夢幻画才⑤
彩子は二度目の超高速体当たりを仕掛けた。
視認速度を超えた突進に、錬一郎の対応は至極単純、ゆえに有効なもので、消去の光を壁のような極厚のビームにして射ち出したのだ。
「月並みな手段ですが、避けても後ろの皆さんが巻き込まれますよ」
触れれば消されるビーム! 彩子の背後には呆然として観客になってしまっている鋭利たちがいる。破滅を生み出す光に、彩子は笑いを弾けさせ、
「力の使い方がなっちゃいないわね、暴力ってのはこう使うのよ」
黄色い光の壁の直前で、彩子は片足を地面にパイルして急停止した。慣性を残して泳ぐもう片方の足を、しなやかな回し蹴りにして解き放つ。
ブブブォン、と何かが切り裂かれ、光線が大きく断裂した。
音速超過の動きに追随した空気圧が光と打ち消しあい、道を切り開いたのだ。
左右に割れた光のヴェールの向こうに見えた錬一郎は、こちらの仕出かしたことにまず目を開き、彩子の両足を見て最大限まで開帳される。
ナイフのようにモノに変化した、金属でも生物でもない異形の足を。
「ワタシらの知識はあっても経験は無いでしょう? それと、こっちに見入ってちゃダメじゃない。あんたの敵はワタシだけじゃないのよ?」
彩子はその場で身を伏せた。後ろから来るそれを阻害しないよう。
ずっと後ろ、今まさに大鎌を振り切ろうとしている眼鏡の女がいる。
「――『ヴリトラ』っ!」
水の竜神が放たれた。
二枚の刃の間で究極に加圧された水は、発射された途端、艦砲サイズのウォーターカッターとなって濃霧の尾を棚引かせて、対象までの距離を一気に食らう。
飛んでくる水の竜に対して、少年は溜めていた光を注ぎ込んだ。
「……っ、飲み干してあげましょう! 〈分解〉!」
滅亡に導く光が真正面から『ヴリトラ』とぶつかり合い、潰しあう。
光は水神を消していくが、飛ばされる水の勢いと量が桁違いだ。次第に光が押されだし『ヴリトラ』の牙がじわじわと錬一郎に迫っていく。
「わああああああ! すぅごいなあ! さすがは『海色』様! 僕の消去が追いつかないなんて! いったい何万トン溜め込んでるんですかぁ!」
『ヴリトラ』が直撃すれば、どんな物体も豆腐のように砕け散る。錬一郎の小柄な肉体など欠片も残らないだろう。そんな絶体絶命の境地にありながら、錬一郎の口にはニヤケが浮かんでいる。堕ちた鬼は得てしてそういう顔をするのだ。
だから彩子は、一見負けが確定したように見える敵に対しても手を緩めない。
彩子は背中をたわめ、豹のように跳躍した。異音を引き連れて『ヴリトラ』を迂回し、光を射出することに手一杯な錬一郎の後ろに回り、
「――逝きなさい」
手刀で貫く。肋骨を粉砕し、肺と心臓を破裂させた感触が伝わる。
「ッぐあぅあっ!」
腕の中で錬一郎が悶え、光が止まる。塞き止められていた水が解放され、津波となって押し寄せてくる。視界はほぼ水の壁だ。このままだと自分まで食らってしまうが、まあ私の呪われた身体なら砕け散っても再生できるだろう。
突き上げられた錬一郎がひゅー、と乾いた息をこぼし、顔を歪める。
「ぐっひゃああああ! あああ、あああああ! 全く、僕って脆いなああああ!」
吐血しながら笑う、少年の口内が緑色に光る。何かが生成されていく。
んべ、と突き出された舌の上には、一本の白い指が乗っていた。
真珠のように白く、奇麗な人差し指。
それを認識した瞬間、ゾワッッ! と全身の毛穴が開くのを彩子は感じた。脳髄に性器を突き込まれてかき混ぜられたようなおぞましい感触と、魂が歓喜して打ちひしがれる痺れがいっぺんに襲ってきて、己の境界がぐちゃぐちゃになる。
「ああ――『彼女』が僕に、触れている」
ごくん、と指を嚥下した。
胸を貫かれたまま、少年が手を打ち合わせる。キンッと高く澄む音で、両腕に一対の手甲が生成されていく。手甲は黄金色に輝き、肘までを完全に覆う。
黄金に包まれた両腕が開かれ、光沢のある表面に彩子と津波の影が映りこみ、崩壊の円舞は軽やかに謳われる。
「第三段階『始原の星霜』。創造を開始します」
錬一郎の目の奥に、蒼天の十字架が灯った。
両腕の手甲が黄金色の光を強くし、天空まで届くような大声で嘶いた。
ゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンと。
始めに光が満ちた。
まるで恒星が落ちてきたような閃光は、その量と熱で世界を焙る。
ジュワアア、と数千トンの水が一気に蒸発し、消え失せた。大量に発生したはずの水蒸気も光の世界の中で原子レベルで分解され、リセットされる。
彩子はいつの間にかうつ伏せていた。急にバランスを無くして、倒れてしまったのだ。急いで立とうとし、それが不可能なことに気付いた。
立つための両足が、すでに無くなっていた。
「……ッッッッッ!」
その事実を知り彩子は、悲鳴を挙げないよう必死で堪える。両足だけじゃなくて両腕も消されている。光の浸食はジワジワと胴体にまで及ぼうとしている。
恐怖を感じたのは、それを目で確かめる時まで、気付けなかったことだ。
痛みがない。違和感がない。身体の一部が消え去ることを、脳が危機と感じ取らない。それは消滅を是としているということだ。肉体を消した光に攻撃の意思はなく、敵意も害意もなく、ただそこに在り、ただ一体化しようとしてるだけなのだ。
自分はそんなの望んでいない。彩子は瞬時に四肢を再生すると、四方を囲む光のドームから抜け出そうと真上に身を飛ばした。
「……ゥぷっ……」
光の中を抜けるとき皮膚がヌルリ、と滑るのが分かった。溶けている証だ。上に行くほど光は薄れていく。うっかり安心しそうになるが、腕を見たら白骨が覗いていたので慌てて直す。服まで溶かされているため、少しあられもない格好になっている。
彩子は吹き抜けになっているホールの天井まで飛び上がり、ようやく光のカーテンから脱したと思ったら、頭上に一つの太陽があった。
「ビ・ン・ゴ!」
出ようとする行動を読んでいたのか、待ち構えていた錬一郎が黄金の光に満ちたガントレットを掲げ、彩子を殴り付けた。打撃のモーションに釣られ、習性でガードしたのが失敗だった。その凶悪さはこの身で体験して理解していたというのに。
交差した腕がガントレットを受け止めるが、黄金の光は止められない。
両腕の肘から先と胴体が虚無の光に飲み込まれる。
ジュゥオン、と蒸発して虚空に溶けて、彩子の身体が二つに分かれる。
このくらいでは死ねない。そういう身体だ。しかし二撃目が来たらやばい。次こそ全部持っていかれて死ぬ、かもしれない。なのに危機の実感が湧かない。
落下しながら彩子は胴体を再生させて、下半身と繋げていく。だが錬一郎の両腕にも、黄金色の光が充電されていく。あのペースだと落下中に二射目が来る。
「『水竜』、ボスを捕まえろ!」
天空に生まれた弧を描いて飛ぶ水の竜巻、『水竜』が彩子を掻っ攫う。『水竜』は彩子を主人である水姫の元まで運び、そこで崩れ、ただの水に戻った。
「よっ、と」
彩子は水姫の両腕の中にすっぽり受け止められる。
「ボスにしては再生が遅いんじゃないん?」
「激戦続きってのもあるけど、あの光、大分厄介よ。心が追いついてこないし、飲み込むスピードが速すぎる」
ズブズブと肉が蠢き、彩子の腹に開いていた穴が埋まり、手足が生え揃う。
「そりゃ怖い。で。威力は『大喰』とどっちが上だい?」
「……あんまり思い出したくないわね、あの人のことは。っと、こんなことしてる場合じゃないわよ! 来るわ!」
警告に、水姫も事前に感じ取っていたのか、即座にその場から弾ける。
飛んできたのは光線ではなく、砲弾のような形状に固まったイカヅチだった。
それが九つ。猛禽類の如くこちらに食いかかろうと的確に。避けても距離を取っても、そのたび軌道を変えて、ねちっこく追跡してくる。
「チッ、『雷色』並みに面倒だわね。叩き落とせ『蛟』」
逃げる足を止め、水姫は反転して後ろに手を伸ばした。
イカヅチと同じ数、九本の水柱が彼女の頭上の空間より湧き出てくる。水柱たちは蛇のように鎌首をもたげ照準を合わせてから、豪雨となって発射された。
九匹の『蛟』はイカヅチと接触し、そこで食い合いを始める。決着はすぐに出た。それぞれの『蛟』が一本残らず、蒸発して消えたのだ。
それを認め、水姫は踵を返し、逃走を再開する。
「ケッ、餌をあげただけかよ」
「電気と水じゃ相性悪いですよ。電気分解って奴です」
イカヅチの後ろから、金の後光を背負って『薬色』が駆け飛んでくる。
少年の指運で縦横無尽に飛んでいた九本のイカヅチが一本に統合された。
「錬一郎。あんた、爆弾だけじゃなくて、雷も操れたの?」
「嫌だなあボス、忘れたんですか? 僕の元々のバトルスタイルは、化学反応に基づいたものだって。さっき頂いた水素、まとめてお返ししますね」
一本になり、錬一郎の胴体より太くなったイカヅチはとぐろを巻いて、飼い主の腕に絡みつく。燦々と黄金に輝く少年の細腕に、イカヅチの火が灯る。
「焼き払え、『ヴァジュラ』」
雷神の鉄槌が空間を走った。軌道上の彩子と水姫を貫き、一気に噛み砕く。
雷が虚空に霧散していき、黒焦げになった二人が地に落ちる。
足を止めた『薬色』はボロボロに炭化した塊を踏みつけ、遠くを見る。一台の車。その横に『大喰』の姿を確かめて、腕に新たな火花を散らした。
「これでまず、二人です」
Fe
鋭利はこっちを見ている少年の破壊神と視線を絡ませた。
滅びの光から逃げ惑ってる間に、向こうで決着が付いたのだと理解する。底知れない実力を隠し持っているサヤコが本気を出して、それでも敗北したのだと。
横付けされたジープの中から『蒼鉛』が急かしてくる。
「後は鋭利だけだ、早く乗れ!」
ああ、と生返事をするが鋭利はその場を動かずに、少年を見ていた。相手は歩きという手段で進んできている。お情けの猶予のつもりか。それとも逃げる相手を追いかけて捕まえたいという嗜虐心の表れか。
車内で窮屈そうにしていた鼎がこちらの態度に不審を覚えて、糸で外の様子を調べる。そして一拍だけ虚を見せ、哀切に染まった。
「サヤコが……っ? クソ! 何てこった……」
「でっかい雷で一発だ。光に続いて雷か。ふむ……」
「何か思うところがあるのか?」
「ああいや。鉄血の分、さらに感電しそうだなーって。どうしましょ?」
「どうしましょってお前なあ……」
と、呆れた鼎の後ろ、後部座席から朱赫が首を出してきた。
「まず当たったら、心臓麻痺で即死だ。それに耐え得る生命力とアースとが揃ってたとしても、全身の細胞が焼き切れ、血と眼球が沸騰し、脳が焦げてお陀仏。ならば当たらぬ範囲まで逃げるか、充電する前に仕留めるか」
「おうおう、なるほど。じゃ、シュカクはあの光を避けながら、それが可能かい?」
「阿呆か」
無表情でそれだけ言い返して、朱赫は首を引っ込めた。
気まずい沈黙が生まれる。皆、突っ込んでいいのか躊躇ったためである。
「……あらゆる物体は消される。身のこなしは素早い。雷という隠し技もある。正直、二ヶ月前の『大喰』復活ん時より過酷な状況かも知れねえ」
「絶望的な状況整理ご苦労さん。虚呂の力ならどうなんだ?」
鼎の隣で頬杖をついていた虚呂に話を振る。
「残念だけど、もう試してるよ。でも光に無効化された。恐らくあの光は、この世界のモノじゃない」
「この世界のモノじゃない? 奴が次元系だってのか?」
「物体の創造と完全消滅は、それくらいじゃなきゃ説明できないだろう? でも、どうしたら良いんだろうね。ここにいる全員の、それぞれの技が無効化されちゃったわけだ。完全に打つ手無しだね」
「だからさっさと逃げようぜ!」
正論だが空気を読んでない『蒼鉛』の発言に、三人はイラッと来る。
「……横入り、ちょっと良いかしら」
辛そうにしながら、『街色』の少女が車から降りてきた。
「無事だったのか。屏風が拾ったのか?」
てっきり光に巻き込まれて消されてしまったか、とっくに逃げていたものだと。
「……『血色』に助けられたわ。『塵色』と一緒に。情けない限りだわ」
車の奥から、朱赫の声が聞こえてくる。
「ふん、負け犬のプライドに興味は無い。敵でないのならば、味方だ」
「……別に、そういう意味で言ったんじゃないの。それはともかくとして……ボスからメッセージ。『みんなに頼みたいことがある。聞いて』って」
「メッセージ!? サヤコはまだ生きてるのか!」
鼎が食いつく。沈んでいた皆の顔にも生気が甦る。
「……ええ、かろうじて。『戦闘復帰は難しいけど、思考はできる』と言ってる。『念話網』でボスの声を届ける。最終判断は、あなたたちが下して」
「最終判断?」
鸚鵡返しの問いに、『街色』は淡々と頷き、
「……『できることなら〈彩〉のボスとして、〈七大罪〉の一人として、鋭利の友人として一生使いたく無かった秘策を、あんたたちが使うかどうか』」
ここから私の言葉は無いから、と『街色』は言って、『念話』に集中するためか、目を閉じた。その口だけが他人の意志で動き始める。
「……『ツバメがいて、『塵色』の巧祇人がいて、朱赫がいる。三人とも助けてもらったようね。まずは感謝するわ。ありがとう』」
「そんな悠長なことは良いから。自分の心配をしてくれよ」と眉尻を下げる鼎。
「『私の心配こそ悠長な話ね。『薬色』は今、私を倒したことで油断してる。反撃に出るとしたら今。時間稼ぎするからその間に覚悟を決めて』」
「時間稼ぎって、戦闘はできないって……」
「『荒事ばかりが足止めの方法じゃないわよ。大丈夫、無理はしないわ』」
なら良いんだが、と鼎が引き下がる。鋭利が話を戻す。
「それで、秘策ってのは具体的にどういうのなんだ?」
「『……今からやろうとしてるのは、死神から逃れるために悪魔に魂を売るにも等しい行為よ。世界の混沌化は間違いなく進み、しょせん時間稼ぎでしかない愚策。……しかも、新たな災難を増やすだけになる可能性が、かなり高いわ』」
「おーう、不穏のオンパレード。でも、このままオレたちがクソ餓鬼にやられちまったらもっとヤバイんだろ? 〈七大罪〉の力が『奴ら』の手に渡っちまったら」
「『……思い出したの? 十年前のことを』」
驚いたような『街色』に、サヤコに届くか分からないが首を横に振り、
「いいや全然。この二ヶ月間考えてて、ちょっと疑問に思ったんだ。
この、世界を滅ぼしかねない凶悪な力は、どこから来たものなんだ、って。どうして今ここに在るのかって。答えは出なかったけど、『どこぞの誰か』の意志が存在するんだろうことに気が付いた。その『誰か』が結局何をしたいのは分からない。でも、『誰か』のせいで今の〈廃都〉やオレたちの状況があるだろうって考えると……」
「『考えると、ムカつく?』」
鋭利は呵呵大笑に頷いた。
「それは当然! オマエの思い通りにさせるかってね。でもそれよりなんだろ? 逆の感情もって言うか、見返してやりたいって思うんだ。オマエがどんな難題を吹っかけて来ようが、オレは変わらない。オマエの思惑を全部飲み込んで、食らい尽くしてやる。いつも楽しませてくれてありがとよ、ってな」
ケケケケ、と鋭利は笑い、唖然としている『街色』に視線を落とす。
「覚悟も最終判断も、もうその秘策しかないんだろ? じゃあやるだけだ。それが『誰か』さんの意向だろうが関係ねえ。世界がどうなろうと、もっとピンチになろうと、どうでもいい。オレが選び、オレが進んでいく未来だ。最後に笑うのはこっちだ。だろ? サヤコさん。さあ教えてくれ、秘策を。悪魔に魂を売る。それも、楽しそうだ」
素敵な未来を想像して、鋭利は自然に笑った。こちらの笑みに何を見出したか、サヤコの入った『街色』は俯き、顔を上げ、もう一度俯いてから、おずおずと頷く。
「『……ええ、そうね。貴女はそういう人だったし、私たちも、そうだったよね』」
呟き、笑みを浮かべる。その顔は涙を堪えてるようにも見えた。
「『話を長くしてすまなかったわね。じゃあ秘策の方法について教えるわ。朱赫、さっき話してたアレ、ちゃんと持ってるわね?』」
「ん? この薄気味悪い杖のことか? 今すぐにでも捨てたい気分だぞ」
ぶっきら棒に言い捨て、朱赫が杖を手に出てくる。『街色』の口を借りたサヤコが、そうそれ、と満足げに言った。見覚えがあったのか、虚呂が杖を指差し、
「それって……。影が使ってた、『死骸之杖』? 死者を蘇らせる」
「『そうね。黄泉平坂に通ずる奇跡の杖。ヒトもどきが使ってた鬼械の一つ。これを使ってそこで寝てる『塵色』を復活させて欲しいの』」
「へえ。それって、死人じゃなくても使えたのかい?」
「『使えないことは無いわ。ただお勧めできないだけで』」
杖を片手に、朱赫が荷台のドアを開ける。そこに、死んだように眠っている包帯の男が横たわっていた。
「それで、どう使うのだこれを。振れば発動するのか?」
言いながらタスクのように振るう朱赫。しかし何も起こらない。
「『名前を唱えるのだったかしらね? 蘇れ、『死骸之杖』って』」
「しかり。あいつはそう使ってたな。蘇れ『死骸之杖』」
杖を『塵色』に向けて唱える。今度こそ、杖の先端が闇色に光り、
「ほう」
そして、スゥッと治まった。
「……何も、起きないではないか女。騙したのか、こんな時に。この俺を」
声を荒げる朱赫に、『街色』は小首を傾げた。
「『おかしいわね。刺激が弱いのかしら? じゃあ無理やり行くか。その杖を『塵色』にぶっ刺して』って、何それ。え、『気にしなくて良い。どうせ気絶してんだから痛いもクソもないわよ』。そうかも知れないけど」
「刺せば良いのか」
朱赫は杖をナイフのように構えながら『街色』に確認を取る。貫通させる勢いで突き込みそうだ。その前にぽっきり折れそうだけど。
「『あ、ちょっと待って。それやるの、やっぱ鋭利にお願いする。心臓を狙って、殺す勢いでぶっ刺して』って、さっきより過激になってるし……」
「オレが?」
『街色』に手招きされたので近づいていく。そこで、なぜか同情するように右肩を叩かれた。彼女もサヤコに指示されているだけなのだろうが、いちいち芸が細かい。そして『街色』の口が語るに、
「『ごめんね鋭利。文句は後でいくらでも受けるから、今だけは我慢してね』」
「怖いこというねぇ。まー、少しぐらいな我慢するさ」
朱赫から枯れ木で造ったような杖を受け取り、『塵色』のそばに立つ。
「ええっと、これを心臓に?」
「『そう。そうね、掛け声は「死ねエエエエエ!」が良いわね』」
「し、『死ねエエエ』? 力強く?」
「『思いっきり、ね』」
ますます雲行きが怪しくなってきたが、サヤコはそれ以上説明する気は無いようだ。知らない方が幸せなこともあるっていう奴だろうか。しかしクソ餓鬼の化け物は健全だ。これが何にどう繋がるか分からないが、サヤコを信じてみよう。
決心が固まると、鋭利は杖を逆手に持ち、意識不明の『塵色』を狙って、
「えい、死ねえ」
やっぱり、叫ぶのまでは思い切れなかった。
ブスッ、と細い杖が男の胸に刺さった。
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