜と詠子が泣きそうな顔で振り向いた。
「茜さんは大丈夫でしょ、高校最初の中間なんて基本的に中学で習ったところしか出ないよ」
「でも…わかんないところいっぱいあるぅ」
「茜さんここ受験したんでしょ? そんな心配しなくても大丈夫だって」
「そうかなぁ…」
「茜、ここ違うわ。公式ちゃんと見て」
「は、はいっ」
咲の指摘にノートに書いた数字に消しゴムをかける。
大丈夫かなぁ、と創は少し心配になってきた。
「詠子ちゃんはどう?」
「……」
無言の返事が全てを物語っていた。
「詠子ちゃんは基礎からやらないと駄目だわ。今日明日でどこまで出来るかわからないから、もしやばかったら土日に勉強合宿ね」
「面目ない…」
落ち込む詠子を見ると、今までどれだけ勉強してこなかったのだろうと思った。
この様子だと、受験は我の能力でなんとかなる、というのは虚言だったのだなぁと感じる。
「ソウくんは?」
「うーん、今のところそこまでヤバイって感じは無いけど…」
「いいなぁー」
「部長が赤点で部活停止なんてかっこつかないから、ちまちま勉強してただけだよ」
苦笑しながら茜に言う。
「咲先輩は自分の勉強いいんですか?」
「大丈夫よ。教えることで自分の復習にもなるしね」
余裕しゃくしゃくの声を聞いて安心した。
同人部のせいで咲の成績が落ちたら、それこそ印象が悪くなる。
創もノートと教科書を広げ、勉強を始めた。
途中茜と詠子を見ると、頭から煙が見えるようだった。
先が思いやられるなぁと創は思った。
こんな事で生徒会と戦えるのだろうか。
結局二日だけでは追いつかず、詠子は咲の家で勉強合宿をすることになるのだった。