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無限画布⑦

「いきなり正念場ね」

 と『白金』のフィリアが先陣を切って、現状を伝えた。

「はっきり言ってやばい状況よ。ちゃんと分かってる鋭利?」

 危機感を煽るためか、わざわざ指名された鋭利は後ろ頭を掻き、

「分かってるって。雲水はこんな体たらくだし、敵はあの〈彩〉だしねー」

「そう。じゃあ、」

 フィリアはこめかみを押さえ、いきなり雷を落とした。

「どうしてあんたらはのん気にお茶してんのよ!」

 フィリアが机の天板を強く叩いて、湯飲みと羊羹の乗った皿を揺らした。

 茶菓子の羊羹を嗜んでいた銀架が、ビクッと身を竦めた。他の男三人はフィリアがヒステリックなのはいつものことなので平然としている。

「まあまあ、そう怒るなって。あ、煎餅でも食べる?」

 鋭利が煎餅の袋を薦めると、彼女は受け取り、

「あ・ん・たは馬鹿かぁー!」

 袋を床に投げ付けた。中で何枚も割れる音がする。オゥ、何て勿体無いことを。

「やばい状況だって言ってるじゃない! 危機感ってもんが無いのあなたたちは! なに呑気に菓子食ってんの、死ぬか! 死ね! 死ね! 死んでしまえぇ!」

「まあまあ、イラついてる時は甘味が良いぜ、はいプラちゃん分の羊羹」

 屏風が切り分けた羊羹の皿を『白金プラチナ』に渡す。それが拳骨になって返される。

「『プラちゃん』言うな! 全くあんたらったら毎度毎度……」

 文句を垂れながらも羊羹に爪楊枝を刺し、口に運ぶフィリア。ちなみにこれは、サヤコが鼎たちを呼びに来た時、手土産として持ってきてくれた物だ。用意したのは『苦色』の一人だとか。敵ながらマメな奴だ。味も中々なものであるし。

「ってかさー、」

 鋭利は一口目の羊羹を飲み込み、番茶を啜るタイムを挟んで、


「この羊羹、毒入ってるから、これでオレら全滅だよなぁー」


 丁度食んでいたフィリアと虚呂と屏風が、ブッ、と吹き出す。

「っははは。鋭利さん、何を、…………………不吉過ぎることをぉ……」

 銀架の明るい表情が急激に、硬い真っ白なものに変わっていく。

「えーと、冗談です、よね…………?」

 どうしても不安が拭えない銀架に、鋭利は指を折り曲げつつ平然と答える。

「入ってる毒、順番に並べてやろうか? 鉛系、コリン系、青酸系、それと」

 銀架が絶叫した。

「うあああああああ! ぺー! おえー! あれ吐けない! えい出ろ! 出ろ!」

 嘔吐するのに苦戦する銀架。屏風とフィリアも慌てて吐き出そうとする。

「……うわー……。ど、どうするんですか! 結構食べちゃったですよ、私!」

 一人で半分くらい食べてしまった銀架が青ざめる。

「いやぁ、銀架は大丈夫でしょ。自分じゃ気付いてないかもだけど、銀架あらゆるものに対して耐性あるんだぜ? 能力のお陰だろうな。だから毒なんかじゃ死なんよー」

「え。私の力に、そんな秘密が……? よ、良かったぁー」

「なんえ、あんあはそんあに余裕あのよ!」

 神経毒の効果が如実に現れ始めている『白金』が叫び、再度嘔吐に挑む。

 あくまで涼しい顔で、苦しんでいる仲間を見下ろす鋭利は、

「んー。オレの体、入ってきたもんはどんなんでも一回分解するからなー。そっから栄養とかに再構築すんだけど、その仕組みが上手く機能してんだと思う」

「は、早く皆を助けなきゃ! まず医者を呼ん、ってその医者が倒れてるぅー!」

 銀架は頭を抱えながら右往左往して、膝を突いて吼えた。

「もう駄目だー! 私らは負けたんだ死ぬんだー! もう終わりだー!」

「いやぁー、今日も元気にブッ飛んでんね? 屏風ならともかく、鼎や虚呂まで倒れちゃうとは。思わぬ皆の弱点だ。毒か、これからは気を付けなきゃだな」

 鋭利は口の中でモゴモゴすると、ペッと四つの固形物を手の上に吐き出す。

「とりあえず、これ全員に飲まして」

 調合した錠剤型の金属の塊を銀架に渡し、鋭利は渋茶を口に運ぶ。

「は、はい。皆さん、これ飲んでください!」

「お、おう、ふまねえ、鋭い。たふかるぜ」

 鼎に飲み込ませ、その次に『白金』、虚呂、屏風と飲ませていく。

 四人に飲ませ終えた銀架は、ふう、と息つき腰を下ろした。

 効果は即座に、かつ顕著に現れた。

「う、うおあおああああああああああああ!」

 まず鼎が叫び、車椅子を走らせ、外にひっ飛んでいった。次に、

「なあああ、いょ、鋭いこれ、く、うおあおああああああ!」

「くっく、やられあねっ、フっぬぬううう、あああああああああああ!」

 次にフィリアが隣の部屋に飛んでいき、虚呂がその場で霞のように消える。

 え、えっ、と残った屏風と銀架がシドロモドロ狼狽え、鋭利は何も語ろうとせず、皆の食べ残した羊羹を消費する。毒のお菓子を鉄の胃袋に落としていく。

「……ぁあっ! きゅ、急にきた! ふぬああああああああああ!」

 屏風が叫び、『白金』と同じ方向に走っていった。

「……くぁ! 先につあわれてる! は、あやく出てくれ、も、もう限界らんだ!」

『うっさぁいあね! っく、らたしが使っえるのよ! あんたは、外でしてきあさい!』

 くぐもった女声はフィリアの物。情けない叫びが上がり、そのまま屏風は走って玄関から出ていった。本当に野グソしてきたら殴ろう。

 銀架がトイレの方を指差して、聞いてきた。

「何を一体、皆さんに飲ませたんですか……」

「強制腹下し薬『白幸』。硫酸マグネシウムの塊、だよ」

 うぬうううおおおおおおお、とどこか遠くから聞こえてくる苦悶の中に紛れて、あなたはやっぱ鬼です……、という呟きが聞こえた気がした。

 勿論、鋭利は煎餅を食べていたから、ただの空耳でしかないのだけど。



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