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異世界法廷へようこそ(仮題)  作者: 椎名乃奈
第一章 勇者処刑編
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 ただ酒を飲むだけでは、少々高値であった。しかし、半分は葡萄酒を飲む為だが、もう半分は情報収集の為の金でもあった。昔から、酒の上のことは本当であると言うように、酒を飲んで嘘を付ける者など居やしないのだ。


 フロイドも、商人酒で本性違わんと師匠に教えられていた。それは、商人は酒を飲んでも飲まれるな。そして、本性を見せるべからずと言うことであった。だから、商人の酒の席での振る舞いは、非常に重要なことであった。


 昔から商人の間では、下戸の商人は付き合いが下手で出世出来ず、上戸の商人は付き合いが上手く出世すると言われていた。その様を見た誰かが、下戸の建てた蔵は無いと言ったのだ。


 それは、逆に金になる話はいつも決まって酒席であると言うことだ。


「お待たせ致しました」


 先程のウェイターが葡萄酒を手に戻り、一つ笑顔を見せテーブルへと葡萄酒を置いていく。


 一仕事終えた後の葡萄酒は、体に染み渡る様に体内を巡って行く。香り高い匂いと、ほんのりと甘い風味が疲れた体と心を癒してくれるようだった。しかし、これでは支払った銀貨の半分しか元を取れていない。


 商人気質の性か、損得勘定で頭が働いてしまうのは如何なものだろうかと、フロイドはふと思うが、それでこそ商人なのだろうと一つ自分の中で納得し、葡萄酒をもう一口ばかし飲み込んだ。


 この酒場には、客が全員で七人いる。普段は、もっと多く賑わっているのだが、飲み代が倍になったことや、先の身通しの付かないこの経済状況の中、酒を飲みに来ている人数としては、上々なのかもしれない。


 店内には、一人で飲んでいる客が三人いるが、会話相手のいない客からは情報を期待出来そうにない。そして、二人で飲んでいる客は二組おり、そのうち二人はこの街の常連客で、もう二人は駐在している王国騎士団のようだ。


 フロイドは、王国騎士団の会話へ軽く聞き耳を立てる。


「でも、本当にどうなるんだろうな」

「だって、三日後には勇者様の処刑が執行されるんだろ?」

「一体、何だって魔王なんかをかばうかね」

「魔王と和平交渉をするって言って聞かなかったらしいからな」

「あれじゃ、反逆罪で裁かれても仕方ないって。正直、俺はがっかりしたよ」

「今も、地下牢で軟禁されているらしいからな」

「この先どうなるのか分かったもんじゃないから、飲める時に飲んでおかないと」

「確かに、そうだな。もう一杯、御代わり貰える」


 王国騎士団の二人からは、そんな会話が聞こえて来た。


 この二人の会話は、恐らくは本当の話だろう。

 だとすると、フロイドには気になる点がいくつかあった。例えば、勇者の処刑があまりにも急過ぎることだ。処刑とは本来、罰を処する為だけのものでは無い。


 こんな犯罪人にはなるなと意識させることで、犯罪の抑制効果を高める機能や、犯罪を犯した者が裁かれるのは当然だとし、それを見世物にすることで人々の娯楽としての機能も兼ねられていた。


 しかし、今回は世界の平和の為に立ち上がった勇者だ。


 犯罪人を処罰するのとは話が違った。世界の希望だと思われていた勇者の処刑を執行すると言うのには、どんな事情であっても世界中が混乱に陥ることは目に見えていたはずだった。


 事実、こうして目に見えて物価高騰が起こっている。


 そもそも、勇者は和平交渉をすると言い、魔王を庇うという行動に出たそうだが、何故そんな行動を取ったのか、それを考える必要があった。交渉する上で重要になって来るのは、お互いの利益であり、どちらかの譲歩だ。


 この交渉を持ちかけたのは、どちらなのかと言うことは非常に重要になってくるところだが、フロイドはこの交渉を持ちかけたのは勇者では、無く魔王からではないかと考えていた。


 交渉の時、有利に話を進めるにあたって重要になって来るのは、相手に対して武器と為り得る情報である。魔王は恐らく、勇者の――若しくわ、人間側に関する何らかの大きな情報を握っていると、フロイドは推測する。


 そう考えることで、見えて来ることがあるからだ。


 勇者もこの情報の全てではないにしろ知ってしまい、王国側がその情報を永遠の闇に葬り去ろうとして、慌てて勇者の処刑を執り行おうとしているのだとしたら、辻褄が気持ち悪い程に在うのだ。


 いやいや、そんなことなどあるはずない――フロイドは首を左右に振り頭の中からそんな考えなど振り払い飛ばした。


 フロイドは、一度冷静さを取り戻そうと葡萄酒を口にするが、その味が分からない程に内心で動揺していた。こうなってしまっては、酒で酔うのは難しそうであった。当たっているかどうか分からないことだが、そう考える事で心の奥にすとんと落ちるものがあった。


 直接、勇者のいる地下牢にでも潜り込めれば、直接勇者に確認も出来るであろうけれど、王国騎士団でも無ければ、聖教会の人間でもない一介の商人であるフロイドが、王国の城内に足を踏み入れるなど以ての外だ。


 気にはなるが、下手なリスクは負うべきでは無い。そんな葛藤をしていると、フロイドの胸中を知ってか知しらずか、一人の青年が葡萄酒を片手に、こちらのテーブルへとやって来た。



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