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無二色調④

 定例会議が終わるなり錬一郎は〈金族〉の二人を探し求めて、本部を駆け回っていた。あの後の流れで、ゲストの世話役や中継係を任されたのだ。

 念のため上の階から順に回っていき、しかし途中の階は全て空振りで終わってしまい、とうとう一階まで降りて来てしまった。玄関にいる門番の二人に聞いたら、外にはまだ出てないというからこの階のどこかにいるはずだ。

 きっとサヤコと一緒にいるだろうと思い、彼女の行きそうな場所から行ってみたら、一発目で見つけた。二人とサヤコは、一階の隅にある小さなカフェにいた。

 デットスペースに無理やり造ったであろうそのカフェは、ボスのたっての要望で作られたらしい。これが中々好評らしく、今度浅部の支部の方にも展開する予定だとか。自分はコーヒーの味はよく分からないので寄ったことはないが。

 コーヒーを啜りながら、三人は和やかに談合していた。

「やっと見つけましたよ、『金』さん、『銅』さん」

「お、坊主か。鼎で良いよ。そっちの方が呼びやすいだろ」

「そっちのは通り名みたいなものだからね。僕は空廻より虚呂の方が呼ばれ慣れてるからそっちで。君が僕たちのお目付け役になったのか」

 ちゃっかりと見透かしてる態度に、何とも言えず苦笑で濁し、話を逸らした。

「三人で何の話をしてたんですか?」

 二人と対座していたサヤコがカップを下ろし、湿った唇を開き、

「私の知ってる土御門の情報をね。大まかのことは話したから、続きは錬一郎がお願い。私もう行かなきゃ」

 サヤコは立ち上がると二人に軽く目配せし、カウンターに歩いていった。彼女も仕事の重なった忙しい身なのに、わざわざ自分を待っててくれたのだろう。

 去っていく背中に小さく頭を下げてから、彼女の座っていた席に着く。

「じゃ、じゃあ、サヤコさんに代わりまして『薬色』のぼ、僕が、」 

「って、そう硬くなるなよ。逆にこっちが緊張しちまうって」

「は、はい。すみません」

 簡単に頭を下げるのは幹部としてどうなのだろう、と思いつつも条件反射で下げてしまう錬一郎。でも、もうこれは性格の問題なので治せない気がする。

「土御門の話でしたよね。会議の場で聞いて頂ければ答えましたのに」

「いや、それはもう良いんだ。サヤコから充分聞き出せた」

「そうですか」

 土御門の情報はまだ多く集まってないので、五分もあれば伝え終わるだろう。それに密偵のサヤコに聞ければより確実だ。又聞きは情報を歪める。

「あと、あそこじゃ分が悪いと思ってな。俺らが大暴れするのに」

「……え?」

 変なワードが聞こえた。自分の耳がおかしくなったのか? しかしさっき鼎はしっかりと「大暴れ」と言っていたような、気がする、のだが。

「……え、えーと。すみません、今何て……? もう一回言ってもらえませんか」

「おいおい、今更とぼける気か? ずっと伝わってきてたぜ? ジリジリとした熱ーい視線と殺気をよ。狙ってんだろ? 俺らのこと」

 その確信を持って聞かれた問いに、錬一郎は一瞬声を無くしてしまった。

「……何を言って、るんですか? どうして僕が、貴方を狙うなんて……」

「さあ? 潰してえのかな、〈金族〉を。あ、先に言っとくが俺らとやりたいんだったら百人は集めとくべきだぜ? それとも、まだまだ増える予定か?」

「だから、さっきから何を言って、」

「――おかしな」

 こちらの言を打ち消すように、虚呂が言葉を差し込んだ。彼は指を三本立て、

「おかしな点があったんだよね。三つ」

「……おかしな点?」

 場の雰囲気に飲まれてしまってるのを自覚したが、鸚鵡返した。

「一つ目は、なぜ僕たちなのかってこと。〈金族〉より強いチームはいっぱいあるし、土御門に詳しいわけでもない。ま、アレのおかげで少しは知ってると言えるかな?」

 錬一郎は、そうだろうと思い、何も返さない。虚呂は二本目の中指を曲げる。

「二つ目は、君たち幹部の雰囲気。すでに仲間が二人やられ、壊滅の瀬戸際に立たされているのに、君たちには緊張感がなかった。つまり、余裕を感じたわけさ」

「そんなことはありませんよ。今だって、どうしようか悩んでいるところです」

「そうかい、それは結構。最後の三つ目は、こんなビッグニュースを僕たちが知らなかったこと。そんなこと有りえないのに」

 これはすぐに反駁の言葉が出た。

「そうでしょうか? 情報を隠蔽してただけですよ。普通は隠すでしょ? あの〈彩〉がピンチに陥ってるんですから」

「うん、隠すだろうね。領地が奪われ出してから一月も経っているのに、それを完全に隠し通せるくらい『ピンチ』でいられたら、ね」

「……ッ!」

「情報漏洩を制御できてる時点で、余裕があることは分かってるよ」

 二の句を告げられなくなるとはよく言ったものだ。

 虚呂の言葉は図星だった。

 実際に〈彩〉が追い込まれていたら、とっくに最高戦力である上級幹部が出陣して、浅部を戦場に変えている。そうでなくても〈彩〉が本気で抗っていれば激しい戦火が起きててもおかしくない。それが起きてないということは、ボスや幹部勢がこれを大したことではないと見なしている証拠になる。

 笑みも固まり、噴き出す汗の量が増えてきた錬一郎を見てか、鼎と虚呂は顔の色を変える。それはもう意地悪そうな喜色に。金髪の鼎が口を開く。

「多分これは、幹部だけで充分な、簡単に解決できる事件だ。そうだろ?」

「……僕たちを過大評価し過ぎですよ」

「過小評価するよりはマシだろ。今はお前一人しかいねえんだ、全部吐き出せよ。何が目的だ? 本当は俺らに何をさせるつもりだ」

 そう言って鼎は、こちらの顔を穿ってくる。こちらの心を見透かす目にも見えるし、こちらを見下げる目にも、実力を見定める目にも見える。

 錬一郎は、唾を飲み込んだ。顔を上げた時はいつもの顔だった。

「――その話は、後でゆっくりとしようと思ってたんですけど、ね」

 錬一郎は、静かに両手を肘で上げた。降参の意を示すために。

「観念、ってのもおかしいですね。だけど、少なくとも嘘は付いてないですよ。ただ本来の用件が別にあっただけで」

「ふん、やっぱ何かあるんだな」

 ええ、と自然と周りを伺うような声にしていく。

「どうせバレたのですから、話してしまいますか。今回の、一番の本題を」

 と、錬一郎はテーブル上で両手を絡ませ、肘を立てた。

「二ヶ月前の事件、鼎さんはそれはそれは大活躍だったそうじゃないですか」

「っへ? まあ、そうだな」

 急な話の転換に、鼎は語調を乱すも肯定する。

「あの『聖なる十傑』の一人、『巨狩人ヘラクレス』と互角に渡り合い、攫われた人質を救い出し、外との戦争を回避した。あなたの活躍がなければ〈主人公〉の思惑通りになり、〈廃都〉が崩壊するところでした。〈彩〉の幹部として厚く感謝致します」

「そうか。それはまたご丁寧に」

「しかし、直接〈主人公〉を止めたのは鼎さんではなく、一人の勇ましい女傑だったらしいですね。〈金族〉創設メンバーのもう一人。『鉄』の不壊城鋭利さん。その実力は僕らの耳には届いてますよ。それはもう、二ヶ月前も凄かったようで」

 両手の甲の上に顎を乗せ、身を乗り出す。その分だけ、互いの顔が近づく。

 なるほどね、とコーヒーに付属して来た角砂糖をそのまま齧っていた虚呂は、こちらの意図に感づいたようで微笑むと、摘んでた角砂糖を押し潰した。

「用があったのは鋭利にか。〈七大罪〉の力が御所望かい? 少年」

「話が早いですね。では単刀直入に申し上げましょう。〈金族〉が抱えている『大喰』不壊城鋭利の身柄を即刻〈彩〉に引き渡してください」


          Fe

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